第1章 17「会社員が辞めない理由~準備だけで勝つ男~」
全面的に自己責任でお願いします。
第17話「本物を見る」
優守は、競馬場に来ていた。
テレビ越しではない。
ネット中継でもない。
――生の競馬場だ。
スタンドのざわめき。
地面を伝わる重低音。
そして、パドック。
周回する馬たちを、静かに眺める。
(……やっぱり、違うな)
テレビでは反応しなかった鑑定が、
目の前の馬には、はっきりと反応する。
筋肉の張り。
毛ヅヤ。
歩様。
呼吸のリズム。
数字や映像では拾えない“状態”が、そこにはあった。
(映像じゃダメだ。実物限定か……)
鑑定は万能ではない。
だが、条件が合えば、確実に武器になる。
◆◆◆
競馬は、当たるだけでは意味がない。
――税金。
払い戻しが「一時所得」扱いになる以上、
大きく当てすぎれば、必ず目をつけられる。
(だから、コツコツだ)
一撃で稼ぐ気はない。
生活を変えない額。
目立たない回数。
機械での払い戻しは、100万円以下。
実際には、90万円前後を上限に収まるよう買い目を組む。
勝つが、騒がない。
それが、優守のやり方だった。
◆◆◆
一方で、もう一つの収入源。
パチンコ・パチスロで得た勝ち金は、
すべてスキル通販へ回している。
通販残高は、1,000万円。
内訳は、
パチンコ勝ち金:300万円
通販で売れた商品売上:700万円
売っているのは――特別な品ではない。
100円ショップ。
業務スーパー。
そこで買った、
塩、胡椒、砂糖。
酒。
コップや皿。
(……異世界あるある、だな)
もちろん、購入時は怪しまれない量を、
店や日を分けて、手間をかけて仕入れている。
◆◆◆
異世界では、
「安価で均質な日用品」
そのものが、存在しない。
純度の高い塩。
雑味のない砂糖。
安定した品質の胡椒。
割れにくいガラスのコップ。
形が揃った皿。
それだけで、十分すぎる価値になる。
「向こうじゃ、これが“高級品”か……」
◆◆◆
《スキル:通販 Lv7》
通販レベルは、着実に上がっていた。
そして最近――
通販サイト側から、依頼が来るようになった。
内容は、やはり異世界らしい。
調味料の追加供給。
酒類の定期納品。
さらに、
ケーキや加工済みの料理、菓子類。
(……甘味文化、弱いもんな)
保存性が高く、
味が安定していて、
見た目も整っている。
売れない理由がなかった。
◆◆◆
優守は、競馬場のベンチに腰掛けながら、パドックを見つめる。
競馬。
通販。
鑑定。
それぞれが、少しずつ噛み合い始めている。
(……まだ、準備段階だ。
本気で動くのは、もっと後でいい)
馬が、ゲートに入る。
優守は、静かに目を細めた。
「……まずは、今日の一鞍だな」
現実と異世界。
その両方で。
優守は、確実に勝つための眼を、
もう手に入れ始めていた。
読み終わってのクレームは、お止めください。
自己責任です。




