4 本当の僕はモブ ( ;∀;)
さて、恋心を自覚してすぐ叶わぬだろうことをわかってしまった僕は今学園の寮の自室に戻ってきた。ぽすんと寝椅子に寝っ転がって天井を見る。だいぶ記憶が整理されてきて頭の中のベールが薄くなった気がする。前世日本人として死んだ(高校卒業したくらいだった)僕の記憶も貧乏貴族フィルとしての記憶も頭の引き出しに両方入ってる。その分さっきよりアーノルト様を思うと切ない気持ちが他人事ではなく胸の痛みとして増してきた。
ちなみについさっきアーノルト様とサイラー様が部屋まで送ってくれたんだけれど、僕ほんとにサイラー様に嫌われてるのがよぉぉぉく分かった。
アーノルト様が部屋まで送るって言い出して、僕のことをお姫様抱っこするという王子にサイラー様が「殿下にそんなことはさせられない!!」って断固反対。結局サイラー様が両手が塞がるとアーノルト様に何かあったときに守れないっていうから僕のことをおんぶしてもらうことになったんだけど。
落ちないように、でもサイラー様の首を絞めないように手を回しお尻の下に回された腕から落ちないように足をサイラー様の腰にそわせるという体勢で、内ももで落ちないように腰を挟むってずっとしてて結局すっごく気を使って疲れた。だってサイラー様が俺は不機嫌だ!ってプルプル震えながらずぅっと首まで真っ赤にしていたから。
わかる、わかるよ。サイラー様。だって僕が思い出すだけでも前の僕はアーノルト様のお気に入りってだけで下級貴族なのに調子こいて身分の上下に基づいたマナーもまるっと無視。空気を読まずアーノルト様のお膝に乗って甘えたり、甘いお菓子をあーんしてもらったりしてたもんね。男なのに!!
確かに前世のモブ日本人フェイスに比べればちょっとどころかだいぶ美形だけどさぁ!!でもアーノルト様みたいな月の精ですか?って美形でも、サイラー様みたいなザ男前(サイラー様だって上級貴族だもの当然顔がよい)でもないし。小柄で貴族にはありがちな金髪に薄い青の瞳ってさ、こっちの世界のモブ配色だもの。やっぱり世界を超えてもモブはモブなんだよ!!
それに僕、男!!いいけどね!前世でも多様性っていってたし。男同士でも愛があればね!だけど!今、思い出してしまったら押し寄せてくるこの羞恥心!!だって僕モブなのに!!
思わず寝椅子の上でのたうってしまう。前世で培ったモブ精神が男が男の膝できゃっきゃうふふしていたというのを認められない。
(痛い!かなり痛いぞ!僕!!)
勉強だってたいして出来ないし剣術も痛いのは嫌、怪我したらどうするってサボってたし。(ミカに治してもらえばいいだけなのに)あまつさえアーノルト様を呼び捨てにしてドヤ顔して『我が世の春』を謳歌しまくっちゃってたもんね。
(あー僕今16歳だから中二病ならぬ高二病?うーわ、あぁぁぁぁ。はずかしぃ)
ちょっと前の僕はエリカ様に突き落とされるほど嫌われてたなんて気づいてなかったんだけど、いやーあれは僕が悪いよね。だってさ、今こうして冷静に記憶をたどると僕が楽しい楽しいって笑顔で過ごしてた時、周りの人結構引きつった顔してたんだよねぇ。面白くないって視線で見られてもいた。
あれきっと「男なのに!あいつモブ男なのに王太子の膝に乗ってデレデレしてんぞ!!」って思われてたんだろうね。アーノルト様のお膝にのってお話してた時、遠くで能面の様な顔してたエリカ様、心の中では何度も僕のことを刺してたんじゃないかな。
いやーびっくり。なんで僕気づかなかったんだろう。前世を思い出したせいで日本人の忍法#空気読みの術__・__#がインストールされた今、記憶再生すると全く違う空気にびっくりする。空気うっす!うすいやばい!高低差違いすぎて頭痛だよ。高山病だよ。
はぁぁっと深い溜め息がでる。もうだめだ。自己嫌悪。日本人の時の慎ましく生きてたモブの価値観が調子にのってた頃の僕にダメ出しをする。
こうして今見あげている天井にも、のどかな春の日の景色が描かれてるし本当に手がこんでるんだよね。流石は上流貴族の子女が入る寮の最上階の部屋って感じ。下級貴族なのにこの部屋をもらって当たり前だって顔して使ってたんだからさっきまでの僕は空気が読めないだけじゃなく物事の本質を考えることをしないおバカだったんだよねぇ。
学園に来てすぐの頃は一階の小さな部屋だったのに、王子様のお気に入りになってからは最上階にある寝室とリビングと浴室、お付きの人が使う小部屋がついた大きな部屋をもらってる。僕のいるこの五階建ての建物は男子専用。中庭を挟んで別棟に女子寮がある。ちなみに女子寮の最上階はエリカ様の部屋がある。家格と学年に応じて部屋を振られているのに下級貴族で最高学年まであと二年半ある僕がここにいるって……エリカ様と同じ位置だよ?
