3の二 家族
昼休みーーー今日も変わらず空に降り続ける魔石を背景に、デニスは、なぜかライラを連れて、図書館棟へと来ていた。
フェルに指示されるまま、動いた結果なのだがーーー医者に見せるのではなかったのか?という彼の疑問に、フェルは答えてくれなかった。
移動プレートにぐったりと横たわるライラをデニスが担ぎ上げるとーーー
二人を呼ぶ声があった。
「こっちよ!いつもとは違う入り口から入ってね。」
「げ、オネエじゃん。」
ライラたちに呼びかけたのは、図書館棟で働くシャロンだ。
デニスは嫌そうな顔をしているが、こう見えて二人が案外仲がいい。
ーーーデニスは時折、ライラの攻略法についてシャロンに真面目に相談に行っている。
そんなことをするから益々からかわれるのだが、デニスは他に良い相談相手が思い付かないのだった。
いつもの調子でデニスと会話しながら、シャロンは真っ白な部屋にに二人を招き入れる。
微かに薬品の匂いがする部屋には、ベットが一つだけ置かれていた。
壁際の戸棚には、デニスが見たこともないような薬品が所狭しと並べられてる。
ここまで来て、ようやくデニスは理解した。
ーーーシャロンが医者なんだ。
加えて、フェルがライラの鞄から取り出した紙に書かれている文言ーーー「国家医師資格」という文字を見て、思わずデニスはシャロンを凝視した。
ーーーこいつ、何者だ?
国家医師資格を保有する治癒魔法士は、国内で十名程度しかいない。
高度な治癒魔法が使える魔法使いの中で、さらに人体に関する専門知識を身につけた、限られた魔法使いにしか与えられない称号なのだ。
ーーー病人が列をなしたら困るから、王家が管理してるとは聞いてたけど…まさかこんな身近にいるなんて。
デニスの驚きの表情に、シャロンは気がつくと、悪戯っぽく笑った。
その顔がいつも通りすぎて、デニスはますます混乱した。
横たえられたライラの横にぼうっと立っていたデニスをシャロンは部屋の隅へと追い払うとーーー特殊な魔法陣が描かれた手袋をはめ、ライラの額に触れた。
魔力の流れを読み取っていたシャロンはーーー表情を曇らせた。
そして、朦朧としているライラの頬を優しく叩くことで、自分へと意識を向けさせている。
「ライラ、あなた薬とか飲んでる?」
シャロンの発言に、ライラがびくっと肩を揺らして固まった。
そして、ためらいがちに聞いてくる。
「な、なんでそれをーーー?」
「瞳の魔力の流れが前と違うから、魔法薬でも飲んで、魔力の流れをいじってるのかなって思ったのよ。魔道具は見当たらないし、薬かなと思ったのだけどビンゴ見たいね。しかもーーーデニスには言ってないのね?」
シャロンの発言の後、デニスが訝しげな顔をしたのだ。
そして、肯定したライラを見て眉を釣り上げた。
「ライラ、夏にエゲート様に怒られたのにまた体調不良を隠してるのか?」
詰め寄ってきたデニスを、シャロンがシッシと追い払った。
診察の邪魔だと言われてしまえば、デニスは引き下がらずを得ない。
代わりにターゲットとなったのはフェルだ。
デニスが責めるような目でフェルに問いかけるとーーーフェルはあっさり白状した。
「ライラは隠したがってたけど、黒竜に会いに行って道中で倒れて以来、熱が下がらないんだ。毎日、結構体温が高くてーーー寝てても治らないから、仕方なく毎日解熱剤を飲んでる。ジョシュアから薬を融通してもらってるんだ。」
ライラの症状は魔力の乱れによって引き起こされてるとかで、普通の市販薬では全く熱が下がらなかったのだ。
レイモンドが手配してくれたことで、最高品質の魔法薬を飲むことができているライラはかなり運がいいと言えた。
薬がなければ、ライラは多忙な学園生活を乗り切れていなかっただろう。
