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Bon Voyage,SJ-099  作者: ともゆき
5/6

Voyage.5

「…それで支部長、そのレイの身元がわかるかもしれない情報と言うのは?」

 ハヤトがモニターに写っている関根支部長に言う。

 その周りには他のSJ-099乗組員の5人が集まっていた。

「うん。もしかしたら自分の娘ではないか、という男性が現れたんだ」

「本当ですか?」

「ああ。…それでいろいろと話を聞いてみたんだが、その娘が行方不明になった時期、というのがちょうど君たちがレイ君を保護した頃とほぼ同じ頃だし、その特徴もレイ君に似ているんだよ。ただ…」

「ただ?」

「ただ、今の所、その行方不明となっている女性とレイ君が同一人物かどうか、という決め手が欠けていてね。それでレイ君に話を聞いてみようと思っていたのだが、そちらでもそういったことがあったとはな…」

「…それでは、支部長」

「聞くまでもないだろう。まずはレイ君をさらった人物を捕まえて、彼女を救出することが先決だ。その男性には私から事情を話しておくよ」

「…わかりました」

「くれぐれも気をつけてくれたまえよ」

「了解」

 そしてハヤトは通信を切ると、艦長服のポケットの中から合鍵を取り出す。

そして艦長席のすぐそばにある引き出しの鍵を開け、中からひとつの箱を取り出し、ふたを開ける。

 中には数丁の自動式の拳銃が入っていた。

「…ハヤト、それは…」

 ダイゴが言う。

「…先輩も知っているはずですよ。状況に応じて艦の乗組員は拳銃の使用が認められていて、その使用の決定権は艦長にあることを」

「しかし…」

「オレだってはっきり言って訓練で拳銃を使用しただけだし、こんなのは使いたくないですよ。でも、レイはオレたちの仲間なんです。ですから…」

「…わかった。おまえに任せる」

 ダイゴの声に頷くとハヤトは各々に拳銃を手渡す。

 ハヤトは拳銃のマガジンを引っ張り出すと弾丸が入っているのを確認し、それを戻す。

「…いいか。とにかくレイの救出が先決だ。カズヒトとマリアはオレに、ユウジとサリーは先輩と一緒にレイを捜してくれ。いいか、三人で一緒に行動するんだ」

「了解」

「それと先輩、お互いに連絡は取り合いましょう」

「わかってるって」

 そして6人は二手に分かれると再びコロニーの中に散っていった。

    *

 コロニーのはずれにある一軒の家。

 車から何人かの男たちが出てきた。

 彼らは後部座席から一人の少女を引っ張り出した。

 よく見ると後ろ手に縛られ、タオルで猿轡をされている。

 そう、その少女こそ男たちによってさらわれたレイだった。

「…ほら、入れ!」

 そして男たちはレイをある部屋に押し込めると、その部屋のドアを閉め、鍵をかける。

 そしてその隣の部屋のテーブルを囲んで腰掛けた。


「…本当に間違いがないのか?」

 一人の男が話しかける。

「ああ、間違いねえ。確かにあの女は娘のレイだ」

「…しかし、親父と言ったら、コロニーの資材を提供したことでかなりの財産を作った、って言うだろう? で、その娘と言ったらお嬢様じゃねえか。そのお嬢様が何でまた国連宇宙局の制服なんか着ているんだよ」

「それはわからねえさ。聞いた話だとボランティアで各地のコロニーを回っていた、とか言う話だがなあ」

「そういえばその女で気になる噂があるぜ」

「気になる噂?」

「ああ。その娘が数ヶ月前から行方不明になっているらしいんだ」

「行方不明に?」

「ああ。だから、何らかの形で国連宇宙局に拾われたとしてもおかしくないだろ?」

「ちょっと待てよ。いくらなんでも見ず知らずの人間をそう簡単には…」

「ああ。だからなんであの女が国連宇宙局に拾われたのかがよくわからねえんだが、まあ、とにかくこれは願ってもないことじゃねえか」

「…しかしよ、本当にあの女が娘のレイだ、って言う証拠があるのか?」

「ああ。おまえたちも見ただろう? あの女がドッグタグと一緒に首にぶら下げていたペンダントと、左腕にしていたブレスレットをよ」

「それがどうかしたのか?」

「…前にある雑誌で見たんだけれどよ。あるボランティアを紹介している記事であの女とよく似た女が同じようなブレスレットとペンダントをしていた写真が載っていたぜ」

「…それじゃあ…」

「ああ。十中八九、同じ女だろう」

「それで、あの女をどうするつもりなんだ?」

「ああ、それでなんだがな…」


(…いったいどういうこと?)

