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第43話

「こっちです要さん!早く早く!」


「ちょ、ちょっと待って!」


 ギルドランキング不動の1位であるギルド『アルバトロス』の生産職である、梅崎高校の山下美玲さんが俺の腕を引く。俺たちは、[オルペンス]の沖合にある[マケルス諸島]に来ていた。



 いつだか、ウルピアの外れにある『アルバトロス』のギルドホームに行ったときに一緒に素材厚めをするという口約束を交わしたのだが、俺は夏休みを挟んだせいですっかり忘れていた。そんな俺がどうしてここにいるのか。話は1週間ほど前、窪園たちとの戦いの2日ほど前に遡る。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


―――――――


  [紫電一閃との対決 2日前 ウルピア本島]


 俺は[ウルピア]に来て露店を回っていた。探しているのは武器でも素材でもない。スキルだ。



 俺が今保有しているスキルは、【チャミュエル】、【採取】、【泥棒】、【生産速度上昇(中)】、【鍛冶】、【細工師】、【強肩】、【片手剣術(小)】、【縮地】の9つである。しかし[ウルピア]に来たからか、セット出来るスキルの枠が10まで増えていたのだ。どうせなら全ての枠を埋めたいと思ったのだが、良いスキルが見つからずにいたのだ。



([ザラマーナ]にはR(レア)スキルしか売ってないし、[イツラス]には【魔力増強】とか【釣り上手】とか、微妙なスキルが多かったんだよなぁ……まだ[イツラス]のボスを倒してないから[ファルパーラ]の店は使えないし。ええと、[ウルピア]のスキルショップは……)


 俺は[ウルピア]のスキルショップを探す。ようやく見つけて商品を覗いてみたが、【雷魔法(中)】や【遠距離攻撃力上昇(大)】など、俺には使いにくいスキルばかりだった。

 店を後にしようとすると、少し離れたところに見たことのある女性がいた。背の低い眼鏡をかけた黒髪の女性だ。女性は俺に気づくと、顔を明るくして近づいてきた。


「要さん!お久しぶりです!」


「ええと……あぁ!『アルバトロス』の!!」


「はい!山下美玲です!ゲブラーも[ウルピア]に来てたんですね!今日はどうしたんですか?」


「あぁ、実は……」


 俺は場所を変えて山下さんにスキルの相談をする。ランキング1位のギルドの生産職なら、何かいい意見があるかもしれないからだ。山下さんは俺のスキルを見て少し考えてから、口を開いた。


「要さん、1つスキルがほしいとのことでしたが、【細工師】と【鍛冶】のスキルを合成すれば2つ空きが出ますよ。せっかくなら2つ探してみてはいかがですか?」


「え?スキルって合成できるの?」


「はい!ちょっと付いてきてください!」


 俺がきょとんとしていると、山下さんはニコリと笑い、商業区の方へ歩き出す。少し歩いて、占い師のようなNPCがいる店の前に立った。


 山下さんは占い師に2つのスキルを差し出す。【物理攻撃耐性(小)】と【魔法攻撃耐性(小)】だ。占い師は、この2つを水晶玉の横に置き、何か呪文を唱える。

 すると、2つのスキルは輝きを放ち、1つになった。山下さんは1万Gを払い、スキルを受け取る。名前は【攻撃耐性(中)】と言うらしい。


「とまぁ、こんな感じです!似たようなスキルを合成することで、ちょっと強いスキルが手に入るんですよ!スキルがある程度育っている必要があるんですが、要さんなら大丈夫だと思います!」


 そう言われた俺は山下さんがやっていたように【細工師】と【鍛冶】のスキルを占い師に渡す。占い師はさっきよりも長く詠唱して、ようやくスキルが1つになった。

 少し良いスキルになったからか、俺は3万Gを支払いスキルを受け取る。【技術者】というスキルだ。その能力を山下さんが説明をしてくれる。


「【技術者】は今まで作れていた武器やアクセサリーの他にも、家具を作ったり、ギルドホームの増築や噴水の設置等が出来るようになるんです!」


「ギルドホームの増築も出来るようになるんだ!どれどれ……」


 それを聞いた俺は今作れるアイテムを確認する。手持ちの素材の関係か、今作れるのは椅子や机といった家具ばかりだ。あまり合成する意味はないのかとも思ったが、武器とアクセサリーを作るのに必要なスキル枠を1つにまとめられるのは大きな利点だろう。しかし、俺はそこであることに気付く。


