絶望のクリスマス②
すみません。
今回はキリよくするため、かなり短いです。
不運にも彼女の裏切りを知ってしまった童貞は、帰路についていた。その足取りはかなり重く、足枷でも付いているかのよう。
「…………」
薄っすらと雪化粧を施した路面を眺めながら、とぼとぼと歩いていく。
足元のローファーを視界に収めながら、ただ何も考えずに、否、何も考えないようにただ歩く。
駅に向かい電車に乗車し、数駅ばかり過ぎ去った後で電車を降りた。どうやらここは山田の最寄り駅のようだ。
改札を出ると、ビュウと風が吹く。ふわりとふわりとブレザーに纏わりつく雪も、時間と共に溶けていき衣服を濡らす。それは髪も例外ではなく、溶けた雪が雫となって前髪のレールを伝うとポタリと毛先を最後に落下する。
「…………」
下を向いて歩くこと数十分。
山田は自分の住まうアパートに着いた。なんだかんだで技術などが発展している昨今、それは住居などにも浸透してきている。合金製のアナログな鍵はほぼ廃止され、今ではスマホとドアが連動しての開閉が当たり前になってきている。カードキーや指紋認証なども存在するが、スペアキーのような役割になっているのが大概だろう。
しかしながらこちらのアパート、そんな現代社会に謀反を起こさんとばかりにアナログチックな作りになっている。
電子回路など一つも組み込まれていないこちらは、自動ドアでなければ、カードキーをタッチするパネルもない。あるのは鍵穴付きのドアノブだけ。
もはや古代の遺産と言っても過言ではのではなかろうか。
よく言えばノスタルジックな住居。悪く言えばただのオンボロアパートである。
「…………」
鍵を差し込むと、右に捻りガチャリと開ける。扉の先にはこちらを出迎える存在などあるはずもなく、ただ真っ暗な空間が広がるのみ。
「…………」
山田は無言でスマホを取り出しフラッシュライトを点ける。懐中電灯を持ち合わせることがなくても、スマホで代用が効くのは便利なものだ。
山田の家は、玄関を上がってすぐ左側にキッチンがあり、中央の廊下を挟んだ向かい側には扉が二つ。片方はトイレで、もう片方は脱衣所と風呂場がある。
そして、それを進んだ先の引き戸を開けると山田の部屋だ。規模にして六畳半となかなか狭いが、帰って飯食って寝るだけの山田には特に不満などはない。
「…………」
ケーキなどの食品類を適当に冷蔵庫へ放り投げると、山田は座布団を枕に床へ身を投げる。
畳敷きの床はそこまでクッション性はないが、微かに香る草の匂いは悪くない。
近年、全く見る影を失っていく畳さんへ同情心を抱いたところで、だんだんと瞼が重くなってきた。
「風呂は……明日でもいいか……」
身だしなみにおいて、清潔感を何よりも大切にしてきた彼だ。どれだけ依頼の仕事で疲れても尚、風呂だけは欠かさない。しかし、そんな彼が全て嫌になるほど今日の出来事はショックだったのだろうか。
水分をたっぷりと含み、すっかり重くなったコートを布団がわりに、山田はそのまま眠りにつくのだった。
読んでいただきありがとうございます。
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