3の十八 こころをつよく
薬品瓶の並んだ真っ白な部屋の中でライラはすよすよと寝息を立てている。
シャロンは忙しいーーーと言いつつ、おそらくイアハートが苦手なのだろう。
イアハートの姿を視界に入れるなり「ゲッ」と彼にしては低い声を出して、ライラを腕の一振りで治療してみせ、足早に部屋を出ていった。
「鍵閉めたら返しにきて。」
それだけ言ってイアハートに鍵を投げつけるシャロン。
イアハートは顔の前で飛んできた鍵をキャッチしつつも、タメ口のシャロンに向かって「上官を敬えよ」と呆れ顔だったが、シャロンはすでに部屋をあとにしていた。
フェルは心配そうにライラの上をふよふよと飛んでいる。
イアハートはドア付近にもたれかかりながら、そんなフェルを見てーーー質問してもいいかと言った。
フェルはイアハートに一瞥もくれることなく「暇だしいいよ」と素っ気なく応えた。
イアハートのバリトンボイスが静かな室内に響き渡る。
「フェル、君は黒竜さまの召使じゃないか?」
イアハートの問いにフェルは答えなかった。
しかし、イアハートは沈黙が解だと理解したようだ。
自分の推測が当たっていることに満足したのか、一つうなずき…不思議そうな顔になって言った。
「なぜライラックに固執する?」
イアハートの疑問にーーーフェルはくるりと体の向きを変えた。
そして、イアハートの方にスイッと近寄ってきた。
目と鼻の先まで近づいたあとーーー楽しそうに言った。
「出た、人間のなんでも理由を付けたがる病。釣り合ってないと不思議がるよね。…逆に聞くけど、好きとか愛してるに理由って必要?」
イアハートは答えられなかった。
黙り込んだイアハートにーーーフェルはなおも続ける。
「ボクがライラを大事に思う理由なんてライラック=ガブモンドであること以外にないよ。なんでとかじゃない、ただ生きていてくれればいい。」
フェルは歌うように言うと、再びライラのそばへと飛んでいった。
イアハートは納得できなかったのかフェルに問いかける。
「それは、ライラックの母親がシューサック様の祖先であることと関係があるのか?」
イアハートはフェルをじっと見つめしばらく黙っていたが、それ以上フェルがなにも言うつもりがないのを感じ取ったのか、話題を変えてきた。
「ーーーわたしが黒竜の儀の関係者になれなかったのはなぜだ。」
イアハートのつぶやきはーーー本人の想像した以上に悲しみの色を含んでいた。
フェルはチラリとイアハートに目を向けたあとで「うーん」とうなった。
「関係ないイアハートになら『約束』すれば教えてあげる。」
フェルの言葉に、イアハートは考えるような顔になったがやがて頷いた。
フェルはりょーかーいと軽く言って…ブワッと魔力を解放した。
イアハートの背中をぞぞぞぞぞと悪寒が走る。
ーーー心臓を鷲掴みにされたようだ。
ツウっとイアハートの眉間を汗が流れた。
ふっとフェルの魔力が霧散する。
「魔素の核にちょっと書きこませてもらったよ〜。」
イアハートは硬い表情で「今のは誰にでもできるのか?」と聞いた。
フェルはあっさりと「できるよ」と応える。
「いやあ、喋れるって気分いいね!ーーー黒竜さまの力が一部だけどボクにも流れてきてるから。色々とやれることはあるよ。」
キャッキャと笑うフェルを見てイアハートは固まっていたがーーーやがて諦めたように肩を竦めた。
だってーーー
「神を恐れるなどおこがましいか。」
ニヤリと笑ったイアハートを見てフェルは「なかなか肝が座っているね!」と嬉しそうに言う。
イアハートは笑いながらもーーーで?とフェルをせかす。
「こんな物騒な約束させといて教えないなんてことはないだろう?」
