表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/19

EP 8

救世主はシェアハウス!?

 ファミレスを出た一行は、リーザの先導で住宅街を歩いていた。

 整備された歩道。規則正しく並ぶ街路樹。

 そして、目の前に現れたのは――巨大な白い直方体の群れだった。

「こ、これは……お豆腐の要塞ですかぁ!?」

 キャルルが目を丸くして空を見上げる。

 鉄筋コンクリート造、5階建て。ベランダには布団が干され、廊下には自転車(二輪車)が置かれている。

 間違いなく、昭和~平成初期の日本の風景。いわゆる「団地ダンチ」だ。

「ここが私の住んでいるマンション、『タローハイツ・参番館』よ!」

 リーザが誇らしげに(しかし少し必死に)紹介する。

「ここ、凄いのよ? 水道は蛇口を捻るだけで出るし、トイレは水洗(魔法水流)だし、お風呂も追い焚き機能付き! セキュリティも万全で、変な訪問販売の人はオートロック(結界)で弾かれるの!」

「へぇ……そいつは凄いな」

 レオンは感心しつつ、どこか懐かしさを覚えていた。前世で学生時代に住んでいたアパートにそっくりだ。

「さあ、入って! 101号室よ!」

 ◇

 ガチャリ。鍵を開け、鉄製のドアを開く。

 玄関には、誰の靴もない。広い土間タタキが寂しさを強調している。

「お邪魔しますぅ……わぁっ! 広いです!」

 キャルルが靴を脱いで上がると、そこには12畳のリビングダイニングが広がっていた。

 床はフローリング風の魔導木材。壁紙は白。

 南向きの窓からは明るい日差しが差し込んでいる。

「キュウッ!(ひろい!)」

「こらヴォルト、爪を立てるなよ」

 ヴォルトが嬉しそうに走り回り、畳の和室にダイブして転がり回る。

 4LDK。

 独り身の貧乏アイドルが住むには広すぎるが、三人+一匹が暮らすには理想的な広さだ。

「ど、どうかな……? 気に入ってくれた?」

 リーザが不安そうに、モジモジと手を組んで尋ねてくる。

 その瞳は「頼むから気に入って! 出て行かないで!」と訴えている。

「文句なしだ。日当たりもいいし、ヴォルトが暴れても大丈夫そうだ」

「本当!? じゃあ、契約成立ね!?」

「ああ。……で、家賃の話だが」

 レオンが切り出すと、リーザが姿勢を正し、正座した。

「ずばり、月・金貨3枚(3万円)です。……でも、今の私には銅貨数枚しかなくて……」

「分かった。最初の月は俺が出そう。来月からは、キャルルと一緒に稼いで返してくれればいい」

「れ、レオン様ぁぁ……!!」

 リーザはその場で平伏ドゲザした。

 王族のプライドは、完全にコンクリートの床に擦り付けられた。

「一生ついていきます! 洗濯でも掃除でも何でも言いつけて!」

「いや、家事は分担だ。俺たちは対等な同居人シェアメイトだろ?」

「うぅ……優しい……。私、男運がないって言われてたけど、最後に神様が微笑んでくれたわ……」

 涙ぐむリーザ。

 キャルルが「よしよし」と背中をさすっている。

 ◇

「さて、無事に家も決まったことだし……」

 荷物を置き、一息ついたレオンは腕まくりをした。

「引越し祝いだ。何か美味いものでも作って食べるか」

「賛成ですぅ! リーザさんのキッチン、借りてもいいですか?」

「もちろん! ……あ」

 リーザの表情が凍りついた。

 レオンは気づかず、キッチンへと向かう。

 備え付けの白い冷蔵庫。そこそこの大きさがあるファミリータイプだ。

「食材はあるか? 無ければ買い出しに……」

 パカッ。

 冷蔵庫の扉を開ける。

 ヒュゥゥゥ……。

 冷気と共に、虚無が漂い出た。

 棚には何もない。

 卵ポケットも、野菜室も、冷凍庫も。

 あるのは、水道水を詰めたペットボトル一本と、使いかけの紅生姜の小袋(牛丼屋で貰ったやつ)が一つだけ。

「…………」

 レオンは静かに扉を閉めた。

 見なかったことにしたかったが、現実は非常だ。

「……リーザさん?」

「ご、ごめんなさい! 買うお金が無くて……電気(魔力)だけ通して、保冷剤代わりにしてたの……」

 リーザが顔を覆う。

 キャルルがキッチンの隅にあった紙袋を覗き込んだ。

「レオンさん……ここにあるのは、ファミレスで貰ってきた『パンの耳』一袋と、特売の『卵』が2個だけですぅ」

「調味料は?」

「……塩と、あと牛丼屋の紅生姜だけ……」

 詰んだ。

 引越し祝いどころか、サバイバル生活のスタートだ。

 ヴォルトが「ごはん?」と首を傾げているのが辛い。

「パンの耳と卵か……。普通に焼いても、ボソボソして喉に詰まるだけだな」

 レオンが腕組みをして悩んでいた、その時。

 腰に提げていた『鉄の棒』が、カタリと震えた。

『……おい、あるじ。情けない顔をするな』

 脳内に響く、不遜な声。

 伝説の武具・雷霆ライテイだ。

『パンの耳? 卵? ……上等じゃないか。最高の食材だ』

「雷霆……お前、何か策があるのか?」

『フン。俺を誰だと思っている。「万能」の雷霆様だぞ? 俺の体を使えば、その程度のゴミ食材……王宮のフレンチに変えてやる』

 カシャカシャカシャッ!!

 雷霆が勝手に変形を始める。

 見る見るうちに広がっていく銀色の金属。

 現れたのは――底が深く、熱伝導率を極限まで高めた『究極の中華鍋ウォック』。

『さあ、火をつけろ。俺が「焼き」の真髄を見せてやる』

 レオンはニヤリと笑った。

 頼もしい(けど口が悪い)相棒のお出ましだ。

「よし、見てろよリーザ、キャルル。……この貧乏食材で、最高のランチを作ってやる!」

 キッチンに立つレオン。

 手には伝説の鍋。食材はパンの耳。

 異世界シェアハウスの、最初の宴が始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