第1章6「会社員が辞めない理由~準備だけで勝つ男~」
全面的に自己責任でお願いします。
第6話
「深夜食堂の物語」
アイテムボックスの検証を終えたころ、優守は大きく息を吐いた。
容量。
出し入れの距離。
視認と意思による操作。
どれも問題なく、想定どおりに動く。
危険性も、今のところは見当たらない。
「……よし、今日はここまでだな……」
そこでようやく、自分の腹が鳴っていることに気づいた。
「……腹、減った……」
時計を見ると、すでに深夜を回っている。
普段なら、とっくに寝ている時間だ。
テレビをつけ、ニュースを確認する。
画面には、先ほどの地震についての速報が流れていた。
震度、震源、被害状況。
「……この辺は、大きな被害は出てない、か……」
自分の部屋があの惨状だったのは、
本棚の置き方と重量の問題だろう。
少なくとも、騒ぎになるほどの異常はない。
それを確認して、少しだけ安心した。
「……夜食、何か食べるか……」
冷蔵庫から適当に冷凍食品を取り出し、レンジで温める。
温まるまでの間、冷蔵庫にあった簡単なものを口にした。
そのまま、ソファに腰を下ろし、本を手に取る。
【猫耳少女とエルフ少女を拾ったから、
兵の詰所横で深夜食堂をしてみた】
タイトルだけで、だいたい内容が分かるラノベだ。
主人公は、異世界に転移して若返った老人。
和洋折衷、なんでも作れる料理人で、
若い頃に世界中を一人で回り、料理修行を積んできた。
性格は穏やかなお爺ちゃんだが、実は有段者。
持ち物を売って商人ギルドに登録し、屋台から商売を始める。
色々あって、猫耳少女とエルフ少女を拾い、
大門近くの兵の詰所横で深夜食堂を開く――そんな話だ。
チート能力は、少し変わっている。
自分が作れる料理の材料を、通販感覚で購入できる。
異世界料理を作れば、
その世界の食材まで通販画面に表示される仕様だ。
「……これも、だいぶ便利でチートだよな……」
派手さはない。
だが、生活に直結している。
優守は夜食を食べながら、ゆっくりと読み進めた。
料理の描写。
客との会話。
温かい食事で、誰かが救われていく話。
――悪くない。
むしろ、今の自分には、ちょうどいい。
最後のページを閉じた、その瞬間。
視界に、見慣れた表示が現れた。
《読了を確認》
《条件達成》
《スキル取得:料理 Lv1》
《スキル取得:通販 Lv1》
《通販:料理関連商品が対象》
《条件:調理経験・知識により表示内容が変化します》
「……料理と、通販……」
思わず呟く。
料理はともかく、通販はヤバい。
使い方次第では、かなり目立つ。
「……いや、ダメだ。慎重に、慎重に……」
優守はテレビを消し、深く背もたれにもたれた。
今日一日で、手に入れたものは多い。
だが、それ以上に――考えることも増えた。
「……まずは、現実に戻る準備だな……」
病院。
仕事。
日常。
そのすべてを“普通”に見せるために、
関わる人間に気づかれないようにしなければならない。
この力は、静かに使うべきだ。
本に囲まれた深夜の部屋で、
優守は次の一手を、慎重に思い描いていた。
読み終わってのクレームは、お止めください。
自己責任です。




