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色なし魔法士は今日もご機嫌  作者: 橘中の楽
色なし魔法士は主席魔法士のお世話役
82/103

5の一 「運」を操る固有魔法

「ねえジョシュア、ライラは死んじゃうの?」


王宮にあるパーシヴァルの離宮で、ライラは一人途方に暮れていた。

首元には冷やされたタオルが巻かれ、疲労回復効果があるのだというフルーツジュースが入ったコップを持たされている。周りで言い争う人々に囲まれ、ひどく居心地が悪い思いをしているのだが、立ち上がろうとするとパーシヴァルに肩を押さえつけられるのだ。


状況を説明しよう。

時間は半日ほど巻き戻る。

学園の一室にて、フランクに向け出発だとなった一行。

シリルがまさに魔法を発動しようとした瞬間。


ーーーリン。


空間魔法を使い、ジョシュアが現れたのだ。

私服だろうか。黒の正装ではなく真っ青なジャケットに黒のズボンという出で立ちのジョシュア。

現れた直後、一瞬だけジョシュアの体が赤い魔素で覆われたが、すぐに打ち消されるように赤色は薄れていった。


「「は?」」

「…。」


パーシヴァル、ジョーハンナの不可解そうな声が響く中で…ライラだけが歓声をあげた。


「ジョシュア様!!!お久しぶりです!」


ジョシュアの受け持つ黒魔法学は中間試験を行わない教科だった。

そのため、試験期間だったここ二週間ほどの間、ライラはジョシュアと顔を合わせていなかったのだ。


身体強化の魔道具をつけたままのライラはいつになく素早い動きでジョシュアへと駆け寄りーーーなぜかひょいと抱え上げられた。


「うえ!?」


ライラが奇声を上げる中でジョシュアはじーっとライラの体につけられた身体強化の魔道具、さらにいえば動力源と思われる魔石を見つめ…なんと無言で破壊した。


ーーー♬


黒魔法を用いた際特有のバイオリンのような音色が鳴り響き、ライラの体を覆っていた身体強化の魔道具が消滅した。


ジョシュアは呆然とするライラを地面に下ろしーーーグッと眉間にシワを寄せた。

そして、ライラと目を合わせるようにかがみ込む。


突然の出来事に目を白黒とさせていたライラも、ジョシュアのあまりに真剣な表情にスッと真面目な顔になった。


「ライラーーーこの魔道具を渡してきたのは誰だ?」


ジョシュアの質問にライラは必死に記憶を辿る。


「確か一年生だったような…申し訳ございません。細かい特徴までは記憶していないのです。」


深刻な顔で黙り込んだジョシュアに向かい、パーシヴァルとシリルが歩み寄ってきた。フェルはずっと黙ったままピタリと空中で静止している。


パーシヴァルが怪訝そうな顔でジョシュアに向かい「どうした?」と問いかけた。ジョシュアは苦い表情で一言。


「この魔道具はライラにとっては最悪の品だ。そして送った下級生にもおそらく悪意がない。…こういうことが起きるからイタリアの固有魔法は厄介なんだ。」


「…は?」


呆然としたパーシヴァル。シリルが慌てたように空中に向けて鑑定魔法をかけている。確かにイタリア王国の残渣がある…と悔しそうに呟いた。


「イタリア王国の固有魔法は『運』を操作する。ーーー術者の恨みが思わぬ形になって発生したりするんだ。…おそらく誰かがライラを憎むように吹き込んだな。」


偶然、この悪意に気がつけるジョシュアが不在の時期に。

偶然、身体強化がどうしても必要になる試験の前に。

偶然、ライラが弱って魔力の制御ができにくくなる夏に。


「ーーー偶然に見えて全てが悪い方向に繋がってんじゃねえか。」


シリルが告げた後、お通夜のようになった室内でーーー当のライラが気まずそうにいった。


「あの、最悪って?」


ライラの疑問に…空中を睨みつけ何かを考え込んでいたジョシュアがライラに視線を合わせた。


「身体強化の魔道具としては最高品質の品だ。…ただのプレゼントにしては不自然なほどに。しかし、それは普通の魔法使いにとっての話だ。体内の魔素の廻りをスムーズにするタイプの補助具でライラのように魔素を自由に動かせない体質でも無理やり必要な箇所に魔素を巡らせることができる。」


ジョシュアの説明にライラは首を傾げた。


ーーー身体強化できるようになるならいいことだよね。それならなんで最悪なんて?


