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色なし魔法士は今日もご機嫌  作者: 橘中の楽
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19/103

1の十七 種明かしとライラの決意

ライラは昼休み中庭の一角でベンチに寝転がって、Mにもらった本を読んでいた。

ーーー決してミシェーラが休みだと教室で一人だからだというわけではない。

集中したかったのだ。魔獣のところに案内してもらうまでの期限も近いし。


なぜか自分に言い訳しながらライラはページをめくる。魔法で。


場所固定の魔法陣を展開しているので、側から見るとライラの頭上に本が浮いているように見える。先ほどから、通りすがりの生徒がギョッとした顔で二度見するのはそのためだ。


「やっぱここにいた。ライラ、その本もう読み終わったんじゃないの?」


呆れた顔で声をかけてきたのはデニスだ。

彼は学校であまりライラに話しかけるな、というライラの要望を律儀に守っていた。


「えー、じゃあ、一年生の間はいいよ。二年からはライラ一人になるから聞けないけど。」


「ーーーデニス、遠回しにミシェーラとわたしが一緒のクラスになるわけないって言ってる?」


「デニスにしては気が回るわね。わたしはたぶんAクラスだから、もし、BかCで同じになったらライラをよろしくね。」


「ミシェーラまで…。まあ、二年からは実技が増えるから間違ってはないけれど!」


ーーーそんなやりとりがあり、デニスは違うニュート達と行動している。

今は、昼休みに姿が見えないライラを探しにきたのだろう。

そして人気がなかったため話しかけた、というところだろうか。


ーーー人気がないときほど、噂になりやすいから話しかけんな、っていう思考はデニスにはわからないんだろうなあ。


じーっと見つめると、どーした?とデニスが首を傾げた。

ちょっとイラッとしたライラはーーー本に視線を戻し、デニスに両手を手を伸ばした。


「起き上がるのさえ面倒。ーーーデニス、引っ張り上げろ。」

「ミシェーラちゃんがいないとお前本当ぐーたらだな。ほら、ちゃんと座れって。」


ーーー噂されたくないのなら、こういうことをしなければいいのだが、そこまでは頭が回らないらしい。

いや、ライラのことだから考えるのが面倒になって、周りを気にするのをやめただけかもしれない。


とにかく、ライラは本に視線を固定したまま、デニスに引っ張り上げられ、ついでにくっついていた葉っぱや何やらを払われ、髪まで整えられていた。

デニスは少し名残惜しそうにライラの髪から指を離し…一行に自分へと向けられない、銀の頭に話しかける。


「ーーーその本ずっと読んでるな。Mさんにもらった課題はクリアしたんだろ?」


「んー。」


「でも気になるの?」


「いや、なんか読んでるだけで幸せな気持ちになる。」


「そっか。」


ポツリポツリと言葉を交わし、ライラが今は読書に集中したいと判断したデニスはライラにそれ以上話しかけることなく、ぼーっと空を見つめていた。


