第37話
[8月18日 ヴァルリア中央区]
「ちっ、相変わらず派手な街だ。どこにこんな金が残っているんだか……」
ヴァレリア王国騎士団大隊長の1人であるルドリスは、不満気にヴァレリア中央区を歩いていた。
ヴァレリア中央区。名前の通り、ヴァレリア国内の経済の中心地で、地理的にもヴァレリアの真ん中の辺りに位置している。この街で暮らしているのは、上級貴族や豪商が殆どだ。
広場の大時計の鐘の音を聞いたルドリスは、少し急いで騎士団の中央区支部に向かう。
中央区なのに騎士団の本部ではないのは、王直属の近衛兵以外の軍人を極力王都に入れないで欲しいという国王の意向故である。
支部に到着したルドリスは扉を開け、団員に連れられて応接室に向かう。今日呼ばれたであろうメンバーは1人を除いて、全員揃っているようだ。
部屋に入ってきたルドリスに、副団長のレアナが声をかける。
「遅い。ルドリス、時間も守れないなんて、貴様には騎士団の大隊長としての自覚はないのか?」
「たった2分だ。遅刻のうちに入らねぇ。それよりなんだ?急に真面目に仕事する気になったか?」
「いいえ、市民がいないところで真面目に働く気は無いわ」
「ねぇのかよ……」
ルドリスはいつもと雰囲気が違う幼馴染にそんなことを聞く。ルドリスに真剣な眼差しを向けていたレアナは少し口ごもりながら、本題に移った。
「ルドリス、遅刻した理由だが……き、昨日の夜!何をしていたんだ!もしや、ほ、他の女の所に⁉」
「昨夜はいつも通り兵舎にいた。今日遅刻したのは、ファルパーラのタコを殺してから来たからだ」
ルドリスは、そんなことかと拍子抜けして、そう答える。しかし、レアナの顔はまだ険しいままだ。
「ほ、本当なのね?本当に兵舎にいたのね?」
「アインダに確認してもらっても構わん。あと、『他の女』って表現を辞めろ。お前は俺の女でも何でもない」
ルドリスはばっさりと斬り捨てて、椅子に座る。レアナはそれを聞いて、俯いてしまう。
「なぁ、いいのか?お前の彼女、悲しんでるぞ?」
「別に彼女じゃねぇが……見てろ。あと数秒で直る」
ルドリスの横に座っていた、3人いる大隊長の1人であるターゴが小声で問いかける。返事をした直後、ルドリスの視界は真っ暗になった。
「ルドくぅぅぅーん!ルドくんは浮気なんかしないって信じてたよ!大好き‼ルドくんは私が一生幸せにするからね‼」
「邪魔だ、どけ。俺はお前の物じゃねぇ」
ルドリスは顔に抱きついてきたレアナを引き剥がす。椅子に放り投げられたレアナは少し考えた後、顔を明るくし、
「それはつまり、私がルドくんのものになれってことじゃ⁉」
と言って、もう一度ルドリスに飛びついた。ルドリスは面倒くさくなったのか、そのまま放置している。
「ルドよぉ、もっと彼女大切にしてやれよな。いざとなったらレアナちゃんを守ってやる!くらいじゃないと……」
「ロイ、俺とこいつならこいつの方が強い。役職の差に表れているだろ」
「おいおい、そんなんじゃ俺がレアナちゃんを獲っちゃうよ?ねぇ、レアナちゃん?」
大隊長の最後の1人、ロイがふざけてそんなことを言う。その瞬間、ロイの目の前に光り輝くレイピアが突きつけられた。
「貴様、目上の者に敬語を使えないどころか、軽々しく名前を呼ぶとは、騎士団としての心意気が足らんようだな。この【光剣グラーゼ】の錆になりたいか?」
「眩しっ⁉ちょっ!すんません!副団長!無礼をお許しください!」
「……次はないと思え」
レアナはレイピアをしまうと、すぐにルドリスの腕にくっついた。それを見たロイはため息をつく。
「それより、団長遅いですね。何かあったのでしょうか?」
「ホントだよ!あのババァ、俺たちをこんな朝早くから呼び出しといて遅れるたぁ、いい性格してやがる!」
ターゴがふと口にすると、ロイが興奮気味に団長の文句を言う。
その時、応接室の扉が開き、老婆と付き添いの団員が入ってきた。
「ごめんなさいねぇ。少し遅れてしまって」
「フ、フーラ団長⁉今のは、違うんです!その……うちの母が!じゃなくて、えと……!」
ロイがフーラ団長に文句の弁明をしようとする。すると、フーラはニコニコ笑って、ロイの元に近づいた。
「ロイくん、すまんねぇ。私は耳が遠いから、扉越しじゃ、なぁんも聞こえないんじゃよ」
