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色なし魔法士は今日もご機嫌  作者: 橘中の楽
最終章 黒竜の儀
96/103

5の十五 シャロンの懺悔

「お忙しいところ恐縮ですが時間をください。」


黒竜の儀まであと一週間と迫ったある日、シャロンによって呼び出されたジョシュア。


「ーーーシャロン、改まってどうした?」


ジョシュアが戸惑ったように聞くが、シャロンは聞く耳を持たない。

説明もなしにぐいぐいと腕を引き、ためらうことなく入って行ったのは国王の執務室だった。

数名の護衛騎士を残し人払いされている室内に国王はすでに座っていた。

入ってきた二人を愉快そうに見ている国王の横にジョシュアを座らせた。


シャロンは座ることなく…愛おしそうに二人を見つめた。

その目が二人を飛び越えて誰かを見ているようで…国王の方が苦笑いしている。


あまり似ていない二人。

男らしい角ばった顔だちの国王に対し、ジョシュアは母親である第二王妃の儚げな美貌を受け継いでいた。

シャロンはジョシュアを国王の隣に並べたことで、満足したのだろう。

一つ頷いたあとーーー腰の剣を引き抜きながら、ザッと跪いた。

そして、周囲を慌てさせたのが、シャロンの剣先の動きだ。

なんと、銀色に鈍く光る剣先はシャロンのうなじ…マスキラの象徴であるクロスラインにピタリと当てられている。

今にも自害しそうなシャロンの様子に、ジョシュアが慌てて近づこうとしてーーー国王に止められていた。


「ーーー黙って聞こう。シャロンの話を。」


ジョシュアは何かいいたそうだったが、譲るつもりがない国王の態度を見て、渋々と元の位置に戻っていた。

それをーーー下を向いているために、二人のやりとりが見えていないはずのシャロンが、まるで見越していたかのように話し始める。


「わたしの罪は三つあります。遺書を書けと言われましたがーーーせっかくだったら生きてあなたたちに聞いてほしい。この国に尽くしてきたつもりです、最後だけ私の願いを聞き入れていただけないでしょうか。」


シャロンはそこでようやく顔をあげた。

ジョシュアを一瞬見た後でーーー視線を国王に固定する。

シャロンの動きによって、彼の首に当てた剣がわずかに皮膚に食い込むのを見て、控えている騎士たちが真っ青になっているのがわかる。

クロスラインに刃があたる。

ツウっと流れた血。

しかし、シャロンの視線を一心に受けている国王はおかしそうな表情を崩すことがない。


しばし見つめ合う二人。

なぜかバチバチと火花でも散りそうなほど、強い眼差しで見つめ合っていた二人だがーーー

先に根をあげたのはシャロンの方だった。

シャロンは「ハアアア」という大きなため息をつき、クルンと剣先を回して自分の血を振り払うと剣を治めた。

()()()首筋の傷は癒えている。


呆気にとられる騎士たち。

国王に視線を向けた後でシャロンは、舌打ちなどしている。


「あーあ、アタシの首に剣があっても顔色一つ変えませんってか。ーーーまあ、第二王妃さまが亡くなった時も、涙さえ流してなかったしね。…陛下の心はいつも第一王妃さまのもとにある、それだけは何年経っても変わらないってことか。」