そんなデニスに、ライラがやっと本から視線を上げ、問いかける。


「なんかあった?」


「何も。ただ、ライラ午後小テストあるの忘れてない?」


「いや、覚えてる。ーーーさては、出そうなところ聞きにきたな。」


「あは、ばれた?ーーー教室戻ろーぜ。」


渋るライラをデニスは引っ張り上げる。

ライラが何とか歩き出したのを見て、こっそり息をつく。


ーーー間に合ってよかった。


実はミシェーラが一週間ほど休んでいるのだが、その間にライラへの嫌がらせが再発していたのだ。


デニスが潰して回っているのでライラはまだ気づいていないはずだが。


今も普段よく話す友人が、上級生が中庭に集団で向かったと教えてくれたためーーー急いでやってきたのだ。

筋力強化して階段を全飛ばしで来た甲斐があった。

ちょうどライラに向かって歩き出そうとしていた上級生達に鉢合わせしたため、手刀を叩き込んで、転がしておいたのが十分ほど前。

そろそろ起きそうだとデニスはハラハラしていたため、ライラが戻る気になって良かったと内心安堵していた。


そんな思いなど一切表情に出さずーーー(にぎ)やかに話しながら教室に戻り、ライラに頼み込んで見せてもらったプリントの写真を撮って、デニスは仲間の元に戻る。


「おつかれーーー間に合った?」


「まじでギリギリ。でも間に合った。情報提供ほんとありがとな。」


先ほど上級生のことをデニスに教えた生徒は、デニスの想いが誰に向けられているか正確に把握している数少ない一人だった。

ミシェーラ推しだったので、よく彼女と幼なじみのデニスにエピソードをねだっていたのだ。

三角関係の噂が出たときにはどういうことだとデニスに詰め寄った。

そして、苦笑いするデニスを見て何となく察したのだ。

デニスの想いの相手がミシェーラではないことを。


あとは簡単なことだ。デニスの視線の先にいるのが誰なのかみれば答えは明白だった。


ーーー他の奴らには、ミシェーラちゃんのこと見過ぎ!ってからかわれてるけどな。


見てねーよ!と言ってデニスは否定するのだが、周りはハイハイ、と言って相手にしていない。


今ももらったテストの対策の写真を見るわけでもなく、背を向けているライラを見る友人に苦笑いが浮かぶ。


ーーーほんと見過ぎ。しかも、視線がこえー。


怖い、怖いほどに甘い。


杖を片手に教室では驚く者のいなくなった「本浮かし」を発動させるライラを見て、ホッと息をつくデニス。


「お前さ、小テストはいいの?」


「小テスト?昨日勉強したからヨユー。」


つまり、試験対策の写真も全てライラに不自然に思われないための言い訳だということだ。


「ーーーお前の健気さに、俺泣きそう。」


「ふはは。きもいだけだから泣くな。しかし、働きに免じてライラからもらった対策シートを送ってやろう。」


「ひでえな。って、おおお、まじか!助かるわ!」


ーーーライラックは今のところデニスに興味がなさそうだ。

でも、こんなにいいマスキラはいないからきっと想いは届く、よな?


