第1章 30「会社員が辞めない理由~準備だけで勝つ男~」
全面的に自己責任でお願いします。
第30話「退職判断」
副業収入は、意図的に抑えている。
月、十九万円前後。
それ以上は、踏み込まない。
(伸ばせないわけじゃない。――伸ばさないだけだ)
理由は、単純だった。
副業の税制ライン。
二十万円以下。
この枠を越えないように、
依頼量も、単価も、受注タイミングも、すべて調整している。
能力の限界ではない。
◆◆◆
翻訳の仕事自体は、完全にネット完結だ。
案件のやり取り。
納品。
支払い。
会わない。
名乗らない。
会社員かどうかも、基本は聞かれない。
――だが。
話が「大きくなる」と、空気が変わる。
協会経由の正式案件。
長期契約。
継続前提の法人依頼。
そういう話になると、必ず確認が入る。
「契約主体は、どちらになりますか?」
個人か。
法人か。
ここで問われるのは、腕前じゃない。
契約書を結べる立場かどうか。
請求と責任を負える器かどうか。
ただ、それだけだ。
◆◆◆
国や自治体が絡む案件については、もっと明確だった。
――開業が前提。
――対面での打ち合わせが必要。
会社員の副業、匿名、ネット完結。
その延長線では、そもそも土俵に上がれない。
(……今の立場じゃ無理だ)
立場が整っていない以上、手を出す理由がない。
今は、取らない。
今は、増やさない。
◆◆◆
優守は、ノートを開く。
書かれているのは、手順だけだ。
退職。
開業届。
青色申告。
取引条件の再設定。
受注制限の解除。
販売量の解放。
そして、その先に、次の収入源。
(退職していない状態で、事業規模を広げる選択はない)
制限下で無理に伸ばせば、
リスクだけが先に立つ。
◆◆◆
ステータス画面を開く。
《職業:会社員(副業:翻訳、ECサイト運営販売)》
《副業収入:月平均190,000円》
数字は安定している。
評価も落ちていない。
依頼も、止まっていない。
(条件は、揃いつつある)
弁護士。
税理士。
会計士。
信用の土台は、すでに組み上がった。
あとは――
会社員という肩書きを、いつ外すか。
独立は、勢いで決めるものじゃない。
順番がすべてだ。
優守は、まだ辞めない。
だが、もう迷ってもいない。
退職は、判断の問題。
時間の問題。
その境目に、彼は立っていた。
読み終わってのクレームは、お止めください。
自己責任です。