フェルの説明に、デニスは黙り込んでしまった。
その間も、シャロンは触診では満足できなかったのだろう。専用の魔道具を取り出してライラを診ている。
シャロンはライラの髪をどけ、額から頬、首筋へと魔石を滑らせ、魔力の流れを見ていく。
そして、心臓まで達したところで、手を止めた。
「ーーー癒しよ。」
シャロンが囁くように告げる。
シャロンの指先から大量の魔力が流れ出し、部屋全体がオレンジ色の光で包まれた。
ライラにはシャロンがすごく大掛かりな魔法を使っていることだけがわかった。
しかし、魔力を流しながらシャロンは優しくライラの頬を撫でており、難易度の高い魔法を使っていてもシャロンに余裕があるのがわかる。
ライラは自分の中の魔力がいじられているというのに全く不安を感じなかった。
五分ほどだった後でーーーシャロンの魔力の放出が徐々に弱まっていく。
途端、ライラは体がフッと軽くなるのがわかった。
ずっと感じていた、体の中を渦巻く魔力が落ち着いているのを感じる。
パチリと目を開けると、ばっと上半身を起こした。
「ーーーすごい!」
ライラはお礼を言おうとシャロンの方を見たがーーー彼はライラの予想に反し、難しい顔をしている。
「あの、シャロン?」
ライラが戸惑いがちに声をかけるとーーーシャロンはハッとしたようにいつもの笑みを浮かべた。そして、すぐに申し訳ないような顔になる。
「ごめんなさい、ライラ。わたしの力不足で、あなたの症状を治すことはできないわ。今は体が軽くなってるでしょうけど、すぐにまた熱が出ると思う。ーーー初めて見る症状だったから、少し考え込んでしまったわ。不安にさせたならごめんなさいね?」
そう言うシャロンの顔が少し強張っているのを見てーーーライラは自分の終わりへのカウントダウンが着々と進んでいることを悟った。
シャロンは医師として、患者を不安にさせないよう、感情を隠すすべを身につけていた。
ただ、ライラが前世の経験のせいか、他人の表情を読むのがうまかっただけだ。
ーーー前から知ってるから隠さなくていいんだけど…今はデニスがいるから何も話せないな。
ライラは先ほどから、空中でピタリと止まったままのフェルをチラリと見た。
そして、いつも通りの無表情のままーーーいつまでも辛気臭い顔で黙り込んでいるデニスを叩いた。
ーーーなぜかダメージを負ったのはライラの右手だったが。
「いった!デニスの筋肉どうなってるの!?」
いつも通りに文句を言いつつも、まだ顔色が戻りきっていないライラを見てーーーデニスはヘニョりと眉を下げた。
久々に見せたデニスの情けない顔に、ライラが吹き出す。
デニスは笑われたことで、ムッとしたような顔になったが、その表情もライラの笑いを誘っただけだった。
◯
放課後になった。
午前中の様子が嘘のように元気になったライラを見て、クラスメイトたちは目を丸くしていた。
ライラはそんな周囲の反応に気がついているだろうに、全く反応を返すことがない。注目されるのに慣れ切ってしまっているのか、一緒にいるデニスの方にだけ視線を向け、楽しそうに談笑したりしていた。
ライラと寮の前で別れた後ーーデニスは図書館棟へと引き返してきていた。
そして、険しい顔つきで、シャロンに歩み寄る。
シャロンは、デニスの表情を見て、何かを察したのか、自分の周りに集まってきていた司書たちに指示を出して、その場から解散させた。
「ーーー奥で話しましょうか?」
シャロンの提案に、デニスは黙って頷いた。
再び机に向かい合って座った二人。
先に口を開いたのはデニスだった。
「ーーーライラの病気は治せないのか?」
シャロンはなんと答えるか、内心思案する。
ーーーかなり余裕がなさそうね。ライラの前で我慢できただけ成長したかな?
