第1章4「会社員が辞めない理由~準備だけで勝つ男~」
全面的に自己責任でお願いします。
第4話【回復Lv1の限界と目立たないという選択】
優守は、もう一度、深く呼吸をした。
胸の痛みは、確かに軽くなっている。
だが――消えてはいなかった。
「……完全回復、ってわけじゃないな……」
左腕をわずかに動かすと、鈍い痛みが走る。
「多分、折れた骨が、ひび程度まで戻った……そんな感じか」
《ステータスを表示します》
《状態:中傷》
《出血:停止》
《骨折:回復途中》
《スキル:回復 Lv1》
「……やっぱり、Lv1はLv1か……」
回復はできる。
だが、治し切る力はない。
何度唱えても、それ以上は良くならない。
限界が、はっきりと分かった。
「……病院、か……」
頭に浮かぶのは、現実的な選択肢。
救急搬送。レントゲン。診断書。
そして――原因不明の回復。
「……これは、マズい……説明できねぇ……」
骨折していたはずの腕が、なぜか動く。
大量に出ていた血が、なぜか止まっている。
医者が信じなくても、検査はされる。
そして下手をすれば、厄介な方向に話が進む。
人体実験。拘束。監視。
――目立つ。それは、生き地獄への片道切符。
その言葉が、妙に重く胸に落ちた。
「……この力、使い方を間違えたら……最悪、人生が終わる……」
助かるどころか、すべてを失う可能性すらある。
優守は視線を落とし、床に散らばった本の山を見た。
回復魔法。生活魔法。支援職。
地味だが、実用的なスキル解説の本たち。
「……派手なのは、後回しだな……」
今は、生き延びること。
そして、何事もなかったように普通の生活へ戻ること。
そのためには――。
「目立たない。騒がない。そして、隠す」
病院には行く。
だが、それは回復で“動ける程度”になってからだ。
骨に異常が残らない状態なら、説明もつく。
完全に治す必要はない。
日常生活に支障がなければ、それでいい。
「……地味で、現実的な使い方だけど……」
だが、それでいい。
それが、今の自分に一番合っている。
《ステータスを表示します》
《行動方針:非公開・慎重》
《推奨:読書によるスキル取得とレベルアップ》
《警告:過度な使用は注目を集める可能性があります》
「……お前も、そう思うか……」
苦笑しながら、優守は一冊の本を引き寄せた。
【転生して授かったスキルは、アイテムボックス?!
無能と言われたが、このスキル……なんかおかしくないか?】
と書かれた、少し長いタイトルの本だ。
チートは、振り回すものじゃない。
隠して、積み上げて、生き残るための道具。
本に囲まれたこの部屋で、優守は静かに
“現実的な異常者”になることを選んだ。
――それでいい。
生きていくためには、それが一番だった。
読み終わってのクレームは、お止めください。
自己責任です。




