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色なし魔法士は今日もご機嫌  作者: 橘中の楽
色なし魔法士は主席魔法士のお世話役
69/103

4の七 シリル=オゾンという男

ーーーーリン。


涼やかな音を立て、早朝の王宮前広場に降り立った一人の青年。

腰には細身の剣が下げられており、背中には真紅のマントがはためいている。


突如空中に現れ、そのままふわりと蝶がとまるように着地した青年は、サッカー場ほどの広さがあるこの広場を、音もなく横切っていく。


赤の瞳は、無感動に、観光客に人気の黒地に金の装飾がなされた広場を見つめている。


迷いない足取りは、王宮への入場門である竜門へと向けられているようだ。


突如現れた青年に、早朝勤務でぼーっとしていた門番は、冷や水を浴びたかのように飛び上がっていた。

そんな同僚に対し、横にいたもう一人の騎士が何事か言い、二人は慌てた様子でどこかへと魔力通信を用いて連絡している。


「ーーージョシュア様、プロイセンの主席魔法士の方がお見えになったようです。」


門番の二人は、今日の出来事を事前に説明を受けていたにも関わらず、実際目の当たりにすると信じられないようなものを見たような気になっていた。


グレイトブリテン王国の隣に位置するプロイセン王国。

プロイセン王国は魔法大国として世界に名を轟かせている。

そんなプロイセンの空間魔法には、いくつかの特徴がある。


限られた血族にしか使えない。

大量の魔力を消費する。

そして、発動時に鳴る魔力の振動による、鈴のような澄んだ音。


空間魔法を使い現れた青年だがーーー何かに気が付いたかのように立ち止まった。


門番たちが必死に通話していた相手ーーージョシュア=シャーマナイトが、電話に出ることもなく、プロイセンからの使者の前に現れた。


こちらは次元をいじってきたのだろう。

黒い裂け目が空間に入り、ジョシュアが出てきた。

早朝にもかかわらず、ジョシュアは黒のタキシードに、シルクハット、背中には竜の刺繍が入ったマントをつけている。グレイトブリテンの王族の正装だ。

決まりである赤のマントは身につけているもののーーーラフな格好だった青年が、ジョシュアの格好を見て苦笑いを浮かべた。


空間魔法と次元魔法は、大きく本質が異なるのだがーーーー門番の二人からしてみると、どちらも何もないところから急に現れたようにしか見えなかった。


耳に当てていた魔力通話を思わず取り落としている。


「ーーーお、王族ってすげえ。」


一人の騎士が呟いた言葉にーーー横にいた同僚が、何度も何度もうなずいていた。


周囲に衝撃を与える登場をした二人だがーーー本人たちは至って平然としている。

普通にプレートで待ち合わせた、と言われても何の違和感もない。

今日も、素晴らしい魔法技術ですね、いえ、そちらこそーーーなどと真顔で言い合いながら足を止めることなく門番たちが立ち尽くしている竜門の横を通過した。


王宮内は空間系の魔法の使用は原則禁止されている。

ジョシュアは徒歩でシリルを応接間まで案内した。

黒の革張りのソファに向き合った二人。

使用人たちがお茶の支度をし、立ち去ったのを見計らい、ジョシュアが口を開いた。


「ーーーようこそ、グレイトブリテン王国へ。国王自ら、シリル主席魔法士を出迎えたいとおっしゃっていたのだが、外野が煩くてな。わたしが代役を務めたわけだが、我が国はあなたの訪問を心から歓迎している。」


ジョシュアはそこまで言うと、パチンと指を鳴らした。


ポロン。

弦楽器のような柔らかな音が響いた。

高度の魔法を使った時ーーーそれこそ、空間魔法や黒魔法のようなーーー特有の音を当たり前のように鳴らすジョシュアにシリルは内心舌をまく。


ーーー千年に一度の黒の愛し子…今日も絶好調ってか。


ジョシュアは戯れのように掌サイズの黒竜を生み出した。

黒魔法で作られた黒竜は、パタパタと青年ーーーシリルの方まで飛んで行き、ガオーと愛らしい声で鳴き、ブレスのようなものをシリルに向けて吐いた。

キラキラと虹色の魔素がシリルの頭上に降り注ぐ。


黒魔法を使ったパフォーマンスは、グレイトブリテンでは最賓客にしか行われない。

そのことをよく知っているシリルは、愉快そうに赤い瞳を細めながら、これはこれはご丁寧に、などと言っている。


「ーーージョシュアは相変わらず器用っすね。うーん、何かお返しに、と言いたいところですが…俺のヤナの呪いでも見ます?」


まあ、それはジョークですけど、と言って場を和ませようとしたシリルだったがーーー「ぜひ見せてくれ」と、まさかのジョシュアが「呪い」の提案を受け入れたことで、びっくりした顔になっている。