「団長……!ありがとうございます!一生ついていきます‼」
「おやおや、こんなもう少しで逝くような老いぼれについてこんでも、優秀な若者がたくさんいるだろうに」
フーラはそう言って笑いながら自分の席に向かった。どうやら、ロイの暴言については不問にするようだ。
フーラが椅子に座ったのを見て、司会進行を努めるアルカルネが口を開く。
「では始めましょうか。今回の会議ですが、事前に通達したとおり、『堕天使領侵略作戦』の最終確認を行います。ターゴ、例のものを」
「は、はい……」
ターゴが机の上に地図を広げた。地図上には、所々にバツ印がついている。
「なんだ?ヴァルリアの地図では無さそうだな」
「はい。これは、騎士団の諜報員を送り込んで入手した、[堕天使領]の地図です。ここでは便宜上[堕天の城]の方向を北、我々の拠点を南としています。四隅と中央にある5つのバツ印のところには、砦のようなものを確認したそうです」
ターゴがそう言うと、他の幹部たちに緊張が走る。ルドリスは、穴が開くほど地図を見つめている。そして、ターゴに矢継ぎ早に質問をする。
「おい、諜報員の人数とレベルは分かるか?襲いかかってきた敵はいたのか?ここの黒く塗られた部分はなんだ?砦の規模は?」
「ま、待って。ええっと……諜報員は3人でみんなレベル80、敵は十数体の堕天使と1体の幹部だって」
「なるほど……全員生還してるのか?」
「うん。3人の中に1人、回復魔法を使える人がいたからね。全員無事さ。砦の規模はだいたい同じで、100人程度で攻め込めば確実に落とせるくらい。黒い部分は未確認みたいだね」
「なるほど、分かった」
「ルドリスくんや、ちょっとええかね?」
ルドリスがターゴの報告を聞いている間にも、ずっと地図を見ていたフーラが口を開いた。
「まず、拠点から北東……拠点に1番近いこの砦を攻めたらどうかねぇ?奴らに情があるなら援軍が来るでしょう?北東に援軍が向かっている間に反対側、北西の砦に攻め込んだらどうじゃろうか?」
「お言葉ですが団長、それがうまく行っても手前の2つの砦しか確保できません。その間に兵を固められたら、その先への進軍は難しくなるのでは?」
フーラが出した提案について、ロイが異議を唱える。フーラが発言をする前に、ルドリスが口を開く。
「ロイ、今回はもともと堕天使領を急襲して前線を押し上げるのが1番の目的だ。堕天の城を落とすことじゃない」
「だけどよ、500人弱もの騎士団員を連れて行くのに、北方に少ししか前線が上がらないのはどうかと思うぞ……」
ロイが保守的な計画に不満を漏らす。確かに、多くの団員を堕天使領に連れて行き、お金を大量に使った挙げ句、少しだけしか前線が上がらないとなると、市民からの不満も出るだろう。
「なら、拠点からまっすぐ北上したところにある……この砦まで行くかい?」
アルカルネがそう言って地図上を指さす。
そこの砦は拠点からは少し遠いが、周りには別の砦が無いので、攻め込むのは容易だろう。そう考えたルドリスが口を開く。
「よし、ならばその最前線の砦は、俺たちルドリス隊が向かおう」
「待って!ルドくんたちの隊だけじゃ無理だよ!私も行く!」
ルドリスが名乗りを上げたのを見て、レアナが手を挙げる。ルドリスはレアナをちらりと見て、首を横に振った。
「駄目だ。お前は確実に北東の砦を落とすために動け」
「ルドくんの隊だけで最前線に行くのは危険すぎるよ!もしなにかあったら……」
「ルドリス隊をなめるな。他とは鍛え方が違う。平均レベルも30は高い」
「私は副団長よ!上司の指示に従いなさい!」
「こらこら2人共、これから堕天使を攻めに行くのに、人間同士で喧嘩してどうするんだ?」
お互いに1歩も引かず、口論がヒートアップしそうになっていたところをアルカルネが割ってはいる。
2人が大人しくなったのを見て、ターゴが口を開いた。
「ルドリス、流石に1隊で最前線に行くのは無理だよ。俺らと一緒に行かないか?」
「だから、俺たちの隊だけで十分だと……」
「ルドリス隊は戦士が多いだろ?うちの隊はヒーラーや魔法使いが多いから、バランスが良くなるよ。それに、指揮権は全部お前に任すからさ」
「……分かった」
ルドリスは少し考え込んだあと、ようやく首を縦に振った。
