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第10話 光影融合 ― 禁忌の覚醒

 アイナの胸へ黒い光が吸い込まれた瞬間、

 世界がひっくり返った。


 白と黒の光が、爆ぜるように空へ広がる。


 山脈全体が吠え、空気が泣くように震え、

 兵士たちはその場に膝をついた。


「っ……ぐ……! な、なんだ、この圧……!」


「影でも光でもない……“何か”が溢れて……!」


 誰も動けない。

 ただその中心で――


 アイナだけが立っていた。


 



 リアンは倒れ込んだまま、アイナへ手を伸ばす。


「ア……イナ……!」


 しかしアイナは、振り返らない。


 光輪は砕け散った。

 だがその代わり――胸の中心に、白と黒の輝きが渦を巻いている。


 光核と影核。

 二つの核がひとつに重なり、

 新しい“核”へと形を変えていく。


 ラグナが震え声で呟いた。


「まさか……こんな融合が……あり得るはずが……!」


「説明しろ……今、何が起きてる!!」

 リアンが叫ぶ。


 ラグナは目を離せず答えた。


「光核――世界を照らす調律核。

 影核――世界の反面を担う闇核。

 本来、両者は“絶対に混ざらない”。

 混ざれば世界が壊れる」


「じゃあアイナは……!」


「……壊れるのは“世界かもしれない”。

 だが彼女自身ではない。」


 リアンは息を呑む。


「……どういう意味だ……?」


 ラグナは震える指でアイナを示した。


「アイナの体が――核融合の“容器”になっている。

 本来ならあり得ない。

 だが彼女は耐えている。

 耐えられる理由は――」


 言葉が続かない。


「理由は……リアン、おまえだ」


「は……?」


「二つの核が暴走しないのは……

 リアンの“影耐性”が、光核へ干渉しているからだ。

 二つの核が混ざる際の“軸”になっている。

 つまり――」


 ラグナは目を細め、震える声で言った。


「アイナの光核は、リアンを“もうひとつの核”として認識した」


「……俺が……核……?」


「完全融合は危険だ。

 だが今だけは――二人の存在が、世界の破綻を防いでいる」


 リアンは息を呑むしかなかった。


 



 その刹那、

 アイナの髪がふわりと舞い、色が変わった。


 白でも黒でもない。

 光と影が混ざった淡い銀の輝き。


 瞳もまた、金と黒が交互に瞬いている。


 そして――

 ゆっくりと振り返った。


 リアンの胸が凍る。


「アイナ……?」


 アイナは、微笑んだ。


 けれどその微笑みは、いつもの彼女のものではない。


「――リアン」


 声が、二層に重なって聞こえる。

 少女の声と、深淵の囁きが同時に響くように。


 リアンは立ち上がりかけて──膝をついた。

 圧が大きすぎる。


「アイナ……戻れ……!」

 叫ぶことしかできない。


「戻る……? どこへ?」


 アイナが首を傾げる。


「ここが“本来の姿”なのに」


「違う……! そんなはず――!」


 アイナはゆっくりと歩み寄る。

 白と黒の光が彼女の周囲で揺れ、一歩ごとに世界が軋む。


「リアン。私……見えるようになったの。

 あなたの影も……光も……全部」


 指先がリアンの頬に触れた。


 その一瞬――

 リアンの視界に、アイナの記憶が流れ込んだ。


 幼少期の光の訓練。

 父と母の死。

 光核を継いだ瞬間の孤独。


 そして――

 影核が初めて自分を“見つけた”瞬間の恐怖。


「う……ッ!」


 リアンは胸を押さえ、膝をついた。


「ごめん……触れただけで、伝わっちゃうんだ……

 いまの私は“境界”にいるから」


「戻れ……アイナ……!

 戻ってきてくれ……!」


 リアンが必死に手を伸ばす。

 だが触れた瞬間、痛みが走る。


 光と影が、リアンの腕を裂こうとする。


 それでもリアンは手を離さなかった。


「痛いなら……やめればいいのに」


 アイナの声は淡く優しい。


「嫌だね……

 おまえを手放すぐらいなら、腕の一本ぐらいくれてやる!!」


 アイナの瞳が一瞬揺れた。


「……どうして……そこまで……」


「好きだからだよ!!

 おまえがいなくなる世界なんて、要らねえ!!」


 その瞬間。


 アイナの光が震えた。


 白と黒の輝きが、優しく揺れた。


 アイナ自身の意識が、深淵の奥で震えた。


「……リアン……リアン……!」


 アイナが胸を押さえて苦しむ。


 光核と影核が互いを奪い合い、

 少女の心を引き裂こうとしている。


「いや……いやだ……!

 リアンの声、きこえる……

 けど……影が……引っ張る……!」


 アイナは苦しげに泣き叫んだ。


「リアン……助けて……!!

 私……このままだと……“影側”に……!!」


「絶対に行かせねえ!!」


 リアンは彼女の手を力一杯握り返した。


 その瞬間――


 アイナの胸の核が、

 白黒の光輪となって爆ぜた。


 世界中が光に包まれた。


 ラグナが目を塞ぎながら叫ぶ。


「二人は……融合核の中心へ落ちる!!

 実質的に、世界の“裏側”へ引きずり込まれるぞ!!」


「行かせねえって言ってんだろ!!!」


 リアンは叫び、光の中へ飛び込んだ。


 アイナの手を、離さないまま。


 



 世界がひっくり返る。

 白と黒が反転し、上下左右の感覚が消える。


 そして――

 二人の体が、光と影の境界に飲まれていった。


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