第1章8「会社員が辞めない理由~準備だけで勝つ男~」
全面的に自己責任でお願いします。
第8話「日常へ戻る準備」
いつもより早い朝。
時計の音で目を覚ました優守は、カーテン越しの光を感じながら、手を伸ばしてアラームを止めた。
「……ふぅ……生きてるな……」
身体を起こすと、昨日までの激痛はない。
だが、完全に問題がなくなったわけでもなかった。
違和感。
鈍い痛み。
「……確認、だな……」
意識を集中する。
《ステータスを表示します》
《状態:中傷》
《出血:なし》
《骨折:軽度》
《打撲:複数箇所》
《スキル:回復 Lv1/料理 Lv1/アイテムボックス Lv1/通販 Lv1》
「……想定どおり、か……」
昨日の回復では、完全には治っていない。
だが、動ける。歩ける。
――なら、やることは決まっている。
優守は枕元に置いていた本を手に取った。
回復魔法使いの物語、二冊目だ。
「……続きを読め、って言われてたしな……」
ベッドに腰掛けたまま、ページをめくる。
より高度な回復理論。
複数箇所への同時治癒。
内部損傷へのアプローチ。
読み進めるうちに、自然と集中していた。
最後のページを閉じた、その瞬間。
《読了を確認》
《条件達成》
《スキル:回復 Lv2》
「……よし……」
すぐに、静かに唱える。
「……回復……」
身体の奥が、じんわりと温かくなる。
骨の違和感が消え、鈍かった痛みが、確実に軽くなっていく。
《骨折:回復完了》
《状態:軽度打撲》
「……打ち身ってところか……」
これなら、説明がつく。
病院に行っても、問題はない。
次に優守は、キッチンへ向かった。
棚から一冊の本を取り出す。
【簡単!!日常料理の時短レシピ!】
唯一持っている料理本だ。
「……試すには、ちょうどいいな……」
ページをめくりながら、軽く読み通す。
《読了を確認》
《料理 Lv1 → 熟練度上昇》
「……レベルは上がらないか。レシピ数が足りないんだろうな……
でも、感覚はかなり変わる……」
冷蔵庫にあるもので、朝食を作る。
卵、ウインナー、冷凍ご飯、玉ねぎ。
見ただけで、いくつかのレシピが頭に浮かぶ。
包丁の動きに迷いはなく、火加減も自然と分かる。
出来上がった朝食を口にして――目を見開いた。
「……うま……」
特別な材料は使っていない。
だが、明らかに“自分の作った味”じゃない。
「……料理スキル、地味にヤバいな……」
派手じゃない。
だが、確実に生活を変える力だ。
朝食を終え、会社に連絡を入れる。
「昨日の地震で、少し怪我をして……病院に行きます。
はい。急ぎの仕事はなかったと思うので、今日は休みを――
はい。診断書ですね、分かりました。もらってきます」
嘘ではない。
盛ってもいない。
電話を切り、着替えを済ませて家を出た。
病院では、
「地震で本棚から大量に本が落ちてきて、身体を打ちました」
と説明した。
診断は全身の打撲。
骨に異常はなし。
医者は淡々と診断書を書いてくれた。
「しばらくは無理しないでくださいね」
「ありがとうございます」
それだけだ。
何も疑われない。
何も問題は起きない。
昼は、近くの定食屋に入った。
いつもの味。
いつもの昼。
だが――違いが分かる。
「……あ、これ……火、強いな……」
料理スキルの影響か、
無意識に分析している自分に気づき、苦笑した。
昼食後、向かったのは、近くで一番大きく、
職場からはかなり離れた図書館だった。
「……さて……ここからが、本番だな……」
静かな空間。
無数の本。
誰にも怪しまれず、
誰にも見られず、
“読むだけ”で強くなれる場所。
優守は、ゆっくりと館内を見回した。
読み終わってのクレームは、お止めください。
自己責任です。