ライラの内心の疑問を感じとったのか、スッとジョシュアがグラデーションがかった群青の瞳を伏せる。


「ライラは自分の病気についてどれくらい知っている?」


ジョシュアの問いにライラはうーんと首を傾げた。


「体内の魔素がぐるぐる回って体の中を破壊していく、あとは熱が上がりすぎるのも身体には良くないって聞きました。」


シャロンに説明されたまま述べたライラにジョシュアは「その通りだ」と頷いた。


「グルグル回って徐々に壊れていくーーーそれが、無理やり身体中に魔素が回されそうになったらどうなると思う?」


ライラはよくわからず首を傾げたが…パーシヴァルはここでようやく合点が言ったのかゴンっという鈍い音を立てて床を殴り付けていた。


ジョシュアはちらりとパーシヴァルに視線を向けた後でーーー淡々とした口調でライラに語り続けた。


「今までは回転の中で打ち消されていた魔素までもが君の身体を傷つけ始める。色なしの子は魔素をためておける器官がなかったり脆くて穴が開いていることが非常に多いんだ。だから体が弱い子が多い。ーーーご両親から何か聞いているか?」


ライラはジョシュアの問いにこくりと頷いた。

そして、今しがた伝えられた事実を整理していく。


ーーープラチナ様が整理して落ち着けてくれた魔素をひっぱり出してバランスまで壊されたってことかあ。それで臓器とか、生きていくのに大切な器官が傷つけられたってことかな?


ライラがうーんと考え込んでいるとーーーコトリと頭上に何かが落ちてきた。

ライラが驚いて掴むと、それは金色の魔石だった。


ヒクヒクっというフェルの泣き声が聞こえてくる。


ライラは視線を上に上げて困ったように笑う。


「フェルごめんね。ーーー嫌な感じがするっていう忠告守ればよかったね。」


よしよしと撫でるとフェルが「なんでライラが謝るの!」と怒りながら涙を流すという器用なことを始めた。


困った顔になったライラを…グッと後ろに引く力があった。

「うへ!?」という再び奇声を上げることになったライラはーーーポスンと誰かに抱えられてしまった。

すぐに真っ白な袖で視界を覆われる。


ーーーぱ、パーシヴァル様!?なんのファンサービスですか!?


この時のパーシヴァルは今にも泣きそうな顔になっており、ライラにその顔を見られたくなかったのだが…残念なライラの頭は今しがた起きた出来事に喜ぶばかりでその裏にある意味など全く理解できていなかった。


泣きそうになっているパーシヴァルの頭をジョシュアはぽんと撫でた。

そして、シリルに目配せして全員を王宮へと運ぶと、すぐに使用人たちへと指示を飛ばし始めた。


ライラはあれよあれよという間に椅子に座らされ、診察を受け、首にはタオルを巻かれ手にはジュースを持たされた。

そして冒頭に戻る。


「ジョシュア、ライラ死んじゃうの…?」


巻き込まれる形になったジョーハンナがシリルに向かって「どーせあんたの差し金でしょう!」とキレて魔力の球を飛ばしまくり、シリルが真っ青になって逃げている中でジョシュアとパーシヴァルが向かい合っていた。

ちなみにライラの視界には入らない位置である。

ライラはジョーハンナの怒った姿に呆然としていた。普段おしとやかな彼女が切れるとなかなかの迫力だったのだ。


目に入れても痛くないと本気で思っている弟に涙目で見上げられ、ジョシュアは内心で「パーシヴァルが世界一可愛い」と思っていたのだが、彼はいつも通りの無表情のままで「遠くないうちに死ぬと思う」と現実を述べた。


