4の十七 ジョシュアと夢とプロイセン
ーーージョシュア、ちょっと聞いて〜。
少し舌ったらずな声が脳内に響いた。
この声を聞くのは例の襲撃事件ぶりだろうか。
ーーーちょっと夢で会いたいからさくっと寝てもらってもいい?
ジョシュアは睡眠を必要としない。
いつも通り、長い夜を一人自室で過ごしていた際に聞こえた声に、首を傾げながらも寝台へと向かう。
私服から着替えもせずに横になり、目を閉じた。
すぐに覚えのある赤の魔力に包まれ、夢の世界へと引き摺り込まれる。
次に気がついた時、ジョシュアは見覚えのない巨大な城の前に立っていた。
真っ白な石造り。中世を思わせる三角の屋根を持つ塔が三箇所存在し、耐久性がないだとか実用性がないだとか言われているのをジョシュアも耳にしたことがあったが…美しいと言うだけで存在価値としては十分なのではないかとジョシュアは思った。
数代前のプロイセンの王がたわむれで作ったという有名なノイシュヴァインイシュタイン城だ。
ジョシュアは城から視線を外しーーー言い争いを続けている顔ぶれを見て、すぐに険しい表情になった。
それもそのはず、彼の目の前ではまさに大変な出来事が起きようとしていたのだ。
すぐさま駆け寄ろうとして、体が動かないことに気づく。
ジョシュアは呼ばれただけの観戦者のようだ。人型で隣に立っている赤竜に説明を求めようと、顔を向けるも困ったように笑って「シー」というジェスチャーを返されただけだった。
「勝手なことをするなって散々忠告したじゃねえか!フェルとライラには手を出しちゃいけなかったんだよ。余計なことしやがって。」
叫んでいるのはシリルだった。
話し相手はジョシュアには面識のない人物だった。
シリルに言い返すこともなく、ただ肩を落としているのは空間魔法の魔素を持っている魔法使いだ。人数は四人。
ジョシュアは身体的特徴などからプロイセンの傍系王族であろうと当たりをつける。
シリルは何をそんなに怒っているのだろうと、ジョシュアは首を傾げーーーシリルが睨みつけている先…視線を上にずらし、視界に入った人物に息をのんだ。
見たこともないほどに黒の魔力を波立たせたジョシュア=シャーマナイト。
自分を客観的に見ることなど普通はまずはない。
ジョシュアは眉間にシワを寄せながら、どうやら怒っているらしい夢の中の自分を見る。
「◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️」
ーーーダメだ!七文字はまずい。ここにいる魔法使い全員の魔力がなくなってしまう!
そんなジョシュアの願いも虚しく、腕の一振りによって黒の魔力が解放された。
夢の中だと思えないほどリアルな映像にジョシュアは目を背けたくなる。
しかし、そんなことは許されずーーー傍系王族たちがあげる濁った悲鳴を聞きながらジョシュアはシリル以外の魔法使いの髪が真っ白になる様子をずっと眺めていた。
ジョシュアは何も言葉が出てこなかった。
呆然とするジョシュアの腕を引いたのはずっと横に立っている赤竜だ。
くいくいとジョシュアのマントを引きーーーさらに、地獄のような映像を見るように強要してきた。
ジョシュアは気がついていた。
目に入れた瞬間、自分が魔力を制御できなくなる物体が右のほうに転がっていることを。
あえて見ていなかったのだ。
しかし、赤竜はそれも含めてジョシュアに見せたいらしい。
ギギギギ、そんな効果音がつきそうなほど緩慢な動きでジョシュアは自分の頭を右へと向けーーー怒りで頭が真っ白になるのがわかった。
倒れていたのはライラだった。
白銀の美しい髪は土埃で汚れーーーその瞳は閉じられていた。
黒のマントで覆われた身体、体内の魔素、どちらもピクリとも動かない。
そして、ライラの傍にあるのは金色の蛇だ。
こちらは魔素がこぼれ出しておりーーーもうすぐ消えるのだとジョシュアにはわかった。
ーーーしん、で、いる?