喋ろうとしたら魔素の核を潰されるに違いない、そんな確信を持ちながらもイアハートはフェルをまっすぐに見つめる。
「黒竜の儀に選ばれなかった理由は簡単。ーーー早く生まれすぎたから!」
あっけらかんと言い放ったフェルにーーーイアハートは驚きで目を見張った。
そして…声をあげて笑い出した。
「そうかそうか、歳も重要なのだな?ーーーいや待てよ、一人説明がつかないだろうあいつは四十近いぞ?」
イアハートは言葉にしてしまってから、失言だったかもしれないと気がついた。
シャロンが役割持ちだと知っているのは国王の側近のごく一部だったからだ。
ーーーまあ、杞憂に終わるのだが。
イアハートの疑問の意味を当然のように理解したフェルは、「シャロンは特別だから」と笑った。
「だって治癒の巫女って寿命バカみたいに長いじゃん?ーーー黒竜さまは魔力の質で人間の歳を判断するからシャロンはジョシュアと同年代って考えたんだと思うよ。」
フェルの言葉にしばし考え込んだイアハートは、戸惑うように言った。
「つまり、年齢のあった者の中から能力の高い適合者をピックアップしたということか?」
フェルはイアハートの問いに「ご名答〜」と笑った。
イアハートはあまりに軽いフェルの様子にため息をついた。
そしてーーー晴々とした顔になって言った。
「ーーーなぜ子供たち、若者たちに頼らねば国を守れないのだと自分を責めてきたが…黒竜さまのお考えなら仕方あるまい。自分の仕事に熱中するとしよう。」
イアハートはそう言ってうなずきーーーフェルの方を見た。
フェルは実はこの時そっと視線を逸らしていたのだがイアハートは気がつかなかった。
フェルは人間以上に人間らしい魔獣なので「黒竜さま時間の計算が苦手なので百年くらい間違えることがあります」などとは言えなかったのだ。
「フェル、お前最後の役割が誰でどこにいるかも当然わかっているのだな?」
イアハートの問いにフェルはチロチロと舌を出した。
「まあね、ーーーでもこれは約束に引っかかるからイアハートにも言えないよ。…ライラが目を覚ましそうだ。ここまでな。」
フェルが言った瞬間、イアハートの中に残留していたフェルの魔力がふっと消えたのがわかった。
イアハートはホッと息をつき、苦笑いした。
ーーーどうやら、驕っていたようだな。
ジョシュア以外にこの国内でイアハートが実力を図れないほど格上がいるとは彼は思っていなかったのだ。
魔力量の差がありすぎると相手の実力を理解できないーーーそんな魔法使いの常識をイアハートは再認識していた。
ライラの金の瞳が開かれた。
歓声を上げて飛んで行ったフェル。
イアハートはスタスタとベットまで歩き、フェルの後ろからライラの顔を覗き込んだ。
ライラは急に視界に飛び込んできたイアハートに驚いたようだ。
「校長!?」と素っ頓狂な声をあげている。
がばっと起き上がり、フェルを捕まえるとーーー
「フェ、フェル!?なんで忙しくて姿を見かけないことで有名な校長がここに?わたしが眠りこけてる間になんかした?ねえ、なんかした!?」
ぎゅうっとフェルを鷲掴みにするライラ。
フェルは呆れ声だ。
「ライラじゃないんだからボクがやらかすと思う?ーーーやるなら徹底的にやって証拠も残さないよ。」
しれっと答えたフェルに、ライラは「よかった〜」と微笑んでいるが、フェルの物騒な発言にイアハートの笑みは引きつっている。
イアハートはふうっとため息をつくとーーー「ライラック」と呼びかけた。
フェルをにぎにぎしていたライラはピシッと背筋を伸ばした。
戸惑いを浮かべるライラにイアハートは笑いながら近づき、膝をつくことでライラと同じ目線になった。
ーーー強面だから誤解してたけど優しい人みたい?