「ーーーえ、ジョシュア、呪われたいの?」


慌てて問い直すシリルに、ジョシュアは真顔で頷いている。

シリルは冷や汗をかきながら、謝り始めた。


「い、いや、ほらね、プロイセンジョークと言いますかーーーー冗談は顔だけにしろよ、マイペースなとこ全然変わってねえな。とにかく、俺が悪かったです。女王に殺されるんで、呪いは見せられません。ヤナは見せますので、それで勘弁してください。」


ほら、この手の冗談よく聞くでしょ?と言ったシリルに、うなずきながらもーーージョシュアは不満そうな顔だ。

どうやら、冗談だと分かった上でも、「呪い」を受けてみたかったらしい。


「ーーージョシュア相手に話しているとどうしてもペース乱されるんだよな。…この部屋に呼んでもいい?あいつ、全長で200リュウくらいありますけど。」


ジョシュアは、黙ってうなずいた後、ずっとそばに控えていた側近のオズモンドに合図し、家具の配置を変えさせた。


黒い絨毯の上に開けられたスペース。

そこに向けて、シリルは軽い調子で「サモン」と言った。


窓から朝日が差し込んでいた室内にーーー黒の魔素が膨れ上がった。

そして、それらの魔素は徐々に集まり、やがて翼と角を持った動物の形になった。


現れたのは、ヤナと名付けられた黒のペガサスだ。

広げられた翼の間に上品に光る黒のたてがみは魔素が燃えているかのようにゆらめき、立ち姿は力強い。このペガサスは、普通とは違う見るものを惹きつける不思議な魅力があった。


普通のペガサスは黄色属性で、白やクリーム色なのに対し、シリルは黒いペガサスを使役獣として使っていた。

王族以外ではまずみることはない、特徴的な黒い髪と、使役獣のペガサスが合わさって、シリルは黒の魔法使いと他国では呼ばれている。


シリルとしては、プロイセンの国色は赤色なので、この呼び名は不満なようだが。


ジョシュアはヤナに近寄ると、しげしげと眺め始めた。

そして、手を伸ばしかけ、慌てた様子のシリルによって阻まれている。


なぜだ?と首を傾げるジョシュアと、ため息をつくシリル。


「触ったら呪いがかかるかもって、ジョシュア知ってるよね?」


責めるような口調でシリルがいうが、ジョシュアの視線はヤナに固定されたままだ。


今までもジョシュアとの面識があり、彼の独特な行動にも慣れているシリルだったがーーーお互いに、暗黙の了解で触れないようにしていた呪いの魔法についてやたらと知りたがるジョシュアにーーーこれまでずっと浮かべていた笑みを、シリルが引っ込めた。