ジョシュアは目にしている光景を脳が処理するのを拒否したかった。
しかし、自分の与えた覚えのあるチョーカー、フェルの存在…全てがライラック=ガブモンドであると示していた。全てが遅すぎるということも。
ジョシュアはライラたちを凝視したまま固まっている。
一方の赤竜が見ているのはジョシュアが左手に抱えている人物ーーー真っ白な髪になった、女王その人だった。
呆然と、「ああ、うう」と意味のない声を上げている。
彼女はジョシュアが夢にくる数刻前に既に魔法使いでなくされていた。
真っ赤なマントは何かに食いちぎられたように破れている。
ジョシュアが正気に戻り、もう一人の彼と同じように魔力を暴走させにかかったところで赤竜はジョシュアを現実の世界に引き戻した。
ジョシュアは目を開けた。
そして額に浮かんでいる汗を拭いながら…いつの間にか自分の寝台に腰掛けている赤竜を見た。
赤竜はジョシュアが以前見たときよりもずっと弱い存在になっていた。
見た目も子供であるしーーー固有魔法である空間魔法以外が使えなくなっているようだ。
混乱する頭の中で冷静にジョシュアが頭の中の情報を整理しているとーーー赤竜が「あ、起きた?」といつもの調子で言った。
「ーーー今のは?」
ジョシュアは自分でも驚くほど低い声が出たことに気がついた。
しかし、仕方がない。戯れで見せるにはあまりにも悪趣味な夢だった。
赤竜は子供らしい仕草で首を傾げた後でーーー鈴のなるような声で言った。
「わかっているでしょう?…ただの夢じゃないよ。これから起きること。ボクは、それを覆しに来た。」
ジョシュアはパチリと瞬きしーーー驚きで目を見開いた。
だってそれはーーー
「赤竜さま、まさか禁忌を犯したと言うのですか?」
ジョシュアが信じられないと呟く。
赤竜はふっと笑った。
「さすが話が早い。ーーーボクの今の残り時間を全部かけて、時間を戻した。それだけじゃないよ、死ぬはずだった命まで助けようとしている…ジョシュアのいうとおり、禁忌のオンパレード。ボクの命の時間だけじゃ足りなそうだから、もう一人協力してもらうつもりだけど。」
ジョシュアは突然告げられた内容の衝撃に混乱しつつもーーーなんとか言葉を発する。
「時間と命…竜さまであれば対価次第では変えられるのですね。」
ジョシュアが呟くと、赤竜は「そこまでいいものじゃないよ」と苦笑いした。
「ボクの寿命ぜーんぶ使ってできたのはたった二つだけ。時間の転移と魔力の転移。」
ジョシュアは赤竜の言葉を聞いて顔をしかめた。
神と同格だと言われている赤竜の寿命まで使った、最期の魔法の先がなぜ他国の王族である自分の元なのだと疑問に思ったのだ。
赤竜の残っている魔力を見ればわかる。おそらくもう一度同じことはできないのだ。
「なぜわたしのもとに?ーーーそこはシリルのところに行くべきでしょう。」
ジョシュアの言葉に赤竜は渋い顔になった。
「夢で見たでしょう?赤の王族がぜーんぶ君によって真っ白にされるんだよ。プロイセンの終わり、シリルじゃ何もできなかった。…ボクは君を止めにきたんだ。君を止めるのは人間じゃ無理だ。」
「黒もいい仕事するよなあ」とジョシュアを爪先から天辺までジロジロと見ながら赤竜が言った。
ジョシュアは黙り込んでいる。
赤竜は気にした様子もなく話し続けた。
「シリルはボクの加護をたっぷり受けてるからわざわざ守らなくても白くされることはないだろうしね。ーーージョシュア、ここからの数ヶ月がプロイセンとグレイトブリテンにとっての勝負なんだよ。敵国から夢なんて見せられても信じられないかもしれないけど…」
赤竜はジョシュアの説得を試みようとしーーージョシュアはそれを片手を上げることによって制した。
