1の十三 魔法剣術部
魔法剣術部のパフォーマンスは二部構成らしい。
はじめに、赤色と青色チームに分かれて模擬戦争。
次に各学年の代表選手が一騎打ちを行うそうだ。
ライラはこの、一騎討ちをとても、とても楽しみにしていた。
と言うのもーーー
「王族の方どうしの対戦が見られるなんて、最高だね!!!」
そう、なんと、最後の見せ場としてパーシヴァルとダスティンが直接対戦するらしいのだ。
ミシェーラから先ほどこのことを聞かされ、ライラのテンションは爆上がりしていた。
急に目の色を変えたライラを見て、周りの人間たちは少し引いていた。
しかし、そんな些細なことを気にするようなライラではない。
ミシェーラと一緒になってワイワイと騒いでいる。
はじめの登場パフォーマンスが終わった後ーーー第一演目のために、先ほどまではいなかった生徒たちが大勢競技場へと出て来ていた。
ちなみにパーシヴァルは、ここでようやく姿を見せた。
いかにもやる気なさそうに、だらっとした姿勢でペガサスに揺られている。
いつも持っている杖の代わりに、今は細身の剣を担いでいる。
あれで落ちないのだから、逆にすごいなとライラは変なところで感心していた。
模擬戦争の両チームの大将は、ダスティンとパーシヴァルだ。
王族である二人が大将になるのは自然な流れだろう。
ミシェーラがダスティンの青チームを、ライラがパーシヴァルの赤チームを応援する形となり、二人でどちらが勝つかで盛り上がっていた。
そこでミシェーラが、隣に座るトーマスへと話題をふった。
彼は去年もこの対戦を見ているらしい。
「ーーートーマスは、どっちが勝つと思う?」
ミシェーラの問いにーーートーマスは笑った。
なんでも、二年生以上は全員が結果をわかっているらしい。
と言うのもーーー
「ーーーエゲート様は、本当にただいるだけですから。あの方大将らしい働きなんてなんにもしないので。それに比べてーーー指揮もして仲間も鼓舞して、複合魔法もバンバン使うダスティン様が率いる青チームが勝ちますよ。」
トーマスの言葉にーーーライラは思わず笑ってしまった。
パーシヴァルらしいなと思ったのだ。
そもそも、面倒くさがりやなパーシヴァルがよくこんな行事に参加するものだと感心したのだが、どうやら周囲から無理やり担ぎ出されているらしい。
そもそも部活に所属しているのかさえ怪しそうだ。
遠くにいるため表情をうかがうことはできないがーーー嫌そうに口元を歪ませるパーシヴァルの姿が目に浮かぶようで、クスクスと笑ってしまった。
ミシェーラはそんなライラを見て不思議そうだ。
「ーーーライラはどうしてエゲート様が好きなの?人気があるのはダスティン様か、ここにはいないけどジョーハンナ様よ?」
ミシェーラの問いかけに、ライラも首を傾げた。
ライラからすると、逆になぜパーシヴァルの人気がないのかわからなかったのだ。
「だって、そのお三方だったら、黒魔法の実力はパーシヴァル様が圧倒的じゃない。むしろ、わたしの方がなんでって聞きたいよ。」
ライラの返答に、ミシェーラが微妙な顔になった。
はいはい、ライラは黒魔法オタクだったわね、などと言っている。
なぜ理解されないのだろうとライラが首を傾げたところでーーー対戦開始の太鼓が鳴り響いた。
鳴らしたのは実技科目担当教師のアルフだった。彼が顧問らしい。
熱血な彼の好きそうな演目だとライラは納得した。
わー!と声を上げながら、球場の両サイドに分かれ、睨み合っていた両陣営の生徒たちが動き出した。
観客たちの声援が場内に響き渡る中ーーーはじめにぶつかり合ったのは、最前線にいる、両軍の歩兵たちだ。
この、模擬戦争のルールは単純だ。
兵士たちは左手に持った風船のような黒い魔道具を持っており、それが割れたら退場になる。
相手の大将の風船を割ったチームが勝利らしい。
風船が割れるたびに、糸で引っ張られるようにはじめの陣地に戻される生徒たち。
どういう仕組みなのだろうと思いながらーーーライラはハラハラと戦況を見守っていた。
トーマスの言うとおり、明らかに両チームは士気が違った。
青チームの生徒が何やら陣形を組んで一つの生き物のように大将を守りながら動く中、赤チームの方は一人一人がただ相手の陣地に突っ込んでいくだけなのだ。
あっという間に赤チームの歩兵はいなくなった。
途中で赤チームの歩兵だったらしいデニスが、魔道具を割られたのだろう。悲壮な顔をしながらライラたちの前を通過していったため、思わず二人は顔を見合わせて笑った。
騎馬兵は少しは粘っていたがーーーじわじわと数を減らしていく赤チーム。
そしてついに、二人のペガサス兵を青チームが取り囲んだ。
ライラは大画面に映し出されるその二人を見てーーーあっと声を上げた。
パーシヴァルを守りながら魔法を展開する顔に、見覚えがあったからだ。
「レイモンドさんじゃん!」
ただふよふよと浮かぶ主人に、何やら文句を言っているのだろうか。
時折パーシヴァルの方を振り向きながらも、十名以上のペガサス兵をレイモンド一人でいなしている。
ーーーレイモンドさんって、もしかしてすごい人?
