6thコード
やり場のない感情を引っさげて。猫背というか、なんというか、後ずさり気味な前のめりの姿勢で歩いている。嫌なものを背負って、嫌なことを考えて、影を踏みにじりながら、この街の夜を歩いている。涙のあとの眼がやたらと渇くものだから、何を見るにしても、睨みつけているようで、あらゆるものに黒い視線を差し向ける。過ぎ行く車のライトで照らされる私の影は、時計の針みたいに私の足元を回り、ただただ時間が過ぎるのを実感するばかり。イヤホンの向こう側で、6thコードが鳴っている。その不安定が私の心をかたどる。残響が刃物になって、私はそれを手に取った。
過ぎゆく景色を切りつける。不気味な人影を切りつける。その切口から赤が吹き出たって、構うものか。モノクロの世界に、ふさわしい色を付けてやる。夜を切りつける。涙の跡を切りつける。その傷口が感傷と呼ばれたって、構うものか。確かなものを刻まなきゃ、この暗闇の中じゃ、まともに歩けやしないんだ。