部屋に落ちる沈黙。

二人の間に緊張が走る。


そういうつもりだ?そう問いかけるシリルの視線をジョシュアは平然と受け止めた。

そして、言い放つ。


「お前、我々を邪魔しに来ただろう。ーーー敵対行為から、国民を守るのが王族であるわたしの役目。『呪い』を知りたいと思うのは当然だと思うが?」


ジョシュアの魔力が高まる。

シリルはチラリとジョシュアの腕を見た。

そして見慣れた魔力制御の腕輪がはめられていないことに気がつく。

シリルは無言で、彼の魔力の流れを見つめ、ゴクリと唾を飲み込んだ。

そして、やだなー、などと明るい声を出して見せる。


「敵対行為なんて縁起でもない。ジョシュアサマの授業を、うちの国の若者にも見せようってだけじゃないですか。俺が来たのは、挨拶ってだけですよ?」


引きつった笑みを浮かべるシリルだったが、実は彼は背中にじっとりと脂汗をかいていた。

体の震えを押さえ込んで見せたのは、主席魔法士としての意地だろうか。


ーーー竜に睨まれたみてえ。うわあ、ジョシュアやっぱおっかねえ。


ツウっとシリルの眉間を汗が流れたところでーーーふっとジョシュアが放っていた魔力による威圧が霧散した。


シリルが知らぬ間に止めていた息を吐き出している。

ジョシュアは、シリルに向けていた視線を宙に投げた。

そして、ぼそりと呟く。


「うちの国の、若者、ね。ーーー留学生の特徴は、()()()()瞳、使役獣に()()()()()()を連れていると聞いたが。」


魔法学園中等部の年齢制限は十八歳だぞ?というジョシュアの声に、シリルはあははと笑っている。


「知ってますよ、やだなあ、僕は二十歳ですし、何を疑っているんだか。」


「そうだよな。姿替えの魔法が使えるからって、疑うのはよくないよな。」


ハハハハハ、という二人の渇いた笑い声が室内に響く。

しばし睨み合っていた二人だったがーーージョシュアが諦めたように息をついた。


「そういうことにするのが、プロイセンの方針ということだな。まあ、『黒の魔法使い』は普段フードで顔を隠しているから、容姿についてはあまり知られていないしな。わたしは例外として、他に気づく奴はいないと思うが。」


わかってもらえて何よりです、と笑うシリルをジョシュアが睨むも、彼はスッと視線をわざとらしく外した。


ジョシュアは不満げだったがーーーふと、何かを思い出したように、瞳をパチリと瞬かせた。


「その留学生にだがーーー我が国としても、何不自由なく生活してもらえるように、一人の生徒を世話役につけることにした。ーーーわたしを慕ってくれている生徒だから、内部事情にも詳しいし、学園で困ったらそいつに相談してくれ。真っ白の髪に変わった使役獣を連れているからすぐにわかると思う。」


笑みを浮かべていたシリルだったがーーージョシュアのこの提案には、いやそうに顔を歪めた。


「ーーー別に世話役なんていらない…んじゃないですかね?その生徒と対立して、むしろ迷惑をおかけすることになるかも?」


シリルは、そう言って拒否しようとしたがーーージョシュアは、許さなかった。


「シリルーーーじゃないことになっているんだったか。ともかく、留学生が黒竜の儀のスパイなんじゃないか、という声も王宮内で上がっているし、わたしもその意見には同感だ。ーーー嫌なら、来るな。我が国は今、非常に忙しい。他国にかき乱されたくない。」


世話役というのは方便で、実質は監視役をつけるとジョシュアは言っているのだ。

ジョシュアのこの言葉に、シリルは、断れないと察したのか、最悪…と呟いただけで、それ以上は反論しようとしなかった。


そんなシリルを見てーーージョシュアは愉快そうな声色でいった。


「人選はわたしがした。ーーー予想だが、お前たちは馬が合うと思うぞ?」


シリルは自身の今までの経験からーーーそんなわけがない、と言って苦笑いする。

そして、今度はわずかに首を傾げた。


「その生徒ってジョシュアの側近候補なの?側近増やすのあんなに嫌がってたのに、中等部の学生を囲い込むなんてどういう風の吹き回し?気に入っちゃったの?」


あのジョシュアにまさかの恋がーーー?と問いかけつつ、それはないか。とシリルは返事を聞く前から勝手に結論づけた。ジョシュアも「あるわけないだろ」と答えている。


二人はジョシュアが留学していた学生のときに知り合った友人であり、非常に気やすい中だった。

今でこそ、国の責任を負う立場になったため、おいそれと連絡を取り合ったりはしなくなったが、時折こうしたやりとりが垣間見える。


横に立つオズワルドが微笑ましそうに二人を見守る中ーーー

ジョシュアは眉間にシワを寄せ、シリルの言葉を否定する。


「わたしほど『恋』などという言葉に縁遠い人間はいないのをお前は知っているだろう。相手は黒竜さまと決まっているのだから。ーーーーそもそも、側近候補ではない。様々な事情があって、一時的にわたしのもとにいるだけだ。…罪滅ぼしと言ってもいい。」