パーシヴァルのパシリだと思っていた彼は、実はとても有能らしい。
新事実にライラが感心しているとーーーレイモンドの魔道具がどこからか飛んできた大量の矢によって、破裂した。
複合属性かつ物凄い濃度の魔力の攻撃に、流石のレイモンドも受けきれなかったようだ。
誰がやったのかとざわめく観客。
パーシヴァルたちを抜いていた映像が切り替わり、大画面にははじめの位置からほぼ微動だにしていないダスティンのドアップが映し出された。
矢を放つ際に大量の魔力を使ったらしく、彼の周りにはまだ魔素が漂っている。
派手で威力の高い大将の攻撃に観客からは大歓声が上がった。
パーシヴァルを最後まで庇いながら離脱していったレイモンドには拍手が送られている。
そして一人残ったパーシヴァルはーーー最後まで何もせずに、騎兵の一人に魔道具を割られていた。
観客からはブーイングが起こったが、パーシヴァルは全く気にした様子がない。
どこまでもマイペースな姿に、さすがはパーシヴァルだとライラは頷いていた。
◯
あっけなく終わった第一部。
しかし、アルフはこれが気に入らなかったらしい。
「おいー!エゲート!もっとやる気を出せ!お前はそれでも大将か!」
ーーー拡声機を持ったまま叫ぶ彼。
当然観客であるライラたちにもその声は聞こえている。
観客からは嘲笑が起こった。
一部のフィメル生徒からはブーイングが起こっている。
パーシヴァルのファンかもしれない。
しかし、名指しで呼ばれているパーシヴァルは、座ったままレイモンドから受け取った飲み物などを飲み、すっかり寛いでいる。
大画面に映し出されるパーシヴァルの姿を見て、ライラは嬉しそうだ。
ミシェーラは、ライラとしては怒るべきなのでは?と感じたのだがーーーライラからすると、パーシヴァルが気にしていないのなら構わないらしい。
「ーーーそんなものなの?」
首を傾げるミシェーラに…ライラは内緒話でもするように近づいた。
そして、耳元でささやく。
「みんな気付いてなさそうだけど、どう見てもパーシヴァル様の方が実力は上。…アルフ先生も、それがわかってるから怒ってるんだと思うよ?」
ライラの言葉に、ミシェーラが信じられないとでも言うように目を見開いた。
しかし、ライラの表情を見て、決して冗談を言っているわけではないと察したらしい。
疑わしそうな表情を浮かべていたがーーー再び会場に響き渡った声によって、二人の視線は大画面へと引き寄せられた。
「ーーーコラァ!エゲート、聞いてるか!ーーーよーし、わかった。レイモンド、お前、主人のやる気を出させろ!そうじゃなきゃお前に単位はやらん!!!」
「「「「「(いや、それは、横暴すぎるだろ!!!!)」」」」」
観客全員が突っ込んだところでーーー急に指名を受けた、レイモンドは、立ち上がり、はぁぁぁ!?と叫び声をあげた。
マイクなどないはずなのにライラたちのところまでその声は届いた。
余程不服だったらしい。
しかしアルフはニヤニヤと笑うばかりで、発言を撤回する気はなさそうだ。
レイモンドは頭を抱えた後ーーーズンズンと歩いて行き、パーシヴァルの前に跪いた。
何やら真剣な表情で話す二人が映し出される。
レイモンドの必死な横顔とーーー面倒くさそうな表情を変えないパーシヴァルの端正な顔が画面いっぱいに広がった。
ライラは、これはなんのご褒美映像だろうと思って一部始終を見守っている。
そしてーーーどうやら決着がついたらしい。パーシヴァルがひときわ嫌そうな顔になった後…渋々と言った様子でコクリと頷いた。
それを見たレイモンドが満面の笑みで、他のチームメイトに向けて向き直る。
何事か発した後ーーーその言葉を聞いた赤チームから歓声が上がる。
どうやらパーシヴァルは「ちゃんと戦う」と言ったようだ。
レイモンドは何を言ったのだろう、とライラはそちらが気になったのだがーーー時間がおしている、とアルフが放送を入れ、すぐに第二部の開始になった。
はじめに入場してきたのは赤チームと青チームの一年生だ。
