No.9 人造人間
レポートNo.9 『人造人間』
【質問内容】
「あなたの目の間のものは何に見えますか?」
【回答】
―――――――――
・・・おい、ちょっと待て。
人造人間だと?
そんなもの、オーバーテクノロジー云々の問題じゃないぞ。
本部はいったい何を考えているのだ?!
宿に送られてきたものも、全部私の私物ばかりではないか!
当然だが、人造人間なぞ届いていないではないか!
本部がわざわざ私に冗談を言うために、こんな回りくどいことをしたのか?
・・・いや、それはないだろう。
しかし、今回は一体どうなっているんだ?
送られてきたものは、私の私物以外にはいつもの調査票が1枚入っていただけだ。
今回は何かがおかしい。
・・・もう一度、全部確認してみよう。
まず、本部から送られてきたもの。
私の生活用品一式、それと調査票。
あとは、昨日受け取った手紙くらいか。
もう一度最後まで読んでみよう。
何か見落としがあるかもしれない。
やはり難度読み直しても、内容に見落としは無いようだ。
ん?
なんだこの右下の数字は?
『Dear 1711710』
これはおかしいんじゃないのか?
Dearは、送る相手に付けるもののはずだ。
私は『1711710』なんて名前じゃないぞ?
もしかして、間違えて日付を書いたのか?
いや、それでは『1711年7月10日』になってしまう。
そんなのは数百年前の日付だ、間違いにしてはあり得ないくらいのミスだ。
となると・・・これは暗号か?
文字を数字に換算していると仮定すると・・・だめだ、意味のある言葉にならない!
じゃあ別の何かということなのだろうか?
・・・そういえば、昔『ポケベル』という通信道具があったな。
確か特定の文字列を数字に変換したもの以外に、語呂合わせで置き換えるという手法もあったな。
そうすると、これは『いないいなと』か?
いや違うな、『いないいないおー』?
近い気はするが、最後の方が意味不明だ。
『おー』では無くて『ゼロ』か?
ああ! 全然分からない!
「やあ、お疲れ様」
「誰だ?」
「まあ、試作品にしては上々ってところですかね、せ・ん・ぱ・い」
「はぁ? 私はお前なんかと会ったことは無いぞ! 見たところ異世界人では無いようだが、何者だ!」
「連れないねぇ、先輩が困っているかもってわざわざ来たのに」
「本部の人間か?」
「・・・まあ、そんなとこっすね」
「なら、この手紙は何なんだ! おまけに人造人間なんて送られて来ていないぞ!」
「手紙のことはさておいて、人造人間ならもう到着してるっすよ」
「・・・どういう意味だ?」
「そのままの意味っすよ、先輩」
「?」
「理解に苦しむって感じっすね。 いいっすよ、その手紙の意味も含めて教えてあげるっす。 聞いても怒らないでくださいよ?」
「怒るかどうかは聞いてから決める」
「まあ、怒ったところで結果は変わらないですけどね」
「きちんと説明しろよ」
「はいはいっと。 そのあて先は間違いないっす」
「だが私の名前ではないぞ?」
「まあ、それコードネームっすから」
「コードネーム? 本部の人間がそう呼んでいるのか?」
「ええ、通称”いないいないばー”っす」
「”いないいないばー”だと? それなら ”1711710”ではなく”1711718”ではないのか?」
「そこはトンチっす。デジタルで8から真ん中の横棒を除くと0になるっす。つまり無くなったのはバーの部分ってことっす」
「・・・」
「つまり、先輩自身が人造人間って訳っす。 理解したっすか?」
「私が・・・人造人間だと?」
「先輩は異世界人とコミュニケーションが取れるのか調査されていたってことっす」
「・・・そういうことか。 今までの調査は全て、私の、人造人間のテストだったってことか」
「理解が早くて助かるっす」
「理解はしているが納得はしていない。 調査なら必ず目的があるはずだ」
「はぁ、やっぱそれ聞いちゃうんっすね」
「当然だ」
「・・・簡単に言うと、転移先の安全確認ってことっすね。 直接人間を送って調査をするわけにはいかないから、人間を造って送り出したって感じっすね」
「つまり、安全性が確認された今、私は不要ということか?」
「せ~ん~ぱ~い~? 手紙ちゃんと読みました~?」
「読んだとも、何度も読み返したとも!」
「でも、伝わってないっぽいですねー」
「意味がわからん!」
「荷物は届いたでしょ?」
「ああ、全部私の私物だがな!」
「やっぱ理解してないっすね。 要はこっちの人の中に紛れて調査を続行して欲しいって意味っすよ」
「・・・ああ、やっと納得いったよ。 それで”最低限の荷物”か」
「と言う訳で宜しくと、本部からの通達に来たっす」
「そうか、それはご苦労だったな」
「ああ、忘れてた」
「何をだ?」
「このプロジェクトのタイトルっす」
「タイトル? そんなもの必要か?」
「まあ、上のお偉いさんが決めたことなんで俺も理解の範疇外っす」
「そうか。 で、そのタイトルは何だったんだ?」
「”異世界オーパーツレポート”だそうですよ」
「両端の二つは分かるが、真ん中のは何だ?」
「オーパーツってのは人造人間のことっす。今の人間には過ぎた技術って意味じゃないっすかねー?」
「確かに。 だが、それならホムンクルスでも良かったんではないのか?」
「それだとストレート過ぎるという理由でボツになったっす。 書類通すにも大っぴらに公表できる形じゃないと通せなかったらしいっすよ?」
「そうなのか。 で、私はこのままこの世界の住人になれってことか?」
「まあそんなところっす。 あ、情報は定期的に取りに来るからそのつもりでいて欲しいっす」
「そうか、わかった」
「じゃ先輩、元気でやるっす」
「ああ、お前もな」
以降、約束通り本部から連絡役の者が来ている。
転移者や転生者が多いこの世界に紛れるのは、思っていたほど難しくはなかった。
今は村の一員として農家を営んでいる。
この生活はプロジェクトが終了するか私が動かなくなるまで続くだろう。
さて、今日も調査をしにいってくるとするか!