第8話 黒巨兵との死闘 ― 光の共鳴と影の咆哮
影巨兵が完全に覚醒した瞬間、空気がひりついた。
重圧は山脈全体を包み込み、周囲の木々が枯れ落ち、地面が黒く染まる。
その中心で、アイナはリアンの腕に倒れ込んでいた。
「アイナ……しっかりしろ!」
「……だいじょうぶ……でも……あの“目”……」
アイナは震える指で巨兵の胸部を指した。
影の裂け目の奥には、巨大な黒い眼がひとつ――アイナをじっと見ている。
「あれ……私を探してた……みたい……」
「どういう意味だよ!」
「分からない……
でも、あの目は“敵意じゃなくて、呼びかけ”みたいだった……」
信じがたい言葉。
だがアイナの光核は確かに反応していて、痛みではなく“共鳴”にも似た脈動を返していた。
リアンは歯を食いしばる。
「だからって……あんな化け物に近づく気かよ!」
「ち、違うよ……! 私は……怖いよ……すごく……!」
アイナはリアンの胸に顔を埋めた。
かすかに怯えた吐息が肩を濡らし、彼の心臓を掴む。
その震えは、守らずにいられないほど、弱くて――綺麗だった。
「……守る。何があっても守る」
リアンは小さく呟き、アイナの頭をそっと引き寄せた。
◆
「二人とも、立て」
ラグナが静かに言った。
だがその表情はいつになく険しい。
「影巨兵の内部で動いている何か……
“光輪保持者を感知している”のは間違いない」
「アイナを狙ってるんじゃなくて……探してる?」
「それだ。
敵意ではなく、指向性のある探知だ」
ラグナの眼が、一瞬だけ微かに揺れた。
「……つまり、あれは“光核の対”だ」
「対……?」
「影世界側に存在する、光核と同等の“中心核”。
理論上は存在し得るが――目の前にいるということは……」
「つまり?」
リアンが迫るように言うと、ラグナは淡々と続けた。
「アイナの光核が作動したことで、
“対となる核”が影側から目覚めたんだ」
静まり返る空気。
アイナの呼吸が乱れた。
「私の……せいで……?」
「違う。
君が生きているからこそ、光核は世界を繋ぎ止めている。
責任ではない」
ラグナの声は静かだが、どこか優しかった。
◆
影巨兵が再び動いた。
その腕がゆっくりと振り上げられる。
「来る――っ!!」
リアンがアイナを抱えて跳んだ瞬間、
巨兵の拳が地面を押し潰した。
岩が砕け、地面が波打つ。
「うわっ……!」
吹き飛ばされそうになる二人を、ラグナが空間の線で受け止める。
「踏ん張れ!」
「おまえ……助けんのが遅ぇ!」
「文句は後にしろ」
巨兵は動きを止めない。
影の腕が三方から押し寄せる。
兵士たちが必死に攻撃を仕掛けても、
影が再生し、意味を成さない。
「……このままだと全滅だ」
リアンが低く呟いた。
「どうするの……?」
アイナの声は不安に揺れている。
「決まってる。
光しかねぇ」
リアンはアイナの肩を掴み、正面から見つめた。
「おまえの光じゃなきゃ、あれは止められねぇ。
……でも、おまえひとりじゃ絶対に使うな」
アイナの瞳がわずかに震える。
「じゃあ……どうすれば……」
「俺が“支える”。
光核が暴れたら、俺が抑える。
おまえは前だけ見て、光を撃て」
アイナは息を呑んだ。
「怖くても……?」
「怖いなら、俺に全部渡せ」
リアンの手がアイナの頬に触れた。
その熱に、アイナの胸の光核がゆっくりと脈を整える。
「……リアンの声、すごく……落ち着く……」
「なら、聞いてろ。
絶対に離さねぇから」
◆
アイナは光輪を胸に抱き、深呼吸した。
光核の鼓動がリアンの鼓動と重なる。
(大丈夫……リアンがいる……
怖くない……私の光は……みんなを守るための――)
光輪が強く光った。
ラグナの瞳が細められる。
「光核、安定。
――撃てる」
「行くよ、リアン」
「行け!」
アイナが両手を広げ、光輪を展開した。
「光よ――わたしに力を!!」
光輪から放たれた巨大な光柱が、
影巨兵の胸部の“黒い目”へ突き刺さった。
巨兵が咆哮を上げる。
影が焼かれ、裂け、周囲の山脈に光の風が吹き抜ける。
「おお……すげぇ……!」
「やったか……!?」
兵士たちがざわめく。
だが――
黒い目が、光の中で“開いた”。
アイナへ向けて、
まるで何かを語りかけるように光を吸い込み――
「……ッ!!」
アイナが胸を抑え、悲鳴を上げた。
光核の反応が急激に跳ね上がる。
「アイナ!!」
「だめ……!
光が……戻ってきてる……!」
光が吸収されている。
影巨兵がアイナの光を“喰っている”――!
「くそっ……!」
リアンが彼女を抱きしめ、光核に手を当てた。
「落ち着け……アイナ!
取り込まれるな……!」
「リアン……やだ……怖い……っ」
アイナの涙がリアンの胸を濡らす。
その瞬間、
影巨兵の胸の“黒い目”が、リアンを見た。
「……ッ」
ラグナが目を見開いた。
「リアン。離れるな。
君の影耐性――あれに影響を与えている!」
「どういうことだよ!」
「君は“光核の負荷を肩代わりできる”。
今の状態は……二人で光を共有している!」
「だったら――!」
リアンはアイナの背を抱きしめ、耳元で囁いた。
「大丈夫だ。
光は俺にも流れろ。
……一緒に撃つぞ」
「リアン……!」
アイナが小さく頷き、涙を拭った。
光輪が二人の間で輝き、共鳴する。
◆
「行くよ……リアン!」
「来い――全部受け止めてやる!」
二人の心臓が同時に脈打つ。
影巨兵の黒い目が見開かれる。
そして――
光と影が激突した。