二人ともクラスメートなので、誰?とは流石のライラもならない。
青チームはライラとあまり面識のない生徒だった。
そしてもう一人はーーー
「デニスじゃない!嫌がってたのに、ちゃんと代表になったのね。」
ミシェーラの意外そうな声に、ライラは頷く。
デニスが「明日まじめんどくせえ」と言っていたので、何かしら参加するのだろうとは思っていたのだが、まさかこんなに目立つ登場をするとは予想していなかった。
さらにライラを驚かせたのはデニスの実力だった。
「ーーーはじめ!」
アルフの掛け声がかかった、次の瞬間。
デニスの姿がたち消えーーー青チームの生徒の魔道具が割られていた。
撃ち合いにすらならなかった。
あまりに早すぎる決着に静まり返った会場。
しかし、すぐに大歓声が上がった。
ーーーえええ、デニス、つっよ。
ライラは呆然とたちすくむ青チームの生徒が少し哀れになった。
大歓声の中ーーーデニスは、魔道具を係員に渡すと胸元に拳を当てただけで、すぐに会場から消えていった。
全く浮かれた様子がない。デニスからすると格下の相手だったようだ。
ますます、対戦相手の生徒が哀れである。
アルフの試合への解説が響く中、とぼとぼとさっていく姿を見送り、ライラが微妙な気持ちになっているとーーーあっ、とミシェーラが声を上げた。
ミシェーラが手を振る方にライラも目を向ける。
ミシェーラの視線の先ーーー観客席の扉を開け、現れたのはデニスだった。
端の方から、ミシェーラに手を振り返している。
ライラたちの席は、赤チームの退場門とかなり近い場所にあった。
デニスは退場したその足で真っ直ぐここへきたらしい。
どこ行くんだってチームメイトにからかわれたわ、などと言いながら、ヨッと手を上げたデニスに、ライラもよっと手を上げ返した。
流石に突っ込まずにはいられなかったが。
「ーーーデニスはここにいていいの?」
ライラの当然の疑問にーーーデニスは、ライラの横に座っていた生徒にちゃっかりと席を譲ってもらい、腰掛けながら答えた。
「ーーーああ。個人戦が終われば今日の俺の役目は終了だから。この後はクラスの奴らと回るつもりだけどーーー俺の晴れ姿、ちゃんと見てたか確認しとこうと思って。」
ニヤッと笑ったデニス。
ライラはその発言を聞きーーーミシェーラの方を向いた。
そして、とぼけたように言う。
「ミシェーラ、デニスがこう言ってるよ?」
ミシェーラは、そんなライラを見て、呆れたような顔をした。
すぐに二年生の対戦がはじまったため、そちらに興味が移ってしまったようだが。
はしゃぐミシェーラの相手はトーマスに任せーーーライラはデニスに向き直った。
じとっとした目を向けられる。
流すことができないことを察したライラは、デニスの先ほどの対戦を思い返した。
「ーーー早すぎてよくわからなかったけど、デニスが強いことはわかったよ。」
ライラの言葉に今度は満足したらしい。
デニスが頷いている。
すぐに苦笑いになったが。
「ーーー今の一年は、騎士の家系がいないから、魔法剣持った勝負では流石に負けねーわ。…今の四年生は化け物みたいに強い先輩ばっかだけど。」
5歳から剣を振らされてきたのだというデニスの言葉に、ライラはなるほど、と頷いた。
「やっぱり学年によって、差があるんだね?」
「おう。俺らの学年は、騎士っていうよりは魔法士の家が多いよな。ライラの親戚の子もだし、ミシェーラちゃんもかなり魔法の扱いはうまいよな。」
「ライラの親戚」という言葉に、ライラは渋い顔になった。
自分の実家が、優秀な魔法師の家系、として有名なことを思い出したためだ。
実際、ライラの両親も魔法士団の一員だった。
デニスはその表情を見て、ライラにとってあまり触れられたくない話題だと察したらしい。
すぐに、これから行われる上級生の試合へと話を変えた。
「エゲート様と面識あるならレイモンドさんとも知り合いなんだろ?ーーーあの人ほんとにすごいよなあ。」
今行われてる二年生の試合の後ーーーレイモンドは登場するらしい。
