第15話 光影連撃 ― 初交戦オルファス戦
黒翼が広がった瞬間、
空気が破裂したような衝撃が走った。
「――ッ!!」
リアンはアイナを抱き寄せながら、横へ跳ぶ。
直後、
先ほどまで二人が立っていた場所が、
“黒い裂傷”に切り裂かれた。
地面が削れ、闇が滲み出す。
「空間斬……?
やべぇな、あいつ」
リアンが息を荒げる。
「……リアン、大丈夫……?」
アイナが震える声で問う。
「平気だ。
おまえこそ……無茶するなよ」
リアンの視線が、
アイナの胸で脈動する光影核に向く。
白と黒の光が、呼吸に合わせて揺れていた。
◆
黒翼の将――オルファスが、静かに歩み寄る。
「光影核の不安定状態……
だが、補正が入っている。
――やはり“支柱”はおまえか」
「支柱とか核とか……
勝手に決めつけんな!」
リアンが叫ぶ。
「事実だ。
光影巫女の精神バランスは脆弱。
支える存在がなければ暴走する。
……無論、その時は回収するだけだが」
「ふざけんなあああッ!!」
リアンが踏み込む。
剣を振り下ろす。
火花が散る。
オルファスは一歩も動かず、
翼の羽根一本で受け止めた。
「――ッぐ……!」
「力は悪くない。
だが、足りない」
羽根がしなり、
リアンの剣を弾き飛ばした。
「リアン!!」
アイナが叫ぶより早く、
黒翼が再び振り上げられた。
「――終わりだ」
影色の斬撃が奔る。
◆
「させない――!!」
アイナの叫びと同時に、
光影核が白黒に弾けた。
世界が塗り替わるほどの閃光。
影をも照らす白。
光をも喰う黒。
二色の光が絡み合い、
オルファスの空間斬撃を相殺した。
爆風が走る。
土が舞い、風が暴れ、
空が少しだけ“元の色”を取り戻した。
オルファスが目を細める。
「……ほう。
混合核の自発防御。
面白い」
「アイナ……今のって……」
「わからない……
でも……リアンを守らなきゃって思ったら……
勝手に核が――」
アイナの声が震えている。
だが目は、はっきりとオルファスを捉えていた。
オルファスは、白い仮面越しに言う。
「では次は試す。
その“意思”が、核の力かどうか」
黒翼が広がる。
風が止む。
「影翼連鎖――《クロスフィア》」
黒い羽根が散った。
無数の刃となって空を覆う。
「来るぞ、アイナ!!」
「うん……!」
リアンとアイナは互いに手を取り、
同じ方向へ踏み込む。
二つの心拍が重なる。
光影核が脈動する。
「――っ!!」
白と黒の光が二人を包む。
リアンの剣に“黒炎”が宿り、
アイナの手には“白炎”が灯った。
「行くぞ、アイナ!」
「うん……リアンと一緒なら!」
二人の声が重なった瞬間、
白炎と黒炎が混ざり――
「光影連撃――《ツインフィア》!!」
二つの炎が放たれた。
白が道を切り裂き、
黒がその隙間を呑み込む。
羽根の嵐が焼き尽くされる。
オルファスの仮面に、
初めて“焦燥”の色が浮かんだ。
「……ッ……!」
爆ぜた白黒の奔流が、
オルファスの翼を貫いた。
黒い羽根が舞い散る。
オルファスは数歩後退し、
口元を歪めた。
「……まさか……
この短時間で光影同調を……?」
リアンは息を荒げながら剣を構える。
「もう……おまえの好きにさせねぇよ」
アイナも、白炎を残した手を胸に当てて言う。
「私の力は……
リアンが握ってくれてる。
だから暴走しない。
――あなたにも渡さない」
オルファスは沈黙した。
そして――わずかに笑った。
「……いい。
今日はここまでだ」
黒翼が広がり、
影が空へと収束していく。
「光影巫女。支柱の少年。
次は――殺すつもりで来るといい」
言葉を残し、
黒翼の将は闇の裂け目へと消えた。
◆
静寂だけが残った。
リアンが剣を下ろし、
アイナがその胸に倒れ込む。
「リアン……こわかった……」
「大丈夫だ。
俺がいる。
絶対に、守る」
アイナの震えを抱きしめながら、
リアンは空の裂け目が閉じていくのを睨み続けた。
――影界は本気になった。
そう確信せずにはいられなかった。




