新たな決意
たどり着いた先での過酷な訓練の末新たに決意を固まる。
「ほら、さっさと歩け!」
ヒノコが急かしながらに先頭を走る。
ウルルは先生とまだ話したいことがあるからとあの場に残った。
「いいか、この集落で売り買いに必要なものは信頼だ!!今日から働け!」
ヒノコは相変わらず不機嫌な感じだが最初よりも有効的になった気がする。
「どんな仕事なんですか?」
「はぁ?!何言ってんだ。男の仕事は食料集めと外の見張りに決まってんだろ!!」
「そうなんだ。ごめん」
「しばらくは私に付き添ってもらうからな」
「え、ヒノコは女の子でしょ?」
「私は私がやりたい方をするんだよ、、ほら着いたぞ」
離している位置に目的の場所に着いた。
広い草原で無差別な年齢の男たちが殴る蹴るなどの攻防を繰り広げている。
「ここは?」
ヒノコが僕の問いかけに背中をバシンッと叩く。
「訓練場だ、さっさと入れ!」
そこから1時間にも及ぶ戦闘訓練が行われた。
20分間の走り込み、砂の入った袋を200回ほど蹴りあげ、ヒノコとの組手で身体中がアザだらけになった。
怒りのこもったヒノコの拳が僕の溝にめり込み倒れ込んだ。
「おらぁ!気合いで立てよ!死ぬぞ」
なんとも理不尽に感じた僕は顔を見上げてヒノコの顔を見て言った。
「普通・・さ・・こういうの簡単な基礎から入るもんじゃ無いの?いきなりこんな、、、」
「・・お前は普通じゃねえよ。今だって喋れてるだろ?ウルルの加護があるんだから耐えろや・・・」
確かに彼女の言葉は正しい、水霊は一緒にいるだけでも恩恵に預かれる。
だけどこれは酷い。
納得いかないという僕の表情にヒノコが僕の胸倉を掴み引っ張り上げる。
「お前・・・ホンットムカつく、過去の話してる時も思った。ウルルに頼りっきりで自分じゃ何もしない・・・」
いつもと違う心に冷たく刺さる怒りに僕の体はブルブルと震えだした。
けれど僕は叫んだ。
「分かってるさ!僕だって役に立ちたいと思っている!!でも僕は無力だ!!お兄ちゃんの様にはできない!!」
「それがあまちゃんなんだよ・・今自分の話しかしてねえじゃねえか!あぁぁ?お前は非力でも役に立とうと思っている自分に酔ってんだよ!!叫ぶ元気があんなら立って私に立ち向かってみろやーー!!!」
疲れと痛みで上手く頭が回っていなかったと思う。僕はヒノコの手を払い落とし殴りかかった。何度も何度も何度も。
先ほどと違い息切れも無ければ痛みにうろたえることもない。
ヒノコは何度痛みつけても倒れない僕に笑った。
「やっぱ普通じゃないよ」
訓練は夜まで続き、今日の仕事として夜の見回りを三人で行くことになった。
ウルルは先生の家の前で僕の帰りを待っていた。
「お疲れ様」
僕が話しかけてもウルルは何も言わない。
その後の見回りの際も終始無言でどこか気まずい。
仕事を終え、僕達がこれから暮らすことになる新居に案内された。
ヒノコと別れを告げ、家に入るもウルルは俯いたまま。
「ウルルどうしたの?何があったの?」
「・・・・・・」
「僕に言えないこと?」
「・・・・・・・うん」
「それじゃ僕が知る必要のない事?」
「・・・・・違う」
「なら話してよ」
「・・・・・・・」
ウルルは大切な事は僕には言わない、行動することだけ言って自分で抱え込む。
「どうして頼ってくれないの?僕が信用できない?」
「!・・・そんな事ない!話すよ」
ウルルは先生に聞かされたことを話し始めた。
ウルルの行った儀式を放棄する方法はとても不安定らしい、ウルルは僕を井戸として自分の感情が混じった水を流し込む事で悲しみを『共感する』事で自分の心の傷を癒したのだろうとのこと、だけどそれは言い換えると『なすり付け』。ウルルの心は癒えるが僕は時間をか
けて悲しみに侵食され壊れてしまうかもしれないとの事だった。
ウルルは泣きながら僕の裾を掴んだ。
「ごめん、ごめんね僕が思う以上に責任は重かった。でもマリが壊れたらきっと僕の心も壊れてしまう」
僕はウルルの肩を抱いてなだめた。
いつもな慰められてばかりだったから今度は僕が守りたい。
「まだ壊れると決まったわけじゃない、希望はあるのだから」