狙われたウルル
オアシスの国から南に位置する王国サラマンダ。
世界の食料庫と名高いこの国では多くの漁獲船が行き来し、大きな畑で今日も大男達が群をなして農業に勤しんでいる。
そしてこの国のすべての流通を担っているのが王都ヒメンカ。
その街並みは様々な建築方法で建てられた多種多様な建物が立ち並んでいて、中でも際立って目立つ建物はやはり王様のお屋敷、茶色と白の清潔感が漂いつつ街を飲み込むほど広く階は10階にもなる。
王様は4人家族で王様と王妃様、兄の息子と妹の娘がいる。
もう直ぐ娘の20の誕生日なのだが欲しいものが手に入らず、娘は苛立っていた。
娘は最上階のベランダから町の様子をお付きの召使いと共に眺めていた。
「まだあれは手に入らないのかしら?」
娘は街を行き交う人の群れを見ながら召使いに問いかけた。
「申し訳ございませんメラお嬢様、もうしばらくお待ちを」
「貴方が謝らなくていいわ簡単じゃないのは分かっているもの・・」
お嬢様は召使いの方を見てニヤリと笑った。
「もういいわ!!私が直接探しに行くから、準備してちょうだい」
「・・・・はいかしこまりました」
「何今の間は?お父様から怒られないか警戒しているのなら心配ないわ、私にはこの子達がいるもの」
そう言って娘は指笛を吹く。
すると大きな笛の音と共にベランダの外から人間ほどの大きさの羽の生えたトカゲの群れが天に昇る滝ののように猛スピードで飛びかう。
部屋のカーテンが強風で激しく揺れ、トカゲの陰で部屋の中が陰り、娘の薄紫色の長髪と瞳が怪しく光を放つ。
彼女はまたニヤリと笑った。
ウルルと暮らしてから3ヶ月の月日が経った。
本当は今直ぐにでも国を出たかったのだがウルル曰く町の中に王国からのスパイが紛れているらしく、砂漠に出ればかえって狙われてしまうかもしれないとのこと。
なので今は様子を見ながらウルルとの生活を楽しんでいる感じだ。
ウルルは最初出会った頃の野性的な印象は消え、礼儀正しくすごく頼りになる。
前なんて僕の家事代行の仕事を手伝ってもらってしまった。
今日は二人で買い物をする予定だ。気合が入る。
僕達は早々と食事を済ませ町に出向いた。
町はこの3ヶ月でずいぶん栄えた。
森はすっかり観光名所になり観光客の数も爆発的に増えた。
お店の数も増え本当に賑わっている。
僕は昔の感覚でウルルと手を繋ぎ歩き出す。
「はたから見たらウルルが弟みたいだ。痛っ!」
「・・・・・・」
僕がそう言うとウルルが無言で太ももをつねってくる。
まず最初に着いたのは美容室、髪を切るだけでお金がもらえるなんて都市伝説だと思っていたが本当に実在していた。
中に入ると白い壁に黄色いカーテン、清潔感のある外観とは相反する粉っぽい香り。
僕は自分が場違いな存在だと思いウルルを店員を任せお金だけ払い外に出た。
それから30分ぐらいしてウルルが出てきた。
髪は長髪のまま肩の辺りで切られていて前髪は眉を隠すくらいの長さで切られピンで前髪が邪魔にならないように止められている。
しかしこのふわふわサラサラな感じはきっと女の子と間違われたのだろう。
小さい頃は頼れるかっこいい兄だったのに・・・・・・。
気を取り直して次に僕達が向かったのは洋服屋さん。
いつまでも僕のお下がりの短パンTシャツでは可哀想だ。
とはいえ洋服屋の中を一通り廻っても値段が高いものばかりでとても手が出ない、ウルルも欲しいものを選んで持ってきたりするが僕が普段着ているものと似たり寄ったりでそれなら尚更お下がりの方がいい。
結局服は買えなかった。
僕達は他にも本屋やインテリやショップなども周り気づけばお昼過ぎになっていた。
お腹が空いたため僕達は馴染みの古い飲食店に入った。
都会から移転して来たオシャレなレストランには負けるが最近珍しい食材を取り入れはじめた。
僕達は小さな丸いテーブルに向かい合うように座り珍しい料理を注文した。
テーブルに出されたのは海の魚のステーキ。
口の中に頬張ると今まで食べたことがないほど肉質でしっとりとしている。
痩せた川魚ではこんな調理は難しいだろう。
僕が見中で食べ進めている姿を見てウルルは軽く微笑んだ。
前にウルルの言っていた『リスク』を警戒していないわけではないが何が起こるかわからない以上今は穏やかな時間を過ごしても許されるはずだ。