「ーーー赤竜さまの話は初めから疑っていません。うちの先読みの巫女が似たような暗示をしていますから。このままであれば、きっとあれは現実になるのでしょう。」
ミシェーラがまさに数日前、真っ青な顔で国王へと報告に上がったのだ。
シリルが女王の様子を見るためにプロイセンへと帰っている間の出来事だった。
ミシェーラの顔色を見て、国王はすぐさま人払いをした。
残ったのは国王、ジョシュア、パーシヴァルの三人のみ。
静まり返った謁見の間でーーーミシェーラは震えながら言った。
「儀式が、失敗するかも…いえ、絶対に失敗します。プロイセンによって。」
痛いほどの沈黙が流れ、一番初めに口を開いたのはジョシュアだった。
動揺を感じさせないような声色で、一つだけ問うた。
「それはいつ起きる?」
ジョシュアの問いに、ミシェーラは首を振った。わからないらしい。
でもーーーと口を開くミシェーラ。
「冬、だと思います。フェルとライラが倒れていて…雪が舞っていました。見覚えのある城が湖畔に写っていたので場所はプロイセンだと思います。」
ミシェーラはその報告を残すと謁見の間を後にした。
数日間学校は欠席しているようだ。責任を感じているのかもしれない。
動揺を隠せない様子の国王とパーシヴァルをよそに…ジョシュアはひどく落ち着いていた。順番に二人の目を見て「わたしがなんとかします」と言い切ったのだ。
「いざとなればプロイセンの上層部全て消しましょう。ーーーだから、二人はわたしにできないことをいつも通りお願いします。」
ジョシュアの言葉にーーーパーシヴァルは少しほっとした様子を見せる。
しかし、国王は表情をこわばらせたままだ。
「ミシェーラが絶対と言った。ーーーいくらお前でも…。」
震える声で国王がジョシュアに言う。
しかし当のジョシュアはこてんと首を傾げた。
「では諦めるのですか?我々が、王が諦めたら国民はどうすればいいのですか?」
ジョシュアは非常に若く見える。
せいぜい一六、十七にしか見えない彼が白髪混じりの国王よりも堂々と物を言い王を語る。
奇妙な光景だがーーーこれが今のグレイトブリテンの普通だった。
謁見の間を立ち去るジョシュアとパーシヴァル。
廊下に出た時にパーシヴァルは誇らしそうに笑っていた。
「お前がジョシュア=シャーマナイトとしていかなる時も揺らがないから、この国は救われてるんだなあ。」
珍しく素直に向けられた称賛の言葉に、ジョシュアは一瞬立ち止まり…パーシヴァルの濃紫の髪をするりと撫でた。
その滑らかな感触を思い出しながらーーージョシュアは赤竜へと向き直る。
「先読みの巫女と赤竜さまが同じことを言うのです。疑うなんてとんでもない…それで、わたしは何ができるのですか?」
そもそも自分にできるのか、そういった疑問は一切ジョシュアにはないらしい。
実力に基づく傲慢さ。
でもそれが今はとてつもなく頼もしい。
赤竜はにっこりと笑った。
「タイムトラベル時にボクが与えられた制限。これだけ読んでおいてね」と言って一枚の紙をジョシュアに渡している。
「ぜーんぶ助けて。ボクの転移魔法の魔力はこの期間君にあげるから。」
そう言った瞬間、赤竜の姿がパッと霧散し、ジョシュアに吸い込まれていった。
ジョシュアはメモを見ていた視線を上げ、突如与えられた魔力に顔をしかめた。
赤竜がいた場所をじっと見つめており…最後に聞こえてきた言葉に目を見開いた。
「ーーー未来の君は生きるよりも辛いことはないって言ってたよ。ジョシュア、君にとってこの世は地獄なんだね。…そんな君の背負うものをまた増やしたりして、ボク多分天国で黒に怒られるなあ。」
けらけらと笑う声を最後に赤竜の意識は眠りについた。
ジョシュアはわずかに赤く発光し続けている自分の身体を見ながら…ポツリと言った。