「……あれ?まだスキル見つかってないのに枠を増やさなくても良かったんじゃ……?」


「ふふーん!そういうと思ってました!」


 山下さんはそういって梅崎新聞を取り出す。どうやら夏休み中に出ていたもののようだ。


 俺は新聞を受け取り、1つの記事に目を通す。なんでも、[マケルス諸島]という場所で、スキルを確定ドロップする敵が現れるそうだ。しかも、運が良ければVR(ベリーレア)SR(スーパーレア)も良く出るのだそうだ。



「[マケルス諸島]って確か、いい素材が落ちるって話してた……」


「そうなんです!敵もそこそこ強いからレベリングにも適していて素材の質も高く、その上スキル集めも出来るから、第3の街のプレイヤーがこぞって集まっている場所なんです!しかもしかも!被ったスキルを売買出来るようにフリーマーケットスペースも出来てて、今すっごく栄えてるんですよ!」


(そんなすごい場所なのか⁉やべぇ、ちょっと行ってみたいかも……)


 山下さんが目を輝かせている。心なしか少し早口になっているが、ワクワクしているのは俺も同じである。俺がソワソワしているのに気がついてか、山下さんが手を打って口を開く。


「そうだ!お時間がよろしければ、今からでも一緒に行きませんか?[ウルピア]にいるから要さんも船は持ってるとは思いますが、少人数乗りの魔導ボートがあるんです!」


「ありがとう。ただ、今週は木曜までちょっと忙しくて……来週ならいけるんだけど、どうかな?」


「分かりました!では来週の火曜日でいかがでしょう?」


「分かった。じゃあ火曜日に[オルペンス]で」


 俺はそう言って、その日は別れた。そして今日に至る。ちなみに、中村と東堂以外にはこの話をしていない。せっかく生産職同士話が出来るかもしれないのに、樋口とかがついてきたら大変だからだ。あとアルシアたちにバレても面倒くさそうだからである。




―――――――


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 [マケルス諸島]は[オルペンス]から[ファルパーラ]に向かうときに渡る[アドレア海]の中央付近に位置している。

 気軽にボートで行き来出来るような距離に大小6つの島が点在しているが、全ての島の面積を足しても[ウルピア本島]よりも面積が狭いそうだ。



 建物がほとんどない波止場でボートを降りた俺は、山下さんに手を引かれて短い森を抜ける。そこには、さっきの波止場の周りからは想像もつかないほど賑やかな商業区があった。まだ朝の8時台なのに賑わっているその様子は、[ザラマーナ]の宿屋を彷彿とさせる。


「なんだここ!?すげぇ!!」


「夏休み頃から人が増え始めて、今はこんなに人が集まるようになったんです!それに、ここまで来られる人たちはかなりの実力者揃いですよ!」


 驚いている俺をみた山下さんが補足してくれる。確かに、ここにいるプレイヤーはみんな第2の街のエリアボスを倒した人たちなのだ。心なしか、武器や防具の質もよく見える。


「しっかし人が多いな……他の街の商業区はあんまり混み合うことはなかったと思うんだけど……」


「他の街はNPCの居住地とかもあって建物が多いですからね。ここは元々ただの島で、ここはあるギルドが作った商業区なので、どこもお店なんですよ……きゃっ!?」


 俺の方を向いて後ろ向きに歩きながら説明をしてくれた山下さんに、前から来た人がぶつかり、山下さんが転びそうになる。俺は慌てて、山下さんの体を受け止めた。ぶつかった人は何も言わずに去っていってしまった。


「山下さん、大丈夫?」


「すみません。ありがとうございます!……HPも減ってないですし、アイテムもなくなってないのでPK(プレイヤーキラー)とか【スリ】ではなさそうですね。大方、目当てのものがドロップせずに仲間がやられて帰る、といったところでしょう」


