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風って〜入学編〜  作者: マイケル
10/13

帰り道

あの敗北からというもの、俺は毎日のランニングの量を2倍にした。腕立てや腹筋、体幹トレーニングなども取り入れ、高校の激しいサッカーにも対応できるだけのフィジカルも少しずつだが整っていった。


高校に入学してから1ヶ月が経ち、ようやく高校生活にも慣れてきた俺たちは、初めてのイベントとなる文化祭『白蓮祭はくれんさい』の準備に追われていた。


「飛鳥っ!ちゃんと押さえててよーっ!」

「はいはい。」

絵里が椅子の上に乗り、教室の壁に装飾をつけていく。クラスの40人はそれぞれ準備の分担を決められ、俺らは壁の装飾の担当である。


俺たち1年6組は無事希望が通り、メイド喫茶をやることになった。とは言っても料理を作って出すことは衛生上問題があるとかで、提供できるのは市販の包装してあるお菓子だけ。ギリギリオッケーということで、紅茶だけは自分たちで作っていいということになったらしい。


「よしっ、終わりっ!」

絵里が椅子からピョンと飛び降りる。

「高いところなら京平に任せればよかったのに。」

「だってほら。」

絵里が教室の後ろの方を指差して言う。

「なるほど。」

京平は男連中と新聞紙を丸め、キャッチボールに夢中だった。女子から白い目で見られているが、あいつの性格だと気にしないだろう。


「とうとう明日だねぇー。ねぇ?飛鳥は楽しみ?」

「まぁ、それなりにな。こーゆーの初めてだし。」


俺らには1週間の準備期間が与えられる。ダンボールなどを利用して教室を本当のお店みたく作り変えていく。既に教室の準備は9割方完成しており、木でできた壁はその面影もなくカラフルな装飾が施されていた。白蓮祭を明日に控え、あとは壁に折り紙で作った輪っかを付けていくだけだ。


「飛鳥は明日いるんだよね?」

「いるけど、どうして?」

「サッカー部は明日試合なんだってー。」

「土曜日だからな。じゃあ京平はいないのか。」

「そう。3人で楽しみたかったね。」

「あいつの分まで楽しまないとな。」

サッカー部はインターハイ予選を6月に控えている。6時間目が終わるとすぐにエナメルバッグを左肩にかけて駆け出していく京平を見ていると、忙しさはだいたい伝わってくる。


「ちょっとトイレ行ってくる。」

後ろのドアから出た俺の目に映ったのは、壁に装飾をつけようと必死に背伸びをする学級代表の清水美咲しみずみさきだった。

「あの、手伝おうか?」

「えっ...!いいの?すごい助かる!」

「貸して。」

俺は清水の持っていた紙で作ったピンク色の花を、少し背伸びして壁の上の方にくっつけた。


「わぁー!ありがとう!」

可愛らしい笑顔をこちらに向けた。

「いいよ。気にしないで。」


彼女は入学式の次の日のホームルームで、自ら学級代表をに名乗り出た。背は155cmくらい。髪型はショートボブ。見た目は可愛い系だが、とても真面目でどんなことも率先してやる。クラスを取り仕切るにはもってこいの人物だ。


「吉岡.....くんだよね?」

「飛鳥でいいよ。」

「飛鳥くんとちゃんと喋るのは初めてだったよね?」

「そーいえばそうだな。よろしくな。」

「こちらこそよろしくね。色々準備手伝ってくれてありがとね。本当に助かるよぉ。」

「俺らのクラスなんだから当たり前だろ?他にも手伝って欲しいことあったら言えよー。」

「うん!」

初めて喋ったが思ったより話しやすい人物のようだ。いつもニコニコしているので話しかけやすい雰囲気ではあるが、俺は女の子と話すことがあまり得意でないので、今まで会話をしたことがなかった。困っていたのでつい手を差し伸べてしまったが、話しかけて正解だったのかもしれない。


その後も俺は絵里や京平と準備を進め、無事に準備は終了した。時刻は午後4時を回ろうとしていた。田中先生はクラス全員を教室に集め、明日の意気込みを語る。

「準備お疲れ様でした。明日はみなさんにとって初めての白蓮祭です。当日も忙しいとは思いますが、ぜひみなさん自身も楽しんでください。いい思い出なることを祈っています。」

やはりとてもいい先生だ。


「吉岡明日は楽しんでこいよ!」

京平が俺の背中をポンと叩いた。

「ああ、お前こそ試合頑張れよ。最近の部活はどうなんだ?」

「1年は基本的に外周、俺と何人かだけ2、3年生の練習に混じってる。6月までにはレギュラー取れそうだぜ。」

「おっ、やるな。というよりお前だったら当たり前か。」

「お前こそどうなんだ?仕上がりは。」

「悪くない。むしろ順調だよ。6月の頭には合流できそうだ。」

「頼りにしてるぜ、相棒!じゃ、俺行くわ!」

「おう」

走っていく京平の背中は昔より少し大きく見えた。


気付けば教室には数人しか残っていなかった。絵里は部活に行ったみたいだ。俺も帰ってランニングしないといけない。カバンを肩にかけて教室を出た時、横から呼び止められた。


「あのっ!」

俺は少しビクッとして首を左に回す。

「あ、清水さん。どうかした?」

「今日とか...一緒に帰れたりしないかな....なんて.....。」

「えっ?俺?」

「....うん。」


なぜ急に?喋ったのも今日が初めてだぞ?こんなこと俺の人生で今までなかった。絵里と一緒に帰るようになったのも、初めは京平と絵里と俺との3人だった。

2人きりで帰る?いやいや、レベルが高すぎる。正解はなんだ?落ち着け。冷静に考えろ。


クラスは始まってまだ1ヶ月。相手は学級代表だ。ここで断ったら、俺はクラスでどんな扱いを受けるだろう。まずい。断るデメリットが大きすぎる。


そうだ。ここはノリに任せるべきだ。その場の雰囲気というものがある。話した感じ悪いやつでないのは確かなんだ...。よし...


「いいけど、帰る方向同じだっけ?」

「途中までかな。」

「わかった。じゃあ行こっか。」


だんだんと日の入り時刻も伸びてきていて、3階の窓から見える空もまだ昼間のように明るい。それでも空に響くカラスの鳴き声は、もうすぐ夜が来ることをみんなに告げているようだった。俺ら2人は微妙な距離感を保って階段を降りた。


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