3の五 パーシヴァルのわがまま
ミーティアウィークが終わり、ライラは生徒たちが行き交う昼休みの学園内を、ご機嫌で歩いていた。
フェルはそんなライラの後ろを呆れながら飛んでいる。
午前中に行われた複合魔法学の小テストで、赤と青の魔素混合割合を逆にしたため、ライラはフレイザーにC評価をつけられていたのだがーーーそんなことも、ここ一週間絶好調のライラにとっては些細なことだった。
ライラは食堂でパンプキンタルトを大量に買い込みーーー植物園へと向かっていた。
そして、中央のスイレンの池のベンチで寝ているパーシヴァルの元へと走り寄る。
「ーーーパーシヴァル様!今日もパンプキンタルト買ってきましたよ!」
そう、ライラのご機嫌の理由は、二週間のパーシヴァルの学園滞在だった。
ミーティアウィークが終わり、黒竜の儀の調査メンバーにも休みが与えられたらしい。ミシェーラが毎日学園に来ているし、こうしてパーシヴァルも学園にいる。
ーーー本来、休学している彼は王宮にいても良さそうなのだが、パーシヴァル本人が学園にいたいとごねたらしい。
そして、普段ならそのわがままの相手をするレイモンドが、実家に帰ってしまったのだ。
「来年以降は帰れるかわかんないしね。パーシヴァル様も今帰っとけって言うし。」
ーーーという理由で…若干心残りがありそうな様子を見せながらも去っていった彼に代わり、パーシヴァルのお世話はライラに回ってきた。
ライラは、わたしでいいんですか?と首を傾げたのだが、レイモンドはライラちゃんにしか頼めない、と真顔で言ってきた。
「ほら、よそ行き用の顔できるようになったけどさ、せっかくの休暇なのにかわいそうじゃん。だからこそ、学園にいたいって主張してるんだろうし。ねえ、パーシヴァル様?」
パーシヴァルは無言をもってレイモンドの意見に答えた。
まあ、概ね正しいのだろう。嫌だったらちゃんとパーシヴァルが言うのがわかっているため、ライラも喜んで引き受けた。
パーシヴァルの食事内容や、おやつの量を話し合うレイモンドとライラを見てーーーパーシヴァルは眉間にシワを寄せた。
「お前らさあ、俺年上なんだけど。まるで、ガキの世話するみてえじゃねえか。何が、おやつは三品まで、だよ。」
パーシヴァルが不機嫌になると魔力が揺れる。
これに普通の人は萎縮してしまうのだがーーー残念ながら、ここにいる二人は「普通の」生徒ではなかった。
「はいはい、じゃあ、おやつは二品までにしましょう。ーーーライラちゃん、ずっと寮の部屋に閉じこもったらあれだから、ちゃんと散歩もさせてあげてね?」
パーシヴァルから結構な勢いで投げつけられた魔力の球も、レイモンドはなんでもないことのように避けていた。
イライラとソファを叩き始めたパーシヴァルをライラが宥めようとしたがーーー逆効果だった。というのもーーー
「そもそもさあ、お前とジョシュアが俺を伝書鳩みたいに使うからイラついてんだよ!初等部の手紙の回しあいっこかよ!直接渡せよ!会ってただろうが!」
ライラはソファをボフボフと叩きながら怒るパーシヴァルを見て、睨まれているにもかかわらず、今日も可愛いなあ、などとのほほんとしている。
ニコニコ笑うライラを見て、パーシヴァルはちっと舌打ちした。
魔力の球を投げることはしない。パーシヴァルは何気にライラに対して過保護なところがある。レイモンドに行うような八つ当たりはしないのだ。
その証拠に今もソファを叩くのを止めるとーーー眉間にシワを寄せてライラに向き直った。
レイモンドがクスリと笑う。パーシヴァルのこの表情は心配している顔だとわかっているからだ。
