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第14話 黒翼将 ― 影界の使徒

 影巨兵が砕け散り、

 黒い粒子が風に溶けて消えた。


 静寂。

 誰一人声を出さない。


 やがて、ひとりの兵が震える声で言った。


「……勝ったのか……?」


 その瞬間――

 大地が、空気が、空そのものが“強い圧”に押し潰された。


 ぞわり、と肌が総立ちになる。

 不吉な冷気が、戦場全体を包み込んだ。


「……来るぞ」

 リアンが剣を握る。


 空の色が歪んだ。


 光でも夜でもない。

 黒紫の裂け目が、じわりと広がっていく。


「裂け目……!?

 影界の門だ!」

 ラグナが叫ぶ。


 その裂け目の中心から、

 “翼”がゆっくりと出てきた。


 黒い羽根――

 だが、闇ではない。

 光を吸い込み、空間の色すら変えてしまう、絶対色の黒。


 そして、ひとりの男が姿を現した。


 



 黒い翼を持つ男は、

 ゆっくりと地に降り立つ。


 白い仮面。

 深い黒衣。

 足首まで垂れた漆黒の羽。


 そして、仮面の奥の目だけが赤く光る。


「黒翼……」

 ラグナが息を凍らせた。


「影界“七将”のひとり……

 黒翼将こくよくしょうオルファス……!」


 兵士たちが一斉に後ずさる。


 アイナは震えず、

 ただまっすぐ男を見つめた。


 黒翼の将――オルファスは、

 静かな声で言った。


「……光影の巫女。

 境界を越えた“混合核”。

 ついに生まれたか」


「……あなたは……?」


「影界の観測者。

 そして使命を帯びた使徒しと


 オルファスの視線が、

 アイナの胸の統合核を射抜く。


「――それを返してもらう」


 リアンが前へ出た。


「返す?

 おいおい、何を勝手に言ってやがる」


 オルファスはまるで“虫を見るような”目で、

 リアンを一瞥した。


「光巫女の“核”は、本来二つで一つ。

 その片割れ――影核は、影界が授けたものだ。

 混ざった以上、それは影界の領分。

 我々が回収する」


「断る」


 アイナが言った。

 小さく、しかし揺るぎない声で。


「これは私の核。

 光も影も、どちらも私の一部。

 渡すつもりはない」


 オルファスの赤い目がわずかに光る。


「……おまえは理解していない。

 光影核の存在は、世界の均衡を破壊する」


 大地が低く唸る。


「しかし……面白い。

 光と影の統合を、ただの人間の意思で果たすとは」


 仮面越しに、微笑んでいるような気さえした。


 



 オルファスが一歩踏み出した瞬間――


 世界の“密度”が変わった。


 空気が重い。

 呼吸がしづらい。


「っ……重……!」


 兵士たちが次々と膝をつく。


 リアンだけは立ち続けた。

 影耐性を持つ体が、辛うじて耐えている。


「……貴様は珍しいな。

 影の圧に耐えるか」

 オルファスが言う。


「アイナを守るためなら、どうとでも耐えるさ」


 リアンが睨み返す。


 オルファスの目がわずかに輝く。


「……気に入った」


「はぁ?」


「おまえのような“補正因子”は貴重だ。

 光影核の安定保持に有用。

 ――光影巫女の“核主コアホルダー”として価値がある」


 リアンは眉をしかめた。


「勝手に決めんな。

 俺は道具じゃねぇ」


「道具ではない。

 “核の支柱”だ」


「変わんねえよ!!」


 リアンが叫ぶ。


 オルファスはため息をついた。


「……残念だ。

 二人とも回収するつもりだったが……

 抵抗するなら――力づくで行く」


 次の瞬間、

 黒翼が音もなく大きく広がった。


 風が消えた。

 光が歪む。


 兵士たちが息を呑むより早く――


 オルファスが消えた。


 



「ッ!!」


 リアンは瞬時に剣を振り上げた。


 火花が散る。

 刃と刃が、空中でぶつかった。


 オルファスがそこにいた。


「見えるか。

 悪くない」


「黙れ!!」


 リアンが斬り返すが、

 黒翼の将は不気味なほど静かに後退し、

 リアンの剣を指先ひとつで受け止めた。


「弱い」


「っ……!」


「だが補正因子としては十分だ。

 光影巫女の核安定のため――」


 オルファスがアイナへ手を伸ばす。


「連れて行く」


「――来ないで!!」


 アイナが叫んだ瞬間、

 統合核が脈動し、白黒の光が溢れた。


 オルファスの手が止まる。


「……?

 これは――」


 アイナの光が、

 オルファスの黒翼の一部を“焼いた”。


 黒翼の羽根が一枚、静かに落ちる。


 オルファスは驚きに息を飲む。


「光影核……?

 いや、このエネルギーは――

 “光影同調”……!」


 アイナは震えず、

 まっすぐオルファスを見つめる。


「リアンと一緒なら……

 もう影にも屈しない」


 オルファスが初めて――

 明確な敵意を宿した。


「……そうか。

 ならば、おまえたちは脅威として処理する」


 黒翼が、大きく広がる。


「――死ね」


 空が黒に飲まれた。


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