第七話
「なぁ、文化祭何やりたい?」
定期テストも明けたある日。
昼飯を食べるために4人分の机を並べながら、一緒にいる杜に話しかけた。
今、ここには文屋と阿はいない。手を洗いに行っている。
杜も同じように机を動かしているのは、先に来た人が並べるという謎の慣習が出来たためだ。不文律的な?
「そうですね…王道でいくなら女装喫茶とか」
「王道って?」
思わずそうツッコミを入れてしまった。
「いや、よく読む小説で…」
「あぁ、小説(BL)ね…」
まぁ、王道だろうけどよ…
最近、なんとなく杜のことが分かるようになってきた。こいつ、趣味本位で発言しやがる。
だから、無駄にそういう知識がついてきたんだが、なんかなぁ…
「まぁ、でもやっぱり飲食がいいか」
そう言うと、杜は頷いて返してきた。
今年は、文化祭で1年ぶりに飲食部門が開かれる。
去年はたしか、市内であった集団食中毒から自粛になっている。
2年生までしか参加できない文化祭で、そのうちの1年が潰れたからみんな不満が大きかった。
ようやく今年、開放されたんだが…
「でもなぁ、9単位しかできないんだよな」
大平には、俺ら2年に限っても高等部で14クラス、中高一貫部で6クラスの計20はある。
3年はそれよりちょい少なく、後輩の1年はそれよりも何クラスか多かったはずだ。
大体、60クラスはあるだろうか。
さらにそこに、調理研究部と茶道部も含まれる。
文実顧問曰く、文化祭は本来文化部の活動発表の場であるとか。
だから、その2つは優先的に飲食が取れる。
実質的には7組しかできないということになる。
担任も言ってたが、今年は去年の反動で飲食希望は増えるだろう。元々人気だったし。
熾烈な競争があるだろうから、そこをついて遊戯部門でもとは思うけど、本人たちの希望に沿った方がやる気は出るだろうしな。ぶっちゃけ俺が他の案を考えてるのは提出関係がめんどいってだけで。
だから、まあ…
そんなことを考えていると、阿と文屋が戻ってから、同じように聞く。
「…てなわけなんだよ。お前らはどうしたい?」
「別に何でもいいと思うよ。多分俺、ほとんど居られないから」
そう言ってきたのは阿だった。
「いや、まぁ、そうかもしれねぇけど」
校内一忙しい部活はどこかって聞かれたら、みんな「吹部」って答えるだろう。それぐらいには大変だ。
半年に1度の定期演奏会から、地域のイベント、校内行事まで。色々なところでやっている。
去年の文化祭も、吹部はステージでの演奏をほぼ全期間やっていて、阿もほとんどクラスにはいなかった。
だから、こいつの言っていることはたしかだけど。
でもなぁ、一応は同じクラスだし。
「…まぁ、いい。文屋は?」
「俺かぁ」
ちょっと待って、と手を出して水筒を飲んだ後、続けた。
「俺さぁ、やっぱ飲食系やりたいんだよね。王道だしさ」
「やっぱり王道ですよね!」
俺が反応する前に、食い気味に杜が叫んだ。
杜、分かってはいると思うけど、多分意味が違うぞ。
ほら、そんな反応になると思ってなかったから文屋困惑してんじゃん。いったん落ち着け。
「まぁ、やっぱりそうだよな」
「ほら、うちは人数もいるしさ」
「帰宅部がほとんどだしね」
「そこは問題ないしな」
実際、2組は帰宅部が多いから、文化祭の人員は考えなくていい。事前にクラスラインでとったアンケートでも部活入ってるやつ以外は「ほぼフルで入れる」だったし。
さすがにやる気ありすぎだろ。フルはきついと思うぞ。
そっか、だよなぁ…
「やっぱ飲食か。じゃ、明日のHRで内容話し合うからよろしくな」
とりあえず、内容を決めないとなんだよな。どうするか。
「もちろん、夢を実現するために頑張ります!」
俺の言葉に、勢いよく反応した杜を無視して、そのまま俺たちは食事を続けた。
次の日のHRで、驚くことに「女装·男装喫茶」をやることが決まった。
なんかクラス全員が乗り気で、俺はその計画を止めることができなかった。他の文化祭委員もやる気満々だし。
やりたくないやつには無理にしないってことになったが、どうせなぁ…
まぁ、企画が通ればの話だから…
そう思っていたんだが、結局、企画は通った。
本当に、杜の行動力には驚くしか無いな…