「罪滅ぼし?」とシリルが問いかけるもジョシュアは無言で首を振っただけだった。

お互いに言えないことが多いことは承知している。

すぐに追及をやめ、空気を変えるように軽い調子で「友だちさえいないお前に友だちさえいない恋人は無理だよな」などと失礼なことを言いつつうなずくシリルを、ジョシュアは無言で睨んでいたがーーーくれぐれも、余計なことはしでかすな、と最後に釘を刺し、部屋を出て行ってしまった。あまり長居するわけにはいかないらしい。


ばたりと音を立てて閉まった扉。

残される形になったシリルにフォローを入れるのはオズワルドだ。


「シリル様、主人はお見送りできませんでしたが、お気を悪くされないでください。実は、ジョシュア様が出迎えることにも反対した大臣が何名かおりましてーーー人が増える前に自分の離宮にジョシュア様はお帰りになったのです。」


「気にしてないっす。」とシリルはオズワルドを見ながら苦笑いした。

そして、うちもよくありますからそういうこと、と何かを思い出すような顔になった。


「王宮っていうのは、どこの国でも、メンツが、伝統がってうるさいのがいますからね。ジョシュアは国王サマと同格なんでしょ?そりゃあ、責任が!っていうやつも多くなりますよ。」


お互い苦労しますね、と言って笑い合った二人。

オズワルドはしばらく微笑んでいたがーーーススス、とシリルの方に近づいた。


ここだけの話ですがーーーと小声で耳打ちする。


「そういうわけなので、王宮の空間魔法禁止よりもーーーシリルさまの姿を、この時間に見られる方が少し厄介でして…ジョシュア様は、うっかりシリル様に空間魔法で帰っていいと言ってしまった、ということにするそうです。」


なのでいつでもお帰りください、お茶目な様子でオズワルドが笑う。

シリルはあまりにもあけすけな提案に、吹き出した後ーーーパチンと指を鳴らして、魔法を行使した。


ーーーリン。


鈴の音だけを残し、室内からは、シリルもペガサスも一瞬にして消えた。

次元魔法と違い、空間魔法は自分以外の生物も移動できる。


オズワルドはシリルがいた空間をしばらく見つめた後ーーーぼそりと呟いた。


「ーーージョシュア様は、次元魔法は使える場所も決まっているし、空間魔法の劣化版でしかないと言いましたがーーーなるほど。他国でも、これだけの精度で物を動かせるのですか。やはり、空間魔法は怖いですね。」



王宮を出たシリルは、事前に渡されていた地図に従って空間を渡り、アメリアイアハート学園の特別寮の前に降り立った。


髪色はそのままだが、180リュウ近くあった背はいつの間にか、160リュウ程度になっていた。

どこで着替えたのか、赤いマントは外れており、学園指定の黒のマントを身につけたその姿は、誰が見てもアメリアイアハート学園の生徒だった。


シリルがさてどうしようかと顔を上げたところでーーー「またキラキラしたやつがいっぱい」と呟いて嫌そうな顔になった。

すぐに取り繕ったような笑みに戻ったが。

門の前でパーシヴァルとレイモンド、ライラ、フェルもシリルに気がついたようだ。

彼らはジョシュアの依頼で朝から待機していたのだ。


ーーー出迎えた時の態度は三者三様だったが。

パーシヴァルは眠そうにレイモンドに寄りかかっているし、レイモンドはそんなパーシヴァルを慌てたように揺さぶっている。チラチラとシリルを盗み見て、怒っていないか様子を伺う様子は、世話の焼ける息子を持つ母親のようだ。


そしてライラは、真剣な面持ちで姿勢を正していた。

普段開けられている白シャツの第二ボタンは閉められ、首元には青いネクタイが閉められている。

ジョシュアに影響されてか、黒のハットまで被る気合の入れようだ。


ライラは、シリルが自分たちの前で足を止めたのを確認し、緊張をにじませながらも、胸に手を当て、挨拶の文言を述べ始める。


「シリルさん。我が国へようこそ。わたしがジョシュアさまからの依頼で世話役を務めさせていただく、ライラック=ガブモンドです。」


175リュウほどまで背が伸びたライラは、わざと膝をつくことでシリルを見下ろさないように気を遣っていた。


シリルは、そんなライラの態度にひとまず安心したらしい。

じっと見つめていた首元のチョーカーから視線を外し、ライラの目を見た。


「ライラックさん、どうぞよろしく。ジョシュアみたいな雰囲気のやつが出てくるかと思ってたから、案外普通そうな子でよかった。ーーー俺の魔力にも動じてないみたいだし。」


