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風って〜入学編〜  作者: マイケル
13/13

白蓮祭

10時からの一般公開に向けて、1人また1人と教室にはクラスのメンバーが集まってくる。その中にはもちろん清水さんの姿もあった。


「おはよ、飛鳥くん、絵里ちゃん。」

「あ、清水さん。おはよう。」

「飛鳥いつの間に清水さんと仲良くなったの?」

昨日の出来事を知らない絵里は当然の疑問を抱く。


「昨日ちょっと手伝ってもらった時にね。それだけだよ。」

清水さんは絵里に嘘をついた。俺に気を遣ってのことだろう。

「へぇー!飛鳥女の子友達できたんだ!よかったね!」

自分のことのように喜んで暮れる絵里。心が少しチクリとした。清水さんの笑顔を俺は真っ直ぐ見ることができなかった。


衣装もなんとか用意が間に合い、女子はメイド服、男子はタキシードに身を包んだ。


「飛鳥、ネクタイまがってるよ?......これでよしっと。」

「ありがとう。絵里似合ってるな。」

「ありがと。飛鳥は、ちょっと着られてるね。」

「うるさいなー。」

「えへへ。飛鳥も来年は試合かもしれないし、楽しもうね!」

「おう!京平の分までな!」


俺ら2人は午前中はクラスにかかりっきりになる。絵里は紅茶やお菓子を運び、俺は入り口で受付の担当だ。


10時の開始とともに、地域の方々が少しずつ見え始める。俺は最初こそ緊張してミスの連続だったが、気付けば仕事にも慣れ、楽しむ余裕さえ出てきた。絵里はというと、慣れた手つきで紅茶を入れたり、持ち前の明るさでお客さんを笑顔にさせていた。


やはり夢中になっていると時間が経つのが早いもんだ。既に交代の12時を少し回っていた。俺と絵里は引き継ぎをして、午後からは自由時間になる。


「ちょっと疲れたな。」

ネクタイを緩める。

「うん、でも楽しかった!お客さんも楽しんでくれてたし!」

「それじゃ....行こっか。」


俺らはメイド服とタキシードで、他のクラスをいくつか回った。


お化けにびっくりする絵里。迷路で子供のようにはしゃぐ絵里。カジノで負けてほっぺたを膨らませる絵里。この瞬間が一生続けばいいとさえ思った。


絵里の笑顔は絶えることがなく、それにつられ俺も終始笑顔でいた。こうやって2人で白蓮祭を回れる幸せを噛み締める。


「飛鳥、写真撮ろうよ。」

絵里が俺にくっつく。心臓の音が絵里に聞こえないか心配になる。

「はいっ、チーズ!」

2人で写真を撮るのってもしかしたら初めてかもしれない。


「お腹減った〜。飛鳥!なんか食べに行こうよ!」

「いいね。何があるんだっけ?」

ポケットに小さく畳まれたパンフレット取り出す。

「これがいい!」

絵里は3年生がやっているパンケーキを指差した。

「絵里らしいな。」

「どう言う意味ー?」

笑い合う2人。昇降口から外に出ると、青空に少しの雲がプカプカ浮いていた。春にしては少し強めの日差しに目を細める。


「すいません、2つください。」

「ありがとうございまーす!」

完成を待つ絵里の横顔は、餌を待つ犬みたいで少し面白かった。


木陰に腰を下ろす。

「いただきまーす!」

丁寧に両手を合わせると、絵里は焼きたてのパンケーキにフォークを通す。

「ん!美味しい!ほらっ、飛鳥も早く食べてみてよ!」

「大げさだなぁ。.....ん、うまい。」

「でしょー?」

なぜか誇らしげだ。


青々と枝葉を広げる木々。それをサラサラと揺らす春風。美味しそうに口いっぱいにほお張る隣の女の子。俺の目に映る景色はいつもより光って見えた。


俺たち2人はそれからも時間の許す限り白蓮祭を楽しんだ。

教室に戻る時の絵里の少し寂しそうな顔が印象的だった。



終了を告げる放送とともに俺らの初めての白蓮祭は幕を閉じた。それから日が暮れるまでクラスのみんなで片付けに移った。1週間かけて作ったものを壊していく作業は少し寂しかった。


帰り道、隣で絵里が言った。

「誘ってくれてありがとう。すっごい楽しかった!」

「ほんと?俺も楽しかったよ。」

「また来年もさ.....、一緒に回れたらいいね....。」

小さく呟いたその言葉は、夜風に負けず俺の耳へとしっかり届いた。


一拍おいてゆっくり答えた。


「そうだね。」


水晶のように丸い月が夜道を明るく照らす、そんな夜だった。





『風って〜入学編〜』完



【あとがき】


稚拙な文章にお付き合いいただきありがとうございました。少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。

『風って〜インターハイ編〜』

もすぐに更新予定です。またお会いしましょう。


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