シャロンがそこまで言って国王を睨み付けるがーーー肝心の国王は相変わらずおかしそうな表情を浮かべている。


ジョシュアは、「第二王妃」という言葉にギョッとしたような表情になり、シャロンと国王の顔を見比べている。

関係者であるはずの彼でさえ、事情をよく知らないらしい。


周囲の戸惑いをよそに、シャロンはやってられないわあと空を仰いでいたがーーーやがて、真面目な顔になった。


「では、宣言した通り懺悔を始めます。ーーー最後になるかもしれないから、ちょっと遊んじゃったけど、今までのアタシの功績に免じて許してね?」


シャロンはそう言って、ジョシュアにパチリとウインクなどしている。

ジョシュアはピシリと固まった。

ジョシュアはあまりからかわれることに慣れていないのだ。


なんとも言えない空気の中で始まった懺悔の内容はーーー巻き込まれた形になった騎士達、そしてジョシュアも絶句させるようなものだった。


「まず一つ目の罪は、第二王妃さまに求愛し続けた罪。二つ目は、シャーマナイト殿下の勘違いを今日この日まで正さなかった罪。そして、三つ目はヘマタイト王を愛してしまっている罪。一生明かさずに、大切に温めて墓まで持っていく気だったけどいざ死ぬと言われて気が変わったわ…ヘマタイト王、あなたを愛しています。どうか罪深いわたしに処罰をお願いします。」


紫色がかった目を、シャロンは国王へと向けた。

国王はシャロンの懺悔を黙って聞いていたが、すぐに「必要ない。」と返答した。


「側近であるお前の罪は、わたしの罪だ。わたしの治世の間にお前が裁かれるようなことはない。ーーーこの先も、その能力をわたしのそばでこの国のために使ってくれ。逃げることも許さないし、死ぬことも許さない。わたしを愛しているなどとのたまうのなら、そのくらいやってみせろ。」


見つめ合う国王とシャロン。


国王の瞳を見返しながら…譲るつもりがなさそうな主人に対し、さてどうしようかと頭を捻った。

そして自然とシャロンはここに至るまでの数日間を思い返していた。



ライラ達が朝からジョシュアに集められた日。

一連の報告を終えてヘマタイトの執務室から出てきたシャロン。

ヘマタイトは皆の魔力がなくなると聞いて顔色を変えていた。


ーーーパーシヴァルの魔力がなくなったら、落魔石から国民を守るため、ヘマタイト王も黒の魔力を使わないといけなくなるものねえ。


王宮内の大理石の上を歩くシャロンの足取りは重い。

自分専用のプレート乗り場まで着くと、堅苦しい官服が嫌だったのだろう。

煩しそうに上着を脱魏、ボタンをいくつか開けている。

固められた髪がわずかに乱れたのを、苛立たしそうにかきあげるその仕草に偶然居合わせたフィメルが頬を染めている。


シャロンは王宮にいるときはきちんとマスキラらしい格好をしている。

学園にいるときにしている化粧などもしない。

仕える王に恥をかかせないように、という彼なりの配慮だ。


密かに視線を集めるシャロンだが、周囲を気にする余裕がその日の彼にはなかった。

黒竜騎士団の一員として、国王の側近として、羨望を集める存在である彼も動揺くらいする。

今すぐ廃人になると言われてしまうと色々と思い残すものがあったのだ。

「いつもどおりに過ごせ」という命令に反しない程度に思い出の場所など巡ってみる。


第二王妃の墓地。

大嫌いな生家。

学園の森。


しかしどうもやり残したことがある気がしてならない。

キャラではないと思いながら遺書を書くために便箋など買ってみたが一つも筆が進まなかった。


半月ほど経っただろうか。

後続のために引継ぎ資料なども作らねばならない。

学園で教鞭を取った後で王宮へと向かい、執務を終えたシャロンは帰宅の途についていた。


彼の頭を占めるのはやはり遺書のことだ。あと半月で書き上げねばならない。

途方に暮れたようにノロノロと道路を走っているとーーー知り合いが歩いているのを見つけた。

久々に見かけた元教子の姿に、シャロンは思わずプレートを止めた。


突然自分の横で止まったセンターオブジプレートにデニスは怪訝そうな顔をしている。

シャロンが「おいっ」と声をかけてもまだシャロンが誰だかわからないらしい。


「俺、こんな立派な知り合いいたっけ?ーーー人違いじゃないですか?」


190リュウまで身長が伸びすっかり大人びたデニスだが、困った顔はまだ少年の面影が残る。

シャロンはいつもならニヤニヤとデニスをからかうところだがーーー生憎、この格好をしている間は『国王側近のシャロン=ベロー』としての仮面を被り続けなければいけない。


無表情のままでデニスにちょいちょいと手招きする。

なかなか見かけない王宮御用達プレートに周囲の視線が集まる中、すぐそばまで近づいてきたデニスにささやくシャロン。


「アタシよ、シャロンよ。あんなに相談乗ってあげたのに、卒業したら忘れちゃったの?」


ーーーええええええ!?