「ーーーそれで?仲直りできたわけ?」
パーシヴァルの問いかけに、ライラがはて?と首を傾げた。
「ーーーそもそも喧嘩なんてしてませんよ?…なんでジョシュアさまは、わたしのところにマントの布地を送ってくださったんでしょう?」
本気で不思議そうなライラに、パーシヴァルがいっそう眉をひそめる。
「え?またお前ら会話も十分にしてないの?どう見てもややこしくなってると思ったけど。」
パーシヴァルの意見にーーーライラへの連絡事項を書きつけていたレイモンドが会話に参加してきた。
ちなみに、フェルは先ほどからレイモンドが護衛報酬の先払いね?と言って差し出した魔石をバリバリと食べ続けている。彼はいつでもハラペコらしい。
「そもそも、なんでライラちゃんは布地を返したの?貰っちゃえばよかったじゃん。」
レイモンドの指摘に、パーシヴァルが仏頂面でうなずく。
しかし、ライラにも言い分があった。
メモを回収された話をするとーーーーなぜか、パーシヴァルとレイモンドが泣きそうな顔になった。
ーーーあ、二人はわたしの余命のこと知ってるのね。
ライラは二人の顔を見て苦笑いになる。
しばし、沈黙が落ちーーーフェルの咀嚼音だけが室内に響いた。
しばらく黙っていた三人だったがーーーパーシヴァルが、何かを振り払うように首を振り、いつもの表情に戻ってライラを見つめ返した。
「あいつが100%悪いわ。ーーーでも、お前はそのジョシュアの側近になりたいって言ってるんだから、行動パターンぐらい読めるようになれ。俺に頼るな。夜中に空中から腕だけ現れるのはもうごめんだ。」
パーシヴァルがなかなかに無茶苦茶なことを言う。
しかし、ライラはそんな理不尽ともいえる要求にも真面目に頷いている。
「OZさんに聞いてジョシュア様の行動パターンを予想できるようになります!」
◯
パーシヴァルに昼食とおやつを届けたライラは、急いで自分の教室へと戻っていた。
そして、デニスとミシェーラのすぐ横…窓際の席へと座る。
「ここに座ってる子、ーーーというか、この周りの子たちいつも昼休みいないけど?」
ライラの疑問に対し、デニスとミシェーラは確かに、と頷いた。
ーーー二人はもちろん理由くらい予想できているのだが、ライラにわざわざ言う必要もないと思っている。
「「なんでだかわからないナァ。(俺たちがいたら座りづらいんだろうな(でしょうね))」」
黒薔薇団への加入が決まっている三人は、クラスでちょっとした憧れの存在になっている。
デニスの元には、ジーゴプレートが届いたら乗せてくれと頼みにくる生徒が多いし、ミシェーラの元には、いつも通りファンがやってくる。
まあつまり、三人でいるとちょっと遠巻きにされているのだ。
ライラはファン以上に「なんであいつが?」といった反感を抱く者が多いので、あまり自分たちが憧れの目で見られているという実感が湧いていないようだった。
「ーーーエゲート様元気だった?」
デニスの疑問に、ライラがうん、とうなずく。
「でも、朝から全然動いていなかったから、放課後どっかに連れ出そうかな。」
うーんと悩むライラにミシェーラは苦笑いだ。
「あの人は本当に暇さえあれば怠けるわね。ーーー前世は猫か何かだったんじゃないかしら。よく日向ぼっこしてるし。」
彼女は一緒に「役割者」を探す中で、パーシヴァルの怠け癖にだいぶ苦労したらしい。
「本当に必要最低限のことしかやらないの。他は全部わたしとレイモンドさんと、護衛の騎士たちに丸投げ。ーーーまあ、なんだかんだ私たちがやるから、パーシヴァル様も怠けるんでしょうけど。」
護衛の騎士二人は完全にパーシヴァルのファンなのだそうだ。