(そりゃ嫌われるわけだー)
ちなみに部屋の感じとしては前世のイメージだと昔からあるヨーロッパのお城にあるっぽい重厚な天蓋付きのベッドと寝椅子と猫脚のついた浴槽と水差しとベルサイユだかウィンザーだかテレビで見た事がある城っぽい、中世ヨーロッパな雰囲気。
前世では日本で生きていたし上下水道にガス電気という恵まれた環境で育ったわけだけど、こちらの世界もそう悪くはない。魔石と呼ばれるものが電池のような役割を果たして魔導具を動かすことができるし全部人力でしなくちゃいけないわけでもない。魔導具がランプとか水くみとかお湯沸かしとかそういった感じで日常生活を助けてくれてる。
もちろん魔石ってそこそこの値段するし消耗品だから貴族以外は相当裕福な商人くらいしか魔導具を使えないけど。平民っていうか、まあ貴族じゃない人は火打ち石で火を起こしたりしてる。僕のうちは貧乏貴族だったから貴族なのに僕は火打ち石で火がつけられるという特殊スキルをもっているけれど。そして上級貴族は召使いと魔導具の合せ技で快適な生活を送ってるんだな。前世でも本当のお金持ちは召使いを使ったりしてたもんね。
ちなみにアーノルト様は王太子だから学園の敷地内にアーノルト様専用の屋敷がある。さすが王族、王太子が学園に在学中の間だけ使う屋敷がどーんとね。あるんだな。王太子以外というか王太子に任命される以前の王族は寮生活を送ることになっているけどね。
学園に入る前の僕は下級貴族ぎりぎりのラインで暮らしてたから上級貴族たちの華やかさを目の当たりにして、あまつさえ王子様に優しくされて感覚がおかしくなっちゃたのかなぁ。
どうして貧乏だったのかというと、もともと父上も下級貴族、母上は外国の貴族でまぁ下級貴族の枠に入るくらいのレベルだったんだけど産まれた長男の僕がやたらと体が弱くって、それを治すのにミカのお師匠様の魔法使いに助けてもらったんだけど治療費が高いのなんの。命のお代といわれたら他に助けてくれる人もいなかった両親はその金額をのむしかなかった。
結局父上と母上だけでは払いきれないから僕が成人になってからも引き続きお金を返さないといけないんだよね。
だからミカは僕が逃げないように見張りもかねて僕の側にいる、まあ借金取りだ。ミカのお師匠様いわく治癒魔法の技術向上のための人体実験も兼ねてるとか言ってた。
思い返してみればミカは僕より成長がゆっくりだから彼の本当の年齢はわからない。魔法使いには魔法使いのルールがあるしね。この世界でも魔法使いのローブを覗くなって言い回しがあるから、触らぬ神に祟りなしってことなんだろう。普通に考えてよくわからない魔法の力を持った人を怒らせたら怖いよね。だから僕たち家族は今までもこれからもミカのお師匠様に借りを返すべく頑張るしかないのだけれど。
(お金……)
思い返せば僕はアーノルト様に甘えてお小遣いをもらってのほほんとしてた。僕がかわいいからだって言われて結構な額を受け取ってたけど……あれは、そうかそうか。
「僕って……つまりは契約愛人ってことかぁ」
ツンと鼻の奥が痛くなって目を閉じた。
(異世界転生したら王族と援助交際するDKでした。ってどこのラノベだ……)
おやすみ三秒な僕は夢の中へと旅立った。上級貴族に殺されかけたってことも忘れて。
ドアノブがまわる音がしたような気はした。
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