第1章2「会社員が辞めない理由~準備だけで勝つ男~」
全面的に自己責任でお願いします。
第2話【血の匂いと、表示された現実】
揺れが収まり、部屋が静まり返ったあとも、優守はすぐに動けなかった。
身体の上に積み重なった本の重みよりも、体内を走る痛みのほうが、はるかに深刻だったからだ。
「……っ、息が……」
呼吸をするたび、胸の奥がきしむ。
――肋骨だ。
左腕も思うように動かせない。無理に力を入れると、骨の内側から嫌な感触が返ってくる。
床に視線を落とした瞬間、優守は息を呑んだ。
血。
自分の額から垂れた赤が、本の表紙を汚していた。
「冗談……じゃ、ない……」
冷静に状況を整理しようとする思考とは裏腹に、意識はじわじわと遠のいていく。
このままでは危ない。
そう理解できるのに、助けを呼ぶ手段がない。
――スマホが、見つからない。
そのときだった。
視界の中央に、はっきりと文字が浮かび上がる。
《本道 優守》
《年齢:39》
《状態:出血(中)/骨折(肋骨・左腕)》
「……は?」
痛みで霞んでいたはずの視界が、そこだけ妙に鮮明だった。
幻覚か?
それとも、脳の誤作動か?
そう考えながらも、優守は画面から目を離せなかった。
《生命活動:低下中》
《対処を推奨します》
(……推奨、だと?)
誰に向かって言っているのか分からない。
だが、その表示は妙に事務的で、妙に現実的だった。
(これを放置したら……俺、下手したら死ぬよな)
これは夢じゃない。
痛みが、それを示している。
無視できるものじゃない。
震える指で、優守は自分の上から本を一冊ずつどかしていく。
本棚は中身を失い、意外なほど動かしやすかった。
激痛に歯を食いしばりながら本を退け、床に座り込む。
「はぁ……はぁ……ごほっ……」
咳とともに、口元に血の味が広がった。
(……本格的にマズい)
荒い呼吸の中、床に転がる本の山に、ふと一冊の本が目に留まる。
異世界に転移した主人公が回復魔法を使い、成り上がっていく――
そんな内容の、ファンタジー小説だった。
「……はは……冗談みたいだな……ごほ、ごほ……」
だが、今の自分には、
それしか縋れるものがなかった。
読み終わってのクレームは、お止めください。
自己責任です。




