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風って〜入学編〜  作者: マイケル
6/13

6組

1年生の教室が並ぶ3階へと階段を上る。窓からは校舎の近くにサッカー部のグラウンド、少し離れたところに野球部のグラウンドが見える。左端の建物は部室棟だろうか。建物やグラウンド以外は、枝に新たな命を宿した木々が生い茂っている。


京平が木の引き戸をガラッと開けた。既に4分の3の生徒が席についていた。本を読んでいる奴もいれば、スマホをいじっている奴もいる。机に突っ伏して寝ている奴、近くの席の奴らと談笑しているグループも既に存在していた。


俺は自分の席を見つけ、カバンを机の横のフックに引っかけた。一番後ろの席だ。京平の席はたまたま俺の隣だったが、絵里の席とは少し離れてしまった。


一息ついたところで担任と思われるメガネをかけた年配の男性が前の扉からゆっくりと入ってきた。背は低く、少し細い。髪の毛は真っ白でとても優しそうな雰囲気を纏っていた。彼は白いチョークで黒板に田中人志と大きく書いた。


「皆さん入学おめでとうございます。私はこのクラスを担任します、田中人志たなかひとしと申します。ぜひ充実した高校生活にしていきましょう。よろしくお願いします。」

田中先生は深々と頭を下げた。これにつられ何人かの生徒も軽くお辞儀をした。入学式の時刻まではあと1時間ほどある。


「私の挨拶はこれくらいにして、早速ですが、自己紹介をしていただきましょう。1人30秒ほどは話してくださいね。では、そちらから順に。」


出席番号の1番から順に自己紹介が始まる。大人しそうな奴から、いかにも運動部というような奴まで様々である。


京平の番がきた。俺の横で京平が立ち上がる。

「橘京平です。東中学校から来ました。サッカー部に入ります。ポジションはCBセンターバックです。あ、えっーと、つまりディフェンダーです。好きな教科は体育です。嫌いな教科は数学です。よろしくお願いしまーす。」

ペコリと頭を下げる。

「橘君は随分と背が大きいね。」

座ろうとした京平に田中先生が話しかけた。

「えっと、自分は180cmっす。」

「へぇー!それは大きい!髪も短いし、いかにもスポーツマンって感じだね。10月の体育祭は頼んだよっ。」

「あ、はい。頑張ります。」


しばらくして俺の番が回って来た。静かに椅子を引いて立ち上がる。

「吉岡飛鳥です。橘君と同じ東中学校から来ました。僕もサッカー部に入る予定です。よろしくお願いします。」

特に話すことも思いつかなかったので短めに切り上げた。

「吉岡君もサッカー部か。ポジションはどこなの?」

あまりにも短すぎたのか、田中先生が掘り下げてくる。

「自分はFWフォワードです。攻撃するポジションです。」

淡々と返す。

「そーなのかぁ。橘君はほど背は大きくないけど、足が早かったりするのかな?」

「あ、えー、一応50mは6.1秒で走ります。」

クラスの男子が少しざわつく。高1男子だと6.8秒でも速いと言われる。

「それは速い!部活、頑張ってね。」

「はい、ありがとうございます。」


席に座り、少し大きなため息を1つついた。左を見ると、京平が少しにやけていた。


また何人かの自己紹介が終わり、絵里の番になった。ガタッと音を立てて立ち上がり、ちょっと大きめの声で話し始めた。

「高橋絵里です。京平と飛鳥.......じゃない!えっと、橘君と吉岡君と同じ東中学校から来ました。」

俺と京平はふふっと鼻で笑った。絵里は続ける。

「美術部に入ろうと思っています。絵を描くのが大好きです。それと、たくさん友達作りたいです!よろしくお願いします!」

絵里はハキハキと元気に自己紹介を済ませた。


それから10分ほどで全員の自己紹介が終わり、田中先生が朗らかな表情で言った。

「ありがとうございました。いいメンバーが集いましたね。高校生活とは長い人生から見ても、とても貴重な時間です。友達と記憶に残るたくさんの思い出を作ってください。そろそろ時間です。廊下に整列してください。」


俺はこの先生の人柄が好きだ。何かを押し付けるわけでも、まして決め付けるわけでもない。俺らを一人の大人だと思って接してくれているのがよく伝わってくる。


それから1時間半ほどで入学式は終わり、その日はそれで下校となった。俺ら3人は京平の親に校門の前で写真を撮ってもらい、京平は部活へと走っていった。


雲に隠れて太陽は出ていないが、そらでも春を感じさせるには十分に暖かく、ピンク色の花びらがパラパラと舞っていた。


「この後どうするんだ?」

「私は特に予定はないよー。」

「だったらさ、買い物付き合ってくれない?」

「いいけど、何買うの?」

「新しいスパイク買いたいんだ。ちょうど財布に金もあるし。」

「おっ、やる気だねぇー。いいよっ!行こっ!」


2人で駐輪場に向かう。

「絵里止まって!」

「ん?なに?」

「花びら」

短くなった絵里の髪に、桜の花びらが1枚絡まっていた。

「ふふっ。ありがとう。飛鳥は優しいねー。」

その笑顔はずるい。俺は目をそらした。


こここらスポーツショップまでは自転車で20分。俺らは自転車にまたがり、朝登ってきた坂を下った。


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