希望に満ちる世界
『──ところで、皆様はこの宇宙がいつ誕生したのかをご存知でしょうか』
四角い画面の中、にこやかな笑みを湛えた著名な天体物理学者が、彼の元へと殺到する報道陣に対して問いを投げ掛けた。
かなり大きなホールにいるようだが、会場は満員御礼で関係者や報道陣でひしめきあっている。
宇宙物理学の権威ともいえる人物からの質問に、記者はしどろもどろになりながら口を開く。
『ええっと、100……と40億年程前だったかと』
『ええ、正確には約138億年前と考えられてきました。しかし、──』
同時に、学者の背後にある巨大スクリーンに、とある星の写真が映し出される。
「YMIR」と名付けられたその球形の星は氷に覆われて全体的に白い色彩であったが、北極冠のみに黒い地面らしきものが露出している。
まるで人間の眼球に見えることから、市井の民達には広く「ユミルの目玉」という相性で親しまれていた。
『つい先日地球に最接近した恒星間天体、「YMIR」に着陸した無人機が採取したサンプルを調べたところ、驚くべきことに──』
宇宙物理学者はいじらしく間を作る。
場はしんと静まり返り、報道陣は生唾を飲み込んでいる。
『──約380億年前の物と判明しました!間違いなく世紀の大発見です!』
一瞬だけ静寂が続くが、それはすぐに破られた。
報道陣が発する驚愕の声、騒めき、忙しなく連絡を取ろうとする音。
それらの音が洪水となって会場を埋め尽くす。
数週間前に太陽系の遥か外からやって来た恒星間天体は、この宇宙が誕生するよりも前から存在する星だった。
この宇宙が一度滅びた際のものなのか、はたまた別の宇宙から迷い込んだのか。
どちらにせよ、世紀の大発見には変わりない。
『ええ、まだ、続きがあります。380億年前というのはYMIRの大半を覆う氷を調べた結果なのですが、北極冠の黒い地面のような物質を調べたところ、完全に未知の物質であると判明しました。詳しくは追って発表しますが、この物質は間違いなく人類の「希望」となるでしょう』
既にどこからか情報が漏れたのか、少数の報道陣は知っていた。
この新たに発見され物質は停滞気味の技術問題や地球のエネルギー問題を一挙に解決することができる性質を持っていることを。
『そしてたった今、大量に採取されたYMIRの夢のような物質が我が国の最高研究機関に到着したと連絡がありました!』
『『『おおーっ!』』』
学者の力強い発表に、会場から歓声があがる。
その日、世界最高の研究機関にて、地球に着陸した三機の無人宇宙船から届けられた格納庫が解放され──
──地球から北アメリカ大陸が消し飛んだ。




