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色なし魔法士は今日もご機嫌  作者: 橘中の楽
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1の十八 試験の終わりはワクワクの始まり

「次、ライラック=ガブモンド!ーーーお前珍しく機嫌がいいな?ロングバケーションが楽しみなのか?かわいいとこあるじゃないか!」


「いえ、違います。昨日人生で三番目くらいにいいことがあったので機嫌はいいです。」


「そうか!良かったな!そんなライラックの試験課題はこの火の玉百個を全て消すことだ!」


ーーーちなみに、一番は十歳の時の建国記念式典。二番はパーシヴァル様に使役術師のお願いをされた時だ。


うへへへと笑いミシェーラにその笑い方はやめろと注意を受けたりしている。

王族大好きなライラだが、一番敬愛しているのが次期王となることが確実視されているジョシュア=シャーマナイトだった。

次点でパーシヴァル。要は黒魔法にライラは魅せられていた。


ジョシュアの濡れるような漆黒の黒い髪、吸い込まれそうな黒い瞳。

そして見るものを魅了する黒魔法。


現王族どころかここ数百年で一番黒が強いと言われているジョシュアの黒魔法は見事の一言だった。

建国式典において、他の王族が、協力しながら光のシャワーを振りまく中、ジョシュアは一人で会場に「夜」を呼び、空に光のカーテンと無数の星を散らせていた。


式典用に披露された魔法はきっとジョシュアにとっては遊びみたいなものだったのだろう。

でも、ライラはその光景に感極まって泣いてしまった。


無言で号泣しながらも、一瞬でもこの瞬間を見逃すまいと目を見開いていた。


そんな必死なライラの姿を偶然視界に入れたジョシュアがーーー気まぐれに一羽の光の竜を飛ばしてくれたのだ。


ライラの目の前まで来て、光の竜は言ったのだ。

ジョシュアの声で。

「嬉しい時は泣くんじゃなくて笑うんだ」


低音で(ささや)くように伝えられたメッセージ。


ーーーそのあと記憶が戻り、ライラは昏倒することになる。


式典後にジョシュアは多くの子供達に、「竜のプレゼント」をしていることがわかり、別にライラが特別だったわけではないと知る。

それでも、ライラの中では「子供に優しいジョシュア様、素敵!」ーーーとなっただけだった。


数年たった今もライラの黒竜と王族への、半分以上はジョシュアへと向けられた敬愛心は変わっていなかった。



色なしにも関わらず黒竜を助けたいと言い放ち、王族への愛を溢れさせるライラを周囲は変人だと噂しているのだが、ライラは全く気にしていなかった。


ご機嫌で杖をくるくると動かして魔法陣を空中に描き、巨大な水球を作り出して、火の玉を消していくライラを見ながらーーーデニスがコソッとミシェーラに近づく。


「あいつなんであんなに機嫌いいの?」


「ジョシュア様の写真を手に入れたから?」


「ーーーは?」


「『プライベートの写真で普段より若干穏やかな表情でムリ』って言ってたから多分間違いないわ。」


「ーーーえ、しゃ、写真?」


「ほら、デニスも出てたよね?お誕生日会の時の写真とか送ってあげたの。文字どおり泣いて喜んでたわ。ーーー他のマスキラの写真を求めて泣きつかれるって体験をしたいのでなければ、デニスもジョシュア様の話はライラにしないほうがいいわね。」


ミシェーラの言葉にデニスはひくりと頬を引きつらせた。


「もしかして、ライラって重度の王族信奉者?パーシヴァル様だけじゃなくて?」


「そうね。一番好きなのがジョシュア様だけどパーシヴァル様に必要とされるのなら死ねるって真顔で言ってたわ。ーーーわたし、あなたの容姿は結構整ってると思ってたけど、ライバルがキツいわね。」


