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痕跡 (仮)  作者: 老衰
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自室

 ドーナツが食べたくなったので、外に出ようとしたらドアが開かなかった。

 内鍵は縦になっており、開いている。

 もう一度、ドアを開こうとするが、ドアはびくともしない。

 ドアの向こうに障害物があるだとか、そういった類の問題ではないようだ。ドアに見せかけたデザインの壁のような、内鍵とドアノブ、覗き穴が付いているだけ。その覗き穴から外の様子を探っても、特に変化は無かった。


「面倒なことになった」


 部屋の普段使わない棚からアパートの書類を取り出し、ぱらぱらとページを捲る。

 大家の電話番号を打ち込み、ケータイを耳に当てた。


「……出ない」


 管理会社にも電話をかけたが、同じように繋がらなかった。

 仕方がない。また後に電話をしよう。




 映画を一本観終わって、再度電話をかけたが、どちらも出ることはなかった。

 それどころか、友人や職場の人間にも繋がらない。

 躊躇したが、致し方ないだろう。と、ついに警察に電話をしたがこれも繋がらない。

 電話が壊れたのだろうか。

 しかしネットには正常に繋がるようで、SNSに「家から出られない」と一言だけ書き込んだ。


 困ったな。

 窓から隣へ事情を話して入れてもらおうか。

 そう思い、窓を開けようとするが、開かなかった。

 何かが突っ張っているわけでもない。

 試しに拳を振り上げ、全力で窓を殴りつけたが、割れない。

 二度、三度、最後に頭突きをするが、割れない。

 バットを握り、本気で殴るも割れない。


 ……明らかに何かがおかしい。

 なんらかの力で部屋に閉じ込められているようだ。

 それが何かは見当もつかない。

 わかっていることは、ネットが使える事とドーナツが食えないことだ。

 ここはやはりネットで助けを求めるべきだろう。

 幸い、東京生まれ東京育ち、馬鹿そうな奴は大体友達なので、近所に住んでいる馬鹿数人に部屋に閉じ込められている旨を連絡し、食事を作ることにした。


 今日の食事はオムライスにしよう。

 フライパンにバターを溶かして、米にケチャップをかけながら炒めただけの物に、溶き卵を混ぜながら軽く焼いた卵を乗せた物。

 具無しだ。具材なんて買ってないし、そもそも細かく切って入れるのが面倒だからだ。

 全自動細切れマシーンなる物があれば具材入りも検討しよう。


 料理をテーブルに置き、コップに水を注ぐ。

 改めてテレビをつけると、今流行りの感染症に関するニュースがやっていた。

 テレビを観ながらでないと食事ができない。

 いい加減、この癖を直したいが、どうしても直らない。何かを観ていないとそわそわとして落ち着かないのだ。


「……スプーンを忘れた」


 立ち上がって台所へ取りに行く時、ニュースキャスターから「死ね」と言われた気がした。

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