 山下さんがそう分析していると、さっきの人が走っていった方向からバサバサバサと十数羽の鳥が飛んでいった音がした。壁にでも八つ当たりをして、鳥が驚いたのだろう。


「しっかしこんだけ狭いと人の行き来も大変だなあ。あいつ何考えてんだ?」


「あいつ?要さんはここを作った方とお知り合いなのですか?」


「あーいや、確証はないんだけど、こんな変わった遊び方してるやつはあいつだろうなぁ……」


「変わってるもんか。経営だって立派な遊び方の1つだよ」


 俺がここの商業区を作った奴の顔を想像していると、通り過ぎた露店の店員に声をかけられる。振り返ると、予想してた通りの男がそこにいた。


「よっ要!やっぱり来てたんだな!ようこそ!狭くて行き来しづらい[マケルス商業区]へ!」


「やっぱりはこっちのセリフだよ……てか、さっきの話聞いてたんだな」


「僕も最初はこんなに賑わうとは思ってなかったからねぇ。そのうち広げるよ」


 店の中にいたのは、ここを作ったであろうプレイヤー、谷口である。俺たちは人の邪魔にならないように端によって、谷口と世間話をした。


「この島では何をやってるんだ?この前買った馬車屋は流石にここまではこれないだろ?」


「ここの島の店は全部『セイコー商会』の管轄だからねぇ。武器や素材回収用ツールの販売から、船の貸し出しに修理に、島と島を結ぶボートの定期運行もやってるよ!

 レアドロップしやすいように【フォーチュン】のバフをかけるお店に……あとはこの島の目玉の『フリーマーケット』よ!手数料は取るけど、気軽にスキルの売買が出来るのさ!」


「店全部ってお前、いくら使ったんだよ……」


「いやいや、そんなに使ってないよ?土地自体はそんなたかくないし、店も数は多いけど、そんな大きい建物じゃないからね。土地と店、あと少人数乗りから大人数乗りまでいろんな種類のボートを数百艇で、全部合わせて900万Gくらいかな?」


「へぇ、そんなもんか……いや、馬車屋だけで1500万くらいって言ってたんだから絶対もっと高いだろ。何か隠してないか?」


「おっ、流石だねぇ!土地の整備費やNPCの数百人分の人件費が高くてね。土地とか店とかの3倍かかっちゃったよ!」


「3倍ってことは……合計で3600万G⁉美保ちゃんにはちゃんと話したよな!?」


「もっちろん整備費と人件費のことは内緒だよ!これがバレたら流石にブチ切れられるだろうね!」


 俺はこの男の能天気さと、俺たちが稼ぐにはどれだけ時間がかかるか分からない金額をポンポン使える図太さに、もはや恐怖さえ覚えた。



 『セイコー商会』は[オルペンス]での宗教戦争の集結後、街の復興に尽力し、遂に街の一部を買うことに成功したようだ。場所は街の中央、ミカエル教とラジエル教の大本山の近くである。ミカエル教徒にラジエル教徒、さらには街の外れの無神論者もみんなで仲良く暮らせる街を目指しているのだそうだ。



 そんな話をしているときに、ちらりと山下さんの方を見る。最初の方は楽しそうに聞いていたが、段々とあり得ない額が出てきたせいで頭が混乱しているようだ。俺は山下さんに谷口を紹介する。


「山下さん、彼がここの創設者。『セイコー商会』の谷口功太郎だ」


「そうなんですね!私、『アルバトロス』の山下美怜と申します!」


「『アルバトロス』ってあの!?いやぁ最強のギルドの女の子たぶらかすなんで、要も隅に置けないねぇ」


「たぶらかしたとかそんなんじゃ……お前、今の椛さんとかに言うなよ?」


「うーんどうしよっかなぁー。要がいっぱいお金落としてってくれれば僕の口が段々固くなるんだけどなぁ」


 俺は谷口に釘をさそうとすると、谷口が交換条件をちらつかせてきた。俺はさっき手に入れたばかりの大きな武器を谷口に突きつける。


「優香さんが美保ちゃんとよく連絡をとってるんだ。俺がここに来てるのがバレたら、人件費の話とかもう隠す必要ないだろうなぁ」


「OK親友!これは僕たちの約束だ!絶対に言わないぜ!」


 女の子に怒られるのが怖い俺たちは硬い握手を交わす。なんとも情けないが、怖いので仕方ない。他のプレイヤーが店に来たので、俺たちは谷口と別れて、[マケルス諸島]を堪能しはじめた。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 俺たちはボートで[アルベ島]に上陸した。この島は色々な種類の木が生えている上に、他の街よりも質の良い木材が多く取れるそうだ。しかし、レベルの高い敵も多く、島全体がジャングルのようになっているので目視での索敵は困難である。


「鬱蒼としてるなぁ……山下さん、どの木がどんな能力かってわかる?」


「はい!その太い木は腐りにくいので船の材料に適してるんですよ!それで、こっちのまっすぐな木は魔力効率が高いので杖にすると高い威力のMP効率の良い魔法が使えるんですよ!私の杖もここの木で作りました!」


