第1章 23「会社員が辞めない理由~準備だけで勝つ男~」
全面的に自己責任でお願いします。
第23話「評価は、静かに積み上がる」
独占契約を断った後。
異世界側から届く連絡の“質”が、わずかに変わった。
◆◆◆
《ご判断、理解しました。長期的な取引を重視される姿勢、評価いたします。今後は、重要な案件について優先的に共有いたします》
文面は丁寧で、控えめだ。
だが、その一文に含まれる意味は、明確だった。
(……扱いが、変わったな)
独占を拒んだことで、
「囲い込める供給者」ではなく、
「流れを読む同格の商人」として認識された。
無理に縛らない。
欲に流されない。
長期の安定を選ぶ。
その判断そのものが、信用になったのだ。
◆◆◆
――スキル通販。
それは一つの世界に属する力ではない。
星の数ほど存在する異世界を横断する、商人のための能力だ。
能力者は少ない。
だが、共通点がある。
・仕入れ先を明かさない
・取引先を漏らさない
・能力の詳細を語らない
沈黙こそが、最大の信用。
だからこそ、彼らはそれぞれの世界で、確かな地位を築いている。
今回の判断は、
その“暗黙のルールを理解している”証明だった。
◆◆◆
優守の現実世界での生活は、相変わらず静かだ。
ただし、休日の過ごし方だけは異様だった。
試験。
試験。
また試験。
土曜は大阪。
日曜は名古屋。
翌週は東京。
目的は一つ。
資格の取得。
◆◆◆
勉強量は、少ない。
《スキル:完全記憶》
一度理解した内容は、欠落しない。
条文、例外、語順、発音――すべてがそのまま残る。
だから優守がやるのは、
・試験形式の把握
・時間配分の調整
・出題傾向の確認
それだけだ。
カフェで本を読むのも、暗記のためではない。
頭にある情報を、並べ直しているだけだった。
(……問題ないな)
◆◆◆
結果は、常識外れだった。
全国通訳案内士――国家試験。
同一年度内に、以下すべて合格。
英語
フランス語
スペイン語
ドイツ語
中国語(簡体・繁体)
イタリア語
ポルトガル語
ロシア語
韓国語
タイ語
試験期間は、約一年。
並行して、
日商ビジネス英語検定――合格。
さらに民間資格を、各言語一つずつ。
(……さすがに、数だけ見るとやりすぎだな)
だが、狙いは明確だった。
◆◆◆
「説明できる能力」
翻訳も、通訳も、語学指導も、
資格がなくても成立する。
それでも、
《なぜ、ここまでできるのか》
その問いに答えられる“形”が必要だった。
資格は、盾だ。
能力の正体を隠すための、もっとも分かりやすい理由。
◆◆◆
夜。
新居のデスクで、優守は静かに息を吐いた。
独占を断り、
評価を積み、
資格を揃えた。
派手な出来事はない。
だが、確実に立ち位置は変わっている。
「……いい流れだ」
評価は、静かに積み上がる。
水面下で。
次に動くときは、
もう一段、上だ。
優守は、そう確信していた。
読み終わってのクレームは、お止めください。
自己責任です。




