第1章1「会社員が辞めない理由~準備だけで勝つ男~」
全面的に自己責任でお願いします。
第1話【地震と本棚、そして見えない画面】
本道優守、三十九歳。
一人暮らしのワンルームは、壁も床も見えないほど本に占拠されていた。引っ越すたびに整理しようと誓っては失敗し、気づけば背の高い本棚が何本も、無理やり部屋に押し込まれている。
その夜、仕事から帰った優守は、ソファに腰を下ろし、いつものように本を手に取っていた。
営業職として人と話すのは得意だが、家にいるときだけは完全なインドア派だ。
肥満体型、糖尿の数値、気分の落ち込み。
現実から目を逸らすように、彼は文字を追っていた。
――そのときだった。
グラリ、と床が揺れた。
「……地震?」
次の瞬間、揺れは一気に強くなった。
ミシミシと嫌な音を立て、本棚が大きくしなったのが見えた。
「やば――」
逃げる暇はなかった。
固定も甘かった背の高い本棚が、重力に逆らえず倒れ込む。
轟音とともに、優守の視界は紙の壁で塞がれ、身体は床に押し倒された。
重い。息ができない。
「……マジかよ」
胸を圧迫され、腕も動かせない。助けを呼ぼうとしても声が出ず、揺れが収まった後も、本の山は微動だにしなかった。
薄れていく意識の中、優守は静かに思った。
――俺の人生って、なんだったんだろうな。
特別な成功もなく、恋人がいなくなってから十年。
本だけが、ずっとそばにあった。
まあ、悪くはなかった。
そう思えた、その瞬間。
視界に、ありえないものが浮かび上がった。
《ステータスを表示しますか?》
「……は?」
現実感のある、妙に整った文字。幻覚にしては鮮明すぎる。
心臓が跳ね、恐怖よりも強い違和感と興奮が胸を満たした。
――まだ、終わりじゃない?
優守は歯を食いしばり、震える腕に力を込めた。
一冊ずつ、本をどかす。
生きるために。
この選択が、
彼の平凡だった人生を――大きく変えることになるとも知らずに。
読み終わってのクレームは、お止めください。
自己責任です。