「火に飛び込めって言われればやるわよきっと」ーーーというのがミシェーラの見立てである。
「まあ、わたしも飛び込めって言えば飛び込むし、普通なんじゃない?」
ーーーなどとライラがのたまい、デニスとミシェーラが引いていた。
「パーシヴァルさまの側近って過激な奴らばっかじゃねえ?」
レイモンド、クリストファー、ドロレスーーーとデニスが名前をあげ、わたしも過激派だしね、とライラが相槌を打った。
ミシェーラはすっかり呆れた顔になっている。
「過激だっていう自覚はあったのね…周りに人置くの嫌いそうだし、基準が厳しいのかもね。」
◯
魔法倫理学という、生徒たちがおじいちゃん先生は睡眠魔法の使い手なんじゃないかと噂している授業をなんとか終えたライラは、パーシヴァルを後ろに乗せて、学園内を高速で移動していた。
行き先は部活棟だ。
アツムに呼び出されたためである。
課題があるので無理ですと断ったのだが、アツムが課題を教えるから来いと引かなかったため向かうことにしたのだった。
「ーーー課題も見てあげるし、エゲート様も連れてきていいから!」
ーーーと、完全にライラの断り文句をつぶしにきたアツム。
ライラも、そこまでいうのならとすやすや眠るパーシヴァルの肩を担ぎ、半ば引きずるように歩かせて移動プレートに乗っけたのだ。
いつも通り奇妙な形の部活動棟の前に到着すると、パーシヴァルがパチリと目を覚ました。
うーんと伸びをしている。流石に起きる気になったらしい。
「壁張りの黒魔法で持っていかれた分の魔力、だいぶ戻ったな。」
あくびをしながらそうこぼしていたのが昨日のことだ。
すっきりとした表情を見る限り回復したのだろうか。
ライラがそんなことを考えていると、パーシヴァルがウォーミングアップと言わんばかりに、肩をぐるぐると回した後で黒に近い魔力の球を作って絵画に投げつけている。
「がるるぅぅん。」
ーーー心なしかいつもよりも満足そうな表情で魔力の球を頬張る黒竜。
絵画の黒竜は黒の魔力が好き、というライラが知っていてもどうしようもない情報を得ながらも、開いた扉をスタスタとパーシヴァルが歩いていく。
ライラがその背中を追いかけながら、あっちです、こっちですと、どこかへ歩いて行ってしまいそうなパーシヴァルを軌道修正する。
「えー、調理部の方がお菓子くれるぞ?」
だとか、
「魔法薬草部は飲み物のストックが多いんだよ。」
などと言ってパーシヴァルが勝手に目的地を変えようとするのでライラはなかなかに苦労した。別行動はするなとライラはレイモンドから釘を刺されている。
なんとかボードゲーム部の扉の前に立った時、ライラは物凄い疲労感に襲われていた。
フェルがライラに協力して浮遊魔法を使わなかったら多分無理だったように思った。
パーシヴァルは王族なので光らせてもいいだろう、という雑な判断による学園内での浮遊魔法決行なのだがーーー予想通り、周りの生徒が何か言ってくるようなことはなかった。ギョッとしたように振り返るのだが、すぐに消える光を見て、黒魔法と勘違いするのだろう、何やら嬉しそうに頷いて皆去っていくのだ。
扉の前でゼエゼエとライラが息を整えているとーーーパーシヴァルがまたふらふらとどこかへ歩いて行こうとし…バタン!と音を立てて開いた扉の中から出てきたアツムに捕まえられていた。
「エゲート様、部活棟で餌付けされたら旦那がまたやきもち焼くでしょ。ふらふらするんじゃないよ。ーーーライラちゃんいらっしゃい。こいつ連れてくるの大変だったでしょ?」
どこかで捕まってるのかと思って迎えに出ようとしていたというアツム。