「ふぉふぉふぉ、若い子たちはやる気に満ち溢れてるねぇ。それじゃ、私とレアナちゃんは北東の砦に行こうかねぇ」
「ううっ……了解しました……」
フーラがレアナにそう伝える。レアナはルドリスに同伴を断られて落ち込んでいるようだ。それを見たアルカルネが笑いながらある提案をする。
「レアナ、北東の砦を落としたら、ルドリスの方へ向かったらどうだい?」
「いいの⁉」
「砦の防衛くらい、フーラさんならたった1人でも十分だろうからね。ですよね、団長?」
アルカルネがフーラに確認する。フーラが笑いながら首を縦に振ると、レアナは満面の笑みを浮かべてルドリスに抱きついた。
「ルドくん!待っててね!こんな砦すぐに落として、ルドくんの所に行くからね!」
「……ちっ、勝手にしろ。自分の仕事をおろそかにしないならな」
ルドリスはそう言って立ち上がり、応接室を出た。
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[1週間後 ヴァルリア中央区]
「うおぉ……やっぱり600人は多いな……」
「全騎士団員の3分の1程度だからな。それだけ大事な作戦と言うことだ」
整列をしている団員を見て、戦慄するロイの肩をルドリスが軽く叩く。
広場の周りは、近くに住む住民が囲んでいた。そして中央には、600人程のヴァルリア騎士団員が集結していた。
全団員の整列が完了したのを見て、アルカルネが即席の壇上に登る。
「全団員に告ぐ!これより、『堕天使領侵略作戦』を開始する!作戦は幹部より報告したとおりだ。各員、転移を開始しろ!」
団員たちはアルカルネの合図を皮切りに、事前に配布された【携帯式天使像】を使って、[堕天使領]へと転移した。
[堕天使領 騎士団拠点]
「ここが……堕天使領……!」
転移してきた団員が呟く。
ヘイムガナ地方の遙か北方、堕天使領。草木が生えていない地表や、夜なのにぼんやりと紫色の光を放っている鉱石が団員たちの背筋を凍りつかせる。
それは、初めてこの地に足を踏み入れる幹部たちも同じだった。
「ここが堕天使領か……想像以上に荒れた場所だな」
「私も生まれて85年、こんな土地は初めて見たねぇ」
ルドリスとフーラがそう口にする。その間に、アルカルネは作戦の最終確認をしていた。
「まず、フーラ隊40名とレアナ隊100名はここから北東にある砦に攻め込んでもらう。
そこでの戦闘開始と同時に、私の隊の100名とロイ隊120名は北西、ルドリス隊とターゴ隊120名ずつは真北の砦を目指せ!」
「「「はっ!」」」
団員たちが返事をして各々の隊長の元へ向かった。ルドリスは戦闘を前にして精神統一をしていたレアナの元へ近づいていく。
「……問題なさそうだな。お前も、隊員も」
「えぇ。あなたの隊ほどではないけれど、うちの団員もかなり鍛えているの。誰1人欠けることなく、あなたのいる砦へ向かって見せるわ」
精神統一を終えたレアナは、普段は結っていない髪を縛る。昔からの癖で、今から真面目にやる、という証だ。この状態でふざけたことは一度もない。
レアナは元々整った顔立ちで、スタイルがよく、それでいて騎士団らしく鍛えられた引き締まった身体である。大事な作戦を前に凛々しく佇む様子は、ヴァルリアで1番強い女性と謳われるヴァルリア騎士団の副団長の姿そのものだ。
普段から真面目にやってくれれば副団長として尊敬出来るし、幼馴染として誇り高いのにと、ルドリスやアインダがため息をついた回数は数え切れない。
「最前線の砦で朗報を待っている。期待しているぞ」
「ふっ、あなたこそ。最前線で事切れることないよう、願っているわ」
レアナの言葉を背中で聞きながら、ルドリスは自分の持ち場に戻る。そして、すぐに出発したレアナたちを見送りながら、自分の出発の準備を始めた。
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フーラ・レアナ連合部隊は『ラピッドボア』に乗って、北東の砦を目指した。『ラピッドボア』と言うのは、『ファングボア』を生け捕りにし、家畜化したものだ。
『ファングボア』の性質上、1回走りだしたら止まるのに時間がかかるが、最高速度は騎士団の所有しているモンスターの中で1番速い。
