第10話 光影融合 ― 禁忌の覚醒
アイナの胸へ黒い光が吸い込まれた瞬間、
世界がひっくり返った。
白と黒の光が、爆ぜるように空へ広がる。
山脈全体が吠え、空気が泣くように震え、
兵士たちはその場に膝をついた。
「っ……ぐ……! な、なんだ、この圧……!」
「影でも光でもない……“何か”が溢れて……!」
誰も動けない。
ただその中心で――
アイナだけが立っていた。
◆
リアンは倒れ込んだまま、アイナへ手を伸ばす。
「ア……イナ……!」
しかしアイナは、振り返らない。
光輪は砕け散った。
だがその代わり――胸の中心に、白と黒の輝きが渦を巻いている。
光核と影核。
二つの核がひとつに重なり、
新しい“核”へと形を変えていく。
ラグナが震え声で呟いた。
「まさか……こんな融合が……あり得るはずが……!」
「説明しろ……今、何が起きてる!!」
リアンが叫ぶ。
ラグナは目を離せず答えた。
「光核――世界を照らす調律核。
影核――世界の反面を担う闇核。
本来、両者は“絶対に混ざらない”。
混ざれば世界が壊れる」
「じゃあアイナは……!」
「……壊れるのは“世界かもしれない”。
だが彼女自身ではない。」
リアンは息を呑む。
「……どういう意味だ……?」
ラグナは震える指でアイナを示した。
「アイナの体が――核融合の“容器”になっている。
本来ならあり得ない。
だが彼女は耐えている。
耐えられる理由は――」
言葉が続かない。
「理由は……リアン、おまえだ」
「は……?」
「二つの核が暴走しないのは……
リアンの“影耐性”が、光核へ干渉しているからだ。
二つの核が混ざる際の“軸”になっている。
つまり――」
ラグナは目を細め、震える声で言った。
「アイナの光核は、リアンを“もうひとつの核”として認識した」
「……俺が……核……?」
「完全融合は危険だ。
だが今だけは――二人の存在が、世界の破綻を防いでいる」
リアンは息を呑むしかなかった。
◆
その刹那、
アイナの髪がふわりと舞い、色が変わった。
白でも黒でもない。
光と影が混ざった淡い銀の輝き。
瞳もまた、金と黒が交互に瞬いている。
そして――
ゆっくりと振り返った。
リアンの胸が凍る。
「アイナ……?」
アイナは、微笑んだ。
けれどその微笑みは、いつもの彼女のものではない。
「――リアン」
声が、二層に重なって聞こえる。
少女の声と、深淵の囁きが同時に響くように。
リアンは立ち上がりかけて──膝をついた。
圧が大きすぎる。
「アイナ……戻れ……!」
叫ぶことしかできない。
「戻る……? どこへ?」
アイナが首を傾げる。
「ここが“本来の姿”なのに」
「違う……! そんなはず――!」
アイナはゆっくりと歩み寄る。
白と黒の光が彼女の周囲で揺れ、一歩ごとに世界が軋む。
「リアン。私……見えるようになったの。
あなたの影も……光も……全部」
指先がリアンの頬に触れた。
その一瞬――
リアンの視界に、アイナの記憶が流れ込んだ。
幼少期の光の訓練。
父と母の死。
光核を継いだ瞬間の孤独。
そして――
影核が初めて自分を“見つけた”瞬間の恐怖。
「う……ッ!」
リアンは胸を押さえ、膝をついた。
「ごめん……触れただけで、伝わっちゃうんだ……
いまの私は“境界”にいるから」
「戻れ……アイナ……!
戻ってきてくれ……!」
リアンが必死に手を伸ばす。
だが触れた瞬間、痛みが走る。
光と影が、リアンの腕を裂こうとする。
それでもリアンは手を離さなかった。
「痛いなら……やめればいいのに」
アイナの声は淡く優しい。
「嫌だね……
おまえを手放すぐらいなら、腕の一本ぐらいくれてやる!!」
アイナの瞳が一瞬揺れた。
「……どうして……そこまで……」
「好きだからだよ!!
おまえがいなくなる世界なんて、要らねえ!!」
その瞬間。
アイナの光が震えた。
白と黒の輝きが、優しく揺れた。
アイナ自身の意識が、深淵の奥で震えた。
「……リアン……リアン……!」
アイナが胸を押さえて苦しむ。
光核と影核が互いを奪い合い、
少女の心を引き裂こうとしている。
「いや……いやだ……!
リアンの声、きこえる……
けど……影が……引っ張る……!」
アイナは苦しげに泣き叫んだ。
「リアン……助けて……!!
私……このままだと……“影側”に……!!」
「絶対に行かせねえ!!」
リアンは彼女の手を力一杯握り返した。
その瞬間――
アイナの胸の核が、
白黒の光輪となって爆ぜた。
世界中が光に包まれた。
ラグナが目を塞ぎながら叫ぶ。
「二人は……融合核の中心へ落ちる!!
実質的に、世界の“裏側”へ引きずり込まれるぞ!!」
「行かせねえって言ってんだろ!!!」
リアンは叫び、光の中へ飛び込んだ。
アイナの手を、離さないまま。
◆
世界がひっくり返る。
白と黒が反転し、上下左右の感覚が消える。
そして――
二人の体が、光と影の境界に飲まれていった。