「ーーーもう少し、早く探しにきて欲しかったです。」
背は高いもののライラは筋力がないのだ。
余裕でパーシヴァルに引きづられてしまう。
脇に手を入れてふざけたように上下させているアツムがはじめからいてくれれば、これほど疲れなかったのにと思わざるを得ない。
「おい、アツム、やめろ!」
「おー、おー、怖い怖い。エゲート様久しぶり!頑張ってるんだってね?」
ワイワイと賑やかに騒ぎながら、アツムによって室内へと案内されたライラたち。
二人は黒薔薇団での知り合いなのだ。
同学年ということもあり仲はいい方で、特別寮でも何かと遊んでいたらしい。
「ボードゲームはエゲート様本当に強いから。ノート写させてあげる代わりに、相手してもらってたんだあ。」
「なるほど、パーシヴァル様授業出てませんもんねえ。」
生温い視線がパーシヴァルへと向けられるが、当の本人は全く気にした様子がない。
ボードゲーム部にいたフィメルたちから献上されたスイーツを、なぜかフェルも一緒になってむしゃむしゃと食べていたのだがーーーふと思い出しとように顔をあげた。
「今年お前卒業か。ーーーめんどくせえな、誰に頼もうかな。」
うーんと考え込みながらも、パーシヴァルはクッキーを食べる手を止めない。
サクサクという軽い音とともに、みるみる減っていくクッキーの山。
ライラはそんなパーシヴァルを止めることもなく、ニコニコと眺めている。
「パーシヴァル様は手掴みでもどこか品がありますね。」
さすがは尊い、とうなずくライラを見て、アツムはレイモンドに、「預ける人選を間違えたのでは?」と思ってしまったのだった。
IGOを始めた二人の横でライラは課題を広げながらーーーカリカリとペンを動かした。ライラが課題に苦戦していると、時々対局の手を止めてアドバイスをくれる二人。
優秀な先輩二人のもとでだいぶ課題が進み、ライラがかなり満足したところで、ふと首を傾げた。
「ーーー何でアツムさんは今日わたしを呼び出したんですか?」
ライラの問いかけに、ああ、とアツムがうなずいた。
課題が終わってから話そうと思っていた、というアツム。
ライラは広げていたワークをパタンと閉じて、アツムに向き直る。
「だいぶ区切りはついてます。ーーーそれで?」
アルムはクリスタルでできた盤面を睨みながらーーー世間話でもするように言った。
「ライラちゃんに卒業試験のサポートメンバーになってもらいたくて。ーーー他の人から依頼受けてる?」
卒業試験?と言って首を傾げるライラ。
しかし、対戦中でも自分の手番でないせいか、暇そうにしていたパーシヴァルがギョッとしたようにアツムを見た。
「お前、それ二月の話だろ。どんだけ気が早いんだよ。」
パーシヴァルのツッコミにーーーアツムはようやく盤面から顔を上げた。
そして、彼にしては珍しく、少し気まずそうに言う。
「俺、高等部の進学で奨学金とりたくてさ。ーーー最低でも五位以内、できれば三位以内で卒業したいわけ。…俺らの学年当たり年とか言われててライバル多いし、優秀な生徒は早めに確保しないと。」
王族のお坊ちゃんには関係ない話でーす、と笑ったアツムに対し、パーシヴァルもニヤリと笑った。
「庶民は大変だなあ?」
「いかにも」なパーシヴァルの態度に、アツムが呆れたような顔になった。
ライラはそんな二人のやりとりをニコニコと見守っていたがーーーハッとアツムに向き直る。
そして、説明を求めた。ライラにはなんのことだかさっぱりだったのだ。
「入学ガイダンスで説明なかった?ーーー卒業試験の課題は三人一組のチーム制で全学年に助っ人は頼めるんだよ。卒業生の人脈も見てるって噂。力だけじゃこの先やっていけないしね。」
