第12話 心層決戦 ― 光影の統合
影の少女が叫ぶと同時に、
心層世界全体が黒に染まった。
空は落ち、地面は崩れ、
草原は闇の海へと変わっていく。
『アイナ――
お前は弱い。
私はそれを全部知ってる』
影アイナの声が、怒号でも呪いでもなく、
ただ“ひどく悲しそう”に響く。
『光巫女に選ばれたのは、
“他に誰もいなかったから”。
そう言われた日のこと……覚えてるでしょ?』
アイナの胸が刺されたように痛む。
その記憶は、アイナが心の底へ封じていたものだった。
◆
リアンはアイナの手を強く握った。
「振り返るな。
影の言葉は、おまえの痛みそのものだ。
でも――」
リアンは影の少女を睨みつける。
「それは“嘘”も含んでる」
影アイナの黒い瞳が揺れた。
『嘘なんかじゃない。
私はアイナの全部を知ってる。
弱い部分だけを集めた存在だもの』
「だからだよ」
リアンは言った。
「弱さだけで出来た存在が、
アイナのすべてを語れるわけがねぇ」
その言葉に、アイナが息を呑む。
◆
影アイナは首を振り、
胸を押さえて震えた。
『……違う……
私は……アイナの“真実”……
この子は弱い。
光巫女に選ばれる器じゃない……』
「器の話なんかしてねぇんだよ!」
リアンの声が心層世界に響いた。
「光巫女だから好きなんじゃねぇ。
役割なんかどうでもいい。
俺は――“アイナだから”好きなんだ!!」
影アイナの黒い瞳が大きく開く。
『……っ……!!』
アイナの頬が熱くなる。
リアンの言葉は、
どんな光よりも彼女の心を照らした。
◆
だが影の少女は苦しそうに叫んだ。
『──それでもっ!!
アイナはずっと寂しかったの!
泣きたかったの!
でも泣けなかった!!
“光巫女だから”って……!
“光を曇らせるな”って……!』
影の叫びに合わせ、黒い海が荒れ狂う。
アイナの足元が裂け、闇が噴き上がる。
「うっ……!」
リアンがアイナの腰を抱き寄せ、引き戻す。
「大丈夫だ。
おまえの影なんだから、受け止めていい」
アイナの瞳が揺れる。
「……受け止めて……いい……?」
「そうだ。
泣いていいし、弱くていいし、怖がっていい。
全部、おまえの“本当”なんだよ」
アイナは唇を噛みしめた。
胸の奥の光核が静かに震える。
◆
影アイナは涙を落とした。
影なのに、涙は透明に近い。
『……怖かったんだよ……
影を持ってると知られたら……
誰も私を必要としてくれないと思って……
光巫女の価値がなくなったら……
本当に一人になると思って……!』
その叫びは、アイナ自身の心の叫びだった。
アイナも涙をこぼした。
「……うん……
ずっと怖かった……
泣きたくても、泣いちゃいけないって……
“光”でいなきゃいけないって……
ほんとは……すごく寂しかった……!」
影アイナの涙が止まる。
アイナは震える手を伸ばした。
「ごめんね……
あなたをずっと閉じ込めて……
見ないふりして……
存在しないようにして……」
影アイナは息を呑む。
『……アイナ……』
「ありがとう。
私の弱さを守ってくれて……
痛みを背負ってくれて……
ずっと一緒にいてくれて……」
アイナは影の手を取った。
「――もう拒まない。
あなたは、私だよ」
その瞬間、心層世界の黒が静かに揺れた。
◆
影アイナは涙をこぼしながら微笑んだ。
『……やっと……言ってくれた……
私も……アイナのこと……
守りたかった……ずっと……』
アイナは影アイナを抱きしめた。
二人の体が光に包まれる。
「……一緒にいよう。
光も影も……全部私。
リアンが全部受け止めてくれるから……
もう隠れなくていい……!」
リアンはゆっくりと近づき、
二人へそっと手を添えた。
「さあ、戻ろうぜ。
“本当のアイナ”として」
影アイナが頷き、光へ溶けていく。
『――ありがとう。
リアン……
アイナを、お願い』
「ああ。任せとけ」
影の少女が完全に消えた瞬間――
◆
アイナの胸が光り、
白と黒がひとつの輝きとして収束する。
心層世界が砕け、
光の粒が空へ舞い上がる。
「リアン……!」
「アイナ!!」
二人は互いの手を掴み――
光へと包まれながら、現実世界へ帰還していった。