目の前に見えている砦が次第に大きくなっていく。敵の警備隊がこちらに気付いて砦の上に集結しているのを確認して、レアナは指示を出す。
「レアナ隊アラン!カント!作戦通りに突撃だ!フーラ隊のスノウ!速度上昇の魔法で援護しろ!」
「「「はっ!」」」
アランとカントと呼ばれた男たちの『ラピッドボア』に、スノウと呼ばれた女がスピードアップのバフをかける。2人はそのまま固く閉ざされた砦の門に突撃していった。
「「うおおぉ!【ハンマースマッシュ】!」」
2人がバトルハンマーのスキルを放つ。固く閉ざされた砦の門は、スピードの乗った【ハンマースマッシュ】に耐えられるわけがなく、粉々に粉砕した。レアナが次の指示を出す。
「よし!各中隊!散開せよ!」
フーラ・レアナ連合隊は3方向に分かれる。フーラとレアナが率いる砦の内側に攻め込む部隊、中隊長たちが率いる、左右の城壁から攻め込む部隊だ。
レアナたちは『ラピッドボア』から飛び降り、内部の様子を確認する。すると、城壁から多数の堕天使がこちらへ光弾を放ってきた。
「ふぉふぉ、私の出番のようねぇ」
そう言ってフーラは【シールド】で団員を囲い込む。光弾は全て【シールド】にぶつかって消滅した。
「全員、団長についていって砦の奥へ進め。私はここで、奴らを叩く」
「けっ!馬鹿な女だ!てめぇ1人で、我々数十の堕天使に勝てるとでも思っているのか⁉貴様ら、殺れぇ!」
フーラが団員を連れて砦の奥へと侵攻していく。レアナが1人で残ったのをいいことに、堕天使たちが城壁から降りてきてレアナを囲む。そして、一斉にレアナに襲いかかった。
「ふっ、愚かなのはどちらだろうな?」
「何だと?」
レアナは【光剣グラーゼ】を鞘から取り出し、襲いかかってくる堕天使たちを次々に始末していく。
光魔法が付与された剣で攻撃されて、堕天使が生きていられるはずがない。体を刺された堕天使たちはその場で消滅した。
「くっ……怯むな!奴の後ろから周り―――」
「まずは貴様だ。もう一度地に堕ちろ、堕天使!」
レアナは指揮を取っていた堕天使を斬り殺した。
「リーダーが殺られたぞ!一度撤退だ!」
残された堕天使が砦の奥の方へ逃げようとしている。
レアナがそれを追いかけようとした時、城壁から堕天使に向けて光魔法が放たれた。砦の前で分かれた別働隊だ。
「レアナさん!ご無事ですか?」
「あぁ、問題ない。この辺りはこれで全てのようだな……奥へ進むぞ!」
「「「はっ!」」」
レアナたちは、フーラのいる砦の奥へと向かった。
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砦の奥に向かう通路の途中には、堕天使が使っていたであろう武器が転がっている。ここでも戦闘が行われた証拠だ。研究のために、一部を回収しながら、レアナたちは奥に向かう。
砦の屋上へ登ると、すぐに剣がぶつかる音が聞こえてきた。近くで戦闘が行われているのだろう。レアナたちは、音のする方へ向かう。
「団長。向こうは終わりました。こちらは?」
「おぉレアナちゃん。いやはや、あなたの団員たちは優秀だねぇ」
団長はニコニコしながらレアナにそう言う。どうやら、レアナ隊の隊員たちが堕天使の大半を仕留めたらしい。こうして話している間にも、レアナ隊によって堕天使は殺されていく。
「もちろんです。私が育て上げた者たちです。そう簡単に殺られません」
レアナは誇らしくそう答える。その時、砦の屋上に、1人の堕天使が降りてきた。
「ちっ、人間共め!1番手薄なタイミングでリゲルに攻め込んで来やがって!」
「それは運がいい。では、この『リゲルの砦』、開け渡してもらおうか!」
レアナ隊の中隊長、アランがそう言って堕天使にバトルハンマーを振り払う。バトルハンマーは堕天使の胴体に直撃した。しかし、堕天使は倒れるどころか、全く動く気配がない。
「なっ⁉貴様!俺の一撃を受けても立っていられるだと⁉」
「おいおい、ちょっと痛かったなぁ。お返しだ!」
そう言って堕天使はアランの胴体に闇魔法を叩き込む。アランは大きく後ろに吹き飛ばされた。
「アラン⁉大丈夫か⁉」
「あぁ、俺は大丈夫だ。あいつ、かなり強いぞ」
アランはカントの手を借りて立ち上がる。そして今度は、2人同時に、左右から殴りかかった。
「まだくるか?いいぜ!俺は堕天使の幹部、マスティマ!相手してやらぁ!」