なんでも、卒業試験では魔獣を倒したり貴重な素材を手に入れて建物を造らされたりと様々な課題が出るらしい。
下級生からも選ばれるサポートメンバーは、優秀な生徒に限っていえば、毎年奪い合いになるそうだ。
ライラはそんな話は初耳だった。
「お前、下級生でサポートメンバーに選ばれるのは優秀な生徒の一部、って言葉でスルーしたんじゃね?」
ーーーというライラをだいぶ理解してきたパーシヴァルの指摘により、納得せざるを得なかったが。
「同学年で組んだ方が良くないんですか?魔法の習熟度とか違いそうですし。」
ライラの疑問にーーーアツムが難しい顔をした。
「同学年だとパートナーでもない限りお互いに足の引っ張り合いになったりするんだよねえ。ーーージェイクとリサはわかる?あそこはパートナーで確実に組むから、厄介なんだよ。」
ジェイクとリサはーーー以前、ライラが図書館棟の前で日が変わり、途方に暮れていた際に移動プレートに乗せてくれた二人だ。
美男美女だと思っていたが、ジェイクの方はなんと黒薔薇団らしい。
「言い方悪いけど、当たり年と外れ年ってあってね。黒薔薇団の生徒も結構偏ってるんだ。ーーーライラちゃんの学年は当たり年って言われるだろうね。君ら三人とライラちゃんの天敵の子、あとジェイクの弟の五人が黒薔薇団に入るみたいだし。」
ライラはこの発言を聞いて渋い顔になっている。
そうなのだ、ビバリーとは学年が変わるから関わりを絶てるかと思いきや、彼女も最近になって黒薔薇団に入ることが決まったらしい。
けらけらと笑うアツム。
しかし、ひょいっとパーシヴァルが盤上に打った一手に、うぐっという呻き声を上げている。
「ーーーま、負けました。ぐうう、相変わらず化け物みたいに強いな。一瞬で潰されたわ。」
はあ、とため息をつきながらアツムはガシャガシャと石を片付け…再び、対戦する気らしい。ハンデの置き石を一つ増やしている。
まだやるの?というパーシヴァルの問いかけにうなずくアツム。
ライラは、またはじまりかけた勝負を一旦止めた。
結局ライラがどうすればいいのか、きちんと教えて欲しい。
「ーーーアツムさんを卒業試験で手伝えばいいんですか?フェルが。」
ライラの問いかけに、アツムは笑った。ライラが、「フェルが」という点を強調したからだろう。
「そうそう、フェルちゃんの試験での使用は制限受けてないんでしょ?そんなのジョーカー並みに強いよね。ーーーあ、あともう一個たくらみがあってさ。」
にやりと笑ったアツム。
その笑顔がいかにも悪いことを考えていますと言いたげで、ライラは思わずのけぞった。
「ライラちゃんから攻略して、デニスも取り込もうかなって。ーーー正直、二、三年のフリーの子で、パッとしたのいないんだよね。デニスはすでに数件頼まれてるって言ってたから、これも俺の作戦。」
どう?とにこやかな笑顔でアツムが言った。
ライラは断る理由もないので素直にうなずいた。
よくわからない先輩を手伝うよりかは知り合いがいいよね、というフェルの意見もあってのことだ。
「黄色魔石百個用意してくれたら喜んで手伝ってあげるよ。」
ーーーというフェルの無茶ぶりに、アツムが若干青ざめていたが。
ライラは、フェルの食い意地に笑いつつ…早速デニスに電話をかけた。
デニスは最近の放課後は、毎日魔法剣術部に行っている。近々大会があるらしいが…。
部活中だからつながらないかと思われたがーーーちょうど休憩時間だったらしい。
デニスはすぐに電話に出た。
[ーーーどうした!?俺、五分くらいしか話せないけど問題でも起きた?]