「わたしに任せてゆっくり休んでください。」
ジョシュアは手にしたメモをぐしゃりと握りつぶして魔法で燃やした。
このメモを他者に読まれること自体が制約に引っかかるのだ。
その思考はすでにこれからのことへと向けられている。
ーーー赤竜さまが亡くなっても、わたしは涙も出ないのか。
ジョシュアは凪いだ表情を崩して自嘲するように口元を歪めた。
そして、早速転移魔法を使ったのだろう。
リン、という鈴のような音色を残して何処かへと消えた。変えられないはずの未来を自分の命を対価に赤竜は変えたいと言ったのだ。
ミシェーラは冬の日だと言った。
もうすぐ季節は夏になる。呑気に休んでいる暇などない。
一つ、フェルとライラを守ること。
二つ、プロイセンという国を守ること。
赤竜からジョシュアに託されたのはこの二つだ。
ジョシュアは自分の実力を疑ってもいないが過信しているわけではない。
だから「全部」守るなど不可能だとわかっていた。
それでも、彼は強欲に全てを守ろうと決意する。
「生きることは地獄。だが…それがどうした。」
ジョシュアは父親と弟へとテキストを送る。
[かくれんぼは鬼の勝ち]
パーシヴァルが特別寮で「なんだよこれ!?」と叫ぶことになるのだがーーージョシュアはパタリと魔力通話を閉じると、鈴の根と共に転移したのだった。
◯
プロイセンでジョシュアとシリルが合流した頃ーーーライラは特別寮の談話室で黒薔薇団の集まりに参加していた。
議題は「魔法士団からの要請をどうするか」。
ライラは初め意味がわからなくて首を傾げた。
パーシヴァルは皆が知っている前提でだるそうにしながらもサクサクと話を進めていってしまう。
ライラは横に座っているデニスの袖を引き、「どういうこと?」と耳打ちした。
デニスは部活の先輩に聞いた話だけどと前置きしてからライラに説明してくれる。
「なんかこの間の部活動交流会が好評すぎてーーー魔法士団から苦情が入ったらしいぜ?パーシヴァル殿下は魔法士団のアピールにも協力するべくだって。騎士団だけずるいって団長から電話かかってきたとか。」
ライラはデニスの説明に「なるほどね」と頷いた。
どうりでパーシヴァルの眉間のシワがいつも以上に深いはずだ。
「死ぬほどめんどくせえ」と思っているに違いない。
パーシヴァルが「以上の理由から申し出は却下って返答する」と会議をまとめようとしたところでーーー「異議あり」の声が上がった。
パーシヴァルの非常に迷惑そうな顔にもめげずにピンと手をあげているのはジョージ=フックスだ。
彼の生家であるフックス家は代々魔法士団長を輩出している。
ついこの前卒業試験を三位で通過した彼の兄であるジェイクはまさに次期魔法士団長と目されている。
弟であるジョージも兄ほどではないが魔力量にも恵まれ、13歳という年齢ながら将来優秀な魔法使いになるのだろうとすでに期待されている。
「私たちが計画しますので、パーシヴァルさまは当日だけ参加してください!」
ハキハキとしたジョージの訴えを…パーシヴァルは「いやだよ」と突っぱねる。
押し問答が続く中でーーー書記として議事録をつけていたレイモンドが「ちょっといいっすか」と口を挟んだ。
「そもそも魔法士団って『増幅』が十八番ですよね?ーーー学園内でパーシヴァルさまの魔法を増幅できるとは思えないのですが。」
レイモンドの指摘にパーシヴァルはニヤッと笑った。
「その通りだから、この話はーーー」そう言って閉めようとしたパーシヴァルを、ジョージはまたも遮った。
「それは俺も思いました!でもシャーマナイト殿下がいらっしゃる今年ならできるのではないかと思ったのです!」
ーーージョージくん、遠回しにジョシュアさまに向かって魔法を放てばいいって言ってるよね?