 その隣の部屋でレイがその話を聞いていた。

 そう、彼女自身記憶を失っていることもあってか、自分が何者なのかとかそういったことはわからないのだが、彼らは自分が何者かを知っているような口ぶりである。

 もしかしたら、この男たちは自分が何者なのか知っているのか? それとも自分とよく似ている誰かを間違えて誘拐したのであろうか?

 レイはそんなことを考えていた。


 と、そんなときだった。

 レイが閉じ込められていた部屋のドアが開くと、一人の男が顔を出した。

「おい、ちょっと来い!」

 そしてレイを乱暴につかむと隣の部屋につれて来て、乱暴に椅子に座らせ、猿轡をしていたタオルを解いた。

「…おい、おまえ、何で国連宇宙局の制服なんか着ているんだ?」

「…それは…」

「だから、おまえ親父さんはこのことを知ってるのか?」

「…わからない」

「何?」

「…だから、よくわからないのよ」

「おまえ、ふざけてるのか?」

「だから、そうじゃないの! ここ数ヶ月のことはわかるんだけれど、その前のことはまったく思い出せないのよ」

「じゃあ、このペンダントは何なんだよ! おまえ、このペンダントをかけている、ってことは、ただの女じゃねえってことだろ!」

 そういうと男は乱暴に例の旨にかかっているペンダントを乱暴に引っ張ってレイに見せる」

「…だからわからないの。どこで手に入れたのか、なんで持っているのか…。そもそもそのペンダントに刻まれている名前だってあたしの本当の名前なのかどうかわからないし…」

「…おまえ、この場でもしらばっくれるのか?」

「…だから、本当に思い出せないのよ。自分が何者なのか、ぜんぜんわからないのよ…」

「このアマ…」

 と、

「ちょっと待て!」

 リーダー格の男が静止した。

「…この女、もしかしたら記憶喪失なのかもしれないぜ」

「記憶喪失だって?」

「…ああ、何を聞いてもこれだけわからないんじゃそんな演技は簡単にはできないぞ。それに、この女、何で自分がこんなところにいるのかわからない様子だぜ」

「…それじゃあ、何をやっても無理、ってことかよ」

「…そういうことになるな」

「それじゃどうすればいいんだ!」

「…まあ、待て。兎にも角にも、あの親父に娘かどうか確認してもらおうじゃねえか」


 その時だった。

ドアをノックする音が聞こえた。

「だ…誰だ!」

 男の一人が叫ぶ。

「国連宇宙局のものだ! ドアを開けろ!」

「…なんだと?」

「おまえたちがオレたちの艦の乗組員を誘拐してここに監禁したのはわかっているんだ。おとなしく出て来い!」

「くっ…、どうする?」

「どうするも何も、やるしかねえだろ。…行くぞ!」

 そして男たちがドアを開けると、その向こうにハヤトたちが立っていた。

「…艦長!」

 その姿を見てレイが叫んだ。

「この辺で怪しい車を見かけた、と情報があったんで来てみたら、やはりおまえたちがレイをさらっていたのか!」

「…ええい、やっちまえ!」

 そして家の中で乱闘が始まった。


 すると、一人の男が隠し持っていたのか、拳銃を取り出すとハヤトに拳銃を向けた。

 ハヤトはその男が目に入った。

(…仕方ねえ!)