ライラがそんな風に思っているとーーーイアハートが口を開いた。
「ライラック。強くなりなさい。ーーー君がそのチョーカーをつけている限り、今日のような場面はこれからも訪れる。」
イアハートのまっすぐな視線を受けーーーライラは表情を曇らせた。
ライラの頭に浮かんだのはジョーハンナの言葉。
「よくそのチョーカーをつけてそんな態度が取れるわね。」
ーーーこの言葉は、ライラの心に鋭く突き刺さった。
「わたしは…足りないことは自覚しています。魔法も苦手ですし。」
ライラがうつむきがちに応えると…イアハートが、びっくりするほど優しい声色で「顔を上げなさい」と言った。
ライラがおずおずと顔を上げるとーーーイアハートの金色の瞳と目があった。
「わたしは君を責めているわけじゃない。ーーーむしろライラックはとてもよく頑張っている。君のお父さんもわたしは知っているが、これほど真面目な生徒じゃなかったよ。…飛び級できそうじゃないか、これは魔力の発動にハンデを抱えた君がいかに努力しているかを示しているよ。」
イアハートから与えられた優しい称賛。
ライラの瞳にはブワッと大粒の涙が浮かび上がった。
ポロポロと泣き出したライラをイアハートは優しい瞳で見ていた。
フェルはタオルを引っ張り出してきてライラの頬を拭っている。
「君は本当によくやっている。両親が他界されてるからこんな当たり前なことを言ってくれる大人もいないんだな。ーーー撫でてやりたいところだが、わたしは魔力が高いから君に触れるのはよしておこう。」
イアハートはそう言って、ライラが落ち着くまで黙って座っていた。
そしてーーー涙の幕は貼ったまま、それでもなんとか泣くのをやめたライラが再びイアハートに向き直った。
話はまだ終わっていない。ライラにもわかっていた。
金色の瞳が再び力を取り戻したのを見て、イアハートは頷いた。
「酷だとわかった上であえて言わせてもらう。強くなりなさい。ーーーシャーマナイト殿下を支えるには、どれだけ強くても足りないのだ。一生研鑽する覚悟が必要だ。…それでも、あの方の孤独を埋めることはできないのだが。」
ライラは何もいうことができなかった。
イアハートがふと視線を落とし、とても寂しそうな顔をしたからだ。
しばらくの沈黙の後で…イアハートは再びライラに向き直った。
「色なしというハンデを背負ってこの学園でやっていける君ならできる、ーーー純粋な力だけでなく心を鍛えなさい。シャーマナイト殿下を支えられる人間になりなさい…いや、これはお願いだ。どうか、あの方の孤独を埋めてほしい。」
「OZがいなくなればあの方は一人になる。」イアハートは悔しそうに呟いた。
ーーー孤独かあ。イアハート学園長にもできないことがわたしにできるとも思えないけど。
ライラが黙って首を傾げているとーーーイアハートは苦笑いした。
「わたしができればいいのだがーーーわたしはシャーマナイト殿下の魔力に耐えられないのだ。」
イアハートの言葉にライラは首を振った。
「確かにわたしはジョシュア様の魔力には耐えられます。ーーーでも、強さには程遠い。色なしというだけでなく、心だってこんなに脆い。」
そう言ってライラは再び泣きそうな顔になった。
しかし、イアハートはそんなライラを見て笑った。
「ライラック、君は勘違いをしている。ーーーまず、君は周りを巻き込む力がある。フェル、ミシェーラくん、デニスくん…自分一人の力である必要はない。周りに助けてもらえるというのも十分な能力だ。それに、心の強さというものは何だと思う?」
突然の問いにライラは固まった。
目を見開いて黙り込むライラを見て…イアハートは笑った。
「そんな顔をしないでくれ。ーーーわたしが思う心の強さは、傷ついてそれでも立ち上がった数、だ。」
思っても見なかった言葉に、ライラはぽかんと口を開けた。
イアハートは笑って話し続ける。