うんうんとうなづくミシェーラ。

そんな彼女もデニスからすれば十分に癖が強い。


「ーーーもうどこから突っ込んでいいのかわかんね。とりあえず…ライラ、結構いい成績で通るんじゃないか?」


デニスの言葉で、ミシェーラも視線を試験中のライラへと戻す。


「パワー系課題に当たったみたいね。昨日、魔力通話画面のジョシュア様の写真に向かって、お祈りしてたもの。『パワー系でお願いします、デリケートだけは勘弁してください』って。」


「ライラのデリケート系の課題ひどいもんな。星形作ったはずなのに、クマって言われてたよなーーーあ、終わった。」


ーーーライラの実技試験の成績は三十人中十位だった。

この前期実技試験で落第をもらったものが三人いたことを考えれば、かなりの好成績と言えた。

ちなみに、ミシェーラは三位、デニスは九位だった。

デニスは苦手だった青魔法の課題に当たったにもかかわらず、かなりの健闘を見せてアルフにバシバシと叩かれていた。


本当は明日も登校日で、筆記試験を含めた全体順位が張り出されるのだが…

ライラとデニスは今から魔獣探しへと直行だ。

日帰りの予定だったが、すぐには高位の魔獣に出会えない可能性があることを考えると、パーシヴァルの示した期限の三日後までかなりギリギリだった。


まあ、ライラは何故か大丈夫だという確信があったが。

デニスは初めてのライラとの校外へのお出かけに。

ライラは着々と自分の夢へと近づいている実感に。

それぞれがワクワクとした表情で移動プレートに乗った。

事前に購入してあった魔素回復薬を飲みつつ待ち合わせ場所まで移動する。


いつになくハイテンションで、ふんふんと鼻歌まじりにMからもらった本をめくっているライラを見ておかしそうにデニスが言う。


「ーーーそんなにジョシュア様のこと好きなの?」


「何いきなり?ーーーああ、ミシェーラが話したのか。もう好きとかいう言葉じゃ表せないかも。あえて言うなら…人生?」


真面目な顔でそんなことを言うライラに、デニスはふはっと声を上げて吹き出した。


「あはは、人生って。そこは生きがいとかじゃないの?」


「いや、わたしの人生は王族のために存在してると思うんだよね。だから人生で合ってる。」


真面目な顔で頷くライラを、笑いながらも…少し真剣な色をのせたデニスの赤い瞳が覗き込む。


「ーーー王妃様にあこがれたりするの?」


「いやいやいや、何言ってるの。そんな恐れ多いこと思うわけないだろ。ただーーー竜と王族の方々が楽しそうに戯れてる姿を毎日見たいとは思うよね。」


「毎日って結構貪欲だな!?竜種を所有されてる方は少ないし、騎士でも交代制なはずだぞ?」


ライラはデニスの発言を聞き、真剣に何の職がいいか検討し始めた。


「竜の餌やり係とかいないかな?」


「ーーー竜って自分で狩りに行くんじゃねえの?」


「…だよね。そう書いてあったけど王族の竜ならいいもの食べてたりするのかなって。」


いいものってなんだ?と首を傾げたデニスにライラが真顔で黒魔法のこもった魔石とかと応えた。


「黒魔法のこもった魔石なんて百万ポンとかするぞ!?さすがの王族でも使役獣の餌代にそこまでかけれねえだろ!」


ーーーコイツ、普段大人っぽいくせに王族のことになると急にバカになるな?


