20/22
生きている事も忘れるさ
爺様は、若い頃、気難しい人だったそうだ。
いろんな役員をこなし、街の人に頼りにされていた。
けど。
あの感染症で、自宅待機の日が続いて、爺様は、壊れ始めて行った。
家族の顔がわからない。
あんなに、字が上手で、年賀状を頼まれていたのに、
自分の名前さえ、書けない。
大好きな孫が、わからない。
その変化に、婆様は、泣いたり、笑ったり。
元々の育ちがいいから、暴れたり、怒ったりは、しなけど。
けど。
一緒にいる婆様の表情が曇っていった。
僕らは、
爺様を通してみる世界は、新鮮だった。
けど。
一緒にいる婆様は、辛かったみたいだ。
これが、認知症なのか?
本人は、全て、忘れて新鮮だ。
いろんな事を忘れていく爺様を
「かわいそうに・・・」
と。
婆様の友達が呟いた。
その瞬間、婆様の心の中で、何かが、壊れたんだ。
あたり構わず、ズボンを下げて、おしっこする爺様に
婆様が、叫んだ。
悲痛な声だった。
辛いのは、本人じゃないんだ。
一番近い人が、辛いんだ。
僕らは、事は、深刻だと思った。