ライラが苦笑いする。
パーシヴァルは「不敬罪って知ってるか?」とジョージを睨んでいるが、ジョージの方が一枚上手だった。
「ちなみにシャーマナイト様は協力してくださるそうです。『弟の魔法を無効化してやれなくて何が兄だ』とおっしゃってました!」
「え、あいつ何言ってんの?」
パーシヴァルの心からのツッコミにライラやデニスといったメンバーが吹き出す。
そしてジョージに思わぬところから援護射撃がきた。
ずっと興味がなさそうに本を読んでいたジョーハンナが目線さえ上げずに言ったのだ。
「フィメルの生徒たちからも『自分らが参加できて校外にアピールできるような行事をやってほしい』という声は以前から上がっているわ。…わたしはジョージに賛成よ。」
ジョーハンナまでもが「魔法士団」の要請を前向きに検討したいと言い出したことで、さすがのパーシヴァルも風向きが悪いと感じたらしい。
「企画書作って持ってこい…ジョーハンナ、言ったからにはお前が担当しろよ。」
パーシヴァルは拗ねたようにそう言って、「今度こそ終了」と解散の合図を出した。
ジョーハンナは「わかったわ」と応えるとジョージとビバリーを呼んだ。
何やら三人で追加の会議を行うらしい。
ライラが「ビバリーこき使われろ!」という念を送っていると…ライラの前を歩いていたパーシヴァルがくるりと振り向いた。
何か用事だろうかと首を傾げるライラに告げられたのは意外な一言だった。
「くだらねえ遊びしよーぜ。」
「第三回、固有魔法に名前つけちゃおう選手権開幕しまーす。」
レイモンドの緩い進行でパーシヴァルのいう「くだらねえ遊び」は開始された。
パチパチと律儀に拍手をしているのはデニスだ。
ミシェーラは部屋から引き摺り出されて不機嫌そうな顔だ。
ライラの膝の上でずっと頬を膨らませている。
ミシェーラは授業にも出ずに部屋にこもっていたのに、パーシヴァルが「人数いた方がいいな」とのたまったためにライラによって強制参加させられたのだ。
王族のことになると驚くほどに強引なこともするライラにミシェーラは不満顔だった。
場所は先ほどと同じ談話室である。
ジョーハンナは「騒ぐなら出ていって」と冷たくパーシヴァルに言ったのだが、パーシヴァルがその言葉を無視したのだ。
今にもキレてしまいそうなジョーハンナを見て周りが青くなっていた。原因であるパーシヴァルはむしろ愉快そうな顔だったが。
ーーーパーシヴァルさま、ジョーハンナさまのことお気に入りだよなあ。わざと嫌がるようなことするって、子どもっぽいとこもあるんだなあ。
ライラはそんな風に考えながらニコニコとしていた。皆がハラハラとやりとりを見守る中で、やはりどこまでもマイペースなのだった。
「えー、第二回まではシャーマナイト様の固有魔法に勝手に名前をつけていましたが…今回は趣向を変え、自分の魔法に名前をつけましょう!」
レイモンドの言葉に、パーシヴァルがうなずいている。
しかしデニスは戸惑い顔だった。というのもーーー
「魔法に名前って言っても…黒魔法とか転移魔法みたいな例外はありますけど結局は魔力の形を変えて動かすだけじゃないっすか。属性の違いこそあれ全部結局は同じ魔法ですよ?」
デニスのもっともすぎる指摘にレイモンドは怯んだ様子を見せたが、パーシヴァルは強かった。
「意味があるかなんて聞いてねえ。俺がやりたいからやるんだよ…しかも、名前がついてた方がちょっとかっこいいだろ?」
「パーシヴァル様のいうとおり!デニスシャラップ!」
ライラがパーシヴァルを持ちあげ、デニスは呆れた顔で口をつぐんだ。諦めたとも言う。
ミシェーラはライラの膝の上でデニスと同じように呆れ顔になっている。
「エゲート様の仕業だったんですか。シャーマナイト様が建国記念祭の時に『最終楽章。黒竜の怒り!』とか言ったせいで世界征服を企んでるんじゃないかって真剣にヘマタイト王悩んでましたよ?」
