第21話 烈戦の支柱 ― リアン覚醒
影界軍の咆哮が王都を揺らした。
黒い波のような眷属が押し寄せ、
空は影炎で覆われていく。
その中心で――
轟影将ヴァルドが、
獣のような呼気を吐いた。
「光影巫女……その力。
影王様が求める“鍵”の輝き……
ようやく、目にできた」
アイナはリアンの背に半歩隠れ、
核を抑えるため彼の手を握る。
「リアン……離れないで……」
「離れねぇよ」
リアンは短く答えた。
だが――
ヴァルドが放つ影圧に、アイナの核が震え始める。
(まずい……このままじゃ核が乱れる……
支柱である俺がぶれたら……
アイナは力を使えなくなる)
リアンは深呼吸し、己を落ち着かせた。
(折れねぇ。
俺は折れねぇ。
アイナのために――)
◆
轟。
ヴァルドが地面を蹴った瞬間、
大地が爆発するように抉れた。
巨体とは思えない速さで跳躍し、
黒炎の拳がリアンへ迫る。
「リアン!!」
「うおおおッ!!」
リアンは剣を振り上げ、
拳とぶつけた。
衝撃が空間を震わせ、
石畳がひび割れる。
が――
力の差は歴然だった。
「ぬるい」
ヴァルドはそのまま力で押し潰そうとする。
「くそ……っ!」
「リアン!!」
その瞬間、
アイナの核が激しく光った。
「リアンに触らないで!!」
白黒の光がヴァルドを弾き飛ばす。
だが――
アイナの体がふらついた。
「アイナ!」
リアンはすぐに抱き支える。
「ご……ごめ……
力、出しすぎ……た……」
アイナの呼吸が浅い。
核の光が乱れている。
リアンはアイナの頬を両手で包んだ。
「大丈夫だ、落ち着け。
俺がいる。
俺を見ろ」
「っ……リアン……」
アイナの瞳が震えながらも、
リアンを映した瞬間――
核の光が安定した。
「………ありがとう……」
リアンは安堵するが、
その様子をヴァルドは見逃していなかった。
「なるほど……
“支柱”の精神が揺れれば、
巫女の核は容易く乱れる……か」
その言葉にリアンは歯を食いしばる。
「……ならば」
ヴァルドが一瞬で距離を詰める。
「先に折るのは――貴様だ」
「っ――!」
ヴァルドの影炎が剣を包み、
轟音と共に振り下ろされる。
リアンは防御に回るが、
衝撃で膝が砕けそうになる。
アイナが叫ぶ。
「やめて!!」
光が迸る。
だがヴァルドはその光を影炎で押し返す。
「光巫女。
貴様の力を相殺するための“影炎”。
本来ならこの戦い……
巫女は出てこられぬはずだ」
「なっ……!?」
「巫女を戦場に立たせたのは――
その支柱。
貴様に依存させることで、
戦わせざるを得ない状況に追い込んでいる」
リアンの胸が痛む。
(……そんなわけあるか。
俺が……アイナを追い込んでる?
俺が……?)
その一瞬の迷いを――
ヴァルドは見逃さない。
「折れろ」
黒炎の拳がリアンの胸に直撃した。
「が……ッ!!」
「リアン!!」
リアンは吹き飛び、
石畳に転がる。
呼吸が苦しい。
視界が揺れる。
アイナが必死に駆け寄る。
「リアン!!
お願い……死なないで……!!」
(やばい……
アイナが……
また核を暴走させる……)
アイナの瞳が黒に沈み始める。
「アイナ……落ち着け……っ」
リアンはかすれた声で呼ぶ。
「私が……私が守れなかったから……っ
また……また私のせいで……!」
「違う……っ。
おまえのせいじゃ……ねぇ……!!」
アイナの核が強く脈打つ。
白黒の光が狂ったように揺れ、
地面が振動を始めた。
「やめろ……アイナ……!
核が壊れちまう……!」
「でも……でも……!!
リアンを守れないなら……
私……意味がない……!!」
その一言に――
リアンの意識は完全に覚醒した。
(違う!!
アイナは……
守るために生きてるんじゃない!!
生きるために生きてるんだ!!
俺のためだけに存在してるわけじゃねぇ!!)
「アイナァッ!!」
リアンは全身の痛みを無視して立ち上がり、
アイナを抱き締めた。
「おまえの存在の意味を、
たった一つにするな!!」
アイナの息が止まる。
「リアン……?」
「俺を守れなくてもいい!!
俺が死にかけててもいい!!
おまえは――
“生きていていい”んだ!!
それだけが、おまえの価値だ!!」
アイナの瞳から黒が剥がれ落ちた。
核の乱れが静かに収まっていく。
「……っ……ひ……」
アイナは涙を流す。
「リアン……リアン……っ
こわかった……
あなたがいなくなるの……
本当に……怖かった……!」
「ああ。
俺も怖かった。
でも……もう大丈夫だ。
おまえは俺が守る。
おまえの心は……俺が支える。
俺は折れねぇ」
その瞬間――
リアンの胸が光り始めた。
「え……?」
「これは……?」
アイナが見つめる中、
リアンの体から淡い光があふれる。
それは巫女の光とは違う、
まっすぐで、揺らぎのない光。
ラグナが遠くから叫んだ。
「リアン!
それは――“支柱の覚醒”だ!!」
ヴァルドの影炎が揺らぐ。
「……なに……?」
「支柱の真価は、
巫女の力を抑えるだけではない」
ラグナが続ける。
「巫女の心を守る絶対の存在――
その意志が臨界に達した時、
支柱は“巫女の力を底上げする光”を得る!!」
「そんなものが……!」
リアンはアイナの手を握る。
「アイナ。
一緒に行くぞ」
アイナの核が今までにないほど美しく輝いた。
「……うん!」
二人の光が重なり――
光影巫女と支柱による“共鳴”が発動する。
白と黒、そして純白の支柱光が融合し――
王都の空を照らし出した。