パーシヴァルの瞳にブワッと涙が溢れ、ジョシュアは慌てたようにハンカチを差し出していた。拒否されていたが。

ぐしぐしと袖で次々とこぼれてくる涙を拭うパーシヴァルの目元が赤くなっていくのを見て、ジョシュアは本気でなぜ自分は治癒魔法が使えないのだろうと考えていた。


ようやく涙が止まったのを見て、ジョシュアはほっとしたようにパーシヴァルの頭をポフポフと叩いた。

そして羨ましそうな声色になって言う。


「ライラはパーシヴァルに愛されていて羨ましい。」


ジョシュアの場違いな発言にパーシヴァルは目をめいっぱい見開いて…やがて馬鹿にしたかのような笑いを浮かべた。


「お前が言うなよ。ーーー今日は手が開かないってオズワルド言ってたのにわざわざ見送りなんて来て。」


パーシヴァルの言葉にジョシュアはキョトンとした顔になった。

パーシヴァルが遠出する際に見送りに訪れているのは、この過保護な兄にとってはいつものことだからだ。


でも、いつもと違うことがあった。

パーシヴァルは本人が気がついていないなら黙っていようと思い黙って首を横に振った。


ーーー俺を見るより先に、ライラを見て魔力が泡立つほどの焦りを浮かべていたくせに、気がついてないとか…本当鈍感。


ジョシュアが似たような反応をしていたのは黒竜のそばに他国の魔法使いが接近した時、パーシヴァルが魔力暴走で死にかけたとき…とにかく滅多に見られないことだったのだ。


ーーーライラが死んだら、こいつどんな反応するんだろう。


パーシヴァルはジョーハンナを取りなしにいった黒のマントを羽織った背中を見つめ…すぐに首をふった。

未来について憂いても仕方ないのだ。


そしてポーッとジョシュアに見惚れているライラのほっぺたをウニっとつまんだ。

なぜかパーシヴァルの魔力はあまりライラへと流れ込まないのだ。

微量には流れるので多少の魔力操作は必要なのだが。


「い、痛いですよ。パーシヴァル様!」


口では抗議しつつも構われて嬉しいのかふにゃりと表情を崩すライラを見てパーシヴァルはため息をついた。


「なんで当事者のお前が一番いつも通りなんだよ。」


柔らかな頬をウリウリといじられ変な顔になりつつ、ライラが困ったような顔 を浮かべる。

掌にはいまだに泣き続けているフェルを乗せていた。あやすように頭を撫で続けている。


「今が幸せすぎて、死ぬことに後悔がないんです。一年半前までは黒竜さまをお助けしたいって言っても周りに馬鹿にされてばかりでした。それが、こうして王族の方に囲まれて本当に黒竜さまのお役に立てるかもしれないと思うようになりました。」


パーシヴァルは黙って聞いていたが…ライラに聞こえないくらい小さな声でいった。


「…役に立つどころか、お前が死んだら全部台無しになんだよ。」





ジョーハンナをシリルとジョシュア二人がかりで説得し、なんとか落ち着かせた後でようやくフランク王国へとやってきた一行。



イタリア王国の固有魔法の話やプロイセンの暗殺未遂…全てを説明しても納得しなかったジョーハンナ。


「もし、シリルが今回の犯人だったらわたしがとどめを刺す。だから抑えてくれ。」


…これがジョーハンナを引かせた言葉だったので、果たして説得できたのかには怪しいものがあったが。


フランク王国の南に位置する場所に建てられたジョーハンナに与えられている別荘は、青が至高と語る彼女に相応しく、白と青で全てが作られていた。

壁や床は全て真っ白に塗られ、丸や三角の屋根は覚めるような青色で塗られている。

背後に広がる海までもが絵画の一部のように建物と調和していた。

見上げるほど向こうまで続いている2、3階建ての建物群は全てジョーハンナの一族が所有しているらしい。

童話から抜け出してきたかのような可愛らしくも美しい別荘にライラは感嘆のため息をつく。


ジョーハンナは迷いなく足を進め、アーチ状の入り口を次々に潜っていく。

そして三階建ての屋敷につくとくるりと振り返った。


「私はここに滞在しますわ。皆様のために用意したのはそこ。」


ジョーハンナが示した先には、全く同じ作りの丸屋根の建物が建っていた。


「何かあれば使用人越しに連絡くださいませ」とだけ言い残してジョーハンナはそそくさと姿を消してしまった。

ライラはジョーハンナが一緒に行動しない気配にこっそり肩を落としたがーーーすぐにパーシヴァルに腕を取られてぐいぐいとひっぱられた。

ちなみにずっとフェルの浮遊魔法で浮いているため、金色に発光している。

通りすがりの人々がギョッとしたようにライラを見ていたのがおかしかった。


ジョシュアは黙って後ろをついてきていたがーーー使用人に自分の部屋を案内された後、ふらりといなくなってしまっていた。

パーシヴァルがジョシュアが空間魔法で消えたのを見て呆れ顔になっている。


「あいつまるで自分のもの見たく転移魔法使ってんな。」


呆れの中に確かな羨望が混じっているのを感じ、ライラは内心首を傾げる。


ーーーパーシヴァルさまは何を羨んでるんだろう?


