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第12話 心層決戦 ― 光影の統合

 影の少女が叫ぶと同時に、

 心層世界全体が黒に染まった。


 空は落ち、地面は崩れ、

 草原は闇の海へと変わっていく。


『アイナ――

 お前は弱い。

 私はそれを全部知ってる』


 影アイナの声が、怒号でも呪いでもなく、

 ただ“ひどく悲しそう”に響く。


『光巫女に選ばれたのは、

 “他に誰もいなかったから”。

 そう言われた日のこと……覚えてるでしょ?』


 アイナの胸が刺されたように痛む。


 その記憶は、アイナが心の底へ封じていたものだった。


 



 リアンはアイナの手を強く握った。


「振り返るな。

 影の言葉は、おまえの痛みそのものだ。

 でも――」


 リアンは影の少女を睨みつける。


「それは“嘘”も含んでる」


 影アイナの黒い瞳が揺れた。


『嘘なんかじゃない。

 私はアイナの全部を知ってる。

 弱い部分だけを集めた存在だもの』


「だからだよ」


 リアンは言った。


「弱さだけで出来た存在が、

 アイナのすべてを語れるわけがねぇ」


 その言葉に、アイナが息を呑む。


 



 影アイナは首を振り、

 胸を押さえて震えた。


『……違う……

 私は……アイナの“真実”……

 この子は弱い。

 光巫女に選ばれる器じゃない……』


「器の話なんかしてねぇんだよ!」


 リアンの声が心層世界に響いた。


「光巫女だから好きなんじゃねぇ。

 役割なんかどうでもいい。

 俺は――“アイナだから”好きなんだ!!」


 影アイナの黒い瞳が大きく開く。


『……っ……!!』


 アイナの頬が熱くなる。


 リアンの言葉は、

 どんな光よりも彼女の心を照らした。


 



 だが影の少女は苦しそうに叫んだ。


『──それでもっ!!

 アイナはずっと寂しかったの!

 泣きたかったの!

 でも泣けなかった!!

 “光巫女だから”って……!

 “光を曇らせるな”って……!』


 影の叫びに合わせ、黒い海が荒れ狂う。


 アイナの足元が裂け、闇が噴き上がる。


「うっ……!」


 リアンがアイナの腰を抱き寄せ、引き戻す。


「大丈夫だ。

 おまえの影なんだから、受け止めていい」


 アイナの瞳が揺れる。


「……受け止めて……いい……?」


「そうだ。

 泣いていいし、弱くていいし、怖がっていい。

 全部、おまえの“本当”なんだよ」


 アイナは唇を噛みしめた。


 胸の奥の光核が静かに震える。


 



 影アイナは涙を落とした。


 影なのに、涙は透明に近い。


『……怖かったんだよ……

 影を持ってると知られたら……

 誰も私を必要としてくれないと思って……

 光巫女の価値がなくなったら……

 本当に一人になると思って……!』


 その叫びは、アイナ自身の心の叫びだった。


 アイナも涙をこぼした。


「……うん……

 ずっと怖かった……

 泣きたくても、泣いちゃいけないって……

 “光”でいなきゃいけないって……

 ほんとは……すごく寂しかった……!」


 影アイナの涙が止まる。


 アイナは震える手を伸ばした。


「ごめんね……

 あなたをずっと閉じ込めて……

 見ないふりして……

 存在しないようにして……」


 影アイナは息を呑む。


『……アイナ……』


「ありがとう。

 私の弱さを守ってくれて……

 痛みを背負ってくれて……

 ずっと一緒にいてくれて……」


 アイナは影の手を取った。


「――もう拒まない。

 あなたは、私だよ」


 その瞬間、心層世界の黒が静かに揺れた。


 



 影アイナは涙をこぼしながら微笑んだ。


『……やっと……言ってくれた……

 私も……アイナのこと……

 守りたかった……ずっと……』


 アイナは影アイナを抱きしめた。


 二人の体が光に包まれる。


「……一緒にいよう。

 光も影も……全部私。

 リアンが全部受け止めてくれるから……

 もう隠れなくていい……!」


 リアンはゆっくりと近づき、

 二人へそっと手を添えた。


「さあ、戻ろうぜ。

 “本当のアイナ”として」


 影アイナが頷き、光へ溶けていく。


『――ありがとう。

 リアン……

 アイナを、お願い』


「ああ。任せとけ」


 影の少女が完全に消えた瞬間――


 



 アイナの胸が光り、

 白と黒がひとつの輝きとして収束する。


 心層世界が砕け、

 光の粒が空へ舞い上がる。


「リアン……!」


「アイナ!!」


 二人は互いの手を掴み――

 光へと包まれながら、現実世界へ帰還していった。


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