「ライラック、泣いてもいい。でも、諦めないでほしい。シャーマナイト殿下に仕えたいなら強くなってくれ。ーーー君はあの方を支える側近になれる、わたしはそう確信しているよ。」
「な、何でですか?ーーーもっと、ふさわしい方はいるってみんな言うのに。」
ライラが思わず言うとーーーイアハートは呆れた顔になった。
「そんな言葉を気にしているのか?言ってやりなさい、『自分がなってから文句を言え』と。」
イアハートの言葉に、ライラは真顔で「もちろん言ってやりました」と即答した。
ライラの顔を見て、イアハートが声をあげて笑った。
「それくらい押しが強くないとあの方の周りはダメだからな。ーーー何しろいつも自分の魔力で傷付けやしないかと怯えておられる。しかも、放っておいても何でもできてしまうからまた困ったものなのだ。」
その辺りでフェルが「そろそろ寮で休もう」とライラの声をかけた。
胸に手を当てて別れの挨拶をするライラを見て頷いたイアハート。
そしてーーー最後に思い出したように言った。
「ーーーそうだ、一つ言い忘れていた。…ホーインボーシューサックだが、余命は二十五歳だったそうだ。そして、享年は三十四歳だ。繰り返しになるが諦めないでほしい。奇跡は自分で起こすものだとわたしは思う。」
ライラとフェルは二人で移動プレートに乗った。
イアハートはシャロンをからかいに行くと言っていた。二人は旧知の仲らしい。
二人の間には会話はなかった。
でも不思議と満ち足りていた。
寮の部屋に入ってから…ミシェーラが心配そうな顔で駆け寄ってきたが、すぐに「あれ、元気になってる!」と叫んだ。
ライラとフェルは顔を見合わせーーーぷっと吹き出した。
不思議そうに首を傾げるミシェーラをギュッと抱きしめながら、ライラは笑った。
「イアハート学園長って…人の上に立つべくして生まれてきた人なんだろうね。」
何かあったの?と首を傾げるミシェーラにライラはふふふと笑った。
ミシェーラはライラの余命のことは知らない。
だから言えない、言えないのだがーーーどうしても緩んでしまう顔だけは抑えられなかった。
笑い続けるライラに首を傾げていたがーーーミシェーラは少し意地悪そうな顔になって言った。
「でも、イアハート学園長シャーマナイト様のファンでこっそり写真集めたりしてるらしいわよ?」
ミシェーラの言葉にライラは、ばっと顔を上げた。
そして急に真顔になってミシェーラに詰め寄る。
「ミシェーラ、その写真ってどこで買えるのかな?」
「そっち!?」と目を見開いたミシェーラ。
ライラのファン活動癖は側近にように扱われるようになっても治らないのだった。
◯
イアハートは特別寮の最上階で久々に古代文書を取り出していた。
ライラとフェルを見て、どうしても気になったのだ。
文書の名は『本因坊秀策の日記』。
記憶を辿りつつページをめくるイアハート。
ピタリと彼の手が止まる。彼の使役獣であるワードウルフが膝に頭を乗せてきた。
豊かな黒色の毛並みを撫でながらイアハートは手に馴染むほどに読み込んだその古代文書のページをめくる。
黒竜は私を丸呑みにしようとしていました。
でもなぜか、碁石を見て固まりました。
黒竜は宝石が好きなようでした。黒石の瑪瑙が気に入ったようなのです。
美しい生き物の目に好奇心の色が映るのが嬉しくて、私は碁笥から次々と石を取り出しました。
その数は181個。たまたま新調した碁笥を持っていたのが幸いしたのです。
181個の石を並べる私をじっと見ていた黒竜は言ったのです。
「それを我によこせ。」
私は感動で打ち震えました。
美しい生き物の言葉がわかるとは何と素晴らしいのでしょう。
彼の気まぐれか、瑪瑙が気に入られたのか、私は食われませんでした。
話し相手としてそばに置かれたのです。
しかし、幸せな時間は長く続きません。
私は医者が匙を投げるほどに身体が弱いのでした。
慣れない環境で食事も取らず、私はすぐに動けなくなりました。
