第一章24 静かな日常と覚醒
全面的に自己責任でお願いします。
第24話「一年半の、その先へ」
一年半。
カレンダーを見返した。
長かったか?と聞かれれば――長かった。と答えるだろう。
ただ一つ言えるのは、
(……ようやく、全部揃った。試験がおこなわれなければ、受けれないからな、最低でも一年はかかるし。1年半ならまだ短いうちかな。)
という事実だけだった。
◆◆◆
机の上には、ファイル。
中身は、資格の一覧だ。
全国通訳案内士。
英語、フランス語、スペイン語、ドイツ語、中国語(簡体・繁体)、イタリア語、ポルトガル語、ロシア語、韓国語、タイ語。
日商ビジネス英語検定。
そして、各言語につき一つずつ取得した民間資格。
紙で見ると、さすがに数が多い。
だが、優守の表情は変わらない。
達成感は、ほとんどなかった。
(……これで、説明はできる)
それだけだ。
能力そのものは、最初から完成している。
資格は、それを“社会的に許容される形”に変換するための道具にすぎない。
◆◆◆
パソコンを立ち上げる。
ブラウザを開き、入力する文字列。
――ココナラ。
個人のスキルを売り買いする、よくあるプラットフォームだ。
登録自体は、簡単だった。
名前はハンドルネーム。
顔写真は、なし。
本人確認は、最低限。
問題は、プロフィールだ。
(……盛らない。だが、削りすぎない)
経歴は、会社員。
語学資格は、事実だけを列挙。
できることも、限定的に書く。
「翻訳対応」
「ビジネス文書可」
「短文・中程度の分量まで」
万能には見せない。
だが、軽くも見えない。
“普通にすごい人”
それくらいが、ちょうどいい。
◆◆◆
出品内容も、絞った。
最初は二言語。
英語。
中国語。
価格は、相場のやや下。
(……様子見だな)
稼ぐためではない。
評価を集めるためでもない。
この場所の“空気”を読むためだ。
◆◆◆
コーヒーを一口飲み、マウスを動かす。
「出品する」
確認画面。
問題なし。
クリック。
《出品が完了しました》
それだけだった。
何かが変わった感覚は、ない。
◆◆◆
初日。
依頼は、来ない。
当然だ。
だが――
数字は、静かに動いていた。
閲覧数。
お気に入り登録。
伸び方が、少しだけ自然じゃない。
(……まあ、こんなもんか)
驚かない。
焦らない。
深読みもしない。
ただ、記録する。
◆◆◆
夜。
優守は、デスクチェアに体を預けた。
異世界側で積み上げてきたものは、
こちらでは「資格」と「経歴」という形になった。
それだけの違いだ。
派手な成功は、まだない。
収入も、増えていない。
だが――
(……ちゃんと、繋がったな)
準備は終わった。
次は、結果が出るかどうかを、見るだけだ。
優守は、PCの電源を落とした。
一年半の先。
ようやく、“表”の入口に立っただけ。
読み終わってのクレームは、お止めください。
自己責任です。