ライラの疑問はフェルによって解決された。

いまだに少し掠れた声色でーーーフェルもパーシヴァルに同意する。


「普通の人間は固有魔法みたいな強大な力に適応するのに多少なりとも時間を食うのにね。ジョシュアはなんの力をもらっても平気で使いこなしそうだよね。」


ライラが納得の表情になる。

パーシヴァルも黒魔法が使いこなせるようになってきたのは中等部の後半になってからだと言っていた。

つまり十数年かかったのだ。

それなのにいつの間にか転移魔法を使えるようになっているジョシュアは数ヶ月の間にまるで自分のもののように使いこなしていると言いたいのだろう。


そんな話をしていると、ジョシュアが戻ってきた。


ーーーリン。


ジョシュアは行きと違い一人ではなかった。

一緒に転移するためか真っ青な髪の美しいフィメルを連れている。


ライラはそのフィメルと目があった瞬間…ブワッと泣き始めた。

シリルがギョッとしたようにライラを見た。


「あ、青竜さま!」


「生きてるうちに青竜さまにお会いできるなんて」と泣き出したライラを見て青竜本人は驚きで目をみはっているが、パーシヴァルとジョシュアはだんだん慣れてきたのだろう。

パーシヴァルは肩を竦めてみせ、ジョシュアはいつものことだなどと言いつつ、パーシヴァルとシリル、ライラ、フェルを順番に紹介していった。


「ーーーというわけだ。一月ほどここに滞在するので私の仲間を紹介したかった。」


ジョシュアの淡々とした紹介に竜はコクリとうなずいた。

パーシヴァルだけがいまだ泣き続けるライラや突然五大竜を連れてきてしまう兄を見てため息などついている。


「あー、ジョシュア、今更かもしれないけど青竜さまとどういう知り合いなの?」


パーシヴァルがこそっとジョシュアに囁くと…ジョシュアは心底不思議そうな顔になった。


「…竜さまはみんな友達だろ?」


はてな、と言わんばかりのジョシュアに…天を仰いでしまったパーシヴァル。

思わず、と言った調子で叫んでいた。シリルもコクコクとうなずいている。


「ジョシュアの常識は常識じゃねえんだよ、自分が普通じゃないって自覚ちょっとは持てよ!」


パーシヴァルから常識を解かれ、しょんぼりとしたジョシュアが説明したところによると幼い頃から黒魔法を使いこなせていたジョシュアのもとには次々に五大竜が訪ねていたらしい。