「お前の顔、今日は一段とキモいな?」


「黙れよイケメン!!」



何となくデニスが教室の後ろで馬鹿騒ぎしている声が聞こえてはいたが…ライラはスッと杖を動かすことでもう何度目かわからないほど読み返している本のページをめくった。


Mに聞かれた時はなぜか蛇と答えたが、ライラはふわふわもこもことしたものが好きだった。

コーラさんに似ているらしいオレーンも、今めくっている図鑑には載っていた。

実際に図鑑の写真もふにゃーと鳴いているのだが…確かにコーラさんの声と似ているかもしれない。


ライラがこの「魔物・魔獣全集」にどハマりしているのには理由があった。


それは、なぜか、魔獣の発する言葉が理解できるのだ。


はじめて気がついたときにはテンションが上がった。

その場にいたシャロンにも報告したのだ。


「わたし魔獣の言ってる言葉わかるかも!」


「え、そうなの!?ーーーもしかしてライラって、『言語全能』のギフトもち?」


シャロンの言葉に、その部屋にいたデニスが振り返った。


「ライラが!?じゃあ、この言葉わかる?『Heute!Wie gehts?』」


「へう??今、デニスなんていった?」


「「…。」」


「…。」


デニスは隣国の言葉が多少わかるらしい。ライラにはわからなかったが。


「この魔獣なんて言ってるの?」


「お腹すいた、ここ暑い。」


「「「…。」」」


「魔獣の言葉だけ、翻訳できるのかしら?」


「す、すごいよな!ギフトじゃなかったってだけで、ほら。戦いでも役に立ちそうじゃね?」


「『お前のジャクテンハドコダー!』って?『教えるわけねーだろ!』って返ってくると思うわよ。」


「デニス、フォローになってなかったけど、ありがとう。」


「「「…。」」」



ーーーというやりとりがあった。

ギフトではなかったが使役術師を目指すのであれば、かなり有用な才能なのでは?という結論に三人は至った。


シャロン曰く、優秀な使役術師は『言語全能』のギフトを持つものが多いらしい。


その日は微妙な空気になったが、後日冷静に考えてみてライラははじめて才能らしい才能が見つかったのでは?と思った。


ーーー使役術師はたぶんわたしの天職だ。


Mさんから出ていた課題も三日とたたずクリアできた。

火の玉を百個出せ、というアルフの課題の方がよほどライラを苦しめた。

ライラの手には、魔法陣の描きすぎで手にペンだこができたほどだ。


「ままどこー!」と図鑑の中で叫ぶ魔獣の写真を撫でていたところで、教師が入ってきたために、ライラは本をしまって教科書を出す。


睡眠魔法でも使われているのかと疑ってしまうほどに眠たくなる、魔法史学の時間だ。


ーーーそういえば、デニスは試験勉強終わったのだろうか。


先生が板書を始めたのを確認してから、最後列に座るデニスを振り返る。

彼は気づかなかったが、横にいた生徒がライラの視線に気づき、デニスを突く。

鬱陶しそうに顔を上げたデニスだったが、友人の仕草で、ライラの視線に気付いた。


「(終わった?)」

「(バッチリ)」


口パクだったが十分に伝わったらしい。

デニスの返答に安心してライラは前に向き直る。


「…俺、ジュース奢られても良くない?」


「…80ポンのやつな。」


「よっしゃ。」



Mにライラたちが会った翌日から欠席していたミシェーラは十日ほどしてから学園に戻ってきた。

ちょうどその日は期末筆記試験の日だったのだが、ミシェーラは余裕そうな顔で解答用紙を埋めていた。


ーーーミシェーラってめちゃくちゃ頭いいのでは?


今日のために一週間睡眠時間を削ったせいで、ライラは少しよれっとしていた。

しかし、ミシェーラはいつも通りツヤツヤの髪を、高い位置で二つに括っていた。

その顔に疲れは見えない。

ライラは、ミシェーラが長く休んでいたので心配していたのだが、元気そうで安心した。


ーーーミシェーラは、たぶんあれだな。あの問題テスト範囲に入ってた?って聞くと、え、だって先生授業で言ってたよね?っていう子だ。テスト勉強?教科書読むのが中心かなーっていうタイプ。


ライラが世の中の不条理について考えていると、昼食を摂るためにミシェーラが席によってきた。

久しぶり!と笑う笑顔が可愛かったので、ライラは全てがどうでも良くなった。


そして、ミシェーラには聞かなければならないことがあった。あえて人のいない教室に誘う。

ライラはミシェーラが隠していそうなことについて問い詰めてみようと思っていたのだ。


ーーーこの長期欠席だって、明らかにその関係じゃない?デニスも知ってるみたいだし理由を聞くくらい問題ないはず…!