三年の赤チームの代表選手なのだそうだ。
その話を聞きーーーライラは今さらなことに気がついた。
「ーーーあれ、レイモンドさんって緑の髪に青い瞳…どう見ても青チームじゃない?」
ライラの疑問に、デニスもだよな、とうなずいている。
彼自身、入部してすぐに先輩に尋ねたのだそうだ。
そして、返ってきた答えに納得せざるを得なかったらしい。
「ーーーさっきもそうだったけど、エゲート様、全然誰のいうことも聞かないわけ。ダスティン様の相手になるような生徒が他にいないからって、無理やりアルフ先生が入部させたらしいんだけどーーーこういった行事に、前は出てきもしなかったらしい。」
デニスの説明に、ライラはふんふんと頷いた。
そして、なんとなく先の内容を察し始める。
「ーーーそれで、レイモンドさんが巻き込まれたの?」
ライラの言葉にデニスが苦笑いで頷く。
レイモンドは一年生の時には青チームで参加していたらしい。
しかし、二年になってからパーシヴァルの側近として動くようになった。
「ーーーそれで、レイモンドさんの言葉なら比較的聞くらしいってことが知られるようになって、アルフ先生はエゲート様を参加させるためか、なぜかレイモンドさんを赤チームに。ーーー主力を引き抜かれたって青チームの先輩は怒ってたけどな。」
実際にまがりなりにもパーシヴァルはこうして行事に参加しているのだから、アルフの目論見は当たったと言えるだろう。
今まさに話題になったレイモンドは、会場に出てきていた。
ライラとデニスは会話をやめ、試合の様子に注目する。
ポツリとデニスが言った。
「ーーー即終了しそうだな。」
デニスの言葉通り、試合はあっけなく終わった。
相手の生徒が剣を振りかぶった瞬間に、魔道具が破られていたのだ。
レイモンドはいつの間にか剣を抜いたようだが、はじめの位置から一歩も動いていない。
何が起こったんだとライラが首を傾げているとーーー多くの観客の疑問に答えるかのように、アルフが拡声器を使って解説を始めた。
「一回戦、二回戦は身体強化が勝負の鍵だったが、今の三回戦で使われたのは、居合斬りだ!魔剣を抜いた勢いを活かして、斬撃を飛ばしたな!一歩間違えば人間ごとスパンだ。ーーー下級生は軽々しく真似するなよ!」
人体を攻撃したら失格だからな!ーーーというアルフの声が会場に響き渡る。
ーーー身体ごとスパンって…魔法剣術部ぶっそうだな!?
ライラは引いていたのだが、デニスはなるほどなどと頷いている。
どうやら真似したかったらしい。
「レイモンド先輩やっぱすげえなーーーダスティンさんといい勝負できないか?」
デニスがそう呟いたところでーーーミシェーラが会話に参加してきた。
「ねえねえデニス。ライラがさっき、エゲート様が一番強いって言ってたんだけど本当?」
ミシェーラの疑問にーーーデニスは、当たり前だろ、とうなずいた。
「魔法剣って結局は、込める魔力量の差が一番効くからな。基本属性全部持ってて、黒魔法まで使えるエゲート様が強いに決まってる。ーーーまあ、俺もエゲート様が剣降ってるの見たことないからさ、結構この後の試合楽しみにしてるんだ。」
デニスの言葉に、ミシェーラは「えー!」と不満そうな声を上げ、ライラはなぜか自分が褒められたかのように満足そうだ。
ざわめく会場にーーーファンファーレが鳴り響いた。
いよいよ最終試合が行われるらしい。
姿勢をピンと伸ばしたダスティンといつも通りのそのそと歩くパーシヴァル。
対照的な二人に、大歓声が降り注ぐ。
パーシヴァルの姿目を輝かせながら見守っていたライラはーーーふと思い出したように、デニスの方を向いた。
「そういえば、パーシヴァル様とレイモンドさんって何を話してたの?」
「え、知らね。俺、一回戦だったからすぐに控え室に移動したんだよね。」
デニスの言葉にーーーライラは非常に失望したらしい。
呼びかけにも答えなくなったライラに、デニスは慌てて魔力通話で先ほど行われたやりとりについて、先輩に確認する羽目になるのだった。