「黒の残した加護について皆興味津々だったのですよ。」


ふふふと笑うのは青竜だ。

しかし青竜は目が見開かれたままなのでどこか不気味さがあった。

ジョシュアは全く気にしていないようだったが。


泣き続けるライラ、平然と青竜と最近の進捗など報告しあっているジョシュア。

ーーー取り残される形になった二人がポツポツと会話している。


「目逝っちゃってるけど青竜さまって大丈夫なの?」


シリルの疑問にパーシヴァルは「知らねえ」と冷たく返した。

俺に冷たくない?とシリルが苦笑いしたところでパーシヴァルのグラデーションがかった赤い瞳がシリルを射抜く。

シリルがスッと真顔になる。


「赤竜さまは何企んでやがる。うちのジョシュアに何をした。」


嘘は許さないと言わんばかりにパーシヴァルの瞳がシリルを見つめるがーーーシリルはクシャリと悔しげに表情を崩した。


「俺だって知りたいーーーなんで、最後に頼るのが他国のジョシュアなんだよ。俺じゃねえのかよ、異世界から誘拐してくるくらい気に入ってんじゃなかったのかよ。」


ぐっと握った拳が白くなるほど、怒りの行き場を見つけられないシリル。

パーシヴァルはその様子を見てシリルを信じる気になった。

どうやら赤竜が単独で動いたらしいと悟る。

黙ってしまったシリルにパーシヴァルが困ったような顔で告げた。


「いや、どう考えてもジョシュアを頼ったのは止むを得ずじゃねえの?」


予想外のことを言われたかのようにシリルがキョトンとした顔になった。


「止むを得ず?ーーージョシュアの方が魔法使いとして上だったからじゃなくてか?」


シリルの言葉にパーシヴァルが「確信があるわけではないけど」と前置きしてから語り始める。


「赤竜さまの眠りを早めるような魔法だ。関係国…おそらくグレイトブリテンとプロイセンの間にとんでもないことが起きるのは間違いないんだと思う。」


パーシヴァルの話を聞いていて…当然シリルの脳裏にはジョシュアの忠告が浮かんでくる。


ーーー女王は、何があっても死なせねえ。


ぐっと唇をかみしめたシリルを見てパーシヴァルは少し眉を上げたが…話を続けた。


「俺が一番恐れてるのはさ…ジョシュアの魔力が暴走することなんだよね。」


パーシヴァルの言葉にシリルが弾かれたように顔を上げた。

パーシヴァルがそんな反応に気付いているだろうにあえて無視して話し続ける。


「ジョシュアはさ自分のこと感情がないって思ってるんだけど、そんなわけねえんだよ。ちょっと人より外に出にくいだけ。実際怒ってる時とかあるし。ーーーもし、ジョシュアが感情を自覚して抑えきれなくなったら?」


パーシヴァルはそう言ってチラリとライラの方を見た。


シリルもつられたように鼻水と涙でぐちゃぐちゃになった顔をフェルにタオルで拭われているライラの姿を見た。


「「…。」」


二人になんとも言えない沈黙が流れる。

パーシヴァルは仕切り直すようにごほんと咳払いした。


「俺は自覚がある。俺がジョシュアより先に事故で死ぬようなことがあったら…そしてそれが敵国の攻撃によるようなものだったらあいつはたぶん発狂する。そしてその敵国を滅ぼす。」


「ーーー否定できないな。」


シリルはジョシュアのパーシヴァルへの溺愛っぷりを知っているだけに苦笑いした。

パーシヴァルは眉間にシワを寄せつつも「あいつにはその力があるからな」と言った。


「そして最近になって現れたライラ。ーーーまるで子竜が来たとき並みに気にかけてる。首輪をつけるとこもそっくりだ。」


チョーカーを首輪と言い放ったパーシヴァルにシリルはぷっと吹き出した。

笑い事じゃねえんだよとパーシヴァルが不機嫌そうな声で言う。


「ーーープロイセンにライラを暗殺する計画があるな?」


疑問形だがほぼ確信しているのだろう。

パーシヴァルが真っ直ぐシリルを見つめ…シリルは降参とでもいうように両手を上げた。


「ーーー来てみて予想外。黒の愛し子二人に気に入られている子供を消すのはリスキーすぎる。」


シリルが白状したため、パーシヴァルがシリルに向かって膝蹴りを決めていた。

グフっという声を上げてシリルが崩れ落ちる。

悶えるシリルを冷たく見下ろしながらーーー「どう考えてもそれだろ」と言った。


「よく聞け、シリル。ーーーライラック=ガブモンドを消してはいけない。絶対に消すな、なんとしてでも守れ。」


シリルはピタリと動きを止め、ノロノロと立ち上がった。

そしてパーシヴァルを見つめかえす。


「ーーーどういう意味だ?」


パーシヴァルの語彙選択に引っ掛かりを覚えシリルが眉を潜める。

パーシヴァルは迷ったようなそぶりを見せーーーシリルを手招きした。

屈んだ耳元に何かを呟く。


「ま、まさかーーー」


シリルが目を見開くのと「このことは他言無用だ。これは契約だ」とパーシヴァルが言うのは同時だった。


シリルは自分では抗い様のない魔力の鎖がついたのを感じた。

とっさに浮かんだのはパーシヴァルは役割持ちだという事実。


ーーー契約という言葉を入れると能力が使えるのか?


能力の汎用性を考えサッと青ざめたシリルに向け、パーシヴァルが「黒竜の儀に関することしか縛れないから気にしなくていい」とひらひらと手を振って見せた。

シリルは最悪の事態を想定していたのか、ホッとした様に肩を落としている。


「わかったな?」


「っ、わかったとしか言えねえじゃねえかよ。」


あ、最後にとパーシヴァルがぽんと手を叩いた。


「イタリア王族がそっちにまだ残ってないかちゃんと調べといて。ーーー今のプロイセン内でうちの暗部を動かされたくないだろ?」


「俺、帰ってくんなって言われてんだけど。」


「ーーー俺、今電話一本で数十人は動かせるよ?」


ちっと舌打ちしてシリルがいなくなった。

リンという鈴の音を残して消えたシリルに向け、パーシヴァルがにっこりと笑った。


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