と大声を上げて飛び退ったデニスのあまりに期待通りの反応に、シャロンは我慢しきれずに吹き出してしまった。


「ふふふ、お前変わってねえな。ーーーちょっと付き合えよ。このプレート乗ってみたいだろ?」


ーーーええ、まじでシャロンなの!?といまだに混乱しているデニスを無理やりプレートに引き上げ、シャロンはさっさとその場を立ち去った。

いい加減、周囲の視線が気になってきていたのだ。

ポーッと頬を染めてシャロンの方を見ているフィメルに愛想よく手など振りつつ、シャロンは自分の住まいの一つである黒竜団宿舎へとデニスを連行する。


混乱から立ち直った後、デニスはすげえすげえとプレートをしきりに褒めていた。

やはり、速くてかっこいい乗り物に憧れるのは、マスキラ全員共通らしい。


「シャロンって王族の側近だったの?センターオブジプレートもらう側近なんて聞いたことねえけど。」


デニスの疑問に、シャロンはだろうなとうなづいている。


「だって俺、傍系王族だし。ーーーお前のことも小さい頃からパーティーで見かけたよ。あんまり正体ばらしてなかったからデニスが生徒だった間には言えなかったけど。」


「えええ!?お前王族なの!?」


デニスがその日、何度目かもわからない叫び声を上げシャロンに呆れられている。


「お前相変わらず元気だな。ーーー傍系王族なんて意外とゴロゴロいるから。俺がこのプレートもらえているのは『役割持ち』っていうのがでかいな。」


ぽかんと口を開けたデニスを、寮についたからとシャロンがプレートから突き落とす。

それなりに高いところから押したのだがデニスはなんでも無いように着地していた。


シャロンはプレートを空間魔法が付与されたカバンにしまうと、スタスタと宿舎の中へと入っていく。

いまだに状況が掴めないと首を捻りながらもデニスは後へと続いた。


一階の奥の部屋がシャロンの部屋だ。

二人はソファに向かい合って座りーーーそこで、今更ともいえる疑問をデニスが発する。


「ーーーそれで、俺はなんで拉致られたんすか?」


もっともなデニスの疑問にーーーシャロンは取り出した魔煙を蒸しながら、わかんね、などと答える。


普通だったら怒りそうなものだがーーーデニスはシャロンと過ごした二年間を通して、シャロンがなかなかにマイペースであることを知っている。

呆れたようにため息をつき、机の上に置かれた魔煙をちゃっかりと拝借している。

キラキラという魔煙から魔素が立ち昇る音だけが室内に響く。

しばらくして、デニスがポツリといった。


「ーーー黒竜の儀のことで悩んでるんすか?」


デニスの確信をついた指摘にシャロンは目を見張りーーー苦笑した。


「そう言えばお前も一応関係者分類だっけか。最後の儀式の時には同行するんだもんな。」


デニスは黙ってシャロンの言葉に頷いた。

そして、先を促すように真っ赤な瞳をシャロンに向け続ける。


ーーーアタシは、デニスに相談したかったのかも。


シャロンはそこでようやく自分の行動の理由に気がつき始めていた。

自分とは正反対ーーー悩みなど赤魔法で吹き飛ばしていそうなこの少年に聞いてみたかったのかもしれない。


シャロンは他力本願な自分の考えに苦笑したがーーー物は試しだとデニスに向けて内心をぶちまけてみることにした。


「アタシね、実はーーー」


デニスはシャロンの話を真剣に聞いていた。

茶化すことなく。

シャロンが少し恐れていた、軽蔑の目を向けることもなく。