出席日数などが厳しいはずのこの学園で、ミシェーラが注意されている様子が見受けられない。

しかも、前と同じくミシェーラがいないタイミングでは、大抵全ての王族が学園を休んでいるのだ。

この「いかにも」感。そろそろばれてるからね?と言いたくなったライラは悪くないだろう。


ちなみに、なぜ王族が休んでいるのを知っているのか。

ライラは「パーシヴァル様頻出スポット」に毎日通っていたので間違いない。

昨日なんてレア度最高の植物園まで確認した。いなかった。

つまり、パーシヴァル様は学園にいなかった。


ーーー他の王族は、昨日偶然廊下で会ったコーラさんに欠席を教えられた。噂になっているらしい。


「ーーーパーシヴァル様もいらっしゃらないし、皆様休んでいるんですね。」


「わー!ライラ、エゲート様の出欠なんてよく知ってるね。」


「え、コーラさん同じ学年だから同じクラスですよね?」


「そうだよ、でも、エゲート様はいないのが普通だから、逆にいつ来てるのか知らないの。」


「…。」


ーーー今度パーシヴァル様に会ったら聞いてみようと思った。出席日数大丈夫なんですかと。


どうせ、明日の実技試験を終えたらすぐに魔獣の住処に出発する予定なのだ。

今日中にパーシヴァルを探して、使役術が使えそうなむねを報告したいとライラは考えていた。


小さく口を開けてもぐもぐと上品に食事をとるミシェーラを見ながらーーーライラは話を切り出す。

ちなみに食事はすでに終えている。野菜サンドなので、三口。速攻で食べ終わるのだ。


「ーーーミシェーラさ、王族に会ってきたの?」


「ーーーーーー。そうよ。」


「ミシェーラがよく欠席する理由。…そろそろ教えて欲しいな?」


ミシェーラが一瞬動きを止めた。そして、動揺を隠すように食事を続ける。


「いやよ。」


「何で?仲間外れそろそろ寂しいんだけど。」


「そろそろってーーーいつから気付いてたの?」


「うーん、いつからだろ。あ、パーシヴァル様から使役術師の話を聞いたときからだ!」


「もうすぐ一月経つじゃないの!」


「うん。言い出してくれるの待ってたんだけど、さすがに気になってさ。」


「ーーーいやよ、言わないわ。」


「どうして?」


「ライラが、巻き込まれることになるもの。」


「すでに巻き込まれてるんじゃないの?」


「何でそれを!?」


ライラはパーシヴァルに黒竜見学に誘われた時から自分が何かに巻き込まれ始めたのを感じ取っていた。

いや、本人の何がなんでもこの機会に関係者になってやるという野望もあった。

ライラは黒竜を助けるという夢をいまだに諦めていなかったのだ。


「ほら、だから教えて?」


「ーーーライラはこの話を聞いたらもう戻れないわ。まだ、関わらない道もあるの。」


「うん。」


「ーーーそれに、わたし、ライラが変わらないか怖いの。」


「んー、どういうこと?」


「わたしの能力を知るとね、みんな怯えるの。それでわたしと話すのを怖がるの。」


「ほーう、()()()かぁ。その中にパーシヴァル様とデニスは含まれる?」


「ーーーそういえばあの二人は変わらないわね。」


「良かった、デニスを血祭りにあげないですんだ。」



ーーーデニス、あなたの好感度全然足りてないみたいよ!!!


ミシェーラは親衛隊からの報告で、ミシェーラがいない間のデニスの働きを知っていた。

ミシェーラが手を出すまでもなく、何故か生徒の間には「一年の色なしに手を出すな。あいつには守護霊がいる」という噂が広がっていた。

ミシェーラは呆れたものだ。

一年生相手にまともに姿を認識もできずに昏倒させられた上級生と、それほどのことをやってしまえるデニスの両方に呆れた。


哀れな幼なじみに心の中で合掌しつつーーー金色の瞳と視線を重ね合わせる。

ミシェーラは観念するようにため息をついた。

逃してくれる気はなさそうだったからだ。


「ーーーどこから話そうかしら。まずは黒竜の代替わりと五人の役割者からかな。」



全てを…とは言わないが、ミシェーラは、少なくともデニスが知っているような内容は全て話した。


ライラは黒竜がもうじき寿命を迎えるという事実を知って呆然としている。

いくら反論したくとも、何人たりとも…たとえ黒竜であっても生き物である限り命の時間は決まっているのだ。


「こ、黒竜さまを助けることはできないの?」


処理落ちしたようにはくはくと口を開け閉めするライラを見て、ミシェーラは気の毒そうな表情を浮かべ…少し考え込むような仕草をした。

そして他言無用であると前置きした後に言った。


「この国で一番の黒竜さまに近い存在であるジョシュア=シャーマナイト様はこうおっしゃってたわ。『次代と我々グレイトブリテンの人間が良い関係を結ぶことを黒竜さまはお望みだ。ーーー千年国を守っていただいた恩を返すためにも、国民を失うようなイタリアの悲劇を繰り返してはいけない。』」


ーーーライラの金色の瞳がこぼれんばかりに見開かれた。


ライラの中で空に浮かぶ雲のようにふわふわとして、憧れていても手の届かない存在であった黒竜。


しかし、仲の良い友人であるミシェーラやあのジョシュアが黒竜の救済ーーーライラの望むかたちではなかったが、願いを叶えるために尽力しているという事実。


一度はあきらめかけていたライラの中に光が灯る。


次代という新たな守るべき存在が明かされたことで、ふわふわとしていた夢が繋ぎ止められたのだ。


ライラはミシェーラの言葉を咀嚼するように何度かうなずき、先ほどとは異なる強い光を宿した瞳でミシェーラを見つめた。


「つまり、黒竜さまの願いを叶え次代をお助けするのが今の王族と役割者の使命ってことだよね?役割者を探して継承の魔法を成功させるーーーそれならわたしの目標も同じだ。」