「いつも初対面は怯えられるんです」と苦い顔で笑うシリルにーーライラは何かを思い出したらしい。

どこか気まずげに視線を彷徨わせた。


「魔力で怯えるーーーですか。わたしその辺がものすごく鈍いらしくて、友人からもジョシュア様からもよく言われるんです。」


ライラのこの発言に、シリルは驚きで目を見開いた。

先ほど、彼はジョシュアの魔力に当てられ、背筋が凍るような思いをしてきたばかりだったからだ。



「ーーーえ、それってまさか、ジョシュ…シャーマナイト殿下が魔封じの枷外しててもそばに寄れちゃうって意味?」


シリルはまさか、と言いたそうだったがーーーライラは苦笑しながらもうなずいた。


多くの人に同様の質問を受けて、ライラはどう反応していいのかわからないのか、いつも困り顔をしている。


ええー!!すごいじゃん!と大声で叫んだシリル。


「ジョシュアの魔力が平気なら、そりゃあ、俺くらいの魔法使いなら余裕だわな。びっくり。」


そんな彼に向けて、この日初めてパーシヴァルが口を開いた。

ようやく目が覚めたらしい。レイモンドから離れてダルそうに腕を組んでいる。


「朝からうるせえ。相変わらず普段はボソボソ喋るくせに、驚くと大声出すよな…お得意の黒のペガサスは?連れてないの?」


パーシヴァルのこの言葉が意外だったのか、シリルは目を見開いている。

というのも、使役獣の使用がプロイセンの学校では禁止されているらしい。


「ええ!?黒いペガサス出していいんですか?ーーーというか、俺、今ただの学生なんで。パーシヴァル様も、そういう風に接してください。」


「…。」


クルリ。

パーシヴァルはシリルの言葉を聞いた途端、寮の扉へと踵を返した。

主席魔法士の出迎えのため、わざわざ外で立っていたらしい。

ただの留学生であれば、ライラに任せれば十分だ、というのがパーシヴァルの考えなのだろう。

無言でスタスタ歩いて行ったパーシヴァルに、レイモンドが頭痛がするとでも言いたげな顔になって、しきりに頭を下げながら後を追っていく。


「パーシヴァルさま…俺、シリルさんに自己紹介さえしてないーーーってあいつ全く聞く気ねえな。」


ぶつぶつ言いながらも、走って寮内へと消えて行ったレイモンドを、シリルは笑い顔で見送っている。


取り残されたライラ、フェル、シリルの三者はーーー授業へと向かうことにした。


初めて使用するジーゴ社のプレートに、ライラがもたついているとーーー横からシリルがさっと手を出し、サイズの拡大と魔力注入を行ってしまった。


そして走り出したプレート。

問題はーーーそのスピードだった。


ライラは以前、ジョシュアのプレートに乗った時のことを思い出していた。

それくらい、普段よりも速い速度でプレートは動いていたのだ。


ライラが周りの生徒たちのプレートが次々と後ろに消えていくのを眺めているとーーーぼそりとシリルが呟いた。


「ーーーこの学園の生徒、レベル低いな。ケイマ社製なのもあるけど、プレートの速度あれしか出せないなんて。」



ライラはハハハと乾いた笑い声をあげた。

レベルが低いと言われている中には、確実にライラも入っていたからだ。


ーーー史上最年少の主席魔法士とは聞いてたけど…天才っぷり、こっちでも隠す気ない感じか。


ライラは、シリルの周りで起きるトラブルに自分が巻き込まれる未来を想像し、苦い顔になったのだった。

シリルは登場人物の中でも一、二を争う苦労人です…。そしてこれからさらに自由人たち(ジョシュアとかライラとか)に振り回されます。


シリルくんの異世界転移前のお話→https://ncode.syosetu.com/n0799gt/

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