国王が好きだといった時でさえ、少しも動揺していなかった。


「ーーーいざ遺書を書いてもいいなんて言われても誰宛に何を書けばいいのかさっぱりで。自分の気持ちの整理のついてなさに困惑してるってわけ。」


はあ、とため息をついたシャロン。

そんな彼に、デニスがおずおずと手をあげた。

シャロンがどーぞ、と促すとデニスが緊張の面持ちで話し出す。


「ーーー正直、シャロンのこと誤解してた。治癒魔法使えるってだけでもあり得ないのに、半端なく強いから只者じゃ無いとは思ってたけど。それだけ苦労して、足掻いてきたからこそ今のシャロンがあるんだな。…俺、多分シャロンがやりたいことわかるよ。」


デニスの言葉に、新しい魔煙を取り出そうとしていたシャロンがギョッとして顔を上げた。


シャロンがゴクリと唾を飲む。

デニスは真っ直ぐにシャロンを見つめ続けている。


「まずは遺書を書かなきゃって思考から離れたらどうだ。正直、俺はお前らが死ぬとか…廃人になるなんていまだに信じてない。」


デニスに言われ、シャロンはキョトンとした顔になった。


「ーーーでもシャーマナイト殿下が言ったのよ?」


しかしデニスはうーんと腕を組んだ。


「ライラ曰く、シャーマナイト様の黒魔法の精度がぐんぐん上がってるらしい。黒竜さまのところに行って何やら特訓してるらしいし。ーーーだからさ、書きたくねえなら書かなきゃいいんじゃねえの?」


しかしシャロンは納得がいかないような顔だ。


「…それで本当に廃人になったら死んでも死に切れないほど後悔する気がするのよね。」


シャロンの言葉にーーーデニスはじゃあ思い残したことやり切っちゃえば?と言った。


「ーーー多分、俺はお前と同じタイプだからわかるけど、振られても諦めきれねえよな。それこそ相手が死ぬくらいじゃないと。…でも、やるしかない。国王様に告白して、きっぱり振られてーーーシャーマナイト様にも謝った方がいいんじゃないか?王妃様、国王様の子供だし。…それで、きっぱり諦めるんだ。失恋には新しい恋だろ?国王様を好きになった時みたいに、また次の相手を探せばいい。そんくらいの気持ちで行こうぜ!…まあ、黒竜の儀が無事終わることが前提だけど。」


デニスの言葉に、シャロンは固まっていた。

沈黙が二人の間に流れる。

デニスが、おーいと手を振ったところでーーーピクリともしなかったシャロンがいきなりボロボロと涙を零し始めた。


シャロンが声を上げて泣き始めたあたりで、デニスはゲっと身を反らせている。


「ーーーその格好で泣き喚くなよ。せっかく格好いいのに。」


デニスの文句にも、シャロンはワンワンと泣き続けている。

デニスが眉間にシワを寄せる中ーーーようやく話せるまで落ち着いてきたらしいシャロンが怒ったようにダンッと立ち上がった。


「あんた簡単に言うけどね?今までの人生ずっと国王に仕えてきたのよ?今すぐに忘れるなんてイヤ、あの方のことだって国王様のことだってまだまだ好きなの。次の恋なんてしたら、絶対にこの気持ちが薄まっていくじゃない。」


ビシッとシャロンが突き付けた指を、デニスがイヤそうに避けている。


そして、顔をしかめたままーーーじゃあ、もう一個の解決策。と切り出した。


そう言って笑ったデニスは…笑っているのにも関わらずどこか泣きそうに見えた。


「叶わない恋心と一生付き合っていく覚悟を決めるしかねえよ。ーーー相手の幸せを思って身を引く…死ぬほどイヤだけど、自分じゃ相手を幸せにできないなら、もうこれしかない。」


