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三毒騎叉譚  作者: まよね
2/2

魔女と王子



鈴の音が聞こえる。


黒闇の中に光が差し込んで行くような、優しく、ハッキリとした鈴の音。


リィン……


誰かいる?


『お兄…さま?』


暗闇の中には首だけの妹が見知らぬ男に抱えられて、私を呼んでいた。


男は黒い髪に碧い目をしていて、じっと私を睨んでいた。


やめろ、私を見るな。

やめろ、やめろ。


息が、苦し、い。




「…っ!!」


ハッと目を覚ますとそこは古びた家具が並ぶ小さい寝室であった。シーツは白く清潔で部屋自体は古びてはいたが、人の手入れが行き届いていた。


「っは…は…」


どうやら眠っている間息を止めて居たらしい。


「…起きた?」

高い音を上げて扉がゆっくりと開く。


腰まである髪を低めにまとめた中性的な顔立ちの人物が、扉からそっと顔を出し、水がめと手ぬぐいを持って部屋に入ってきた。


歳は17くらいだろうか。


部屋が暗いせいか、その人が片目を前髪で隠しているせいか、ぼんやりと佇む姿は、人間味を感じなかった。


ベッド脇の古びた棚に水がめを置くと、水に浸した手ぬぐいを細く白い手で固く絞る。


「あぁ、起き上がらなくていいよ、傷は癒えてないからね」


私は腹を見た。綺麗に巻かれた包帯には血が滲んでいたが、痛みは感じなかった。


傷…。そういえば!


「…!!!!っ、城は…」


温かい部屋の空気に忘れていた、城は…城は、どうなったのだろう。


「ほら、無理はしない、今は嫌なことは忘れて」


と、ゆっくり私の肩を押し、ベッドに寝かせた。


そして部屋の電気をつけると、丁寧に包帯を外して手ぬぐいで身体を拭ってくれた。


暗かったからよく見えなかったのだが、その人はくりっとしたつり目をしていて、小さい口が特徴的な端正な顔立ちだった、そしてすらっとした細い首は、とても艶めかしくて…


「おや、照れなくてもいいんだよ、僕は女性では無いからね」


少し顔が赤かったのがわかったのか、くすりと笑った。


(女性ではないのか、では男性なのか?)


お腹のあいた、キュッとしまった服は彼の細腰がよく分かる。


「あ、でも、男性でも無いから、油断しないでね」

と不敵な笑みを浮かべた。


(えっ…。)


と、あっという間に身体を拭くと、これでよし、と掛け布団を綺麗ににかけ、また水がめと手ぬぐいをもって部屋を去ろうとした。


「っ…!待ってくれ!君は一体誰なんだ、そしてここは、今この国はどうなっているんだ!」


彼女(仮にここではこう呼ぼう)の謎の色香に絆されそうになったが、慌てて起き上がって問いただした。


「そんなに一気に聞かれても答えきれないよ、僕の口は1つしかないし、君の耳も2つしかない。」


それに、と私を鋭く睨むと指を下の方に差し


「だから起き上がらないで、傷が閉じたばかりとはいえ、まだ癒えてないんだってば」


と、寝てるようにというジェスチャーをしてため息をついた。


「傷が閉じた…?ということは私はどれくらい眠っていた?1ヶ月か?2ヶ月か?」


と服の下を触ると穴のあった場所は確かに塞がっており拭われたての肌がしっとり冷たい。


余程長く眠って居たのだろうか。


「いんや、ほんの5日、心配しなくていいよ」


(5日であの深い傷が塞がっているのはおかしい…なぜ、…)


「なぜ5日で傷が塞がったのか?って聞きたいのかい?」


きょと、と彼女が首を傾げると細く絹のような髪がさらりと揺れる。金色の目は野生の虎が獲物を射抜くように私の心を見透かしてるようだった。


「…心が読めるのか?」

ぞくり、と腹が冷える。この人はさっきから私の心を見透かしたような発言ばかりしている。


「いいや、何となく分かるんだよね。君が子孫だからなのかもだけど。それか私の魂の性か。」


一瞬暗い表情をした彼女だったがすぐに顔色を戻し、まあそれは置いといて、と仕切り直すように壁に寄せてあった丸椅子をベッドの横に置き座った。


「背骨の骨は薬草と魔法具で簡単に治ったけど、君の腹の傷が塞がったのはそれが君を殺すものじゃなかったからだ。」


「と、言うと?」


「それは呪いの一種だね、ほら、腹の傷跡をご覧。」


促されて服をまくると、傷のあった所にツタのような紋様が広がっていた。


「その呪いは自分の命と相手の命をリンクさせる。相手が死ねば君も死ぬ。君が死ねば相手も死ぬ。相手がどういう意図を持ってその呪いをかけたのかは知らないが、かなりの高等魔術だ」


するりとツタの紋様を指でなぞる。


「こんなことできるのは、よっぽど長生きした魔女ぐらいだけど」


ツタを目でもなぞりながら、「僕でもすぐ死ぬ人間なんかと自分の命を繋げるなんてしたくないね」とポツリと言った。


「…余程詳しいのだな?」


「まあ、そういうのを生業にしてるからだけれど、」

と言って立ち上がりつつ、また綺麗に掛け布団をかけてくれた。


「君は一体何者なんだ?」

私は枕に頭を預けながら、訝しげな表情で聞く。


チリン……


鈴の音が聞こえる。


「僕?」


「僕はジン。救世主(メシア)の森に住むしがない魔法使いさ。」


(これが、王子と魔女の出会いの物語)


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