 ハヤトはそう決断すると拳銃を取り出し、男に向かって発砲した。

 乾いた銃声があたりに響き、拳銃を弾き飛ばされた男が手首を押さえる。

 そのときだった。

「…!」

 その銃声を聞いたレイの頭の中に一度にいろいろなものが浮かび上がってきた。

 家を出るときに父親に見送られていった自分、コロニーの中で負傷者の手当てをしている自分、そしてそんな折に何者かによって爆発事件が起こり、その爆発に巻き込まれ、気がついた時には見たことのない場所でベッドに寝かされていた自分…。

 今まで思い浮かばなかったことが次々と思い浮かんでくる。

「…も、もしかして…」


「サリー、マリア。レイを頼む!」

 男たちを次々と取り押さえる傍らで、外で待機していたサリーとマリアにハヤトが叫ぶ。

「了解!」

 そして二人が家の中に入ると、レイのそばに駆け寄る。

「…ちょっと待っててね」

 そう言いながらマリアがレイの背後に回ると彼女を縛っていたロープを解いた。

「あ、ありがとう、二人とも」

 ひとまず礼を言うレイ。

「怪我は無い?」

「…う、うん」

 サリーの問いにレイが頷くと。4人の男たちがやってきた。

「…レイ、大丈夫か?」

 ハヤトがレイに聞く。

「…」

「…レイ? レイ?」

 ハヤトが聞くがレイは何も答えない。

「…どうしたんだ、レイ?」

「…艦長、その…」

「…どうしたんだ?」

「あたし、思い出したんです…」

「思い出した、って、何をだ? …まさか!」

「…思い出したんです、全て。あたしが何者なのか、そして何でこんなことになってしまったのか、ってことも…」

「…本当か?」

「…」

 何も言わず、レイはうなずき返す。

「…そうか…、まあ、とにかく詳しい話は艦に戻ってから聞くから。おまえをさらったヤツらも引き渡さなければならないしな」

「…はい…」

 その言葉にレイは一言答えるだけだった。

    *

 やがてレイを誘拐した男たちを引き渡し、警察の事情聴取も終り、7人はSJ-099に戻った。

 そして関根支部長に連絡を取るとレイを救出したことを報告する。

「…そうか、それはよかった。それでレイ君は?」

「いま、自室にいます」

「そうか」

「…それで支部長、レイのことなんですが…」

「レイ君がどうしたのかね?」

「…どうも彼女、記憶が戻ったらしいんです」

「記憶が?」

「はい」

「そうか。だとすると…」

 モニターの向こうの関根支部長はちょっと考えると、

「…鷹城君、君にちょっと頼みがある」

「何でしょうか?」

「君のほうでまず、彼女から事情を聞いてもらえないだろうか? そしてそれを私のほうに報告してもらえないだろうか」

「といいますと? …例の男性の件でしょうか?」

「ああ。私が彼女に直接聞いてもいいんだが、レイ君は君の艦の乗組員だからね。それに、彼女も記憶が戻ったことでまだちょっと混乱している部分もあるだろう。だとしたら私より君のほうが話しやすいのではないか、と思ってね。頼まれてくれんか?」

「…わかりました」

「それじゃ頼むぞ」

 そして通信を切るとハヤトはサリーを呼ぶ。

「…なんでしょうか?」

 サリーがハヤトのもとに来た。

「…レイを呼んで一緒に艦長室に来てくれないか?」

    *

 艦長室にレイとサリーが入ってきた。

「…まあ、楽にしろ」

 そう言うとハヤトは二人に椅子をすすめ、二人が腰掛ける。

「…まあ、とりあえず、記憶が戻ってよかったな、レイ」

 ハヤトがレイに言う。

「…」

「…聞きたいことはいろいろあるんだが、まずは本当にすべてを思い出したのか?」

「はい」

「じゃあ、自分が何者かもわかるんだな」

「勿論です。あたしは、あたしを誘拐した彼らの言っている通り『お嬢様』なんです」

「…どういうことだ?」

「父親が事業で成功して、今はある会社の社長をしているんです」

「…つまり、社長令嬢ってわけか」

「はい。そして父は若い頃にあるボランティア・サークルに所属していて、そこで母と知り合った、ということでそういったボランティア団体に寄付をしていることもあってか、あたしも両親の勧めであるボランティア・サークルに入っていたんです」