慌てたようなデニスの声にーーーライラは苦笑いした。
ーーー確かに、デニスに電話かけるときは、校内で体力切れたとか、先輩に絡まれて閉じ込められたとかそんなのばっかりだったなあ。
自分の行動がデニスを心配させている事実を反省しつつーーーライラは違う違うと友人を安心させる。
「ーーーというわけで、アツム先輩のチームで卒業試験出ない?デニスがもう他のチームで決めちゃってるなら無理にとは言わないけど。」
[いや、ライラが誘われたら俺も便乗しようと思ってたから、誰の依頼も受けてねえよ。ーーーアツムさんなら安心だな。あの人強いし。]
デニスの声は大きいので、電話の声は筒抜けだった。
ライラの前でアツムがガッツポーズしている。
パーシヴァルは呆れたようにそんな友人の姿を見ている。
「お前、一年生にそんなに期待してて大丈夫か?」
しかし、アツムは強気だった。
逆に聞くけどーーーと言い返している。
「レイモンドはエゲート様が持っていってるし、ジョーハンナ様なんて怪我させるのが怖くて誘えないじゃん。割と最善解でしょ?」
パーシヴァルは無言で宙を見つめーーー確かにとうなずいた。
「ダスティンがぶっちぎりで、他の争いになるだろうな。ーーーライラとデニスならお前が次席になれるんじゃない?」
パーシヴァルのこの言葉に、アツムは深くうなずいている。
「まじで早めに確保できてよかった。ジェイクのところは課題次第では負けそうだけどーーーというかフェルが今までフリーだったことに関して、デニスに感謝だな。今年、メンバー確保の動き出しが例年より早いみたいで。…あいつ、番犬並みに威嚇しててライラちゃんに近づくことさえできないって噂になってるんだよ。」
「あいつ馬鹿だなあ。ーーーブライヤーズの奴らってそういうの多いよな。」
そんなことをこぼしながらも、パチリパチリとノータイムで盤上に置かれていく着手の正確さにーーーアツムは舌を巻いた。
本当に、パーシヴァルはどういう頭の作りをしているのか一度見てみたいとアツムはいつも思っている。
やる気はないが、それを補って有り余るほどの能力がパーシヴァルにはあった。
「俺としては、エゲート様がいないこともラッキーだけどな。そのおかげで一個順位上がったし。」
アツムのこの言葉にーーーパーシヴァルはなんでもないことのように言った。
「まあ、俺が出たら当然首席だろうな。ーーー黒竜さまにお前も感謝しとけば?」
ヒュー、自信家!とアツムはからかうが、パーシヴァルは事実だろ?と真顔で言った。
「うるせえ他の兄弟のためにセーブする必要なくなったし、魔力もなんか知らんけどますます増えて制御しやすくなったし。ーーージョシュア以外に魔法ってつく争いで負ける気がしねえ。」
パーシヴァルはそう言ってーーーさらに、ニヤリと笑って付け加えた。
「あと、お前にはハンデ三子でも負ける気がしねえよ。ーーーはーい、ここの石死んだよ。」
パーシヴァルの言葉通り、早くもIGOの決着がついていた。
ゲームが始まったばかりだというのに、もう少し続けたかったーーーアツムが項垂れるも、パーシヴァルは、あきた、と言って帰り支度をしている。
カバンにありったけの貢物のお菓子類を詰め込んだ後ーーーパーシヴァルはライラをペシりと叩いた。
意外にも優しいその仕草に、アツムが目を見張る。
驚きで顔をあげたライラの方にサッと手を伸ばしたパーシヴァル。
デニスとテキストで会話し続けていたライラの魔力通話を奪い取っている。
そして、ライラの驚く顔を無視して、横に置いていた鞄へと放り込んだ。
どうしたんですかと首を傾げるライラをーーーパーシヴァルは引っ張って立たせた。
「ーーー魔力乱れてる。熱上がってきてんだろ。もう帰るぞ。」
ライラは驚いたようにパチリと瞬きした後でーーーわずかな変化に気付いてもらえたという事実に破顔する。
はーい、とお利口に返事をして、ライラは嬉しそうにはしゃぎながら部室を出ていった。
パタンとしまった扉を見てーーーアツムは苦笑いした。
「ライラちゃんに怪我させたら多方面にボコされそうだなあ。」
デニス、パーシヴァル、ジョシュアーーー浮かんできた面々の濃さに、思わずアツムは頭を抱えたのだった。
パーシヴァルはジョシュアの面倒を嫌々ながらも見続けてきているので結構お兄ちゃん属性があります。




