表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/27

第18話 霧紋の訪れ ― 王都暗殺戦

 夜の王都は静かだった。

 灯火が石畳を照らし、

 遠くの鐘楼が時刻を告げる。


 しかし――その静けさは偽りだ。


 気づく者はいない。

 屋根の上を、“影”が滑るように移動していた。


 黒い霧。

 輪郭を持たない少女の姿。


 影界七将――霧紋将むもんしょうフェルナ。


「きれいな街……光ばっかり」

 フェルナは退屈そうに足をぶらつかせる。

「でも、その光が揺らぐ瞬間って……

 一番かわいくて、好き」


 霧をまとい、

 少女は王城の方向へと視線を向けた。


「光影巫女――アイナ。

 そして支柱のリアン。

 ……どんな反応するかな。

 壊れちゃうかな。

 逃げちゃうかな」


 くすりと笑い、

 フェルナの体が霧に変わる。


「――遊ぼう?」


 影が夜空に溶けた。


 



 王城・巫女の間。


 アイナは静かに息をつきながら、

 窓辺に立っていた。


 月の光が白い髪を照らす。

 闇の紋様が胸の奥で脈動する。


 背後からリアンの声がした。


「眠れないのか?」


「うん。

 核が……落ち着かなくて」


 リアンは窓際に寄ってくる。

 アイナの肩を抱くようにそっと支えた。


「影界の将が来たからだろ。

 あいつ……オルファスってやつの気配を

 感じてるんじゃないか?」


「……うん。

 でも、もうひとつ……」


「もうひとつ?」


「不安、かな……。

 リアンと、こうやって近くにいて……

 嬉しいのに。

 嬉しいほど……怖くなるの」


 リアンは息を呑んだ。


「なんで怖いんだ?」


「わからない……

 でも……」


 アイナはリアンの胸に額を預ける。


「あなたが離れていったら……

 私は、どうなるんだろうって……」


 リアンはアイナの頭をそっと撫でた。


「離れねぇよ」


「……ほんと?」


「ほんとだ。

 俺は絶対、おまえのそばを離れない」


 アイナの震えが和らいだ時だった。


 



 ――カサ。


 かすかな音。


 リアンの身体が瞬間的に反応する。


「アイナ、下がれ!」


 彼はアイナを抱えて後ろへ跳んだ。


 次の瞬間――

 まるで煙が晴れるように、

 ベッドの前の空間から少女が現れた。


「こんばんは」


 霧紋将フェルナ。


 現れた彼女は軽く首を傾げた。


「驚いた?

 ねぇ……ねぇ、光巫女。

 あなたの“支柱”って……

 本当に強いね?」


「な、何者……!」


「影界七将。

 霧紋将フェルナ。

 あなたたちの……敵、だよ?」


 リアンが剣を構える。


「アイナに手を出すな」


「ふふふ……

 出すに決まってるでしょ。

 影王様の“試練”なんだから」


 フェルナが指を鳴らした瞬間、

 部屋いっぱいに黒霧が広がった。


「くっ……!」


 リアンの剣は、空を斬る。

 霧は形を変え、

 壁から天井へと逃げるように動く。


「影の霧……!

 どこにいるのかわからない……!」

 アイナが息を荒げる。


「落ち着け!」

 リアンが叫ぶ。

「アイナ、俺の手を握れ!

 核が暴走しないように……!」


「う、うん……!」


 二人が手を握った瞬間――


 フェルナの声が、

 霧の中から響いた。


「ねぇ、光影巫女。

 そんなふうに誰かに依存して……

 恥ずかしくないの?」


 その声に、

 アイナの胸がざわついた。


「……依存なんか……!」


「依存だよ?」

 フェルナが囁くように笑う。

「あなたがひとりで立てないの、

 ぜんぶ知ってる。

 支柱がないと核が安定しない。

 支柱がいなきゃ力を使えない。

 支柱がいなきゃ……あなたって存在、

 何もできない」


「ちが……っ……」


「アイナ!」

 リアンが抱き寄せる。

「聞くな! あいつの言葉は毒だ!」


「……怖いの?」

 霧の中でフェルナが笑う。

「支柱が死んだら、どうするの?」


 アイナの呼吸が乱れた。


 核が、黒く脈動する。


「み、見ないで……

 やめて……リアン……」


「しっかりしろ!」

 リアンはアイナの手を強く握る。

「俺は死なねぇ!

 だから……!」


「ほんとに?」

 フェルナの声が真横で聞こえた。


「――え?」


 霧が凝縮し、

 フェルナの“指先”がリアンの喉元に迫る。


「リアンッ!!」


 アイナが悲鳴をあげる。


 リアンが動くよりも速く――

 アイナの核が暴走した。


「やめてッ!!」


 白黒の光が爆発した。


 衝撃波が部屋を薙ぎ、

 霧が吹き飛び、

 フェルナが壁へ激突する。


「……ぁ……」


 影の少女は、その場で笑った。


「ふふ……

 やっぱり可愛いなぁ、光影巫女。

 支柱を傷つけられる時が、

 いちばん良い反応」


「黙れ……黙れ……!!」

 アイナの瞳が黒白に揺れる。


「もう十分」

 フェルナが呟いた。


「今日はこれでいいよ。

 あなたの“弱点”、

 よくわかったから」


 黒霧が少女を包み込み――

 フェルナは闇に溶けた。


 



 残されたのは、

 震えるアイナと、

 その肩を抱くリアンだけだった。


「……ごめ……ごめんなさい……」

 アイナは何度も繰り返した。


「ごめん……

 私、また……リアンを危険に……」


「違う」

 リアンは強く抱き寄せた。


「悪いのはおまえじゃねぇ。

 あいつらだ。

 影界だ。

 おまえは……何も悪くない」


 アイナの涙がリアンの胸に落ちた。


「リアン……離れないで……

 お願い……」


「離れねぇよ。

 なにがあっても」


 二人は抱きしめ合ったまま、

 夜がゆっくりと過ぎていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