あとから魔素が過剰すぎたと判明するのですが、ともかくその時に私は死ぬと分かりました。
美しい彼が泣いていました。
私はただその涙を見つめていました。
すると、空気中に漂っていた魔素が「無」になったのです。
息が吸えるようになった私は仏様に感謝しました。
「ーーー美しい生き物の横で私は五年生きました。あのような環境で長い年月を生きれたのは奇跡に近い。…死に目に私の持ってきた瑪瑙を抱えて彼は泣いていました。」
イアハートはふっと口元を緩めた。
「黒竜さまの加護が打ち切られるこの時期にシャーマナイト殿下のもとにフェルとライラックがいるのは…。」
偶然か必然か、ほぼ同時刻にジョシュアもまた過去の夢を見ていた。
彼がみるのは悲しい黒竜の記憶。
柔らかそうな草が積み上げられた上に苦しげな表情を浮かべた色白の青年が横たわっている。
その少年をじっと見つめる大きな黒い塊。
黒竜がどれほどあがこうと、黒竜はこれ以上は秀策の命が続かないことがわかっていた。
黒竜は未来がみえたのだ。
「親に子供の顔を見せたかったなあ。」
そう言って秀策は笑った。
人間は皆これほどに御人好しなのだろうか。
自分が死ぬと言うのに笑っているなど信じららない。
一人にしないでくれ。
「子供…繁殖のことか?」
黒竜はいった。彼の住んでいる周りに動くものはいない。でも植物はあった。だから生き物は増えるのだと知っていた。
秀策は「ハンショク」と呟いて笑みを浮かべた。
「ふふふ、そうだよ、まあでも君と過ごせたから…」
秀策はそこまで言うと苦しそうに咳をした。
苦しそうなぜい鳴がなる。
真っ赤な血が口の周りについている。
肺から出血していて痛いのだろう。苦しそうに顔を歪めている。
黒竜は必死に秀策に治癒の魔法をかけた。
でも、彼の命の灯火は確実に弱くなっていくのがわかる。
黒竜は悟った。
命の時間は変えられない。
魔法の力をもってしてもその規則だけは歪められないのだ。
だから、想いを受け取ることにした。
魔法を使って契約したのだ。
黒竜はヒューヒューっと息をあげる秀策の口に耳を近づけてーーー最期まで彼の命を聞きながら言った。
「…わかった。お前の肉体が死んだら私が入って子供を作る。これは《《契約》》だ。」
「そ、で…か。それなら、千年…た、ても安心…。」
世界は暗転する。
いや、暗くなったのは黒竜の心だ。
黒竜は千年近く生きていて初めて知った。
魔素の色以外にも色はある。ーーー愛するものが消えてしまうと、世界の見える色は変わってしまうのだ。
一人になった。
ユグドラシルをかじった。いたい。
世界を壊さなければ。いたい。
ちがう。壊してはいけない。約束した。
だから人の姿なのだ。
黒竜は秀策を器とすることでひとになることを覚えた。
「シュウサクがいなくなってから同じになれても意味がないのに…。」
ジョシュアはがばっと起き上がった。
自分の魔力が溢れ出しているのを見てーーー舌打ちする。
壊したい。
壊したい。
全てなくなってしまえ。
どうしようもない破壊衝動が湧き上がってくる。
彼の部屋に置かれた調度品がカタカタと揺れる。
寝台の横に置かれていたワインの入っていたグラスはパリンと音を立てて割れていた。ジョシュアの魔力に耐えきれなかったのだ。
ジョシュアは乱暴に髪をかき上げると素足のままで窓へと歩み寄った。
それだけでガラスが割れる。
ジョシュアは素足や顔に破片が刺さるのを気にした様子もなく、窓枠へと飛び乗った。
そして躊躇いもなく、六階建ての離宮から夜の闇へと飛び降りる。
ヒュウウウウ
風切音。
ジョシュアは着地に備えようとしてーーーふっと笑みを浮かべた。
バサリバサリ。
やってきたのは相棒の黒飛竜。
ストンと彼の背中に着地して、ジョシュアは「◾️◾️◾️◾️」と言った。
呆れたように首を振った黒飛竜は空中を旋回するのをやめて東に向けて飛び立ったのだった。