 俺が問いかけると、山下さんがいろいろ教えてくれた。そういえば、山下さんは杖を持っているが中村が身につけているようなローブをつけていない。きっと和泉さんのようなヒーラーなのだろう。


 そう思っていると、森の奥から何か鳴き声が聞こえてきた。ガサゴソと音を立てて出てきたのは、俺よりも大きなゴリラだ。ゴリラは俺たちの方を見ると、勢いよく近づいてきて、俺に殴りかかってきた。


「っ!?ゴリラ!?山下さん!下がって!」


 俺はすぐに剣を抜き、ゴリラの拳にぶつける。【鏡の盾】を使わないのは、ゴリラのパンチなんか受けたら薄氷のように砕けてしまいそうだったからだ。

 俺はゴリラの腕を弾いて胸を斬りつける。しかしゴリラの胸は硬く、ほとんどダメージが入らなかった。


 ヴロァァァァァ!


 低い声で叫んだゴリラは自分の胸を両手でバンバンと叩き始めた。ドラミングだ。すると、ゴリラを中心に強い風が俺たちを襲った。


(なんだあのドラミング!?突風を起こすのか!?……くそっ、耐えきれねぇ……!!)


 俺は飛ばされないように必死に足を踏ん張るが、とうとう体が浮いてしまう。木にぶつかってもスタンしないように頭を守ろうとした時、俺の体が何か壁にぶつかった。後ろを見ると【シールド】が張ってある。


「要さん!『ブラストゴリラ』の胴体はVIT(防御力)が高い上に、物理攻撃を受けるとドラミングをしてくるので、首を狙ってください!」


「了解!」


 山下さんが俺にそう伝えた。どうやらヒーラーではなく、優香さんのようなタンク役のようだ。杖を使うのは、きっと何かメリットがあるからなのだろう。

 俺はドラミングが終わったタイミングを見計らって【縮地】で近づき、『ブラストゴリラ』の腕を斬りつける。HPは4分の1ほど減ったが、一瞬背を向けた俺めがけて『ブラストゴリラ』は回し蹴りをしてきた。不意をつかれた俺は直撃こそ避けたものの、大きく吹き飛ばされてしまう。HPは半分ほど減ったようだ。


「くっそ!攻撃が重てえ!!どうにかして動きを止められれば首を狙えるんだけど……」


「それならお任せください!【グランドバインド】!!」


 俺の呟きを聞いた山下さんが、無詠唱の魔法で『ブラストゴリラ』の動きを止めた。俺はそれを見て面食らったが、魔法であの巨体を長い間抑えておくことはできないだろう。


 すぐに【縮地】で『ブラストゴリラ』の首に剣を突き刺した。『ブラストゴリラ』体に木の根っこが絡みついたまま、アイテムに変わった。


「やりましたね要さん!今回復しますね!【ギガヒール】!!」


「あぁ、ありがとう……そういえば、山下さんは……タンク……?それとも魔法使い……?」


「あ!ごめんなさい!伝えてませんでしたね!私は、ヒーラー兼魔法使い兼タンクです!後衛は全部お任せください!」


「え!?そんなに掛け持ちしてるの!?」


「最初は魔法使いだったんですけど、うちのギルドは前衛しかいないので色々やるようになったんです!流石にゲブラーの本職の方々よりは劣るとは思いますが……」


 そう言って山下さんは杖をクルリと回して構える。ヒーラーが1人でもいれば戦いやすいと思っていたところに、魔法や【シールド】も使えるとは心強い。そう思っていると、ドロップアイテムを拾った山下さんが、アイテムの解説をしてくれた。


「『ブラストゴリラ』は1体から少ししかドロップしない『ゴリラの毛皮』をドロップするんです!これを大量に集めて服や装飾品にすると【防御力上昇(特大)】が付与されるんですが、『ブラストゴリラ』は出現率も低いし、この島の他のモンスターに比べてレベルも高いんですが……流石要さんですね!」


「いやいや、俺全然何もしてないから……しっかし、俺LUK()の値が低いのによくそんなレアモンスター出たな……」


「モンスターのポップはリアルラックですからね。スキルを集めるときはLUK()の値が関係してくるので、そのときは本島でバフを受けましょう」


 そう言って山下さんは『ゴリラの毛皮』を半分渡してくれた。そこから俺たちは敵を倒しながら、いくつかの島を回って素材集めに勤しんだ。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