双方食事を終え水を飲みながらに一息ついていると、ウルルが突然立ち上がり真面目な表情で僕の手を引っ張り外に出る様に促してくる。
「マリ父さんが危ない!」
僕は訳もわからずてを引かれるがまま店を出た。
「ねえウルルどうしたの?何があったの?」
「・・・・・・」
走ってグリムおじさんの元に向かおうとするウルルに対し僕は状況の説明を求めたが答えてはくれない。
僕達は森の蓮の葉の池の前に着いた。
人の群れができていて中に入ることができない。
人を無理やり押しのけ池の様子を覗いてみるとそこにはグリムおじさんとワンピース姿の紫髮の女が言い争いをしていた。
というより女が一方的に怒鳴りつけている様だった。
「水霊がいないのだけど!!どういう事なる?!」
女の声が森中に響く、おじさんは腰を低くして返答する。
「へい、そんなことはないはずです。きっと飯を食いに池を離れたのやもしれませんです」
「わ・た・し・はあなたが逃したんじゃないかって疑ってるのよ!!!」
「それはあり得ませんです。水霊は儀式を行った場所から動くことはできません」
「嘘おっしゃい、池が枯れない様にパイプを繋げている事ぐらいお見通しよ」
女は僕達のいる方を振り返り叫んだ。
「もういいわよ!!あなた達! この辺りにいる子供を全員連れてきなさい!」
すると人混みのなかの10人程がハイキングコースを外れてあたりを捜索しだした。
きっと観光客の中に女の手下が扮装して紛れていたのだろう。
僕達は本物の観光客の中にいたため、見つからずに森を出ることができた。
僕達は急いで家に帰りドアを閉めた。
心臓の鼓動が鳴り止まない。僕は安全を確認するためにそっと窓から外を確認した。
森にいた手下たちが町の家々まで探索し始めていた。
子供が無理に連れていかれる様子もある。
このままだと家に押し寄せてきて捕まってしまう、どうすれば。
僕は意を決して賭けに出た。
まずウルルを肩車しその上からおじさんの忘れ物の大きなレインコートを羽織る。
マスクをつければ大人に変装完了。
少し無理があると思うがこの格好で砂漠を目指すしかない。
ウルルは何故か井戸を目指す様に言った。
ウルルは余り行動の意味について説明をしない。
でも不思議と説得力がある。きっと説明されても理解することはできないだろうが、、。
外に出ると20人か30人それ以上の手下の観光客で溢れている。
僕達は井戸を目指し歩き出す。
しかし案の定、少しよろけたひょうしに人にぶつかりそのまま倒れてしまった。
コートに隠れていた僕の頭見えてしまい、見上げるとガタイのいい男が睨みつけている。手下に見つかってしまった。
「怪しい子供だ!!!捕まえろーーー!!」
男の叫び声で道行く人々が一堂に僕らし視線を集めた。
僕は男の顔にコートを投げつけウルルの手を取り住宅地の裏道に逃げた。
後から手下も追いかけてくるが、狭い家と家の間なら子供の方が速い。
(これなら余裕で逃げれる)
そう思っていたのもつかの間、T字の道に入れば入るほど後ろから追いかけてくる手下の数がどんどん増えていく。
そしてついに大通りに出てしまった。
目の前にはあの時の紫の女が仁王立ちで待ち構えていた。
女の背後には先ほどの人数のさらに倍の手下達がついている。
「さあ観念しなさい!こんな怪しいことするのは水霊に違いないわ!」
僕はウルルの肩を掴み立ちすくんでしまった。
恐怖で動くことができない僕をウルルは優しく慰めた。
「大丈夫だよ、少し我慢していてね」
瞬間ウルルは僕をお姫様抱っこし猛ダッシュで突進しする。
「ブビィッ!」
そのスピードに女も少し怯んだ様だが気がついた頃には女の顔にウルルの両足がめり込んでいた。
ウルルは道が空いたと同時に超人離れした速さで井戸を目指した。
ヒキガエルの様に倒れこんだ女は手下に体を起こしてもらうとまた叫び散らす。
「もう、もういいわよ!お前たち、あいつらを追ってちょうだい!この際目立ってしまっても構わない!!」
すると手下達の顔がクシャクシャに潰れたかと思うと羽の生えたトカゲの姿に豹変し追いかけてくる。
ウルルはトカゲ達の槍の様な猛攻を右へ左へ華麗に躱しす。
「マリ、危ないから頭を引っ込めて」
「えっ」
井戸が目の前にきたあたりでハイジャンプ、
「うわわわわぁぁぁーーーーーーー」
僕らはそのまま穴に落ちた。
トカゲも何匹か穴に入って来たが途中で諦めたのかそれ以上追ってこなかった。