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第8話 黒巨兵との死闘 ― 光の共鳴と影の咆哮

 影巨兵が完全に覚醒した瞬間、空気がひりついた。

 重圧は山脈全体を包み込み、周囲の木々が枯れ落ち、地面が黒く染まる。


 その中心で、アイナはリアンの腕に倒れ込んでいた。


「アイナ……しっかりしろ!」


「……だいじょうぶ……でも……あの“目”……」


 アイナは震える指で巨兵の胸部を指した。

 影の裂け目の奥には、巨大な黒い眼がひとつ――アイナをじっと見ている。


「あれ……私を探してた……みたい……」


「どういう意味だよ!」


「分からない……

 でも、あの目は“敵意じゃなくて、呼びかけ”みたいだった……」


 信じがたい言葉。

 だがアイナの光核は確かに反応していて、痛みではなく“共鳴”にも似た脈動を返していた。


 リアンは歯を食いしばる。


「だからって……あんな化け物に近づく気かよ!」


「ち、違うよ……! 私は……怖いよ……すごく……!」


 アイナはリアンの胸に顔を埋めた。

 かすかに怯えた吐息が肩を濡らし、彼の心臓を掴む。


 その震えは、守らずにいられないほど、弱くて――綺麗だった。


「……守る。何があっても守る」


 リアンは小さく呟き、アイナの頭をそっと引き寄せた。


 



「二人とも、立て」


 ラグナが静かに言った。

 だがその表情はいつになく険しい。


「影巨兵の内部で動いている何か……

 “光輪保持者を感知している”のは間違いない」


「アイナを狙ってるんじゃなくて……探してる?」


「それだ。

 敵意ではなく、指向性のある探知だ」


 ラグナの眼が、一瞬だけ微かに揺れた。


「……つまり、あれは“光核の対”だ」


「対……?」


「影世界側に存在する、光核と同等の“中心核ダークコア”。

 理論上は存在し得るが――目の前にいるということは……」


「つまり?」


 リアンが迫るように言うと、ラグナは淡々と続けた。


「アイナの光核が作動したことで、

 “対となる核”が影側から目覚めたんだ」


 静まり返る空気。

 アイナの呼吸が乱れた。


「私の……せいで……?」


「違う。

 君が生きているからこそ、光核は世界を繋ぎ止めている。

 責任ではない」


 ラグナの声は静かだが、どこか優しかった。


 



 影巨兵が再び動いた。

 その腕がゆっくりと振り上げられる。


「来る――っ!!」


 リアンがアイナを抱えて跳んだ瞬間、

 巨兵の拳が地面を押し潰した。

 岩が砕け、地面が波打つ。


「うわっ……!」


 吹き飛ばされそうになる二人を、ラグナが空間の線で受け止める。


「踏ん張れ!」


「おまえ……助けんのが遅ぇ!」


「文句は後にしろ」


 巨兵は動きを止めない。

 影の腕が三方から押し寄せる。


 兵士たちが必死に攻撃を仕掛けても、

 影が再生し、意味を成さない。


「……このままだと全滅だ」

 リアンが低く呟いた。


「どうするの……?」

 アイナの声は不安に揺れている。


「決まってる。

 光しかねぇ」


 リアンはアイナの肩を掴み、正面から見つめた。


「おまえの光じゃなきゃ、あれは止められねぇ。

 ……でも、おまえひとりじゃ絶対に使うな」


 アイナの瞳がわずかに震える。


「じゃあ……どうすれば……」


「俺が“支える”。

 光核が暴れたら、俺が抑える。

 おまえは前だけ見て、光を撃て」


 アイナは息を呑んだ。


「怖くても……?」

「怖いなら、俺に全部渡せ」


 リアンの手がアイナの頬に触れた。

 その熱に、アイナの胸の光核がゆっくりと脈を整える。


「……リアンの声、すごく……落ち着く……」


「なら、聞いてろ。

 絶対に離さねぇから」


 



 アイナは光輪を胸に抱き、深呼吸した。

 光核の鼓動がリアンの鼓動と重なる。


(大丈夫……リアンがいる……

 怖くない……私の光は……みんなを守るための――)


 光輪が強く光った。

 ラグナの瞳が細められる。


「光核、安定。

 ――撃てる」


「行くよ、リアン」


「行け!」


 アイナが両手を広げ、光輪を展開した。


「光よ――わたしに力を!!」


 光輪から放たれた巨大な光柱が、

 影巨兵の胸部の“黒い目”へ突き刺さった。


 巨兵が咆哮を上げる。

 影が焼かれ、裂け、周囲の山脈に光の風が吹き抜ける。


「おお……すげぇ……!」

「やったか……!?」


 兵士たちがざわめく。


 だが――


 黒い目が、光の中で“開いた”。


 アイナへ向けて、

 まるで何かを語りかけるように光を吸い込み――


「……ッ!!」


 アイナが胸を抑え、悲鳴を上げた。

 光核の反応が急激に跳ね上がる。


「アイナ!!」


「だめ……!

 光が……戻ってきてる……!」


 光が吸収されている。


 影巨兵がアイナの光を“喰っている”――!


「くそっ……!」


 リアンが彼女を抱きしめ、光核に手を当てた。


「落ち着け……アイナ!

 取り込まれるな……!」


「リアン……やだ……怖い……っ」


 アイナの涙がリアンの胸を濡らす。


 その瞬間、

 影巨兵の胸の“黒い目”が、リアンを見た。


「……ッ」


 ラグナが目を見開いた。


「リアン。離れるな。

 君の影耐性――あれに影響を与えている!」


「どういうことだよ!」


「君は“光核の負荷を肩代わりできる”。

 今の状態は……二人で光を共有している!」


「だったら――!」


 リアンはアイナの背を抱きしめ、耳元で囁いた。


「大丈夫だ。

 光は俺にも流れろ。

 ……一緒に撃つぞ」


「リアン……!」


 アイナが小さく頷き、涙を拭った。


 光輪が二人の間で輝き、共鳴する。


 



「行くよ……リアン!」


「来い――全部受け止めてやる!」


 二人の心臓が同時に脈打つ。


 影巨兵の黒い目が見開かれる。


 そして――


 光と影が激突した。


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