  [6時間後 レイモ島]


「いやぁかなり夢中になっちゃったなぁ」


「他のギルドメンバーがいると、あんまり素材を集められませんもんねー」


「あ!すっごい分かる!うちの奴らもすぐに先に行きたがるんだよ!」


「やっぱり前衛はみんなそうなんですかね。……あ!この辺にしましょう!」



 俺たちは3つの島でめいっぱい素材集めを楽しんだ。他の素材との能力差を比べたり、初めてみる能力の木材や鉱石を見つけるのが楽しいのだが、流石にみんなといる時に何時間も素材集めをしていると顰蹙を買ってしまう。かといって1人だと高レベルのモンスターに対応しきれないので、このパーティ(と言っても2人だが)はバランスがいいのだ。



 3つの島を周り終わった後、俺たちは[レイモ島]という島に来ていた。この島は食材になるモンスターが多く出現するとのことで、俺はすごい楽しみだったのだが、あまり人はいない。

 出現するモンスターの経験値が他の島のモンスターよりも少なく、武器や防具の素材にならないアイテムしかドロップしないからと、皆他の島に行くようだ。




 そもそも、このゲームは食事はほとんど必要ない。今のところ食べたらパワーアップする食材などは見つかっていないし、数日何も食べないと【空腹】の状態異常になりST(スタミナ)が自動回復しなくなるのだが、少し何か食べるだけで治るのであまり気にする必要はないのだ。


 それでも俺たちが朝晩必ず食事を取るようにしているのは、日中は基本的にバラバラに動く俺たちが報告会をするためでもあるが、美味い飯は人を幸せにするからである。

 ゲームだから料理に時間もかからないし、失敗することもなく美味しいものが食べられるのに、これを捨てるなんて、俺には出来ない。



 余談だが、睡眠はゲーム内、もしくはリアルで6時間以上寝ないで24時間以上プレイすると、【寝不足】の状態異常になりステータスが大幅に下がる。そのため、まともな食事をとらないプレイヤーも睡眠はしっかり取るようだ。



 俺たちは島の中心付近の丘の上に座っている。少し遅めだが、山下さんが昼ごはんを作ってくれたらしく、せっかくなので見晴らしのいい場所で食べることにしたのだ。山下さんがバスケットをあけると、美味しそうなサンドイッチが入っていた。


「おぉ、サンドイッチかぁ!いただきます!!」


 俺は手にとって一口食べる。そしてすぐに声を上げた。


「んんん‼美味い!」


「そうですか!お口にあって何よりです!そのサンドイッチの素材もここで採れたものばかりなんですよ!」


 俺が一口目を食べる様子を不安そうに見ていた山下さんは顔を明るくした。食べごたえがあり、口の中に美味しさが広がるミートサンドを食べながら、俺たちはお互いのギルドの話など、他愛のない話をした。


「そういえば、『アルバトロス』はどうやって結成したの?」


「私と秀介くんは幼馴染なんです!たまたま同じ地方から始まって、声をかけてもらいました!岡田くんと亜希ちゃん真希ちゃんは栄峰で秀介くんと仲が良かったみたいで、一緒にギルドを組んだんです!」


「へぇ、そうだったのか。てか、水野さんは双子で栄峰かぁ……すごいなぁ」


「2人ともすっごい頭が良くて、生み出した【分身】を全部別々に操れるんですよ!」


「あぁー、『アルバトロス』のギルドホームに招かれたときに戦ったな……ホントに何人もいるみたいですごいやりにくかったよ」


「でも!要さんは妹の真希ちゃんは制圧したと聞きました!不意打ちだったはずなのにすごいですよ!」


「いやぁ……その後すぐに眠らされたし……」


 俺は2人のくノ一に襲われた時のことを思い出す。現実の双子は服や髪飾りなど、周りの人が分かりやすいように区別している場合が多いが、服や髪型まで一緒にして、その上で【分身】など、普通は思いつかないだろう。

 バスケットが空になり少ししてから、山下さんが立ち上がった。


「さてさて!1度本島に戻ってから、スキル集めと行きましょう!」


「そうだね。とっても美味しかった!ごちそうさま!」


「お粗末様でした!では[シザロ島]に向かいましょう!」


 俺たちは立ち上がり、本日のメインイベントであるスキルがドロップする島、[シザロ島]に向かった。

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