第1章5「会社員が辞めない理由~準備だけで勝つ男~」
全面的に自己責任でお願いします。
第5話【アイテムボックスLv1と、最初の使い道】
優守は、床に散らばった本の山を見回しながら、ゆっくりと息を整えた。
痛みはまだ残っているが、動けないほどではない。
少なくとも、さっきまでの「死にかけ」状態からは脱していた。
「……じゃあ、次はこれだな」
手に取ったのは、やたらと長いタイトルのラノベだった。
【転生して授かったスキルは、アイテムボックス?!無能と言われたが、このスキル……なんかおかしくないか?】
異世界転生もの。
最初は“収納しかできない地味スキル”扱いされ、馬鹿にされる主人公。
だが物語が進むにつれ、ボックスを分割できるようになり、時間停止、内部加工、自己増殖――。
最終的には、
アイテムボックスの中に国ができる。
「……盛りすぎだろ……」
思わず苦笑が漏れる。
だが、回復魔法の前例がある以上、完全には否定できなかった。
「……とりあえず、読むしかないか……」
優守は背を床に預け、ページをめくり始めた。
収納の条件。
容量の概念。
レベルによる拡張。
一度は読んだことのある本だ。
内容はすらすらと頭に入ってくる。
今の自分に必要なのは、派手さじゃない。
使えるかどうかだ。
読み終えた、その瞬間。
視界が、またもや切り替わった。
《読了を確認》
《条件達成》
《スキル取得:アイテムボックス Lv1》
《容量:使用者の自宅相当の空間》
《注意:生物の収納不可》
「……来た、な」
優守は、恐る恐る床に散らばった本に手を伸ばした。
「……収納」
その瞬間、本が――消えた。
正確には、吸い込まれるように視界から消失した。
「……っ!」
驚きより先に、理解が追いつく。
重さはない。
音もない。
ただ、“入った”という確信だけがある。
《アイテムボックス:使用中》
「……この部屋分、ってのは……伊達じゃないよな」
試しに、倒れた本棚の一部に触れる。
「収納」
ギシリ、という音すらなく、本棚が消えた。
床が、見えた。
「……ふむ……とりあえず、掃除するか……」
それが、このチート能力を使って最初にやることだった。
本を収納。
壊れた棚を収納。
散乱した雑誌、段ボール、読まなくなった資料。
ゴミも埃も、何でも入る。
触れなくても、視界に入れて「収納」と唱えれば吸い込まれる。
まさにチート仕様だ。
部屋が、少しずつ“ワンルーム”に戻っていく。
「……これ、普通に便利すぎるだろ……」
派手な攻撃力はない。
奇跡的な回復ほど目立ちもしない。
だが――生活を、根本から変えられる力だった。
「……チートは、こういうのでいい。
使い方は、間違えないようにしないとな。
人に迷惑をかける犯罪は論外だ」
誰にも見せず、誰にも気づかれず。
静かに、確実に、自分だけが得をする。
何もなくなった部屋を見渡しながら、優守は小さく息を吐いた。
「……インテリア、変えるかな」
アイテムボックスから、必要なものだけを出していく。
「……汚れまで収納できるのは、ほんと凄いよな……」
綺麗になった服。
ベッド、ソファー、カーテン。
埃の消えた棚とテレビ。
《ステータスを表示します》
《スキル:回復 Lv1》
《スキル:アイテムボックス Lv1》
《推奨行動:安全な検証と読書》
「……分かってるよ」
次は、検証。
容量の限界。
出し入れの条件。
そして――さらに、本を読む。
本に囲まれたこの部屋で、
優守は“静かなチート”を、確かに手に入れていた。
読み終わってのクレームは、お止めください。
自己責任です。