ミシェーラはそうねとうなずいた。すぐに次の目標を定めたらしいライラを眩しそうに見つめる。

そして少しためらった後で、話の本題…自分の役割である先読みの占い師について口にした。


「ーーーというわけ。わたしは役割者の行動、黒竜さまの加護継承のための契約魔法を行う儀式…便宜(べんぎ)的に黒竜の儀って呼んでるけど。黒竜の儀に関係する人の未来がみえるの。だから、わたしが『絶対』と言ったら大抵みんな従うわ。」


内心友人に恐れられるのではないかというミシェーラの懸念に気付いているのかいないのか、誰もいない教室内の椅子に座り、無造作に足を組んでいるライラはいつもと変わらない様子でふんふんと相槌を打っている。


「そっか、ミシェーラはいつ先読みの占い師だってわかったの?」


「生まれた時からよ。両親がすぐに王家に報告したの。だから王族とは幼い頃から付き合いがあるわ。」


ミシェーラの思わぬカミングアウトに、ライラがダンッと音を立てて立ち上がった。我慢できないとばかりに大声も上げている。


「えええええ!!!王族とってことは、王太子のジョシュア=シャーマナイト様にも会ったことある??」


ライラの突然の行動にミシェーラがびくりと肩を震わせた。


「え、ええ。ニュートだけど長身で、将来良い体になりそうだなと思ったわ。」


「あるのか…くっ、どうしてわたしはミシェーラじゃないんだ。」


頭を抱えた状態でその場にしゃがみこみ本気で落ち込みはじめたライラ。

そのあまりにいつも通りすぎる姿に、ミシェーラは笑ってしまった。


「ふふふ、ちょっとライラ。今の話を聞いて気になるのそこなの?」


「いや、気になるとこはあったよ?でもさ、ジョシュア様と幼なじみなんて羨ましすぎて、もう何も入ってこない。ーーーねえ、あの噂本当なの?瞳をよく見ると…」


「グラデーションがかった青になってる、その通りよ。あまりお話しする方じゃないからわたしもそこまで親しくないけど。」


「無口なの?ジョシュア様無口なの?」


グフっという奇妙な音をたてて膝をついたライラ。

見たことがない反応に、ミシェーラが具合でも悪いのかと若干慌てていた。

ーーーすぐに呆れ顔に変わったが。


「ええ。ーーーちょっと、ライラ大丈夫?」


「全然大丈夫じゃない、情報過多すぎて無理。今度ジョシュア様の写真盗撮してきて?」


「ーーはい?無理よ、不敬罪で捕まるわ!」


「なんでよ!!!『絶対』必要なんです、って言って撮ってきてよ!」


ふふふふふ。

ワイワイと言い合っている二人を見ていた使用人のクーガンが、堪えきれないといったように笑いはじめた。


未だに、ねえ写真撮ってきて!と言い募るライラをミシェーラが叩いて黙らせる。

なんでよーと涙目になっているところをミシェーラは激写しておいた。


「わたしのブサイクな顔とってどうするの!?」


当然デニスに送るのだ。

ミシェーラはデニスがライラの泣き顔が好きだと、よーくわかっていた。

気持ち悪いなと思ってはいるが、ミシェーラ不在の間の彼の頑張りにご褒美が一つくらいあってもいいと思ったのだ。


シクシクと鳴き真似を続けるライラを適当に流しながら、デニス宛で送信する。


送信後、すぐに着信が鳴っているのがわかったがミシェーラは無視した。

どうせデニスが興奮しているだけだ、冷めるまで放っておくのが一番である。


冷静になってミシェーラはおかしいなと頭を捻った。

あれ、嫌われるかもと本気で悩んだ自分馬鹿みたいじゃないかと。


ミシェーラは結局、この友人には勝てないのである。


「ライラといると、悩みとか馬鹿みたいに思えるわ。」


「ーーーん?褒められた?写真もらえる!?」


写真、写真と言い続けるライラを鬱陶(うっとう)しがり続けつつも、幼い頃や王太子記念式典などの写真を送ってあげるミシェーラはなんだかんだライラに甘いのだった。


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