そして、本当のことは伏せ、今の彼に必要なことだけを伝えることにした。
「わたしじゃわからない。言えるのはそれだけね。ーーーただ、解熱剤を飲んでいるといっていたけど、夜中は熱が上がっているはずよ。だから夜もうなされていると思う。最近、ライラが眠そうにしていることはなかった?」
「ーーー新学期入ってからは…特に感じなかったかな。あくびぐらいはよくしてるけど。」
「薬との相性が思ったよりいいのかしら?ーーーどっちにしても、ライラはかなり精神が強いわね。身体は薬でごまかせても、心の方は相当辛いはずよ。ーーーよく見ていてあげなさい、無理をさせすぎたら急に倒れると思うわ。」
「それはなんとなくわかる。今日もやばそうだった。俺が支えて教室移動したし。」
「支えてるじゃなくて、運んでる、の間違いでしょ?司書の間でも、噂になってるわよ。赤髪の子がイケメンで力持ちって。」
クスクスと笑ったシャロンを見て、デニスは嫌そうに舌打ちした。
シャロンは低学年の授業は担当しておらず、ほとんどの時間図書館棟にいるはずなのに、学園の内情にやたらと詳しいのだ。
噂に上りやすく、いつもからかわれているデニスは、シャロンのこういうところが苦手だと思っていた。
これ以上の話は聞けないと思ったのか、デニスはまだ笑い続けているシャロンをひと睨みし、部屋から出て行った。
デニスが出て行った後、シャロンは真顔に戻る。
そして、彼は頭の中でライラの症状と、黒竜の儀の時期を計算した。
ーーーライラの余命は持って三年、下手したら二年。黒竜の儀の関係者みたいだけど、「役割持ち」だったらかなりまずいな。一人欠けただけでも、儀式がうまくいかなくなるかもしれないし。
「二年後に出発して、儀式の場所を探すので間に合うか…。ライラが役割持ちじゃ無いことを祈るしかないか。」
そう呟いたシャロンの表情をライラたちが見たら驚いただろう。
いつもの温かみはオレンジの目から完全に消え去り、感情のないガラス玉が二つ、宙を見つめている。
彼は、完全に現国王サイドの人間だった。
彼の物差しは、王の役に立つか、立たないかでしか測られない。
シャロン=ベロー。別名「治癒の巫女」と呼ばれる彼は、黒竜の儀の参加者であり、王からの命令で、学園に潜み、能力者を探す王の側近だった。
彼が特殊なのは、その存在が伏せられ、ミシェーラやパーシヴァル、ジョシュアにさえ知らされていないことだ。
彼らには、治癒の巫女を探す必要がないことだけが伝えられていた。
「とりあえず、王に報告しようっと。ーーーーシャロンです。例のフェルの主人に接触しました…それでですね…。ーーーーひとまず静観ですね。かしこまりました。」
パタンと魔力通話を閉じーーーいつもの顔に戻った彼は、司書たちが待つ図書館へと歩き出したのだった。
◯
一方、デニスと別れたライラは、自室で参考書を広げかけーーーふと思い出したように、椅子をくるりと回してフェルの方へと向き直った。
クッションの上でもふもふと寝る姿勢を探していたフェルだったが、ライラの視線が自分に向けられていることに気がつくと、ライラの顔の前までスーッと飛んで行った。
「どーしたの?実践魔法学の課題でわからないところがあった?それとも、浮遊魔法の練習する気になった?それともーーー」
ライラは、スラスラと言葉を紡ぐフェルの口に人差し指を押し当てた。
フェルが目を見開いて話すのをやめる。
ライラはフェルが黙ったことで満足したようにうなずいた。
そして、ゾッとするほどに真剣な顔で問う。
「ねえ、フェル。ーーーわたしの病気は悪いのかな?…フェルの見立てで、わたしはあとどれくらい生きれるの?」
フェルは動揺を悟られないようにした。
懸命に、いつも通り振る舞おうとしてーーーライラの瞳が悲しげに歪んだのを見て、自分が失敗したことを悟った。
二人は魔力のパスで繋がっている。
滅多なことで動揺しない、静かな水面のようなフェルの魔力が、ライラの問いかけに合わせて、ざわめいたのだ。