うーんと考え込むライラの頭が、移動プレートの手すりにぶつかりそうになったのを見て、デニスは自分のほうにライラを引き寄せた。


すると、ライラに思った以上に力が入ってなかったのか、転がるようにしてデニスの腿の上にライラが倒れ込んできた。


自分の脚の上にライラがいるという状況にデニスがパニックになる中ーーーライラは横になったことで眠気を思い出したらしい。ふあーっとあくびなどをしている。


「昨日嬉しすぎてあんまり寝れなかったせいで、そういえば寝不足だったな。ーーーデニスのあし硬いな。クッション取って。」


「お、おまえこのまま寝るのか?」


「え、引っ張ったからいいのかと思ったんだけど違うの?重い?」


「い、いや、重くはない。」


「じゃあいいじゃーん。ふぁー。ついたら起こせー。」


ライラはクッションを取ったまま固まっているデニスからクッションを奪い取り、頭の下に敷くと寝てしまった。


すよすよと寝息を立て始めたライラを見て、あまりの自由さにデニスは頭を抱えていたが…やがてため息をつくと、カバンに入れてある大判のタオルをライラにかけてやる。


よく見るとライラの目元にはうっすらとくまができていた。

皮膚の薄いそこをデニスがそっとなぞると、ライラがくすぐったそうに身じろぎした。

そして、頬に当たっていた手のひらにスリスリと頬ずりされる。

デニスは固まった。起きたのかと思ったのだ。

しかし、ライラが再び寝息を立て始めたのがわかり、脱力した。


「はああああ。心臓いくつ合っても足りねー。」


ーーーこんっっの小悪魔が!普段あんな感じなくせに、たまに凶悪的にかわいいのなんなの!?


内心罵倒しながらーーーほとんどが褒め言葉だったが、少なくともデニスは罵倒しているつもりになりながら、彼なりに今日のライラを注意して見ていようと決心する。

ライラは寝不足で疲れているのだろう。

そうでなくてもライラは華奢だった。

普段から鍛えているデニスからすると森で倒れないか心配になるほどに。

本人は鍛えているからがっしりしてきたかな、などと思っているため、周囲からそのような認識を受けているとは思っていない。


ちなみにデニスは試験前に関係なくいつもどおりの時間に寝ている。

デニスはライラのいう「ハイスペック属」だったのだ。



ライラが起こされたのは、森に入る直前だった。

なんと、デニスがライラを背負って森の入り口まで運んでくれたのだ。


「ーーー!!!デニス、ゴメンね!重かったでしょ?」


慌てて背中から降り、オロオロとその場で足踏みするライラ。


「ライラくらい運べなきゃマスキラじゃないって。ーーーで、どうなの?ちょっとは回復した?」


そんな銀の頭を見下ろしながら、優しい声色で応えるデニス。

ライラは見つめてくる瞳と目を合わせーーー首を傾げた。


ーーーやだ、めちゃくちゃイケメンじゃん。なんでわたしに惚れた?


チョロかったからか。


ポンと手を打ったライラの頬をデニスがつまもうとした。

逃げられたが。


「ーーーおまえ今失礼なこと考えただろ。」


「よくわかったね。デニスのイケメンの無駄遣いとチョロさについて考えてた。」


「いや、そこは嘘でもいいから否定しろよな!」


やいやいと騒ぎ始めた子供たちを周囲の大人はしばらく見守っていたがーーー


「はーい、二人ともそこまでにしようか。ここからは魔獣が出るからね、気を引き締めよう!」


Mさんの発言で、二人は自分たちが何をしにきたのか思い出したようだ。

恥ずかしそうにライラが謝る。寝ていたことも含めてだ。


「いいのいいの。むしろ、使役術師は契約の時以外は体力温存しておくのが役目だから。それにしても、12歳で寝てる人間運べるなんて、デニス坊ちゃんはかなり身体強化がうまいね。ーーー使役術師は騎士とペアで動くから、ライラックさんは今のうちに予約しておいたら?かなり将来有望だと思うよ?」


うちの子どうですか?とでも言いたげなMの態度。

ライラは少し圧倒されながらも、あごに手を当て真剣に悩み始めた。


ーーーデニスは今時点でもかなり魔力量が多い。剣の腕でも良さそう…結構優良物件だよね?