「うおぉ!【ハンマースマッシュ】!」
カントがマスティマの左から、スキルを放つ。マスティマは左腕でハンマーを往なしてカントの懐に潜り込み、鳩尾に拳を叩き込んだ。
「カント‼このやろっ―――!」
「遅えよ!【ダークダガー】!」
アランがハンマーを振りかざした時、マスティマは闇魔法を放った。数本の紫色の短剣が宙を舞って、アランの体中に突き刺さる。
「ぐああぁ‼」
「アラン⁉大丈夫か!」
カントはボロボロのアランに近寄り、【超回復ポーション】を飲ませた。アランのHPは3分の1ほど回復したが、同じ攻撃を食らったら、殺られてしまうだろう。
「くっ……奴は今までの堕天使とは格が違う……」
「当然だ!俺は幹部だ。その辺の奴らの10倍……いや、30倍は強い!これで終わりだ!【暗黒波】!」
マスティマはそう言って、アランとカントに向けて、闇の衝撃波を放った。
しかし、その衝撃波はレアナのレイピアによって相殺される。
「ちっ、貴様が副団長か……うちの仲間が世話になったようだな。てめぇを殺して、ルシファー様への土産物にしてやる!」
「下らん、喋る暇があるのなら、攻撃してきたらどうだ?」
「舐めやがって……うらぁ!」
マスティマは【ダークダガー】を放ちながら、レアナに向かって飛びかかる。しかし、レアナは全く動じない。
「撹乱のつもりか?こんなもの、剣で弾くだけで対処出来るわ」
そう言って、レアナはレイピアに手をかける。その時、マスティマがニヤリとしたのをレアナは見逃さなかった。
「辞めだ。まだ先は長い。今グラーゼが傷ついては大変だ。〈光の天使よ、我が求むは闇照らす一筋の光。我に力を与えよ〉【ライトビーム】」
ニヤリとしたレアナは、手から光線を放ち、闇のダガーを撃ち落としていく。
「ちっ、もう少しだったのに……」
「マスティマといったな?貴様のダガーに武器破壊の効果があるのは見れば分かった。そのような卑怯な手が通じるとでも思ったか?」
「ちっ、この!」
「もういい。死ね!」
レアナは【縮地】でマスティマとの距離を詰め、【光剣グラーゼ】を心臓に刺した。
「くそ……覚えてろよ?リゲルの堕天使が戻ってくれば、貴様など……」
そこまで口にしたところで、マスティマは力尽きた。
「リゲルの堕天使か……なに、問題はないだろう」
「お疲れ様、レアナちゃん。『ラピッドボア』の準備は出来ているよ。ルドリスの所に早くお行きなさい」
「団長、こちらに堕天使が来るかもしれないので、数十人、団員を残して行かせてください」
「おやおや、済まないねぇ。では、お言葉に甘えようかねぇ」
レアナは、ここに残る団員を選抜して、ルドリスに向けて、伝書鳩に乗せる手紙をしたためる。
『こちらが片付いた。今から向かうが、敵が《リゲルの堕天使》などと言っていたのが気になるため、数十人の団員を置いていく』
整えた手紙を鳩に括り、ルドリスのいる方向へ飛ばす。そして、レアナたちもルドリスが交戦中の砦へと向かった。
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レアナがルドリスに手紙を送った頃、ルドリスたちは、足を止め、休憩をしていた。
ルドリス・ターゴ連合隊は運悪く、アルカルネの向かった北西の砦からレアナの向かった北東の砦への援軍と鉢合わせてしまったのだ。
勿論戦闘になったため、団員の疲労を少しでも癒やそうとしたのだ。
「ルドリスくん、レアナちゃんから手紙が来たよ」
アインダが届いた手紙を読み上げる。しかし、ルドリスは何かが引っかかったようだ。
「……リゲルの堕天使か……おい、アルカルネからも手紙が来てたよな?」
「え?うん。『ルドリス、こちらの占領は終わった。堕天使たちは《サイフ》と呼んでいるようだ。今から拠点として使うよ』だって」
「そうか……アインダ、レアナに手紙を書く。紙と書くものを」
アインダは持っていた紙と羽ペンをルドリスに渡す。ルドリスは殴り書きでレアナに手紙を書いた。
『レアナ、俺のいる砦の左右には団員を置くな。正面を開けておく。絶対に警戒を緩めるな』
ルドリスは書いた手紙をすぐに伝書鳩に括り、レアナに送り返す。
「鼓星……」
ルドリスがそう呟く。しかし、その呟きに気が付いた者は、1人もいなかった。