すぐにいつも通りになったがーーーライラにとっては十分答えになっていた。
はあ。とライラのため息が落ちる。
部屋には静寂が落ちた。
ライラは宙を見つめていたが、やがて、コロコロという聞き慣れた音がし始めたことでーーー苦笑して、フェルに向き直った。
「泣かないで。フェル。ーーーわたしとの契約は解除していいから…。」
ライラが「解除」と言った瞬間、フェルの魔力がブワッと膨れ上がった。
そして、怒ったように、フェルがライラの指に噛み付いたのだ。
甘噛みと言うには少し強いそれにーーーライラは自分の失言を悟った。
「ーーーごめんて。でも、フェルには生きて欲しいもの。…それで、残り時間は?」
ーーーその様子だと知ってるよね?と言うライラの真っ直ぐな視線を受け、フェルは観念したように言った。
「ーーーボクの見立てでは二年。…シャロンのやつ、ボクがせっかく秘密にしてたのに!」
ボロボロと泣きながら、シャロンへの恨み言をこぼすフェル。
ライラはそんなフェルを苦笑いしながら見ていたがーーーしばらくして、噛みしめるように呟いた。
「ーーー二年、かあ。思ったより短いな。」
ライラの表情はフェルが見たことがないものだった。
フェルは戸惑ったようにライラ見問いかける。
「ーーーライラ、怖くないの?ボクの知ってる人間は、死ぬって聞くと、魔力が馬鹿みたいに震えるのに…ライラの魔力は、むしろ静かになった。」
ライラは不思議そうに首を傾げるフェルから視線を外しーーーフェルの瞳からこぼれ続けている、黄金色の魔石を拾って魔石灯にかざした。
金色の魔石が光を受けてキラキラと光るさまはいつみても美しい。ライラは口元にうっすらと笑みを浮かべる。
状況に似つかわしくないほど、明るい声でライラは言った。
「わたしはーーーずっと、小さい頃から魔力が荒れだしたら十年は生きれないだろうって言われてたせいか怖いって感覚はないんだ。心のどこかで終わりを待っていたのかもしれない。…死ぬって言われるまで気がつかなかったけどね。わたしの心には、両親が死んでからずっと風穴が開いているんだ。普段は王族の方に仕えて、幸せで埋めて、見ないようにしてるけどーーー二人のいる天に行けるなら、怖くはないかな。生きてても、大変なことばっかりだし。」
ライラは泣かなかった。
むしろフェルが今まで見た中で一案穏やかな顔で笑ったライラ。
いつもは明るいライラだが、両親を失い、周囲から色なしとして差別を受ける環境は、確実にライラの心に傷をつけていた。
その傷は一種の魅力となり、ライラを輝かせる一方で、十三歳の子供には重すぎるのもまた事実だった。
ライラの穏やかな表情ーーーフェルにはその顔が、ある人に重なった。
ーーー『フェル、先に夢の世界に行ってるね。…わたしの子供たちをよろしく頼んだよ。1000年くらいしたら追いかけてきておくれ。』
ーーーボクがいくら泣いても、ニコニコ笑ってるとこまで似てるよ。
フェルは魔石を落とし続けた。
ライラはずっとそんなフェルを眺めていたが…フェルの涙が止まるのを待って、優しい声で言った。
「ーーーねえ、フェル。わたしのわがままを聞いてくれる?」
フェルはライラの肩から移動し、顔の前に浮かんだ。
ライラと視線を合わせたフェルは、黙ってうなずく。
「ーーー契約は絶対解除して欲しい。それでわたしの代わりにジョシュアさまを守って?この国にはフェルの力が必要だと思うんだ。」
ライラの言葉にーーーフェルは、なぜかケタケタと笑い出した。
ライラはぽかんとした顔になりーーーやがて、拗ねたように眉を寄せた。
フェルは、そんなライラの顔を見ても、しばらく笑い転げていたがーーーなんとか息を整え、ライラに向けて舌を出した。
「ベー!そのお願いは聞けません!ボクは最期まで、ライラのために足掻き続けるし、ライラのいなくなったこの世界に残るつもりもないよーだ。」
ーーーあの方と、おんなじようなこと言うんだから…馬鹿だなあ、二人とも。
フェルはまさか断られるとは思っていなかったらしいライラの「なんで!?」という文句をスルーしながら、ライラの頬にすり寄った。