ミシェーラの苦言にも、パーシヴァルは動じることなく「採用されたのかあれ。」と少し嬉しそうな顔になっている。
ちなみに「最終楽章」などと言われているのは大量の黒の魔力を使って光の魔素を消し去る魔法だ。昼間でも数刻の間真っ暗闇になるので式典のような観客が多く集まる機会にはうってつけの魔法だった。
ちなみに実用性はない。ただ派手なだけである。
ちなみに後世の教科書にジョシュアの紹介としてパーシヴァルのおふざけでつけた魔法の名前がしっかりと載ることになるのだが…このメンバーはそのことを知る由もない。
「他の名前もあるんですか?」
ライラが目をキラキラさせてパーシヴァルに問う。
パーシヴァルはあるぞとうなずいた。
「第九楽章まである。ジョシュアの魔法の音の鳴り方で俺が並び順を決めた。」
「あ、一応意味あったんすね。」
「まあ、本当に威力の高い黒魔法を使うときはあいつ不思議な言語を話すようになるんだけどな。」
パーシヴァルの何気ない一言に、デニスやミシェーラは首を傾げ…ライラは「もっとジョシュア様情報ください!」と鼻息荒く叫んでいる。
「あれ、聞いたことねえ?この間の迷子の前もなんか喋ってたみたいだぜ。…五文字以上はまずいって言ってたから本人は意味わかってるんだろうな。」
つまり何が言いたいかと言うとーーー本来名前などいらないというわけである。魔法行使の時にわざと術名を言うことで想像を具体化する魔法使いもいるが基本的には魔法は素早く発動した方がいいに決まっている。戦闘中なら余計にだ。
しかしパーシヴァルは何がなんでもこの遊びを続行するつもりらしい。
「はじめの魔法は…」と視線を巡らせ、デニスでとめた。
「え、なんすか?」
デニスの戸惑いの顔はやはり無視され…パーシヴァルは一つ目の議題を決定したようだ。
「デニスの竜型魔法に名前をつけよう。漢字四文字くらい並べるとそれらしく聞こえるぞ。」
「意見があるやつ!」との声に、真っ先に手をあげたのはミシェーラだった。
どうやら悪ノリする側に回ったらしい。
「はいミシェーラ!」
「『玉砕覚悟。白の君へ〜愛の赤竜召喚!』とかどうですか?」
ミシェーラの言葉に、デニスは「ちょっとどう言う意味だよ!」と立ち上がったが。パーシヴァルは「なかなかいいな」とうなずいている。
「良し、レイモンド。両側にアレ入れとけ」
「アレっすね。…赤竜召喚、ダブルダガーっと。」
はい一つ目決定〜と早々にパーシヴァルがデニスの魔法名を決めてしまった。「卒業試験で絶対に披露しろよ?」という無茶振り付きだ。
デニスは「いやですよ!」と抵抗していたが…何かに気がついたのかポンと手を打った。
「俺がやるってことはレイモンドさんもやるんですよね?同じように竜を出しましたよ?」
しかし名指しされたレイモンドは「俺がそんな恥ずかしいことするわけないだろ?」と呆れた顔になっている。デニスが「じゃあなんで俺には強制すんだよ!」とキレていた。
「よし次は…授業でライラの披露してた豆腐並みの耐久力のシールドに名前をつけよう。」
ライラは「え、いいんですか!?」と嬉しそうな顔だ。
しっかり悪口を言われているのだが、全く気にしていない様子である。
「木綿豆腐でいいだろ。絹は流石にかわいそうだ。」
「木綿豆腐…!」とライラが感動したような声色で復唱しているのを見てミシェーラが「本気で頭大丈夫?」と心配そうにライラを見上げていた。
次の実践魔法の時間で「木綿豆腐!」とライラが律儀に叫ぶようになる。困惑気味だったアルフはデニスからことの経緯を聞いて呆れ顔になっていた。
「ライラック、経緯は聞いたがもっとマシな名前にしなさい。思考が豆腐に引っ張られて耐久力が一向に上がってないぞ?」




