第17話 王都帰還 ― 二人の距離、揺れる心
王都アウレリアに戻ると、
城門の前で兵たちが歓声を上げた。
「光巫女様が……!
帰還されたぞ!!」
アイナは少し戸惑いながらも、
城門の先にいる人々へ軽く会釈する。
リアンは、その背中を守るように歩いていた。
「みんな……こんなに……」
「おまえが救ったからだよ」
リアンは肩を竦める。
「影巨兵を倒したのは事実だろ」
「……うん。でも……怖い目で見てる人もいる」
アイナはそっと視線を伏せた。
群衆には歓声だけでなく、
恐怖や警戒の目も混ざっていた。
光巫女でありながら影の力を持つ。
それは前例のない存在だった。
「気にすんな。
それでも俺は、おまえの味方だ」
リアンが言ったその瞬間――
アイナの胸の光影核が
小さく脈を打った。
「……リアンがそう言ってくれると……
少し、楽になる」
リアンは照れ隠しのように
鼻を鳴らした。
「当たり前だろ。
おまえを一人になんかするかよ」
アイナの頬に、
ほんのり赤みが差した。
◆
王城に入ると、
軍議室の前に立っていたラグナが、
リアンへ鋭い目を向けた。
「……リアン。
アイナから離れすぎるな」
「離れるつもりなんてねぇよ」
「そう言って油断するのが一番危険だ。
影界は必ず動く。
彼女は標的だ」
ラグナは真剣そのものだった。
その目に宿る焦燥。
かつて影界に仲間を奪われたときと
同じ色。
「……わかったよ」
リアンも、表情を引き締める。
アイナは二人を見比べ、
小さく笑った。
「ふたりとも……ありがとう」
「礼なんていい」
ラグナは短く答えた。
「アイナ。
危険度は上がっている。
しばらく城の奥の“巫女の間”で休むといい。
光巫女代々が身を守るために使ってきた、
最も安全な場所だ」
「……でも……リアンは?」
「おまえの隣だ」
ラグナが言う。
「彼なしで核の安定は保てない。
同行を許可する」
アイナは安心したように
胸に手を当てた。
「よかった……」
リアンの方が逆に戸惑っていた。
「俺……そんなに必要か?」
「必要だよ」
アイナが即答する。
「私、リアンがいないと……
核が変にざわめく。
不安になって……怖くなるの」
リアンの心臓が跳ねた。
「……そっか」
それしか言えなかった。
◆
巫女の間へ向かう廊下。
静かで、人の気配が薄く、
窓からは金色の夕陽が差し込む。
アイナは足を止めた。
「……リアン」
「ん?」
「助けてくれて……ありがとう。
あの時……あなたがいなかったら、
私は……」
声が震えていた。
リアンはアイナの手をそっと握る。
「アイナ。
無理に言わなくていい。
俺も……あの時、怖かった」
「……え?」
「おまえが影に呑まれそうで……
俺、死ぬほど怖かった」
アイナの目が大きく開く。
そして――
ゆっくりと彼の胸に額を寄せた。
「……リアンが震えてる」
「そりゃ……怖かったら震えるだろ」
「でも……嬉しい」
「何がだよ」
「リアンの心が……
ちゃんと、私を見てくれてるって……
わかるから」
リアンは言葉を失った。
胸が、熱くなる。
「アイナ……」
「うん……?」
アイナが顔を上げる。
夕陽の光が髪を照らし、
白と黒の瞳に映り込む。
リアンはその瞳を
まっすぐに見つめ――
「……絶対に守る」
そう告げた。
「……うん。
私も、リアンを……守る」
二人の距離は、
もう以前とは違っていた。
◆
廊下の影の奥。
薄闇の中で、
ひとりの少女がそっと息を潜めていた。
闇色の髪。
影界の紋様が刻まれた肌。
霧のように薄い存在感。
――影界七将
霧紋将フェルナ。
「……ふふ。
支柱と巫女……仲がいいね」
笑いながら、
少女は指を軽く鳴らした。
影がゆっくりと姿を変え、
黒い蝶となって舞い散る。
「影王様の“試練”……
そろそろ始めようかな」
影界の暗殺将が動き出した。