「騎士とペアで動くんですかーーーじゃあ、デニスがわたしが使役術師になったときにまだ組んでくれる気があったらお願いしようかな。」


ーーーそんなライラの発言を、デニスはしっかり聞いた。

ついでに言うとMも聞いた。彼らは当然これをただの口約束で終わらせる気などなかった。

じゃあ、わたしが証人ですねーなどとMが言い、しっかりと逃げ道もなくしている。


デニスはライラに見えないようにグッジョブマークをMにする。

Mもノリ良くウインクで返してくれた。

Mは使役術師として動くときはかなり気さくなタイプだった。


「ライラ、俺は騎士になって待ってるから、ちゃちゃっと使役術師になれよ。」


「言うじゃん?騎士団の倍率すごいって聞いたけど。」


「実力もコネもある俺なら余裕よ。それよりおまえが心配だね、」


「ぐっ、ど正論。」


プロポーズまがいのセリフになっているのだが、やはりライラはスルーしている。Mはそんな二人のやりとりを聞いて、まだまだ先は長そうだと、肩を竦めていたのだった。


ここでようやく、今回の魔物の森ツアーのメンバーが紹介された。

Mとペアを組んでいるという騎士と、Mの使役獣だという鳥型魔獣と熊型魔獣だ。


ライラたちははじめて使役された魔獣を見たのだが、魔力がMと完全に同質になっており、一眼で害がないことがわかった。


ここで、ライラが魔獣と話せることが話題になりMたちを驚かせたのだが…

あまり話し込んでいる時間もない一行は、出発することになった。


「では、行きましょうか?まずは南東にーーー」


ピロン♫


ちょうど3人が森に分け入ろうとするそのタイミングでライラの魔力通話がなった。


「送り主はーーーあ、ミシェーラだ。」


ライラのあげた声に、先行していたMが立ち止まる。


「ーーー先読みの。彼女はなんと?」


「『南西に迎え。大きな危険があるが、かけがえのない出会いもある』だそうです。」


ミシェーラの伝言を聞き、Mは何やら考えこむような顔になった。


「大きな危険ですか。ーーーそれにしても、直接伝言が来るのはかなり珍しいですね。…デニス坊ちゃんは竜証の確認はしてますよね?」


うなずくデニスを視界に捉えながら、ライラは思った。


ーーーまた、厨二病シリーズきたああ。


ーーーあれか、能力者とかいう人に、何か浮かび上がっちゃうんだろ?

ーーーで、「お、おまえ、ソノアカシワ!!」とか言っちゃうんだろ?


「ーーーとなると、やはりライラックさんか。ライラックさんは竜証の存在はご存知ですか?」


「ーーーライラなんで笑いそうなの?」


「いや、笑ってなんかないよ。失礼だな。」


にやけそうになっていたら、デニスに指摘を受けてしまったライラ。


慌てて真顔に戻る。

そして、竜証の説明をはじめようとするMをかぶせるようにして止めた。

腹筋のために。


「あれですか、名前的に能力者に竜っぽい印が現れるとか?」


「ーーーその通りです。帰ったら確認してもらいましょう。」


ライラに拒否権はなくーーー竜証を確認することは決定事項らしい。

ライラはそこでようやく、以前同様にミシェーラに変わったあざのことを聞かれたなと思い出した。きっと竜証の確認だったのだろう。


「では、南西に向かいましょう。大きな危険が待つらしいので気を付けましょうね。」


Mの声に、ライラとデニスがはーいと返事をした。



ーーーブブブ。

デニスはふと、自分の魔力通話が鳴ったことに気づく。


デニスは、同伴している騎士と共にライラとMが歩きやすいように邪魔になるような木の枝や大きな障害物をどけながら、画面を見るという器用なことをしていた。


「デニスも何か連絡来たの?」


「…おー、ヴァネッサからちょっとした用事。」


[デニスー!今から書くことは他の人には伝えないでね。最強の助っ人向かわせたから、多分かなりの強敵いると思うんだけど心配しないで。ライラが卒倒しないかだけ注意してあげて⭐︎ ミシェーラ]


ーーーーミシェーラちゃんよ。ライラが卒倒って、まさか王族じゃないよな?


ヴァネッサはデニスとライラのクラスメイト。

デニスはミシェーラとやり取りしていることを知られると、モテないニュートやマスキラからのやっかみがすごいので嘘をつくクセがついています。

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