7 なんか皆おこ!
お昼休みが終わるということで僕はアーノルト様のお膝からやっと解放されて教室へと向かっていた。
アーノルト様と節度をもって接したいという僕の提案は振り向く前は絶対に怒られるって思ったけど声を荒げるとかそういった態度で示されずただひたすら「ふーん」「そうか」「じゃあどうしようか」「ふんふん」って笑ってない作り物の仮面みたいな張り付けた笑顔で僕の背中をなだめるようにひたすらナデナデされて流されてしまった。
ちなみにいつもより冷たい視線もかっこよくてきゅんきゅんしてしまったのは隠せていたと信じたい。
「ちょっとそこのモブ!!」
普通そう言われて振り向く人はいないと思う。なのに突然ピンク色の髪の毛をした女の子が僕を後ろから追いかけて来て肩をつかんできた。
「私が呼んだら止まりなさいよ!」
すごい勢いで怒られた。僕の前に回り込んで文字通り唾を飛ばしながら叫んでくる。僕より少し背が低いくらい、学園の制服にアレンジを加えてるのか襟とか袖とかになんだか普通の制服よりフリルの量が多い気がする。エリカ様だと絶対似合わないだろう甘さに全ふりアレンジしてるけどこの子の可愛らしい外見にはよく似合っている。
「あんたに話があんのよ!」
この子なんか綿菓子みたいなふわふわした髪の毛でメルヘンチックな雰囲気の外見してる割にぎゃん!と怒ってくる。前世のやんちゃ系グレーテルみたい。でも僕本当に心当たりが全くない。はじめましてな気がするのにこの子はどうして僕に怒ってるんだろう。さっきもアーノルト様におこ!された僕はちょっと落ち込んでるんだけども。こういうのを弱り目に祟り目っていうのかな。
「あんた、モブなのにアーノルトにまとわりつくのやめなさい!彼は私と恋に落ちるんだから」
ぴしっと彼女から指差されてモブとは僕のことだったらしい、と気づく。びっくりだよ。貴族の子女が多数在籍中のこの学園で僕以外に失礼な子がいたとは。確かに自分でもモブの自覚があるし、だからアーノルト様から離れなくちゃいけないと思ったんだけど他人から言われると存外傷つく自分に気づく。
でも王太子様と恋に落ちるとはおそれ多いな。普通の子はそんなこと夢見ても口にしないもんなんだけど。あれかな、若気の至りかな?中二病?夢見る夢子ちゃんかな?まあ実際にモブ男の癖にお膝に乗ってキャッキャウフフしてた僕が言うことでもないのかな。
「モブって……僕にはちゃんと名前があるんだけど?君ちょっと失礼だよ。あと王太子様を呼び捨てって不敬だよ。学園内とはいえ気を付けた方がいいよ」
この綿菓子ちゃん見たことないし下級生なんだろうからマナーを教えてあげた方がいいよね。ながーい睫毛は髪より一段暗めのピンクブラウンでエメラルドグリーンの目もとを囲んでぱっちりと際立たせてる。色白でピンクのほっぺ、せっかく顔はかわいいのになんというか振る舞いだけで減点を重ねてる。第一印象がマイナスにふりきれてしまうとは残念だ。
「きみは女の子だしバタバタと走るのもはしたない。あと、人を指差すのもよくないよ」
マナー講師の先生方は授業以外の立ち居振舞いでも見逃してくれない。学園内でマナー違反を見つけたら成績をしっかり減点してくるんだから。マナーって貴族社会ではすごく大事なんだぞ、え、お前が言うな?まあね。でも僕は心を入れ換えたので、これからはきちんと一線を引いて下級貴族としての振る舞いをしていくからね。他人も敬い堅実な将来の就職活動のために、情けは人の為ならず、をモットーにペイフォワードしていくんだ。
そしたらきっと「フィルなんか変わったよね。いい子じゃないか」って先生方の推薦でお仕事にありつけたり、ひょっとしたらサイラー様と一緒に王太子殿下のお側に?とか?思ったりしたりなんかして。
「君まだ学園になれてないのかな?転入生?色々教えてあげようか?そのままだときっと僕みたいになっちゃうと思うよ。お友達出来ないと大変だよ」
そうなら優しくしてあげるのもやぶさかではないけれど?
せっかく僕が親切心を大盤振る舞いしてあげようと思ったのに彼女はさらにきつく僕をにらみつけてきた。
「あんたがうろちょろするから彼とのイベントが進まなくて困ってるの!あんたがさんざん邪魔してきてるのにその言いぐさはなによ。この邪魔モブ!あんたなんか量産型貴族容姿でちっとも特別じゃないわ!私は特別なの。世界に愛されてるの!こぉーんなにかわいいんだものあんたみたいな平凡モブにも私の素晴らしさくらいわかるでしょ?わかったら今後はアーノルトに近づくんじゃないわよ!」
(イベント?)
なんだかおかしな子だな。と思った僕に向かって彼女はにたりと笑った。
「あ、私の代わりにエリカに突き落とされたのはほめてあげる。痛いのは嫌いなのにスキップするとエリカが修道院に行かないイベントだったから助かったわ。やっぱり私の為に世界は回ってるんだわ」
そう言って裾を翻して去っていく。あまりの言われようにぼんやりと立ち尽くしていた僕に彼女はもう一度振り返る。
「ここは私のための世界なんだから余計なことすんじゃないわよ!」
授業開始のベルがなる。おかしな子のせいで僕の品行方正作戦が初日から失敗の雲行きである。とほほ。
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