第1章 32「会社員が辞めない理由~準備だけで勝つ男~」
全面的に自己責任でお願いします。
第32話「失業給付という猶予期間」
失業認定日の朝、優守はスーツを着なかった。
清潔な私服に身を包み、必要書類だけを鞄に入れる。
(働いていない。でも、何もしていないわけじゃない。なんだか不思議な感覚やな)
ハローワークの待合室には、独特の空気があった。
焦り。
諦め。
不安。
その中で、優守の心拍は終始一定だった。
窓口での確認は、淡々と進む。
・求職活動の実績
・現時点での就業状況
・収入の有無
「現時点での収入は?」
「ありません。準備段階です」
嘘はない。
開業届は出していない。
売上も、発生させていない。
制度上、完全に“白”だった。
◆◆◆
給付開始が確定した帰り道。
(この期間は、猶予じゃない。設計期間だ。これからの道筋は、頭の中にできとる)
優守は、失業給付を「生活費」としては見ていなかった。
これは、時間を買うための制度だ。
帰宅後、すぐに作業に入る。
・ECサイトの商品動線最終確認
・利用規約と返品ポリシーの精査
・翻訳教材の構成見直し
・アプリ仕様書の確定版作成
どれも、「いつでも始められる状態」まで詰める。
まだ、始めない。
だが、止まってもいない。
◆◆◆
夜、ステータス画面を更新する。
《職業:無職(給付受給中)》
《活動:事業準備/制度内行動》
《禁止事項:収益発生・開業届提出》
制約は、はっきりしている。
だからこそ、迷いがない。
(制度を敵に回す必要はない)
ルールの内側で最大限動く。
それが、優守のやり方だった。
◆◆◆
カレンダーを見る。
開業届まで、あと二ヶ月。
準備は、すでに九割終わっている。
残りは——
「始めるだけ、か」
優守はPCを閉じ、深く息を吐いた。
失業給付期間は、何もしない時間じゃない。
壊れない。
ブレない。
そんな、独立のための、最後の助走だ。
静かに、しかし確実に。
次の段階は、もう見えている。
読み終わってのクレームは、お止めください。
自己責任です。




