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第7話 影山脈の咆哮と“黒巨兵”の覚醒

 山脈全体が揺れた。

 石が砕け、木々がざわめき、空気が震えた。


 アイナが胸を押さえる。

 光核が暴れるように脈打ち、熱を持つ。


「この反応……近い……すごく近い……!」


「落ち着けアイナ。深呼吸しろ」

 リアンが手を握ると、光輪がわずかに安定した。


 だが――安定したのはほんの一瞬。


 山脈の奥から、黒い“腕”がゆっくりと地表へ突き出てきた。


「……は?」


 誰かの呆然とした声が漏れた。


 続いて二本目の腕。

 岩を砕き、森を抉り、黒い影がせり上がる。


「嘘だろ……こんなデカいの……!」


 全長三十メートルを超える、巨人の影。

 岩に埋もれていた体をゆっくりと起こしながら、空気を震わせる咆哮を上げた。


「“影巨兵シャドウ・コロッサス”……?」

 ラグナが珍しく表情をわずかに変えた。


「記録にない。解析不能。

 ――未知の上位種だ」


 巨兵が立ち上がると、山脈の岩肌が崩れ落ち、地鳴りが続いた。


 兵士たちの顔が一斉に青ざめる。


「こんなの……勝てるわけ――!」

「後衛に下がれ! 盾兵、構えろ!!」


 指揮官の怒号も、巨兵の咆哮に掻き消された。


 



 巨兵がゆっくりと腕を振り上げた。

 動きは重い。だが、一撃の威力は想像を超える。


「来るぞ――ッ!」


 リアンが叫ぶ。

 次の瞬間、巨兵の拳が地面に叩きつけられた。


 大地がひっくり返り、衝撃波が前方の兵士たちを吹き飛ばす。


「うわあああっ!」

「陣形が……崩れる!」


 森の一部が更地になった。

 影の巨兵は、ただ立っているだけで戦線を破壊していく。


「……これが“影の侵食”かよ……!」


 リアンが歯を食いしばる。


 



「アイナ」


 ラグナが短く名を呼ぶ。


「光核は反応している。

 ――あれは“君に向けられた存在”だ」


「え……?」


「おそらく、光輪保持者を“餌”として認識している。

 だから中心部で待ち受けていた」


 アイナの背筋が凍る。


「私を……狙ってる……?」


「光輪は影にとって、最大の脅威であり、同時に歪みでもある。

 襲撃が続く理由はそこにある」


「ふざけんな……!

 アイナを餌扱いだと? 許せるかよ!」


 リアンは叫ぶと同時に剣を構えた。


「ぶっ倒す。そのために来たんだ!」


「短気だな」

「うるせぇ!」


 だが二人のやり取りの最中にも、巨兵は動く。


 影でできた巨腕が、破壊の軌跡を描きながら振り下ろされた。


 



「避けて!!」


 アイナの叫びと同時に光輪が展開され、半透明の光壁を作る。

 だが巨兵の一撃はあまりに重く、光壁が砕け散った。


「っ……!」


「アイナ!」


 リアンが彼女を抱き寄せ、転がるように避ける。

 土煙が舞い、影の欠片が空を裂く。


 光壁を砕かれたアイナの胸が激しく痛んだ。


「……ごめ……ん……

 うまく光が……出せない……!」


「謝るな! まだ終わってねぇ!」


 リアンが立ち上がり、剣を強く握る。

 だが巨兵の影は、斬っても霧散するだけで形を保持する。


 物理攻撃では倒しきれない。


 



 ラグナが一歩前へ進んだ。


「観測空間――限定解放」


 彼の周囲に、複雑な光線が幾重にも展開される。

 空間が歪み、巨兵の動きが鈍った。


「今だ。アイナ」


「でも……!」


「恐怖は理解する。

 だが光核は君の意思で“変わる”。

 君が怯めば、光は弱まる」


 アイナの呼吸が止まる。


 ――私が怯えれば、みんなが死ぬ。


 その実感が、胸を締め付けた。


「アイナ」


 リアンがアイナの手を握った。


「怖くてもいい。震えててもいい。

 俺がいる。

 だから――前だけ見ろ」


 アイナの瞳が揺れ、次の瞬間、光輪が強く輝いた。


「……うん。

 私、やる……!」


 



 アイナは光輪を両手に抱えるように構え、息を吸った。


(大丈夫。リアンがいる。

 ラグナも、兵士のみんなも――ここにいる)


(私は……ひとりじゃない)


 光核が鼓動し、光輪に力が満ちる。


「光よ――届いて!」


 光輪から放たれた光の柱が、巨兵の胸部へ一直線に走る。


 巨兵の体が大きく揺れ、影が裂ける。


「効いてる……!」


 リアンが叫ぶ。


「もっとだ、アイナ!」


「うん……!!」


 光がさらに強くなる――

 が、その瞬間。


 巨兵の胸の奥で、黒い“目”が開いた。


「……え?」


 黒い眼光がアイナへ向けられた瞬間、

 光核が激痛に変わり、アイナが悲鳴を上げて崩れ落ちた。


「アイナ!!」


 リアンが抱きとめる。

 アイナは胸を押さえ、苦しげに息を吸う。


「……違う……

 あの目……あれ……

 “敵じゃない”……」


「は?」


「敵じゃ……ない……

 “呼んでる”……」


 その言葉は、巨兵の咆哮とともに掻き消えた。


 黒い影が渦を巻き、巨兵が完全に覚醒する。


 アイナを“中心”として――。


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