第1章 20「会社員が辞めない理由~準備だけで勝つ男~」
全面的に自己責任でお願いします。
第20話「仕組みを作る側へ」
年が明け、日常は何事もなかったかのように動き出した。
仕事。
生活。
体調。
どれも、安定している。
(……派手な変化は、もういらないな)
優守は自室の椅子に腰掛け、静かにステータスを確認した。
◆◆◆
《スキル:通販 Lv10(MAX)》
特別な演出はない。
だが、感覚で分かる。
――到達した。
取り扱い可能な品目。
契約できる相手。
交渉の幅。
すべてが、以前とは別物だった。
(……これで、生活は完全に回る)
とはいえ、完全な自動化ではない。
取引は、もはや“重労働”ではなくなっているが、
最後に必要なのは――優守自身の手だ。
アイテムボックスへの収納。
それは今も、彼が自分で行っている。
(……一気には、無理だし、やる必要もない。
金を動かしすぎたら、まずいからな)
この世界で周囲にバレない量。
不自然に見えない頻度。
仕事帰り。
休日の買い出し。
「ついで」で済む範囲。
それ以上は、やらない。
量は少ない。
だが――問題は、そこじゃない。
◆◆◆
異世界側から来るのは、「依頼」だ。
強制でもなければ、ノルマでもない。
《可能であれば、次回も》
《手に入る時で構いません》
そんな程度。
向こうも分かっている。
この世界の物資が、どれほど安定していて、どれほど貴重か。
だからこそ――
量が少なくても、単価が高い。
塩。
砂糖。
胡椒。
酒。
食器。
甘味。
菓子。
保存食。
調味料。
どれも、一度に大量に送る必要はない。
(……むしろ、少ない方がいい)
安定供給より、継続取引。
派手さより、信用。
それが、今の通販における取引の形だ。
購入は、複数の店で分散。
アイテムボックスへ収納。
販売数量もこちらで指定できるため、
たとえ大量の在庫があっても、市場に出るのは一定数だけ。
現在は、
「一週間に一度、10個まで」と設定している。
実家周辺や、車での行き帰りに立ち寄りながら、
少しずつ買い集めてきた結果、在庫は唸るほどある。
もちろん、一店舗あたりの購入量も金額も、
怪しまれない範囲に抑えている。
◆◆◆
宝くじの当選金――七億円。
だが、そのすべてが、彼の手元にあるわけではない。
両親に、一億ずつ。
合計二億。
生活の足しではない。
老後と、安心のためだ。
結果として、手元に残っているのは――五億。
(……十分すぎるな)
だが、その金も、今はまだ眠らせている。
使えば楽になる。
だが、使い方を誤れば、生活が壊れる。
◆◆◆
一つだけ、具体的に考えていることがある。
――引っ越し。
今の住まいに不満はない。
だが、セキュリティ面を考えると、限界もある。
オートロック。
防犯カメラ。
管理人常駐。
(……静かで、目立たないところがいい)
高級すぎる場所は、逆に危険だ。
「金を持っている」と示す必要はない。
あくまで、
“少し条件のいいマンション”。
それで十分だった。
◆◆◆
次に考えるのは、この世界での副業。
(……稼ぐ、じゃないな)
“説明できる収入”を作る。
それが目的だ。
◆◆◆
ECサイト。
自分で構築。
自分で管理。
外部モールは使わない。
身バレのリスクが高すぎる。
売るのは、
異世界通販で仕入れた品の中でも、
この世界に「存在していてもおかしくない物」だけ。
服。
雑貨。
工芸品風の装飾。
アンティークは扱わない。
由来を聞かれたら終わりだからだ。
新品扱いで販売し、
古物商が必要な形にはしない。
(……税金だけは、真面目にやる)
◆◆◆
オンライン講師。
《スキル:言語理解 Lv10》
読める。
話せる。
聞き取れる。
だが、顔出しはしない。
生配信もしない。
録画教材。
テキスト。
発音チェックはAI任せ。
時間を切り売りしない形で、少しずつ。
◆◆◆
アプリ開発。
開発はAI。
優守は、仕様と契約だけ。
(……俺がやるのは、判断だな)
◆◆◆
副業収入は、雑所得。
二十万円を超えたら、確定申告。
規模が大きくなれば、
開業届。
青色申告。
(面倒だが、必要だ。
仕事は社会的信用に関わる。
今は辞めたくないが、時間を取られすぎるのも問題だ。
将来的には、退職と開業も視野に入れるか……)
◆◆◆
優守は、PCの電源を入れた。
異世界通販は、保険。
宝くじは、非常口。
そして、この世界で、仕組みを作る。
目立たず。
欲張らず。
壊さず。
「……ようやく、整ってきたな」
本堂優守は、
静かに、確実に、歩き始めていた。
読み終わってのクレームは、お止めください。
自己責任です。