魔獣にはない暖かで、柔らかな感触。
フェルがこの世界で一番愛しい子供が、生きている感触。
フェルは改めて決意した。
ライラを、一分一秒でも長くこの世界に留まらせようと。
そして、いまだに膨れているライラに、すっかりいつも通りの態度に戻ったフェルが、呆れた声を出した。
「というか、ライラが笑えなくなったらボクが嫌だから黙ってたのにーーー死ぬのが怖くない人間なんているんだね?」
「やっぱりライラは変だ」そうこぼしたフェルに、ライラはキョトンとした。
「生き物はみんな死ぬんだよ?」
「いや、そういう哲学的なことが言いたいんじゃなくてーーーまあ、いいや。ライラが笑っててくれればいいし。」
はあ、とため息をついたフェルを、ライラが笑う。
そして、ありがとね、と言った。
「死ぬのは怖くないけどーーー正直、一緒にフェルが最期までいてくれるって聞いて安心した。一人は寂しいもん。」
でも、契約の解除は諦めてないからな!と言ったライラに、フェルがおかしそうに笑い声をあげた。
しばらく笑っていた二人だがーーーライラが何か思い出したかのように表情を曇らせた。
「どうしたの?」
首を傾げるフェルに、ライラが「嫌なこと思い出しちゃって。」と呟いた。
「ーーー今週末、親戚の集まりがあるんだけど、どうせろくなことにならないから。」
はあ、とため息をついたライラにーーーフェルが不思議そうな声を出す。
「嫌いなのに、なんで言われたことに従うの?」
ライラは口を開け、何かを言いかけーーーふと考え込むような仕草をした。
「ーーーそうか、嫌なこと、我慢しなきゃって思ってたけど…我慢しなくていいのか。」
フェルはライラの呟きに、首を傾げている。
嫌なことを我慢する、それは人間特有の感覚らしい。
ライラを守ると公言し、王族だろうが魔獣だろうが何が向かってきても歯向かう、死さえも抗ってやると公言する彼はどこまでもまっすぐだ。
「今回だけは、我慢して行く。嫌だけど、絶縁する前に、ちゃんと母さん、父さんにさよなら言いたいし。ーーーおばあさまとも話してこようかな。」
フェルは、不思議そうに「嫌なら行かないほうがいいんじゃないの?」と言った。
ライラはフェルの意見に、確かにと同意を示した。
でもね、と続ける。
「親戚のことは嫌いだけど、おばあさまは魔法学園に通わせてくれているんだから、もう帰らないことへの許可は取らないと。ーーーわかってもらえるかわからないけど、歩み寄る努力はしなきゃ。」
ーーーあと二年しかないなら、一個も心残りは残しておけないしな。
ライラは渋い顔をしながらも、親戚のところには行く、と宣言した。
フェルは不思議そうだったが、ライラが決めたことには反対しない、とだけ言った。
ライラの全てを受け入れる。
フェルにとっては当たり前のその態度に、ライラはどれだけ救われているのかわからない。
ライラはにこりと笑ってーーーごめんね。とフェルの頭を撫でた。
「フェルは、わたしに優しくしてくれるのに、わたしは何も返せないね。」
ライラの言葉にーーーフェルは、またもや不思議そうな顔になった。
「ライラがいてくれるだけで、ボクはいいのに。ーーー何で謝るの?ライラから何か貰いたいなんて思ったことないよ?」
無性の愛ーーーそんな言葉がライラの真中には浮かんだ。
両親を亡くしときから、知らぬ間に諦めていた自分に気がつく。
見返りを求めない、ただ生きていてくれればいいーーー家族のみに与えられると思っていた愛の形。
ライラが気がついていなかっただけで、フェルはずっとくれていたのだ。ライラが願って止まなかったものを。
余命宣告を受けても笑っていたライラの瞳から一筋の涙が流れ落ちた。
フェルが突然泣き出したライラに慌てたように、空中をおろおろと彷徨う。
しかし、ライラは笑いながら涙を零すという器用なことをしている。
ーーー母さん、父さん、気がついていなかっただけで、わたしには家族ができていたみたいです。