デニスがふと遠くを見るような顔をする。

シャロンはイヤでもわかった。デニスは今きっと銀髪のニュートのことを考えていると。


ピタリと泣くのをやめたシャロンはーーー戸惑いがちに聞く。


「ーーーデニスはその覚悟が決まったの?」


シャロンの問いかけに、デニスは首を横にふった。


「俺はあいつに正式にパートナーができるまで諦めねえ。でも、最近のシャーマナイト様の態度を見てると…諦めるしかないかもと思うことはある。」


あんたいいやつねえ、と呟いたシャロンにデニスはそんなことない、と言い返した。


「本当にいいやつなら多分もう身を引いてる。ーーーでも、側で見続けることくらい許されてもいいだろ?相手もどこかで見つけるよ。あいつが安心できるように。」


…一番になれなくても、一生側で守り続ける。


そう言い切ったデニスにーーーシャロンは思った。


ーーーアタシの国王への思いはここまで強いか?


シャロンは脳内で天秤にかけた。

自分の心を一生を国王に預けたまま過ごす将来と、幸せになった姿を見せつけてやる将来。


ーーーアタシ、献身ってキャラじゃないしね。


シャロンはニヤリと笑った。

国王と結婚した後、つまり王妃になった彼女を諦めずに教師にまでなった彼だ。

デニスの姿を見て思うところがあったのだろう。


ーーーそもそも、一番愛した人は死んじゃってるしね。


晴れやかな顔で立ち上がったシャロンを見て、デニスは不思議そうにしている。


「ーーーえ?結局どうなったの?」


「ーーー秘密。黒竜の儀が終わったら教えてあげるわ…どこでも好きな店連れてってあげる。値段に糸目はつけないから、なんでも言ってみなさい。」



シャロンは高級料理を食べた時のデニスの笑顔を思い出した後で…余裕の表情を崩さない国王に自分の希望を述べ立てた。

ここで、彼に取っては予想外のことに国王に猛反対されるのだが。


「ーーーだから、あんたのそばにいるとアタシは自分の不幸に酔う病から一生抜け出せないの!ここまで国に尽くしてきたんだから黒竜の儀の後くらい解放してもいいじゃない!アタシの外交調査を認めなさいよ!」


シャロンは外交調査と称してベルギー王国へ留学しようと考えていた。

ただの留学生とするには国家医師免許を持ち、黒竜団に所属し国王側近でもあるシャロンの立場は重すぎたため名目上は外交調査としたのだ。

シャロンの能力がどうなるかはわからない。魔法使いでなくなるかもしれない。

しかし、留学の意思だけは固めていた。シャロンは医学の知識を深めたいと思っている。白金竜にも連絡済みだ。


そんなすでに動き出しているシャロンの計画を、国王がバッサリと切り捨てたのだ。

シャロンがどれほど説得しても首を縦に振らない国王。

置いてきぼりにされた形になったジョシュアは言い争う二人を困ったように見比べている。


二人の大人による、大人気ないやりとりはーーーパーシヴァルによって強制終了させられた。

ジョシュアがパーシヴァルに連絡したのだ。

はじめは面倒だと通話を切ろうとしたパーシヴァルだったが、

「両親に片思いをしていたマスキラにどう接していいのかわからない。」ーーー真顔でそう告げられ、流石のパーシヴァルも無理強いはできなかった。


「ーーー陛下。わかっているんでしょう?黒竜の儀を成功させた暁には認めるしかないって。…ほら、いざとなったら俺がジョシュアに許可出させるから、お前はもう行け。今日訓練日だろ?」


無理やり二人の間に割って入り、パーシヴァルはシャロンの襟首を掴んでずるずると引きずってジョシュアに引き渡たした。

ジョシュアはいらないとばかりに首を振っていたがパーシヴァルはさっさと国王の方へと引き返していった。


連れ去られていくシャロンを見ながらーーー見たこともない表情を浮かべている国王…父親を見てパーシヴァルは複雑な気持ちになった。

世代も近くーーーシャロンが若く見えすぎるために勘違いしているものが多いが二人は歳一つ差だーーーヘマタイトにとっておそらくシャロンは手放しがたい存在だったのだろう。


だから聞こえなかったふりをした。

ヘマタイトがポツリと呟いた言葉を。


ーーー本当に、みんなのことを愛してたんだ。



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