「ふうん…」

「…それでいろいろなコロニーでボランティア活動を行っていたんですが、あるコロニーに寄ったときに、そこで事件に巻き込まれて…」

「…事件?」

「はい。そのコロニーはもともと以前から何回もトラブルが多いコロニーだったんですが…」

「ああ、その話なら聞いたことがあるよ」

「…でも、ボランティアと言うのはたとえそう言った危ないコロニーでも、いえ、危ないコロニーだからこそ、自分たちが率先して仕事をしなければいけないと思って…」

「…まあ、確かにボランティアというのはそういったとことがあるからな」

「…それで、そのコロニーで大変なことがあって」

「大変なこと?」

「…あたしたちがそこでみんなと一緒に活動をしていたときに、何者かが爆弾を仕掛けたと言う連絡が入ったらしいんです」

「…爆弾?」

「…そう言えば、レイを保護したコロニーって民族間紛争が絶えなくて、そういった騒ぎが何度もあった、って…」

 サリーが言う。

「…そうか。そういえば支部長にも十分気をつけろ、と言われていたんだ…」

「それでとにかく避難しよう、と言うことになって…、それで…」

「…それで?」

「…その、何があったのかわからないんです」

「わからないだって?」

「がい。その瞬間のことはまったく記憶にないんです」

「記憶にない、だって?」

「気がつくと、身体のあちこちを怪我して、どこか部屋の中でベッドに寝かされていて…」

「…爆発の瞬間に何らかのショックでその瞬間の記憶が飛んでしまった、とこう言うことになるのか…」

 ハヤトが言うとサリーも、

「…そうかもしれませんね」

「…それで、そのコロニーに立ち寄って、ちょうどその現場にいたオレたちがおまえを拾った、とそういうことになるんだな」

「…そうだと思います」

「それじゃあ、コロニーで似たような風景を見たことがある、とかおまえとよく似た女を見かけた、という証言も…」

「はい。あちこちのコロニーに行っていたから、その時のことを無意識のうちに覚えていたのではないか、と…」

「…ふうん…」

「…それで、記憶が戻ったのはいいんですけれど、ここ数ヶ月の間に何があったのかは途切れ途切れには覚えているんですけれど、全体のことは何がなんだかわからなくて…」

「…じゃあ、レイはオレたちに拾われてからのことをまったく忘れている、というわけではないんだな?」

「…ええ。だから艦長やみんなのことはわかんですけれど…」

「…そうなるとここ数ヶ月のことも記憶が戻ったことでまるっきり忘れている、ということではない、ということか」

 ハヤトの言葉を聞いたサリーが、

「…あたしも記憶喪失に関しては、専門課程で医学を教わっていた際に一通り勉強した程度なんですけれど、記憶喪失と言っても、何から何まで全部忘れる、と言うことは少ないようですよ。おそらくレイは自分が何者なのか、とか家族とか自分の周りのことは忘れていて、そのほかのことは覚えていた、と言うことですね。つまりレイはあの爆発が起きたことで自分に身に起こったことを忘れるため、彼女の周囲のことを覚えている記憶回路のようなものが一時的に眠ってしまったのかもしれませんね」

「…となるとあのときの銃声がショックとなってレイの眠っていた記憶回路が目覚めて、記憶を取り戻した、ということか」

「そういうことになりますね。…そうか、だからか…」

「…だから、って何だ?」

ハヤトがサリーに聞く。

「いえ、前に立ち寄ったコロニーでバスの事故がありましたよね」

「…あの『レイの応急処置がかなり手馴れたもののようだ』っておまえが言っていたアレか?」

「はい。レイがボランティアでそういった救援活動をもともとやっていた、となればあれだけ手馴れたものだったのにも納得いくんですよね」

「…そうか、記憶をなくしても身体が覚えていた、ってことか」

「はい」


 そしてしばらくその場を沈黙が流れた。

 ハヤトもサリーも、そしてレイもなんと言っていいのかわからなかったのだ。

 すると、艦長室のドアが開いた。

「…あの、艦長」

 そう言いながらマリアが顔を出した。

「…どうした、マリア?」

「関根支部長とつながりました。レイにも来て欲しいそうです」

「…わかった。行こう」

 ハヤトの声に二人が立ち上がった。


(Voyage.6に続く)


(作者より)この作品に対する感想等は「ともゆきのホームページ」のBBSの方にお願いします。

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